発熱時の血液培養は本当に必要?
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「発熱時の血液培養」に関するQ&Aです。
白野倫徳
大阪市立総合医療センター感染症内科医長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
発熱時の血液培養は本当に必要?
はい。血液培養は、重篤な病態である「敗血症」を診断するための唯一かつ確実な検査です。
〈目次〉
なぜ血液培養は重要なのか?
血液培養を実施する目的は、重篤な病態である「敗血症(sepsis)」を適切に診断することです。
敗血症とは、何らかの感染症があり、生体に全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)が認められる状態を指します(表1)。
(参考)敗血症の定義が変更。 臓器障害の有無が重要に
1.体温 | >38℃あるいは<36℃ |
2.心拍数 | >90 回/分 |
3.呼吸数 | >20 回/分あるいは 二酸化炭素分圧<32mmHg |
4.白血球数 | >12000/mm3あるいは <4000/mm3 もしくは桿状核球>10% |
ショックを伴う敗血症性ショックが最も重篤な病態であり、抗菌薬の選択に失敗は許されません。血液培養が適切に実施されなかったために治療が遅れたり、不適切な抗菌薬が選択されたときのダメージはたいへん大きくなります。適切な血液培養の実施はきわめて重要です。
どのようなときに血液培養を実施する?
通常、敗血症では悪寒戦慄を伴う発熱を生じることが多く、このようなときには必ず血液培養を採取します。しかし、「38℃以上で血液培養」といった条件指示には大きな落とし穴があります。
重症の敗血症性ショックでは低体温をきたすことがあります。また高齢者や免疫不全患者などでは発熱がないなど非特異的な所見を呈することもあります。発熱、悪寒戦慄があるときだけでなく、(表2)のように急なバイタルサインの異常を認めたときや、説明のつかない病態の変化が起こったときには採取する必要があります。
発熱、悪寒戦慄があるとき |
急な血圧低下、頻脈、呼吸数増加などバイタルサインの異常 |
原因不明の低体温、意識障害、呼吸不全、代謝性アシドーシス、低血糖、高血糖、脳血管障害、急性 腎不全 |
原因不明の白血球異常高値または異常低値、CRP・プロカルシトニンなどの炎症マーカー上昇 |
抗菌薬の開始、変更時 |
血流感染のリスクがあるデバイス(中心静脈カテーテル、Swan-Ganz カテーテル、大動脈バルーンポ ンピング、人工血管、人工弁、人工関節など)が留置されている患者の不明熱 |
特定の感染症をすでに疑っている場合(感染性心内膜炎、カテーテル関連血流感染症、骨髄炎など) |
黄色ブドウ球菌やカンジダ属の菌血症で、陰性化確認をするとき |
なお、抗菌薬投与を開始した後で採取した場合、検出感度は著しく低下します。血液培養は、必ず抗菌薬開始前に採取することが重要です。すでに抗菌薬投与中であれば、血中濃度の最も低い、次回投与の直前に採取します。
血液培養はどのように行う?
血液培養は、2本セットが基本です。
どんなに慎重に皮膚を消毒しても、皮膚の常在菌の混入を完全に防ぐことはできません。2セット採取することで、コンタミネーション(常在菌の混入)かどうか判断しやすくなります。また、感度を上げることになり、見落としを防ぐことにもなります。
2セット採取する場合、左右や上下肢など、原則、採血部位は変えてください。
やむを得ず同じ側で採取する場合は、なるべく距離を離しましょう。また、末梢留置針が留置されている手から採取する場合は、留置部位より末梢側で採取してください。
このとき使用する手袋は採血部位の消毒を確実に行えば、必ずしも滅菌のものでなくてもかまいません。また、動脈血のほうが検出率が上がるというデータは乏しく、あえて動脈で採取する必要はありません。シリンジで採血し、血液培養ボトルに分注する場合、基本的に針は交換する必要はありません。交換時に針刺し事故を起こすリスクのほうを考慮します。
ドレーン排液の培養は有効?
ドレーン排液や膿、尿、痰、カテーテル先端などの培養で検出される菌は、必ずしも真の起炎菌とは限りません。
完全な無菌でない検体の培養では、そこに常在する菌も検出されることがあり、余分な抗菌薬投与につながるばかりか、真の起炎菌を隠してしまうこともありえます。推定される感染フォーカス(感染巣)に応じた検体の提出も必要ですが、血液培養も同時に行いましょう。
[文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社