薬疹、中毒疹
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は薬疹・中毒疹について解説します。
橋爪秀夫
市立島田市民病院皮膚科
Minimum Essentials
1中毒疹とは、薬剤や細菌あるいはウイルス感染によって生じたと思われる散布性の皮疹について、原因が特定できないとき便宜的に用いる用語である。中毒疹のうち感染症によるものは、溶連菌やマイコプラズマ、各種ウイルスによって生じる。確実に薬剤によって起こった皮疹は薬疹とよばれ、原因としては抗菌薬、消炎鎮痛薬、抗痙攣薬、痛風治療薬などが多い。
2皮疹はほぼ左右対称性であり、紅斑、丘疹、紫斑、水疱などが種々の程度に混じる。手足の末端に優位な皮疹は感染症によるものが多く、体幹から始まるものは薬疹が多い傾向がある。
3ステロイド外用療法および抗ヒスタミン薬内服などによる対症療法に加えて、薬疹の可能性がある場合は被疑薬の中止が原則である。薬疹のなかには生命を脅かしたり、後遺症を残したりする重症型がある。
4薬疹は原因薬剤の中止によりすみやかに改善することが多い。感染症による中毒疹も、ほとんどが感染症の軽快とともに治癒する。重症型薬疹の場合は、原因薬剤中止に加えて積極的治療が必要である。約10〜20%程度の死亡率であり、種々の後遺症を残すことがある。
薬疹、中毒疹とは
定義・概念
突然発症し全身に散布性に広がる皮疹で、原因がはっきりしないものを便宜的に中毒疹とよぶ。
中毒疹は、薬剤によって引き起こされる薬疹と細菌感染やウイルス感染時に出現する皮疹とを含んでおり、原因が薬剤であるとはっきりした場合は薬疹とよぶ。
しかし、両者が区別できないことも少なくないため、中毒疹という病名は便利な呼び名である。
原因・病態
中毒疹の原因は多岐にわたり、検査所見によって迅速に確定しうる感染症は少ない。
細菌感染では、迅速抗体検査が可能である溶血性連鎖球菌(溶連菌)感染やマイコプラズマ感染によるもの、皮疹を伴いやすいウイルス感染として有名なEBウイルスやパルボB19ウイルス、コクサッキーウイルスなど積極的に精査されるものは確定されやすい。
薬疹は否定されても、何らかの感染症が関連した中毒疹と診断せざるをえない場合が多い。細菌やウイルス感染が、なぜ特定のヒトに皮疹を生じさせるのかはほとんどわかっていない。
溶連菌感染症における皮疹のメカニズムの1つとして、菌膜蛋白に皮膚由来蛋白との相同性が見出されており、抗原交差反応によるものであるという考えがある。
薬疹は高頻度にみられ、用量依存性に出現するもの(タイプA)と、ごく限られた患者に突発的に出現し原因の明らかでないもの(タイプB)とに分けることができる。
タイプAは薬剤の薬理作用に関連して出現し、そのメカニズムが理解しやすく、減量や短期間の中止で改善する。
最近の抗がん薬などの分子生物学的薬剤による薬疹はこのタイプが多く、用量依存性であり一時的中止や減量によって症状が緩和されるため、必ずしも薬剤の永続的中止は必要でない(「化学療法に伴う皮膚障害」参照)。
一方、タイプBは軽症から重症まで種々の程度が存在し、皮疹も多彩である。アレルギー機序を介するものが多いと考えられているが、いまだ不明な点が多く、予知は難しい。
一般に薬疹というとタイプBを指すため、本項ではこれについて解説する。このなかには中毒疹に含まれるような臨床症状を呈する軽症のものや、重症薬疹として重要であるスティーヴンス・ジョンソン(Stevens-Johnson)症候群、中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)、薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)の3疾患が含まれる。
また、薬疹のその他の臨床型として蕁麻疹・アナフィラキシー型、固定薬疹、扁平苔癬型薬疹、光線過敏型薬疹などがある。
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診断へのアプローチ
臨床症状・臨床所見
中毒疹は基本的に、紅斑、丘疹、水疱、紫斑などが突然左右対称性に出現するものを指す。
性状はさまざまで、はっきりとした特徴をもたないが、末梢優位(手足に出現する傾向)であれば感染症(図1、図2、図3)を、体幹優位(体幹部に出現する傾向)であれば薬疹(図4)をまず第一に考える。
融合傾向があるのか否か、紫斑を混じているのか、かゆみはあるのかなどといった個疹の特徴を把握し、時間経過によってどのように変化していくかを注意深く観察する。
重症型では、顔面の腫脹が強く、眼瞼結膜充血や口腔内や口唇のびらん・出血などを伴う。
重症薬疹は生命を脅かすため、臨床的に重要である。スティーヴンス・ジョンソン症候群では、薬剤投与を契機に表皮細胞をターゲットとしたアレルギー反応によってリンパ球を主体とした炎症が生じ、表皮の壊死が起こる(図5)(「スティーヴンス・ジョンソン(Stevens-Johnson)症候群」参照)。
スティーヴンス・ジョンソン症候群と同一スペクトラムの疾患であるが、表皮壊死の面積が10%を超えるものを中毒性表皮壊死症(TEN)とする(図6)。
薬剤性過敏症症候群では、原因薬の内服後数週~数ヵ月後に、発熱、顔面腫脹、全身の丘疹および紅斑、リンパ節腫脹が突然出現する(図7)。
経過中における潜伏ウイルス(ヒトヘルペスウイルス6型やサイトメガロウイルス、EBウイルスなど)の再活性化が予後と相関し、それに関連して重篤な肝障害、消化管潰瘍、心筋障害、脳炎、内分泌疾患など種々の内臓疾患が前触れもなく発症する。
なお、特殊な薬疹の臨床型として蕁麻疹・アナフィラキシー型、固定薬疹、扁平苔癬型薬疹、光線過敏症型薬疹などがある。
固定薬疹では、原因薬を内服すると数時間~数日以内に固定した場所に紅斑が出現し、薬剤中止にて色素沈着を残して治癒する(図8)。
同一部位に繰り返し炎症を起こすため、シミのような色素沈着が持続的に残る。
扁平苔癬では、原因薬投与後、数週〜数ヵ月を経て扁平な丘疹が出現する(図9)。
口腔内に網目状の白色調粘膜疹を伴うことがある。光線過敏症型薬疹では、露光部に強い日焼け様の紅斑が出現し、時に水疱形成を伴う(図10)。
検査
一般血液検査に加え、ASO値や抗マイコプラズマ抗体、臨床から疑われる抗ウイルス抗体などを検索する。薬剤性過敏症症候群では、血清TARC値が高くなることも診断の一助となりうる。重症薬疹の場合は皮膚生検が診断に重要である。
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治療ならびに看護の役割
治療
おもな治療法
患者の問診が重要である。詳しい問診により、皮疹が薬剤によるものであるのか、感染症が関与している可能性があるのかを推測する。
薬剤の可能性がある場合(薬疹)、薬剤の中止が原則である。細菌感染症によるものが疑われる場合は、効果的な抗菌薬の投与が治療経過を短縮させる。ウイルス感染症による場合は経過観察で良い。
軽症例ではステロイド外用療法と抗ヒスタミン薬内服などの対症療法のみで様子を見る。
重症薬疹の治療法
スティーヴンス・ジョンソン症候群、TEN、薬剤性過敏症症候群などの重症薬疹は専門医による治療が必要となる。ステロイドパルス療法、大量ステロイド内服療法、血漿交換療法、免疫グロブリン大量療法などの治療がそれぞれの重症度や患者特性によって選択される。
治療経過・期間の見通しと予後
軽症薬疹や中毒疹の多くは、1~2週間で治癒することが多いが、なかには急に重症化する例があることを知っておくべきである。
重症薬疹には生命を脅かすものがあり、スティーヴンス・ジョンソン症候群およびTENの致命率は5~20%程度、薬剤性過敏症症候群は10%程度といわれている。
前者は眼粘膜への侵襲が高頻度に起こり、重篤な視力障害を残すことがあるため、早期からの眼科医の治療介入が必須である。
なお薬剤性過敏症症候群は、皮膚症状が治まってから突然I型糖尿病や甲状腺機能障害などの内分泌異常や、全身性エリテマトーデスなどの免疫疾患が出現することがある。
看護の役割
治療における看護
突然出現する全身に及ぶ皮疹は、患者自身のボディイメージを著しく損なう点から、軽症であっても想像以上に精神的ダメージが大きいことを意識する。共感的な立場で接し、今後の見通しや予後について、理解しやすい言葉で説明し、必要以上に恐怖心を抱かないように精神的に支えることが必要である。
重症薬疹ではステロイド全身投与が治療の基本となる。投与量や漸減が正確に指示どおり行われているか注意する。ステロイドによる多様な副作用を熟知すべきであり、副作用防止のためにあらかじめ患者に詳しい説明を行っておく。
粘膜疹や皮膚びらんが広範囲に及ぶスティーヴンス・ジョンソン症候群やTENは局所処置に激しい疼痛を伴うため、疼痛対策を行い、愛護的に行うよう努める。
皮疹が改善しても、視力障害、爪の脱落や皮膚硬化、色素沈着、陰部の瘢痕癒着、口腔や鼻孔の乾燥症状など、高率に後遺症を合併する。
一方、薬剤性過敏症症候群は、経過中に突然内臓病変が出現する可能性があるため、皮疹が軽快していても一般的な異常を見逃さない看護が必要である。
フォローアップ
原因が特定できなかった中毒疹は、感染症のほか、意識せずに内服していた薬による薬疹の可能性もある。何回かの発症後に薬疹であったと判明することがあるため、全身の皮疹を生じた際には、軽微であっても病院に受診すること、内服薬はしっかり管理することを指導する。
薬疹と診断された場合は、可能な限り原因薬剤の確認試験である薬剤パッチテストや薬剤添加リンパ球刺激試験(DLST)などで確定し、薬剤アレルギーカードを発行して今後同薬や類薬を内服しないように指導する。
重症薬疹患者は薬物療法に過剰の恐怖心をいだき、それが治療の足枷となることも少なくない。改善してからも看護師は医師のサポーターとして、精神的フォローに配慮することが必要である。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂