術中の抗菌薬追加投与のタイミングは?
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「術中の抗菌薬追加投与」に関するQ&Aです。
白野倫徳
大阪市立総合医療センター感染症内科医長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
術中の抗菌薬追加投与のタイミングは?
おおむね3時間ごとの追加投与が推奨されています。
〈目次〉
抗菌薬の追加投与のタイミングは?
予防抗菌薬の目的は手術部位での細菌の増殖を抑えることであり、抗菌薬の血中濃度が低下してくるような長時間の手術では、追加投与が必要となります。
頻用されるセファゾリンナトリウムやセフメタゾールナトリウム、セフォチアム塩酸塩では、腎機能が正常(クレアチニン・クリアランスが50mL/分以上)の場合はおおむね3時間ごとの追加投与が推奨されます(1),(2)。また、半減期の長いバンコマイシン塩酸塩およびニューキノロン系抗菌薬の場合は、おおむね6時間ごとの追加投与が推奨されます。
なお、手術中に大量の出血が起こった場合、抗菌薬の有効な血中濃度を維持することができない可能性があり、定められた再投与の時間を待たずに追加投与を行う必要があります(3)。この場合の具体的な出血量のめやすや追加投与のタイミングは定められておらず、ケースバイケースで判断することになります。
抗菌薬の投与期間は?
これまで、抗菌薬の適切な投与期間についての定まった基準はありませんでした。
わが国では手術当日を含めて3〜4日以内の投与が推奨されてきましたが、抗菌薬の投与期間が長くなれば耐性菌出現のリスクが高まることや、24時間以内に終了した場合でもSSIのリスクは増加しなかったという研究などから、欧米では24時間以内(心臓手術では48時間以内)に終了することが望ましいとされています。
わが国でも日本外科感染症学会を中心に、予防抗菌薬の投与期間についての無作為化比較試験(1日vs3日)が実施されており、今後の方向性が定まっていくものと考えられます(4)。
また、予防的な抗菌薬の投与期間延長によりより高い術後感染予防効果が得られるわけではなく、SSIの発生が疑われる場合は、そのフォーカスや推定される起炎菌に応じて、治療的な抗菌薬を選択する必要があります。
[文献]
- (1)Bratzler DW, Houck PM. Antimicrobial Prophylaxis for Surgery: an advisory statement from the National Surgical Infection Prevention Project. Clin Infect Dis 2004;38:1706-1715.
- (2)Bratzler DW, Dellinger EP, Olsen KM, et al. Clinical practice guidelines for antimicrobial prophylaxis in surgery. Am J Health Syst Pharm 2013;70:195-283.
- (3)JAID/JSC 感染症治療ガイド委員会編:JAID/JSC 感染症治療ガイド2011.ライフサイエンス出版, 東京,2012:184.
- (4)楠正人,小林美奈子:予防抗菌薬1 適応,治療選択. 周術期感染管理テキスト,日本外科感染症学会編, 診断と治療社,東京,2012:73-77.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社