実は奥深い「魚アレルギー」の世界

堀向健太ほむほむ@アレルギー専門医

小児科医・アレルギー

 

 

「サバを食べたら、顔が赤くなりました。魚アレルギーでしょうか?」という相談を受けたら、皆さんはどう思うでしょうか?

 

サバは、魚アレルギーを起こしやすい魚なのではと思う方は多いです。

確かにサバは食物アレルギーの表示対象品目、『特定原材料に準ずるもの』の20品目に、ばっちり入っています。

 

「サバって、アレルギーを起こしやすいと聞いたことがあるし、食べて症状があるなら、やっぱり魚アレルギーなのでは…?」と思われるかもしれません。

 

でも、実はそこに、落とし穴がいくつもあるんです。

 

今回は、そんな「魚アレルギー」に関して考えてみましょう。

 

魚の筋肉に含まれるヒスタミンで起こる『ヒスタミン中毒』

魚の筋肉には、ヒスチジンというアミノ酸が含まれています。

このヒスチジンは、様々な腐敗菌によってヒスタミンに変わります。

ヒスタミンをたくさん摂取すると、蕁麻疹頭痛、顔面が赤くなるなどの症状を引き起こすことがあります。

これを、『ヒスタミン中毒』といいます1)

 

一方のアレルギー反応とは、免疫細胞に作用してヒスタミンなどが放出され、蕁麻疹などのアレルギー症状を引き起こすという仕組みです2)

 

ヒスタミンを多く摂取して症状が出るヒスタミン中毒は、免疫細胞は関係していませんので、食物アレルギーとは言いません

 

つまり、ヒスタミンを多く食べてヒスタミン中毒になったのか、自分の体の細胞がヒスタミンを出してアレルギー症状が出たのか、区別しにくいのです。

 

ヒスタミンは加熱しても、これらの症状を起こす力が落ちませんが、新鮮な魚であればヒスタミン量は少ないため、症状が起こりにくいです。

逆に、魚が傷みやすい、夏場は多く発生する傾向があります

 

そのため、ちょうどこの記事が公開された頃が症状が出やすい時期です。

 

一般的にヒスチジンは、赤身の魚であるサバやマグロなどに多く含まれます1)

 

もし、これらの魚を食べて蕁麻疹があったという経験がある方は、魚アレルギーではなく、ヒスタミン中毒の可能性もあるわけですね。

 

では、ヒスタミン中毒を抑えておけば、本当の魚アレルギーを見分けやすくなるのでしょうか。

 

アニサキス症とアニサキスアレルギーは違う病気

アニサキス、という寄生虫をご存知でしょうか。

アニサキスは、サバ、アジ、サンマ、イワシなどの魚介類に寄生していることが知られています3)

 

アニサキスが寄生している魚を摂取すると、アニサキスが壁に食い込み、激しい腹痛を引き起こします。

これを『アニサキス症』と言います。

 

アニサキス症は、アニサキスが生きている状態で起こるため、魚を中心部まで十分に加熱することや、マイナス20度で24時間以上冷凍することで予防できます4)

 

一方、アニサキスによるアレルギーもあります。

 

アニサキスに含まれるアレルゲンタンパク質に対してアレルギー反応を起こす病気です5)

加熱や冷凍でアニサキスが死んでいても、タンパク質の性質は残っていることが多く、症状が起こる可能性があります。

アニサキスアレルギーの予防は、魚介類の摂取そのものを避けることが基本になります。

 

アニサキス症とアニサキスアレルギーは違う病気です

 

「青魚でアレルギかも?」には注意が必要

さて、最初の話、「サバを食べて顔が赤くなったら魚アレルギー?」に戻りましょう。

 

例えば、1歳のお子さんが魚アレルギーかもしれないということで来院されたとしましょう。

そのお子さんが白身魚は食べたことがあるものの、初めて青魚を食べた際に顔が赤くなったという症状があったとします。

 

皆さんはもう、「それは魚アレルギーですね」と一口に答えられないですよね

ヒスタミン中毒かもしれないし、アニサキスアレルギーの可能性もあります。

 

魚アレルギーの主な原因となるアレルゲンは、『パルブアルブミン』というタンパク質と考えられています。

この『パルプアルブミン』は青魚・白身魚どちらの筋肉にも含まれます。

そのため、白身魚をこのお子さんが食べることができていたのなら、少なくとも魚アレルギーである可能性が低くなります。

では、アニサキスアレルギーはどうでしょうか。

アニサキスアレルギーは、魚を食べる機会の多い成人に特に多いことが知られています6)

 

つまり今回のお子さんのケースでは、魚アレルギーやアニサキスアレルギーよりもヒスタミン中毒の可能性が高いと考えられるでしょう。

 

さらに魚の保存状態やアレルギーを起こした季節などを詳しく聞き取ることで、ヒスタミン中毒であった可能性をさらに判断しやすくなります。

 

そして、新鮮な青魚でチャレンジする機会をアドバイスできるかもしれません。

 

実は、魚アレルギーはもっと奥深いテーマです。

 

魚種によっても、主なアレルゲンであるパルブアルブミンの量が異なるとか、口側と尾側、もしくは背側と腹側でアレルゲンの量が違うとか7)、パルブアルブミン以外のアレルギーとか、エラの周辺の魚肉ではヒスタミン中毒を起こしやすいとか8)

 

このような知識を駆使し、いろいろお話をお聞きしながら頭をひねる毎日です。

 

さて今回は、奥深い魚アレルギーと、間違いやすい病態に関して、簡単に解説してみました。

この記事がなにかのお役に立つことを願っています。

 

 

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執筆

東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科 助教堀向健太

1998年、鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て、2007年、国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科助教。
毎日新聞医療プレミア、Yahoo!個人オーサー(2020年MVA受賞)、ブログ「小児アレルギー科医に備忘録」、Newspicsプロピッカー、音声ラジオVoicy、note、Twitter、Instagramなどで情報発信。著作に『マンガでわかる! 子どものアトピー性皮膚炎のケア(内外出版)』『ほむほむ先生の小児アレルギー教室(丸善出版)』『小児のギモンとエビデンス ほむほむ先生と考える 臨床の「なぜ?」「どうして?(じほう)』など。

 

編集:看護roo!編集部

 

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