「何のためにその報告をしているのか?」を考える|新人ナースのホウレンソウ[4]
これまで、どのような報告の仕方があるか、また報告時のポイントについて紹介してきました。今回は、その中で紹介した「SBAR」についてさらに説明し、「何のためにその報告をしているのか」を改めて確認していただきたいと思います。
川原千香子
愛知医科大学医学部シミュレーションセンター講師
急性・重症患者看護専門看護師/救急看護認定看護師
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〈目次〉
SBARからI-SBAR、I-SBARCへ
SBARを思い出してみましょう(SBARの使い方)。
S;Situation(状況、状態)
B;Background(背景、経過)
A;Assessment(評価)
R;Recommendation(依頼、要請)
SBARは緊急時、簡潔にもれなく報告を行うためのツールです。そのため、“Situation(状況)”から報告をするようになっていますが、一般的には最初に「自分が何者」で「誰(何号室の○○さん)」の報告をしたいかを宣言することが安全面からも求められます。
そこで、近年では“Identify(報告者、対象者の同定)”が追加され、「SBAR」 ではなく「I-SBAR」が用いられてきています(1)。
I:Identify(報告者、対象者の同定)
S;Situation(状況、状態)
B;Background(背景、経過)
A;Assessment(評価)
R;Recommendation(依頼、要請)
また、患者安全の視点から口頭指示、特に電話での報告などでは指示内容を復唱し、複数者で確認することが求められるため、“Recommendation(依頼、要請)”の後に、“Confirm(口頭指示の復唱確認) ”が加えられ、「I-SBARC」に発展しています(2)、(3)。
I:Identify(報告者、対象者の同定)
S;Situation(状況、状態)
B;Background(背景、経過)
A;Assessment(評価)
R;Recommendation(依頼、要請)
C;Confirm(口頭指示の復唱確認)
ミニ知識
SBARは、米国で医療安全と質の管理を目的に開発されたteamSTEEPSというチームワークトレーニングで用いられている報告のツールです。
teamSTEPPSは、チームとして安全で有益な知識・考え方、態度、成果が得られる戦略で、航空乗務員のための「Crew Resource Management」の原則や米国防省の事故対策の実績をもとに作成、実践された世界標準の行動規範を示しています(4)。
I-SBAR、I-SBARCで考えてみましょう
前回の東京子さんの事例を使って、I-SBAR、I-SBARCを用いた報告例を考えてみましょう。
I-SBARで考えてみましょう
新人看護師の赤坂るう子さんが東さんの病室を訪れた後、ナースコールでリーダーに報告する場面です。
ここの“Recommendation(依頼、要請)”は、なかなか言いにくいかもしれませんが、まず一人では対処が難しいと判断したら、いろいろと説明に時間をかけるより、「応援をお願いします!」と、しっかり伝えることが望まれます。
また、今回のように、同室の患者さんからのナースコールで訪室した場合、様子を見るつもりで何も持ってないことも珍しくありません。そのため、報告の際にはバイタルサイン測定用具や、緊急カートなどの物品も依頼しましょう。
もちろん報告を聞いた人たちが、気を利かせて持ってきてくれることもあると思いますし、逆に訪室したのがリーダーで、あなたが必要なものなどの指示を受けることもあると思います。 この“Recommendation(依頼、要請)”の部分を常に考えておくことは、次の行動への予測にもつながりますので、日々I-SBで終わらないように習慣づけてみましょう。
I-SBARCで考えてみましょう
では次にI-SBARCです。直接、当直医師に報告の電話をした場面です(点滴ラインはすでに確保されていると仮定します)。
(医師からの指示を聞いた後)
第1回にも書いた通り、報告は、事実のみを伝えることとは異なります。
何のためにその報告をしようとしているのかが大切です。自らの考えや、依頼したいことを伝えるのは、最初は難しいことですが、ぜひ訓練してほしいと思います。
自分の考えを持つことは「患者さんにどうなってほしいのか」「何が必要なのか」を考えること
筆者が新人のころ、よく先輩や医師に報告した後、「で、どう思うの?」と返されて絶句したことが思い出されます。
自分の考えを持つことは、患者さんにどうなってほしいのか、何が必要なのかを考え、ケアを追加修正することにつながります。「今、何が起きているか?」「今後どうなることが予測されるか?」「何を必要としているか」を考えるようになりましょう。
I-SBARCは、基本的な報告の手順と内容であり、医師―看護師間をはじめとする患者を中心とした医療者のコミュニケーションに欠かせないツールだと考えます。
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参考文献
- (1)Kim Giselle Cudjoe.Add identity to SBAR.Nursing Made Incredibly Easy!.(14),2016,6-7.
- (2)新里久美ほか.I-SBAR-Cの有効活用を目指した取り組みの評価.日本看護学会論文集.看護管理.46,2016,22-24.
- (3)阿部弥生.報告をするーI-SBAR-Cを用いたコミュニケーションの取り方.Nursing Today.28(2),2013,24-6.
- (4)teamSTEPPSとは:東京慈恵会医科大学付属病院(2016年9月5日閲覧)
- (5)LeslieL Cairns,et al.Utilizing Bedside Shift Report to improve the effectiveness of shift handoff.J Nurs Adm.43(3),2013,160-5.
- (6)山内桂子.新人が抱えるリスクを理解する「報告のコミュニケーション」.Nursing Today.26(4).2011,94-6.
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Illustration:かげ Twitter