術前抗菌薬投与はSSI のみを対象としているの?
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「術前の抗菌薬投与」に関するQ&Aです。
白野倫徳
大阪市立総合医療センター感染症内科医長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
術前抗菌薬投与はSSIのみを対象としているの?
はい。(狭義の)術前抗菌薬投与はSSIのみを対象としています。
〈目次〉
抗菌薬予防投与の対象
抗菌薬の予防投与の目的はSSI(手術部位感染)の予防であり、遠隔部位感染(remote infection:RI)は対象ではありません。
RIには呼吸器感染症、尿路感染症、カテーテル関連血流感染症(catheter related blood stream infection:CRBSI)、抗菌薬関連下痢症など、手術に関連はあるものの手術侵襲が直接加わっていない部位の感染症が含まれます(1)。
RIに対しては、推定される感染部位に応じて血液、喀痰、尿、膿などの培養検査を行い、その結果に応じて適切な抗菌薬の選択を行う必要があります。
対象となる細菌と抗菌薬の選択は?
抗菌薬予防投与の目的は、手術部位での細菌の増殖を抑えることです。したがって、手術部位に常在する細菌が対象となります。
具体的には、大部分の手術の皮膚切開においては皮膚に常在する黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌が問題となりますので、セファゾリンナトリウムなどの第1世代セフェム系抗菌薬が選択されます。また、下部消化管の切開を伴う手術では腸内細菌も問題となりますので、これらをカバーするセフメタゾールナトリウムやフロモキセフナトリウムなど第2世代セフェム系が選択されます。
そのほか、体外衝撃波破砕術など一部の泌尿器科手術においては、ニューキノロン系抗菌薬(シプロフロキシサン、レブフロキシサシン水和物)やスルファメトキサゾール・トリメトプソム(ST合剤)が用いられることもあります。
セフェム系抗菌薬を含むβラクタム系抗菌薬にアレルギーがある場合や、はじめからMRSA(meticillin-resistant Staphylococcus aureus:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を保菌している患者に対する手術ではバンコマイシン塩酸塩を選択することもありますが、ルーチンにバンコマイシン塩酸塩を投与することは推奨されません。
[文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社