熱中症の季節が来た!でもそれは発熱?熱中症?

 

 

この症状があったら熱中症!とは言えない

熱中症の季節がやってまいりました。

 

皆さんは熱中症ってなんですか?って聞かれたら、
もちろん、超早口で「暑熱環境にいるか、いた後に、全身症状を起こしたもので、他の原因疾患を除外したものです」って答えられますよね??

 

数年前までは熱けいれん、熱失神、熱疲労、熱射病という分類があり、これらの症状があったら熱中症かなという判断でしたが、熱中症の症状は多岐にわたります

現在はそれだけで判断はできないという考えが主流です。

 

めまいや立ちくらみ、大量発汗、口渇、筋肉痛こむら返り頭痛嘔吐、倦怠感、せん妄、小脳失調など、本当にさまざまな症状を呈します。

 

これがあったら熱中症とも言えないし、これがないなら熱中症じゃないねとも言えない、非常に診断が難しいものなのです。

 

熱中症をどのように診断して治療していくのか、どうやって予防するのかということに関しては、日本救急医学会から熱中症診療ガイドライン1)が出ておりますので、ぜひそちらをご参照ください。

 

この季節、意識障害の患者さんが救急搬送されてきた際に体温が高かったら、

「これは絶対に熱中症だよ〜」って思いがちですが、感染症だったり、甲状腺クリーゼだったり、薬物中毒(セロトニン症候群や悪性症候群を含む)だったり、見逃してはならないものがあるので、熱中症と決めつけるのは危険です。

 

外来では、熱中症の可能性を頭において対応しつつも、あくまでも除外診断なのだという点に気をつけておいてください。

 

病棟では予防が中心となります。患者さんが脱水に陥ったり、暑熱環境に置かれたりしないように注意しましょう。

 

発熱と高体温症の違いは

ところで、皆さんは発熱と高体温症の違いは知っていますか?

 

体温は視床下部の体温中枢で調節されています。

 

感染症などで、体温を上げて戦いたいとき、体温中枢のセットポイント(設定温度)が上昇すると、代謝亢進し、血管が収縮し、中枢の熱をしっかり体内に留めさせることで発熱します。

自分で熱を発生させているから「発熱」です

 

セットポイントが下がると、血管が拡張して全身に熱が行き届き、発汗することで蒸散により熱を損失させます。

これが解熱ですね。

 

セットポイントが上がる病態としては、サイトカインの放出があります。

感染症や膠原病、悪性腫瘍で見られます。

そのほか、視床下部の障害でもセットポイントが上がります。出血脳腫瘍、心停止後などで見られます。

 

これに対して、気温の上昇や脱水などで体温の放散ができなくなり、体温中枢と関係なく体温が上昇してしまう状態を「高体温症」と言います

セットポイントは変わりません。

運動後の体温上昇もこれです。

 

ちなみに、感染症法の届出基準のところで、「発熱」は体温が37.5℃以上を呈した状態、「高熱」とは体温が38.0℃以上を呈した状態とされています2)

 

体温が37.5℃以上で、セットポイントが上がっていると考えられる状況であれば、「発熱している」と考えて差し支えないでしょう。

 

なお、英語で発熱はfever、高体温症はhyperthermiaと呼びます。

 

ここまで説明して頭がこんがらがったかもしれませんが、

ここで質問です。

 

熱中症の時に体温が上昇しているのは発熱でしょうか?高体温症でしょうか?

 

もう皆さんは大丈夫ですよね?

熱中症では高体温症となっているのです。

 

体温が高い人を見たら解熱薬を使いたくなる方もいるかもしれませんが、一般的にアセトアミノフェンなど解熱薬は体温のセットポイントを下げる働きをします。

したがって、熱中症の時に解熱薬を使ってもダメです。

水分補給や冷却が有効なのです。

 

 

熱中症の時の体温測定は中枢温で

さて、体温の話をしたので測定の話もしましょう。

皆さんはいつもどうやって体温を測定しているでしょうか?

 

おそらく腋窩温を測定しているのでは?

 

しかし実は熱中症の時に、腋窩温の測定は正確な評価に不向きです。

特に、治療で身体を冷やしにかかると、中枢温(心温)が高いままに末梢が冷えるので、きちんと体温が下がったかわからなくなってしまいます。

 

必ず中枢温を測定しましょう。

中枢温は直腸温を測定することが一般的ですが、食道温や膀胱温も活用できます。

 

膀胱留置カテーテルに体温計がついているものを挿入しておけば、尿量を計りつつ、モニターに中枢温を表示することもできます。

 

熱中症疑いの救急搬送を受け入れているけど、これまで中枢温をきちんと測っていなかったという病院は、膀胱留置カテーテルに体温計がついているものを、ぜひ管理者にお願いして購入してもらいましょう。

 

熱発ってなんだ?

看護師さんの中には「◯◯さんが熱発しています!」みたいに言う人もいます。

個人的には好きではない表現です(使っている人ごめんなさい)。

 

実は医学用語には「熱発」という言葉はないのです。

熱発は文学的な表現です。

医学用語としては「発熱」です。

 

みんな、熱発熱発って言うのですが、どこに書いてあったのか謎です。

たぶん文学作品でしょう。

熱発と言われるたびに心の中で「文豪か!」ってつっこんでいます。

 

とはいえ「◯◯さんが発熱しています!」みたいに言われても、

「よく高体温症と発熱の見分けがついたな…すごいね…」と言われかねません。

 

ではどのように伝えればよいでしょうか?ここは素直に客観的事実を伝えるのが吉です。

 

◯◯さんの体温が◯℃です!

 

うん、これだ。今日からこれにしましょう。

 

 

執筆

薬師寺慈恵病院院長薬師寺泰匡

富山大学卒。初期臨床研修中に日本の救急医療の課題や限界に触れつつ、救急医療の面白さに目覚め、福岡徳洲会病院ERで年間1万件を超える救急車の対応に勤しむ。2013年から岸和田徳洲会病院の救命救急センターで集中治療にも触れ、2020年から薬師寺慈恵病院に職場を移し、2021年1月からは院長として地方二次救急病院の発展を目指している。週1回岡山大学の高度救命救急センターに出入りして、身も心もどっぷり救急に浸かっている。呼ばれればどこにでも現れるフットワークの軽さが武器。呼んで。

 

看護roo!編集部

 

 

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