呼吸困難に関するQ&A
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『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「呼吸困難」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
呼吸困難の患者からの訴え
- ・「息苦しいです」
- ・「頑張らないと息ができません」
〈呼吸困難に関連する症状〉
〈目次〉
- 1.呼吸困難(呼吸不全)って何ですか?
- 2.呼吸困難が起こるメカニズムは?
- 3.どんな時に呼吸困難が起こるの?
- 4.気道に原因がある急性の呼吸困難にはどんなものがあるの?
- 5.そのほかにはどんな呼吸器の異常で呼吸困難が起こるの?
- 6.呼吸器に原因がある慢性の呼吸困難にはどんなものがあるの?
- 7.呼吸器以外の原因で起こる慢性の呼吸困難にはどんなものがあるの?
- 8.呼吸困難はどうアセスメントするの?
- 9.呼吸困難では、呼吸以外には何を観察するの?
- 10.呼吸困難の強さを示す指標はあるの?
- 11.呼吸困難の時はどんな検査をするの?
- 12.呼吸困難のケアはどうするの?
呼吸困難(呼吸不全)って何ですか?
呼吸がしづらい、息が苦しい、空気を吸い込めないといった、呼吸に関して苦痛を伴う症状を呼吸困難(呼吸不全)といいます。努力しないと呼吸ができない状態です。
呼吸困難が起こるメカニズムは?
まずは、正常時の呼吸運動について考えてみましょう。
ヒトは意識しなくても、安静時には1分間に12~20回程度の呼吸運動をしています(小児では呼吸数は成人より多く、また年齢が若いほど多くなります)。
これは、脳幹にある呼吸中枢とよばれる部分が、絶えず呼吸運動が十分かどうかをモニターし、身体の要求する酸素量に見合った呼吸運動が行われるように、コントロールしているからです。
走ったり、激しい運動をしたときなどに酸素が足りなくなると、呼吸中枢は胸郭(きょうかく)運動を促すように命令を出します。その結果、息を深く吸い込むようになって吸気量、呼吸回数が増え、取り込む酸素の量が通常よりも多くなるのです。
ところが、何らかの異常がある場合には、呼吸中枢が「呼吸運動を亢進させなさい」という命令を出しているにもかかわらず、酸素量が不足してしまい、「呼吸が十分ではありません」という情報が呼吸中枢に伝わることになってしまいます。
この食い違いが、呼吸困難として感じられるのです。
どんな時に呼吸困難が起こるの?
呼吸が正常に行われるためには、①肺胞までの空気の出入りがスムーズであること、②肺胞壁でのガス交換に障害がないこと、③肺胞への血流が十分であることが必要です(図1)。
これらに障害があると、呼吸運動を行っているにもかかわらず、動脈血中の酸素が不足して呼吸困難を感じます。
図1呼吸の仕組み
呼吸困難は、「急に起きる場合(急性)」と「徐々に起き持続する場合(慢性)」の2つに分けられ、1か月以上持続する場合は慢性の呼吸不全と診断されます。それぞれ、背景にある疾患が異なります。呼吸困難の多くは、呼吸器系に原因がありますが、とくに、急性呼吸困難は生死にかかわる場合が多く、早急に原因をつきとめて対処することが必要です。
気道に原因がある急性の呼吸困難にはどんなものがあるの?
代表的な疾患は、喘息の発作時(「喘息ってどんな疾患?」参照)です。
喘息では気道のリモデリングにより、気道の粘膜腺の増加、気管支平滑筋の肥大が起こります。発作時には、気管支のまわりに浮腫が起こり、さらに肥大した気管支平滑筋が収縮して気管支の内腔が狭くなります。同時に、増加した粘液腺から過剰に産生された粘液が分泌され、気道が閉塞されてしまいます。
この状態では、入ってくる空気が減るだけでなく、肺胞内の空気が出て行きにくくなります。酸素が取り込めなくなるとともに、二酸化炭素が溜まり、呼吸が苦しくなるわけです。
また、異物が誤って気道に入ることによる窒息も、急性の呼吸困難を起こします。
そのほかにはどんな呼吸器の異常で呼吸困難が起こるの?
肺血栓塞栓(そくせん)症が代表的です。長時間の座位や臥床によって下肢の静脈内で形成された大きな血栓が下肢の運動によって遊離して、肺動脈の太い枝に詰まり、肺に血液が行かなくなるために呼吸困難が起こります。
この他、肺炎によって肺胞内が滲出物で充満する場合、肺に孔が開き胸腔内に溜まった空気が肺を圧迫する気胸、肺胞内に水分が貯留する肺水腫などでも呼吸困難が生じます。
精神的な原因で起こる呼吸困難としては、過換気症候群があります。
呼吸器に原因がある慢性の呼吸困難にはどんなものがあるの?
徐々に息苦しさが増していくのが、慢性の呼吸困難です。原因となる疾患の代表は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)で、なかでも多いのが肺気腫です(図2)。
図2COPD(慢性閉塞性肺疾患)
健康な肺胞には、風船のような弾性があります。ところが、タバコなどの有害な粒子やガスを吸い込み続けると、異物を処理するために集まってきた白血球が肺胞壁を破壊してしまいます。その結果、肺胞の壁が次第に壊れて弾性がなくなり、空気の出し入れをしにくくなります。
肺気腫では肺がしぼんで虚脱してしまうのを防ぐために重要なサーファクタントの産生も減少するので、肺は膨らみやすくなると同時にしぼみやすくなり、まだ肺胞に二酸化炭素の多い空気が残っているにもかかわらず、肺胞への入口が閉じてしまいます。肺胞の弾力性の低下は加齢によっても起こり、老人性肺気腫を引き起こします。
慢性気管支炎では、気道に分泌物が貯留することで(図1-①)、間質性肺炎では肺胞壁が炎症によって肥厚することで肺胞の酸素が血管に届きにくくなること(図1-②)により、呼吸困難がみられます。
COLUMN 在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)
COPDをはじめとする慢性呼吸不全の患者は、次第に呼吸機能が低下すると、これまでは入院して酸素吸入を受けなければなりませんでした。しかし現在では、空気中の酸素を濃縮できる酸素濃縮器を使用し、状態が安定していれば、自宅で酸素吸入を行いながら、ほとんど普段と変わらない生活を送れるようになりました。携帯型の酸素ボンベを使えば、外出も可能です。
このように慢性呼吸不全患者のQOLは、在宅酸素療法によって大きく改善されました。
呼吸器以外の原因で起こる慢性の呼吸困難にはどんなものがあるの?
慢性心不全も呼吸困難の原因となります。左心不全では肺のうっ血が起こるため、肺水腫になり、肺での酸素化が障害されて呼吸が苦しくなります。右心不全(うっ血性心不全)では、肺に血液を送る右心の働きが悪くなることで、肺に十分な血液を送ることができなくなります。
すると、肺での酸素化が障害され、息苦しさを感じるようになります。この他、バセドウ病や貧血などによっても呼吸困難が生じます。
呼吸困難はどうアセスメントするの?
まず、バイタルサインをとり、パルスオキシメータで動脈血酸素飽和度を測定して、すぐに対処が必要かどうかを判断します。呼吸困難のある患者では、通常酸素飽和度は減少し、90%以下を示します。ただし、高齢であったり、徐々に酸素飽和度が減少する場合は、90%以下になっても呼吸困難を訴えない場合があるので、注意しましょう。問診や観察により、呼吸困難の程度や発生状況を把握し、呼吸困難の原因を推測するために必要な情報を集めます。
呼吸を観察するときのポイントは、「深さ」(深いか浅いか)、「回数」(増えているのか、減っているのか)、「リズム」(乱れはないか)の3つです。訴えがなくても、患者が「起座呼吸」(図4)の姿勢を取っている時は、呼吸困難を起こしている可能性があります。
図4起座呼吸
呼吸音を聞くことも重要です。連続しているのか、断続的なのか、どんな種類の音か、音の高低はどうか、こすれ合うような音はないか、などについて判断します。肺の解剖と照らし合わせて、どの部位でどのような呼吸音が聞こえるかについても記録してください。呼吸音の特徴は、呼吸困難の原因を推測するうえでとても役立つ情報となります。
また、気胸の場合は、胸腔に貯留した空気によって、気管の位置が偏位したり、息を吸うと胸郭がパンパンに張ります。このため気管の位置や胸郭の動きも観察するようにします。
呼吸困難では、呼吸以外には何を観察するの?
チアノーゼ(「チアノーゼ」参照)、咳嗽・咳(「咳嗽・咳」参照)、発熱(「発熱」参照)、意識障害(「意識障害」参照)、浮腫(「浮腫」参照)の有無をチェックします。既往歴を調べ、呼吸困難の原因疾患がないかも確認しましょう。
高血圧の既往がある人では心不全による呼吸困難の可能性があるので、浮腫や胸水がみられます。
慢性の呼吸困難ではバチ状指(「チアノーゼの影響は?」参照)になることもあります。また、眼球結膜や爪の色を見て貧血の有無も確認します。
呼吸困難の強さを示す指標はあるの?
患者の自覚症状を量的にとらえる指標としては、修正Borg scale(ボルグスケール)や、mMRC(modified British Medical Research Council)などがあり、慢性の呼吸困難の評価に用いられます。修正Borg scaleは患者に運動負荷を与え、「0:何も感じない~10:非常に強い」の11段階(0と1の間には「0.5:非常に弱い」がある)で調べるものです。mMRCは日常生活での活動レベルを「Grade0:激しい運動時のみの息切れ~Grade5:息切れがひどく外出できない」の6段階で評価します。
呼吸困難の時はどんな検査をするの?
肺での血液酸素化能力をみるために、動脈血ガス測定を行い、「動脈血酸素分圧(PaO2)」、「動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)」を測定します。血液中の酸素と二酸化炭素の量がわかり、呼吸困難の原因をある程度、推測できます。
COPDや喘息では、酸素分圧が低くなると同時に、二酸化炭素分圧も高くなります。一方、ガス交換そのものが障害されているときには、酸素分圧、二酸化炭素分圧とも下がります。その他には血液検査や胸部X線検査、心電図が行われます。
呼吸困難のケアはどうするの?
息苦しさを訴える患者には、安静にして酸素消費量を減らし、起座位をとらせたり、側臥位で枕を抱かせるなど、楽な姿勢を保つようにアドバイスします。
呼吸困難が強い場合は、酸素吸入を行います。ただし、COPDの患者に高濃度の酸素を与えすぎると、二酸化炭素も蓄積してしまい、「CO2ナルコーシス」に陥ることがあるので要注意です。
急性で重篤な呼吸困難では挿管して人工呼吸器の装着が必要になる場合もあります。挿管に必要な物品をいつでも使用できるよう準備し、人工呼吸器装着中は人工呼吸器の設定が適切かどうかを常に観察し、自分で痰を出せないので、定期的に吸引を行います。
また、喘息や慢性の呼吸困難に対しては禁煙などの生活習慣、家庭の生活環境、職場環境などを改善し、呼吸困難を悪化させるような要因を除くようにすることも大切です。
用語解説 CO2ナルコーシス
血液中のCO2が高くなりすぎる(通常80mmHg以上)と、CO2が中枢神経に対して麻酔効果を現し、そのために呼吸が抑制された状態を、CO2ナルコーシスといいます。
COPDの患者は、呼気が障害されて残気量が増加しているので、もともと血液中のCO2は増加する傾向にあります。それに加え、低酸素を補うために努力呼吸を行っています。このような場合に、安易に酸素を投与して動脈血中の酸素分圧を上げすぎると、身体はもう努力して呼吸をする必要がないと判断し、換気を低下させてしまいます。すると、ますますCO2が蓄積し、CO2ナルコーシスを起こして呼吸抑制をきたすことがあります。
※編集部注※
当記事は、2016年9月18日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版