紫斑|血管病変①
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は紫斑について解説します。
松本賢太郎
静岡済生会総合病院皮膚科
Minimum Essentials
1紫斑とは、皮内や皮下における出血のことである。
2一般に紫色であるが、発症時には紅色であり紅斑と鑑別を要する場合がある。
3基礎疾患がある場合はそれに対応した治療を行う。患部に過剰な力がかかることを防ぎ、安静を保つ。
紫斑とは
定義・概念
紫斑とは、血管から赤血球が周囲組織に漏出して生じる発疹である。
病態・成因
紫斑の原因として、外傷など物理的な刺激により血管から赤血球が漏出し生じるものと、血管や周囲組織の異常や凝固異常により生じるものがある。
血小板の異常による紫斑
(1)特発性血小板減少性紫斑病
血小板の減少による。ウイルス感染を契機に小児に好発する急性型と、成人で緩徐に発症する慢性型がある。
(2)続発性血小板減少症
薬剤、白血病、再生不良性貧血、感染症、全身性エリテマトーデス、血栓性血小板減少性紫斑病などに伴って起こる。
凝固因子の異常による紫斑
(1)凝固系の活性化による紫斑
①播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)
外傷、手術後、敗血症、悪性腫瘍などの原因により凝固系が活性化されて血管内に血栓が多発し、血小板や凝固因子が大量に消費される。二次性に線溶系が亢進して、出血しやすい状態となる。
②カサバッハ・メリット(Kasabach-Merritt)症候群
新生児から乳児期に、四肢などに血管性腫瘍が好発し、局所で血小板や凝固因子が消費されるために全身的な出血傾向をきたす。DICを合併しやすい。
(2)凝固因子の欠如による紫斑
①血友病
先天的な凝固因子の欠損による。
(3)血漿蛋白の異常による紫斑
高γ グロブリン血症、マクログロブリン血症、クリオグロブリン血症などの病態に伴い紫斑が生ずる。
支持組織の脆弱化による紫斑
(1)老人性紫斑
加齢により血管支持組織が脆弱になり、軽度な刺激でも紫斑を形成する(図1)。
手背や前腕に多くみられる。さらにワルファリンなどの抗凝固薬を投与されている場合は、凝固が遷延しているために大きな紫斑や皮下出血をきたしやすい。
(2)ステロイド紫斑
ステロイド薬の長期的投与や外用により、支持組織が脆弱になり紫斑を生じる。
(3)ビタミン欠乏による紫斑
壊血病。ビタミンC欠乏による。
血管壁の炎症による紫斑
血管壁の炎症(血管炎)により血管外に赤血球が漏出する。
(1)アナフィラクトイド紫斑病
やや丘疹状の紫斑を生ずるのが特徴で、腹痛や関節痛、腎炎を伴う場合があるほか、結節性多発動脈炎、血栓性静脈炎などがある。
原因不明なもの
(1)単純性紫斑
女性の下腿に好発する。
(2)慢性色素性紫斑
中年者の下腿に好発する。増悪と寛解を繰り返し慢性に経過する。時にかゆみや下肢静脈瘤を併発することがある。
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診断へのアプローチ
臨床症状・臨床所見
紫斑は一般に紫色であるが、初期には紅色のために紅斑と鑑別を要する場合がある。色調はやがて暗赤色、紫色、黄色となり退色する。透明なガラスやプラスチック板で皮疹を圧迫すると、紅斑では色調は消退するが、紫斑では消退しないことで両者を鑑別する(図2)。
基礎疾患や薬剤投与歴などの患者背景や、感冒症状などの前駆症状の有無、紫斑以外の症状(発熱、関節痛、腹痛)の有無が重要である。
検査
まず紅斑か紫斑かの鑑別を行うことが重要である。血液検査で血小板数、線溶・凝固系の異常を調べる。また、皮膚生検により血管炎の有無やその炎症の深さなどを把握する。
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治療ならびに看護の役割
DIC
治療
原疾患の治療を行うとともに、抗凝固薬(ヘパリンなど)や凝固系生成・活性阻害薬(トロンボモジュリンなど)を投与する。
看護の役割
原疾患の重篤化に際し、紫斑出現の可能性を念頭に皮膚を観察することが、DICの早期発見にもつながり重要である。
老人性紫斑
治療
紫斑が自然に消退するまで経過観察する以外に方法はない。
看護の役割
もともと皮膚が菲薄化しているうえに、紫斑や皮下出血形成を伴うことで、軽度の刺激で容易に表皮の剝離(スキンテア)を起こすことがある。好発部位の前腕など紫斑をよく生じる場合は、外的刺激から守るために長袖の着用やゴム入り包帯などで保護する。
また、抗凝固薬であるワルファリン投与患者の場合には、時に投与量が過剰になり紫斑形成が大きくなるなど、紫斑の度合いからワルファリンの効き具合を逆に把握することができる場合がある。そのため、普段から紫斑の状態を把握しておくことも重要である。
アナフィラクトイド紫斑(IgA血管炎)やその他の血管炎
「アナフィラクトイド紫斑(IgA血管炎)」を参照のこと。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂