「すぐに報告した方がいい?」 緊急性はここを見て判断する!|新人ナースのホウレンソウ[3]

新人ナースのホウレンソウについて、第1回の「ホウレンソウってなぜ必要?」、第2回「新人ナースは事実のみの報告でよい?」に続き、今回は緊急性の有無について考えます。

 

川原千香子
愛知医科大学医学部シミュレーションセンター講師
急性・重症患者看護専門看護師/救急看護認定看護師

 

〈目次〉

 

喘息重責発作で早朝に緊急入院した60歳女性の場合

まずは事例を見てみましょう。

 

 

さて、あなたは、どのように当直医に報告しますか? また、東さんの緊急性はどうでしょうか?

 

 

緊急性はABCDで見る

緊急性があるかどうかは、基本的にABCDで見ると判断がしやすいでしょう。

 

・Airway:気道
・Breathing:呼吸
・Circulation:循環
・Disability:意識(中枢神経)

 

このABCDに異常があれば、すぐに報告しましょう。

 

それぞれの具体的な異常の数値などは、施設で基準が設定されている場合があります。
自分の施設に基準があるかどうか、またある場合はその基準を確認しておきましょう。

 

急変する危険性をキャッチし、対応するためのRRSとは?

Rapid Response System(RRS)という概念をご存じでしょうか?
RRSは、患者が院内心停止になる前に早期に異変に気付いて心停止になる前に介入することで、患者の予後を改善するシステムです。

 

「Rapid Response」とは、「迅速な対応」という意味です。
急変患者に対し、迅速な対応を行うためには、まずその患者の変化に気付き対応のスイッチを入れることが重要です。

 

では、患者がどういった状態であれば、対応のスイッチを入れるのでしょうか。
それについては、「RRS起動基準」が参考になります。患者の状態を起動基準に照らし合わせ、違っていれば「何かおかしい」と気付くことができます。

 


このRRS起動基準は、RRSを導入している施設ごとに独自に設定されていますが、ここでは北里大学病院の例を示します。(1)

 

【北里大学病院RRS起動基準】

 

A:気道の異常
・気になる音
・挿管チューブ、気管切開カニューレの問題
B:呼吸の異常
・呼吸困難、努力様呼吸
・不規則な呼吸
・呼吸数10回/分以下
・呼吸数25回/分以上
・SpO2 92%以下、もしくは計測不能
・無呼吸は心肺停止コール
C:循環の異常
脈拍数50回/分以下
・脈拍数120回/分以上
収縮期血圧90mmHg以下
・収縮期血圧200mmHg以上
尿量4時間で50mL以下
・無脈は心肺停止コール
D:意識の異常
・急激な意識状態の低下
・覚醒しない患者
・その他の異常
・患者に対して何か心配な時
・急性の明らかな出血
・治療に反応がない

 

最初に「緊急性があるかどうかはABCDを見る」と伝えましたが、このRRS起動基準も同じです。
特に、意識のところに書かれているように、「急激な意識の低下」には注意しましょう。
 

 

なお、外来で行うトリアージや災害時に用いられるトリアージもABCDを見るという考え方の基礎は同じです。
普段は何気なく気になるところ、患者が訴えていることから観察しているかもしれませんが、緊急性を判断する際には、ぜひABCDから患者の状態を見る習慣を身に付けておきましょう。

 

 

報告はSBARで!

さて、ABCDに異常が生じた、変化が生じていたら、「何かおかしい」と報告します。
しかし、ただ電話で「先生! 何かおかしいんです」と言うだけでは、「なんだそれ?」と思われてしまいます。

 

報告は、前回も紹介したSBARを使いましょう。

 

S;Situation(状況、状態)
B;Background(背景、経過)
A;Assessment(評価)
R;Recommendation(依頼、要請)

 

このSBARは、医療安全を基に考えられた、報告を簡潔明瞭に行うためのツールの1つでしたね。
近年、「○○な感じ」という表現をよくにするようになりました。
この表現は、断言を避けるために用いるためか、こういう表現での報告は、事実と報告者の印象が混在したものとなってしまいます。
急変や急いで来てほしい時には、このようなぼんやりした印象より、客観的事実をはっきり伝えることが望まれます。

 

そういう意味でもSBARは「何が起きたか」を最初に述べるのによいツールですので、ぜひ使ってください。

 

 

東さんの状態を観察してみましょう

改めて東さんの状態を見てみましょう。
東さんは消灯前には少しヒューヒューと音が聞こえていましたが、発作自体は薬で治まっていました。
しかし、同室の患者さんのナースコールで訪室してみると、「ベッド上で起坐位になり、上半身びっしょりと汗をかいて、肩を大きく揺らしながら呼吸をしている」状態でした。

 

もっとも気になるのは東さんが「肩を大きく揺らしながら呼吸をしている」という状態です。
これは、肩呼吸といって、努力様呼吸の一つです。強度の呼吸困難に陥った時に出てくる症状です。

 

先に挙げた北里大学病院のRSS起動基準にも「呼吸困難・努力様呼吸」がある通り、東さんが呼吸の異常な状態にあるということは一目瞭然です。

 

 

報告してみましょう

では、SBARを使って東さんの状態を報告してみましょう。

 

 

状態から自分でアセスメントした結果を報告するなら、以下でもいいでしょう。

 

 

 

さらに「できる!」報告を目指すなら

SBARで、最も緊急性の高い内容を報告した後、以下の内容についても報告できるとより具体的な患者の変化の把握につながります。

 

【OLD CART】(2)

 

  • O:Onsset はじまり(どのように発症しましたか?)
  • L:Location 部位(どこに症状が出ていますか?)
  • D:Duration 期間(どれくらい続いていますか?)
  • C:Character 特徴(どんな症状ですか?)
  • A:Aggravating/Alleviating factor 緩和させる要因と悪化させる要因(どうすれば症状は和らぎ/悪化しますか?)
  • R:Radiation 広がり(症状は移動しますか?)
  • T:Timing 時期(いつからですか?)

 

【OPQRST】(2)

 

  • O:Onset はじまり(どのように発症しましたか?)
  • P:Palliating/Provoking factor 緩和させる要因と悪化させる要因(どうすれば症状は和らぎ/悪化しますか?)
  • Q:Qoality 性質(どんな症状ですか?)
  • R:Radiation 広がり(症状は移動しますか?)
  • S:Site 部位(どこに症状が出ていますか?)
  • T:Timing 時期(いつからですか? どれくらい続いていますか?)

 

「OLD CART」も「OOPQRST」も、系統立てた医療面接(問診)を行う際に用いられます。
ただし、これらは、抜けがなく必要な情報を患者さんから収集するためのものなので、緊急時にはすべて把握できるわけではないことを覚えておきましょう。

 

日常の患者さんの変化を把握、理解、報告する際には、ぜひこれらの7項目を意識してみてください。より詳細な患者さんの変化や訴えが理解できるのではないでしょうか。

 

この連載も3回目を迎え、皆さんの中には看護師になって初めての夏休みを迎えた人、またこれから迎える人もいらっしゃると思います。
学生時代のようにまとまった夏休みをとるには、いろいろ周囲との調整が必要で一苦労…でもその反面、少しプライスダウンした今からの時期にゆっくり旅行に行けるというオトクな面もある…など、さまざまだと思いますが、思い切りリフレッシュして心新たに、1年目後半に突入してください。

 

参考文献

 

  • (1)今井寛,小池朋孝.仲間をつくる RSTはRRTになり得るか?.RRS院内救急対応システム;医療安全を変える新たなチーム医療.東京,メディカルサイエンスインターナショナル.2012,83-9.
  • (2)福井次矢ほか監.LynnS.Bickley.面接と病歴聴取.ベイツ診察法.第2版.東京,メディカルサイエンスインターナショナル.2015,69-70.

 

 

 


『あなたの報告はOK? NG? 新人ナースのホウレンソウ』の【総もくじ】を見る

 


Illustration:かげ Twitter

 


 

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