胸痛に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「胸痛」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

胸痛の患者からの訴え

  • 「胸が痛みます」
  • 「胸に違和感があります」
  • 「圧迫されるような感じがあります」

 

〈胸痛に関連する症状〉

〈胸痛に関連する症状〉

 

〈目次〉

 

胸痛って何ですか?

胸部に感じる痛みのことを、胸痛といいます。

 

どの部分の痛みを「胸痛」として感じるの?

胸部にある臓器、皮膚筋肉の痛みはすべて、胸痛として知覚されます。

 

具体的には、心臓、肺、気管支、食道、胸部大動脈肋骨、胸骨、肋間筋、乳房、胸膜などの様々な部位の痛みを、「胸痛」として感じます。

 

図1胸痛として痛みを感じる部分

胸痛として痛みを感じる部分

 

胸痛を感じるメカニズムは?

痛みは通常、化学的・物理的な刺激が痛覚を伝える知覚神経を通して大皮質に達することによって生じます。化学的刺激にはセロトニンや酸、アセチルコリンなど、物理的刺激には圧迫や外傷があります。

 

肋骨、胸骨、肋間筋、乳房、胸膜などの病変による痛みは、肋間神経を介して脳に伝えられます。大動脈の外壁には痛覚神経が分布しており、血管壁が急に拡張するなどの刺激を受けると痛みが起こります。気管、肺、食道に炎症や腫瘍があると、迷走神経や交感神経の知覚枝を介して痛みを感じます。

 

心臓や、腸などの内臓に病変があると、その刺激が臓器を取り巻く内臓神経を通じて脳に伝えられ、痛みとして知覚されます。虚血性心疾患では、心筋が酸素不足に陥った結果、産生された化学物質が心臓に分布する内臓神経である心臓神経を刺激します。

 

病変部ではないところが痛むことがあるのはなぜ?

病変部とは異なる部位の体表面に感じる痛みのことを、関連痛といいます。

 

例えば、心筋梗塞では左肩や左腕が痛むことがあります。これは、心臓に分布する内臓神経と肩や腕の知覚神経が同じ高さで脊髄に入るため、脳が内臓の痛みを肩や腕の痛みとして勘違いするからです。痛みではなく、肩こりとして症状が現れることもあります。

 

図2病変部以外が痛む理由

病変部以外が痛む理由

 

同様の理由で、腹腔臓器である胃や肝臓、脾臓の痛みが、胸痛として感じられることがあります。

 

これらの臓器に分布する内臓神経が、胸髄を経て中枢に至るためです。

 

胸痛の原因になる疾患には何があるの?

胸部には、心臓や肺、大動脈など、生死にかかわる循環器・呼吸器系の臓器があります。胸痛の背後には、これらの大切な臓器の疾患があることが少なくありません。

 

胸痛を起こす重篤な疾患の代表は、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患です。

 

このほかには、解離性大動脈瘤、肺動脈塞栓症も重篤で、緊急の対応を要します。

 

さらに、肺炎、胸膜炎、気胸や肋骨骨折などの外傷でも胸痛が起きます。

 

胸痛はどうやってアセスメントするの?

まず、痛みの強さや部位、発現のしかた、持続時間を観察し、胸痛が生死にかかわるような疾患によるものかどうかをアセスメントします。例えば、胸を強く締めつけられるような強い痛みが持続するようなら、心筋梗塞を疑い、ただちに対処しなくてはなくてはいけません。

 

同時に、患者の表情や意識レベルの観察、バイタルサインの測定を行い、脈拍血圧呼吸が維持されているかを確認します。心筋梗塞や肺動脈塞栓症などではショック(ショックに関するQ&A参照)を起こすことがあるので、要注意です。

 

胸痛以外の症状もチェックしましょう。呼吸や循環が障害されていれば、チアノーゼチアノーゼに関するQ&A参照)も認められます。肺炎があれば、熱やを伴います。骨折の疑いがある時は、打撲や転倒の有無を確認します。肺炎や気管支炎、肋骨骨折などは、呼吸時に痛みが増強することが多いので、呼吸と痛みの関係も原因疾患の推測に役立ちます。

 

COLUMN心筋梗塞の合併症

心筋梗塞が起こると、それによってどんな影響が出るのかを考えてみましょう。

 

まず、心拍出量の減少によって血圧が低下し、ショックを起こす可能性があります(心原性ショック)。

 

梗塞部位に血栓が形成され、これがちぎれた場合には、脳などに塞栓症を起こす原因になります。壊死が左室壁の全層にわたっていると、その部位に穴が開き(心破裂)、心嚢腔内に血液が流れ出して心臓の動きを妨げたりすることがあります(心タンポナーデ)。刺激伝導系が傷害を受ければ、不整脈を起こす場合もあります。

 

一命を取り止め、梗塞部位に瘢痕(はんこん)が形成されると(心筋細胞は1度死ぬと再生しません)、瘢痕部が血圧によって拡張して瘤(こぶ)状に突出し、心臓瘤(しんぞうりゅう)を形成します。

 

狭心症や心筋梗塞の痛みはどうやって見分けるの?

狭心症や心筋梗塞における胸痛の種類や現れ方はそれぞれですが、「胸部前面の圧迫感」、「締めつけられるような感じ」、「焼けつくような感じ」、「強い不快感」などといった訴えがしばしば認められます。また、左肩や左腕など、関連痛の発現する部位を頭に入れておくことも重要です。

 

運動などによる酸素消費量の増加によって胸痛が誘発される時は、労作(ろうさ)性狭心症が疑われます。安静時にも胸痛がある時は、心筋梗塞に移行する可能性の高い、不安定狭心症の可能性が高いです。心筋梗塞の胸痛は狭心症に比べて激しく、多くは冷や汗、悪心、嘔吐などを伴います。痛みの持続時間も長く、ニトログリセリンでは痛みがとれません。

 

用語解説ニトログリセリン

「うっ」と狭心症の発作で胸を押さえた人が、震える指でポケットから薬を取り出し、口に含むと痛みが治まる—。そんな場面をドラマなどで見たことがある人は多いと思います。この薬がニトログリセリンです。

 

ニトログリセリンは、ダイナマイトの原料としても有名です。そもそもニトログリセリンが狭心症に効くというのは、ダイナマイト工場の労働者が、血管の拡張による頭痛を訴えたことから発見されたものなのです。もちろん、薬として使われるニトログリセリンは少量なので、爆発することはありません。

 

ニトログリセリンの薬理作用は、血管の平滑筋に直接働いて血管を拡張させることです。これによって冠状動脈が拡張し、心筋への血流が増加します。また、末梢の血管が拡張すると心臓に戻ってくる血液量が減少して心臓の容積が小さくなり、心筋にかかる負担が弱まって心筋の酸素消費量を減少させるという効果もあります。

 

舌下錠(ぜっかじょう)のほか、現在はスプレーやテープも販売されています。効果は1〜2分で現れ、30分ほど持続します。

 

胸痛がある時のケアは?

胸痛がある時は、衣服を緩めて安静にし、痛みを緩和します。必要に応じて医師の指示に従って鎮痛薬を投与し、痛みが和らぐような体位を工夫します。そのうえで、原因疾患に応じたケアを行います。

 

胸部には、生命にかかわる重要な臓器がたくさんあります。このため、胸痛は患者の不安をかきたて、それがますます痛みを呼ぶことがあります。背中をさすったり、患者の訴えに耳を傾けたりしながら、不安の軽減に努めることも忘れないでください。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版

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