新人ナースは事実のみの報告でよい?|新人ナースのホウレンソウ[2]
前回の「ホウレンソウってなぜ必要?」ではほうれんそうはなぜ必要かをテーマに、報告を社会人基礎力の項目に合わせて、考えてみました。
今回は、何を報告すればよいかについて考えてみたいと思います。
川原千香子
愛知医科大学医学部シミュレーションセンター講師
急性・重症患者看護専門看護師/救急看護認定看護師
〈目次〉
肺炎で入院している72歳の男性患者さんの場合
まずは事例を見てみましょう。
さて、あなたは、この情報から何を考え、追加の観察をし、どう報告しますか?
情報の集め方と考え方
まず気になる情報は?
ここで気になる情報は、まず中井さんが「ふらっとしてしりもちをついた」ということです。
高齢者の転倒は、特に大腿骨頸部や仙骨、骨盤の骨折を来すことがあり、大腿骨や骨盤は血液を多く含むため、大量出血につながる危険性があります。
物忘れもあり、どうやって転倒したかを本人から詳しく聞き出すことは難しいかもしれません。
周囲の環境などに目を配りつつ、ぶつけたと思われる部位に疼痛や変形、腫脹、運動制限の有無がないかを観察しましょう。
次に、中井さんが転倒してから1時間ほど経過していることから、もし出血が進行しているとしたら、どこに注意すると発見できるでしょうか?
脈拍数(PR)、血圧(BP)、呼吸数(RR)はどうですか?
何を基準に現在の値を「変化なし」と判断しますか?
体温(BT)37.6℃をどう判断しますか?
医師からの指示は、38℃以上でカロナール内服ですが、指示の値には届いていないので、大丈夫でしょうか?
37.6℃は、72歳にとってどれくらい負担なのでしょうか?
気になる情報からこう考える
骨折による大量出血の危険性について
まずは、骨折による大量出血の危険性について考えてみましょう。
高齢者の骨折の特徴は、身体能力の低下による転倒が大きな原因(1)であることは、社会的にも知られています。
骨折による出血量は図1のとおりであり、特に動脈性の出血が生じている場合は、短時間でショック状態になる可能性が高いことが分かります。なお、1施設の研究ではありますが、受傷機転が軽微な外傷である転倒でも、33%に動脈性の出血があったといわれています(2)。
出血量とショックの重症度について
次に、出血量とショックの重症度について表1を見てみましょう。
ここで特に重要なのは、血圧は出血の早期認知の指標にはならないという点です。血圧が下がったと認識できる時には、すでにショックが進行しており、大変重篤な状態であることを理解しておきましょう。
ショックの判断について
では、ショックの判断について考えてみましょう。
まず観察すべきは、外傷の程度です。変形や腫脹の有無、痛くて動けないなどの変化がないかを見ます。
脈拍、血圧、呼吸数については、表1を参照してください。出血量が増えるとともに、脈拍数、呼吸数は増加します。
また、物忘れのひどい高齢者の意識レベルの変化は、言動だけではなかなか判断が難しいと思われますが、「反応が鈍い」「ぼーっとしている」「今まで以上に興奮状態にある」「混乱した会話がある」などは意識の変化を見つけるきっかけになります。
先にも述べましたが、血圧が下がったと認識できる時には、かなり循環は不安定になっています。「増加していた脈拍が急激に徐脈になる」「頻呼吸から急に除呼吸になる」「冷汗でじっとりしている」「四肢末梢が冷たい」などの変化になるべく早期に気付くとよいでしょう。
なお、これらの変化は、ショックの5徴候(表2)と言われる症状です。こういった変化が見られたらすぐに報告しましょう。
表2ショックの5徴候(ショックの5P)
蒼白 | pallor |
虚脱 | prostration |
冷汗 | perspiration |
脈拍不触 | pulseless |
呼吸不全 | pulmonary insufficiency |
高齢者の体温について
体温は、皮膚の温度受容器で感知され、体温調節中枢に伝えられます(図2)。そこで中枢の基準値であるセットポイントと比較して、熱産生や熱放散を行い、体温を調節しています。
高齢者は、基礎代謝や体温調節機能の低下から、一般的に体温のセットポイントが低くなりやすいといわれています。成人のセットポイントが37℃とすると、高齢者ではだいたい36.0℃くらいです。
中井さんの場合は37.6℃ということなので、成人だと38℃以上の高熱と同様と考えられます。そのため、ふらつきや脱水の進行などに十分気を付けて観察する必要があります。
全体的にバイタルサインや、外傷の状態などを観察してから、変化の有無について判断するようにしましょう。
今回、中井さんには特に目に見える外傷性の変化はなさそうであり、歩けなくなったということもなさそうです。
しかし、経過観察する必要はありますし、医師の診察による骨折の有無の確認などは必要です。
「変化」と「関連性」を考える
先に書いたとおり、この事例では、おそらく今すぐに慌てて何かをしなくてはならない状態ではないようです。
この時点での血圧も脈拍も極端な異常値には見えないためです。
そこで大切になるのは、「変化」と「関連性」です。
・バイタルサインは昨日と変化はないか?
・ふらっとした原因は?
・安静度は?
・本人の認識は?
・食事は?
これらの他にも、今回のエピソードに関連して考えたり、確認しようと思うことが浮かんでいますか?
こういった変化と関連性を考え、確認することが、「適切な報告」にもつながります。
報告してみましょう
では、この検温後、どう報告するかを考えてみましょう。
事実を報告する
まずは、正確にきちんと事実を報告します。
報告には、医療安全の側面からよくSBARが用いられます(3)。
S;Situation(状況、状態)
B;Background(背景、経過)
A;Assessment(評価)
R;Recommendation(依頼、要請)
今何が起きていて(S)、それまでの経過は簡単にどのようなことで(B)、どのようなことが考えられるため(A)、何を依頼したいか(R)、を簡単にまとめて、しかし抜けなく報告できるツールとして、すでに多くの教育場面や施設で用いられています。報告時のツールとして、施設全体で使用しているところもあります。
医師の診察については、医師ではなく、先輩に一緒に看てもらうようお願いしてもいいでしょう。
アセスメントを伝える
事実を報告したら、エピソードから自分が考えたアセスメントを伝えることができると良いでしょう。
報告は事実のみ? 新人ナースの判断はいつから?
報告するかどうか、何を報告するのか、そこには、まず新人ナースの「判断」があります。
新人ナースだから、何でもすべて報告する……それはもちろん必要ですが、「熱が○○℃でした。血圧が△△でした」のみの報告は、適切な報告でしょうか?
これは、報告を受ける先輩ナースたちにもぜひ考えてほしいところです。
新人ナースに事実のみの報告を求める時期はいつまでなのか、新人ナースの「判断」を引き出すのはいつごろからか、そんなことを「報告」の指導でも考えてもらえればと思います。
「考えない新人」を作っているのは先輩ナース?
先輩ナースの方々はを知らず知らずに考えなくても動けてしまう新人を作っていませんか?
もし、事実のみの報告を受ける場合、アセスメントやその後の対応を「判断」しているのは報告を受ける先輩ナースです。
その判断を新人ナースと共有してこそ、新人ナースは今まで得た知識と患者さんの実際を確認、統合できるのです。
報告を受けたら、まずは先輩ナースが判断とその理由を新人に伝えましょう。
そしてその上で、新人ナースの考えを引き出すとよいでしょう。
とはいえ、考えを引き出すこと=問い詰めることではないのでご注意を。
報告すべき12の特徴
さて、この事例のポイントは、「転倒」というイベントなので、新人ナースがどこまで観察してから報告すべきか、いろいろな意見があると思います。
もちろん、新人ナースの進捗状況にもよりますし、部署の特徴にもよるところがあると思います。もちろん、組織としての報告のあり方や緊急度によって異なりますのでご注意ください。
今回、お伝えしたいポイントは、ただのバイタルサインの測定結果やイベント(転倒)が「起きた」という事実だけの報告にならないように、ということです。
ニード理論を唱えたヴァージニア・ヘンダーソンは、
「患者の観察は絶えず続き、看護ケアの刻々の、また日々の修正の根拠となる」
「ナースは、見当識障害、意識喪失、不安、恐怖の徴候のすべて(中略)何らかの機能の障害や制限に気づいたら、直ちに報告しなければならない」
とし、以下の12の特徴のどれか一つでも認められる症状は報告すべきであると示しています(4)。
- ①激痛などのように強烈ないし重度である
- ②重度ではないが、長引いている
- ③脈拍亢進、減退など正常からの逸脱がある
- ④食事と食事の間に痛むなど、繰り返している傾向がある
- ⑤体重の減少など、進行性の動きがみられる
- ⑥穿孔した消化性潰瘍の場合の鋭い腹痛などのよく知られた危険信号である
- ⑦術後の咳嗽など、合併症の発症を示している
- ⑧発疹など、発病をさし示している
- ⑨食べる、眠る、排尿する、排便するなどの機能に不全があり、看護の手段では治らない
- ⑩ほっておかれた歯並び、眼鏡の必要、よりバランスのとれた食事の必要など、看護ケアでは矯正できない、間違った衛生習慣や健康習慣を示している
- ⑪いずれの器官ないし、身体部分の機能障害をさし示している
- ⑫良い方向あるいは、悪い方向への変化がある
これはあくまで指標の一つですが、ぜひ参考にし、報告について考えてみてください。
次回も、「何を報告するか」について考えてみましょう。
参考文献
- (1)井上馨ほか.高齢者の骨折危険率への生体力学的アプローチ.日本生理人類学会誌.6(3),2001,71-6.
- (2)木村文彦ほか.骨盤骨折における動脈性出血についての検討.骨折.38(1),2016,83-6.
- (3)児玉貴光ほか編.SBAR.RRS院内救急対応システム.メディカルサイエンスインターナショナル,東京.2007,52-4.
- (4)エドワード・J.ハロラン編.小玉香津子訳.ヴァージニア・ヘンダーソン選集―看護に優れるとは―.医学書院,東京.2007,52-4.
- (5)医療情報科学研究所編.体温.フィジカルアセスメントがみえる.東京,メディックメディア,2012,105.
- (6)日本外傷学会ほか監.外傷初期診療ガイドライン.第2版.へるす出版,東京.2007,47,54.
『あなたの報告はOK? NG? 新人ナースのホウレンソウ』の【総もくじ】を見る
Illustration:かげ Twitter