視覚障害に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「視覚障害」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

視覚障害の患者からの訴え

  • ・「目がかすみます」
  • ・「よく見えません」
  • ・「視力が落ちました」
  • ・「視野に黒い部分があります」

 

〈視覚障害に関連する症状〉

視覚障害に関連する症状

 

〈目次〉

 

視覚障害って何ですか?

「見える」という機能が障害された状態を、視覚障害といいます。視覚障害は、「物が見えにくくなる」という視力の障害と、「見えている範囲(視野)が狭くなる」という視野の障害に、大きく分けることができます。

 

このほかの視覚障害としては、色の区別がつきにくくなる色覚異常や、眼筋の障害によって物がずれてみえる複視があります。

 

視力が障害されるメカニズムは?

物から目に入ってくる光は、角膜、水晶体、硝子体を通る間に屈折し、ちょうど写真のフィルムのように網膜上に見たものの像が映し出されます。網膜に達した光の情報は視細胞を興奮させ、これが視神経を伝わっての視覚野に達し、認識されます(図1)。視力の障害は、角膜から入った光が網膜に到達し、視覚野で認識されるまでの経路の障害によって起こります。

 

物から入った光が網膜上で像を結ぶためには、カメラのピントを合わせるのと同じように、物との距離に応じて、水晶体の屈折率を変えることが必要になります。この屈折率の調整がうまくいかなくなり、網膜より前で像を結ぶ状態を近視、後ろで像を結ぶ状態を遠視といいます。像を結ぶ位置がずれる原因としては、角膜や水晶体の屈折に問題がある場合、眼軸(角膜と網膜を結んだ線)の長さに問題がある場合があります。

 

乱視は、角膜の屈折率が部位によって違ったり、角膜表面に凹凸があることにより、網膜面にはっきりした像を結ばないために起こります。

 

図1見えるメカニズム

見えるメカニズム

 

視力障害を起こす目の病気にはどんなものがあるの?

光の通り道に光を通しにくくするような要因があると、視力が落ちます。角膜では炎症(角膜炎)や傷、水晶体では白内障、硝子体では飛蚊症(ひぶんしょう)などが代表例です。

 

用語解説 白内障

目に入った光が網膜に達するためには、角膜、水晶体、硝子体のすべてが透明で、光を通す必要があります。

 

白内障とは水晶体のタンパク質が変性を起こし、濁って光を通しにくくなった状態です。物は霞がかかったようにみえます。加齢による老人性白内障が大部分ですが、糖尿病の合併症や子宮内での風疹ウイルス感染による先天性白内障、外傷やブドウ膜炎によって起こるものもあります。

 

視力障害が進行した場合には、超音波で水晶体の濁った部分をやわらかくして吸引し、その後に人工的につくったレンズを埋め込むという超音波乳化吸引術を行います。濁った部分が多くなるほど手術が大変になりますので、早めに眼科医を受診することを勧めましょう。

 

用語解説 飛蚊症

硝子体の内部は、ゼリー状をしています。これが部分的に液状になると、硝子体内の細かい線維が、その中を動くようになります。白いものや明るいもの(すべての光を反射する)を見た場合、この線維に光が当たると網膜に影として映り、まるで視野の中を蚊が飛んでいるように見えます。この状態が、飛蚊症です。網膜剥離の前触れとして現れることもあります。

眼球は、内側から、網膜、脈絡膜(ブドウ膜)、強膜という3層の膜で取り囲まれており、これらの異常も、視力障害を起こします。網膜の視細胞の神経線維は、視神経乳頭とよばれる部位に集まり、視神経となって眼球から出ていきます。

 

網膜剥離では、網膜に裂け目や穴が生じ、そこに液体状になった硝子体が入り込むことで網膜が剥がれていきます。網膜が剥がれてしまうと視細胞から視神経に信号が伝わらなくなり、また脈絡膜の血管から酸素や栄養を受けられなくなってしまいます。遺伝性の網膜色素変性では、網膜の視細胞が変性します。ベーチェット病、ブドウ膜炎、サルコイドーシスでは、脈絡膜に炎症が起きることにより、視力が低下します。

 

眼圧亢進が、視力障害の原因になることもあります。眼球の内部には、水晶体と硝子体のほかに毛様体や虹彩の血管から分泌される眼房水(がんぼうすい)がが存在しており、これらが、眼球内部の圧力(眼圧)を生んでいます。眼房水の産生と排出はつり合っているので、眼圧はいつも一定に保たれています。

 

緑内障は、この眼房水がうまく循環しなくなり、眼圧が高くなる病気です(図2)。圧迫によって血流が障害された結果、視細胞が変性し、最悪の場合は失明してしまいます。緑内障では、視力よりも視野が先に障害されます。

 

また、糖尿病や高血圧による眼底の毛細血管からの出血が、視力の低下をまねくこともあります。

 

図2緑内障

緑内障

 

視野が障害されるメカニズムは?

視細胞で受けた信号が、視神経によって大脳の視覚野に伝わるまでのルートに障害が起きると、視野障害が生じます。

 

視野が障害されるメカニズムを理解するためには、視野と視神経の走行ルートの関係を理解する必要があります。ちょっと複雑ですが、図3で確認しながら視野と視神経の走行ルートをみてみましょう。

 

図3視野と視神経の走行ルート

視野と視神経の走行ルート

 

左右の眼は、水平方向に約180度の視野をもっています。しかし、両方の目が180度のすべてを見ているわけではなく、それぞれの目が視野を分担しています。左の耳側の視野から入る光(①)は左眼球の側の網膜に像をつくり、鼻側の視野から入る光(②)は耳側の網膜に像をつくります。

 

右の目についても同じように、耳側の視野から入る光(④)は鼻側の網膜に、鼻側の視野から入る光(③)は耳側の網膜に像をつくります。網膜に達した光の情報は、左右とも鼻側の視野に対応する耳側の視神経は交叉せずに同じ側の視覚野に、耳側の視野に対応する鼻側の視神経は交叉して反対側の視覚野に伝えられます。

 

視神経が腫瘍や血腫などで圧迫されたり、外傷や炎症などで損傷を受けると、視野障害が起こります。視神経の走行と視野の関係から、損傷部位によって障害される視野が異なってきます。

 

たとえば、下垂体の腫瘍などによって視交叉が内側から圧迫される(イラストのAの部分)と、ここには左右の耳側の視野の情報(①、④)を伝える視神経が走っているので、両方の耳側が見えない両耳側半盲が起きます。左右の視神経が損傷を受けると、全盲(①、②、③、④)になります。

 

左の視交叉から先の部位が損傷を受けると、両目の右側の視野(②、④)が見えなくなり、右の視交叉から先の部位が損傷を受けたときは、左側(①、③)が見えなくなります。

 

このほか、緑内障では眼圧の亢進により、視野が外側からだんだん狭くなっていく求心性視野狭窄が起こります。中心性脈絡膜炎では、逆に真ん中だけが見えなくなります。

 

血圧、糖尿病による眼底出血で視細胞が損傷を受けた場合には、損傷した視細胞に対応する視野の障害が起こります。網膜の黄色斑部に病変があると、中心部の暗点がみられます。多発性硬化症などの脱髄疾患(有髄線維の髄鞘<ずいしょう>が変性・脱落していく疾患)などによる視神経障害でも、視野障害が起きることがあります。

 

脳出血や脳梗塞脳腫瘍でも視神経から視覚野の通り道である側頭葉、後頭葉、大脳基底に病変が生じると障害された部位に応じた視野の障害が起こります。

 

視野障害の種類は?

視野の異常には、大きく分けて、狭窄、半盲(はんもう)、暗点があります。

 

狭窄とは、視野が狭くなるものです。視野全体が狭くなる求心視野狭窄と、視野の一部が不規則な形で欠ける不規則視野狭窄とがあります。

 

また、視野の半分が見えなくなるのが半盲で、視野のどの部分が障害されるかにより、両耳側半盲、右側半盲などとよびます。

 

暗点は、視野の中に見えない部分があるものをいいます。

 

視覚障害はどのようにアセスメントするの?

視覚障害は、ぼけて見える、目がかすむ、よく見えないところがある、物が二重に見えるなどの訴えとして現れてきます。

 

どのタイプの見えにくさなのか、どちらの眼に起きているのか、どの部分が見えないのか、いつから始まったのか、どのように始まったのか(急に、徐々に)などを問診します。

 

また、角膜の損傷や炎症、白内障による水晶体の混濁など、目の状態について観察します。

 

緑内障のなかには急激な眼圧の上昇を起こすものがあり、このときには目の痛みを伴います。そのため、目の痛みの有無も重要な情報です。視覚障害を伴う、脳出血や脳梗塞などの脳の疾患の病歴の有無、糖尿病や高血圧、ベーチェット病などの全身疾患の病歴の有無、網膜色素変性などの家族歴も尋ねます。

 

検査としては、視力検査眼底検査、眼圧測定、必要に応じて頭部のX線撮影やMRIなどが行われます。

 

視覚障害のケアは?

目が見えにくいと、転倒したり物にぶつかったりと思わぬ事故に遭遇することがあるので、事故防止に気をつけます。また、文字を大きく書くなどの配慮も必要です。

 

眼圧は、交感神経の興奮によって上昇します。そのため、緑内障の患者に対しては、排便時にいきまないようにしてもらう、ストレスを避ける、刺激物の摂取を控えるなどの注意をうながします。

 

視野障害があるときは、欠損している視野にあたる部分に物を置かないようにするなどの配慮をします。

 

糖尿病や高血圧などの全身性疾患に伴う視覚障害のときは、血糖や血圧のコントロール、生活習慣の改善などのもとの病気を悪化させないことが大切です。

 

COLUMN 角膜移植

角膜の障害によって視力を失った場合には、角膜を移植することによって視力を回復することができます。

 

角膜は骨髄や腎臓と異なり、誰にでも移植することが可能です。角膜には血管がないので、移植をしても免疫系の細胞と出会うことがなく、拒絶反応が起きません。角膜を提供するためには、事前に意思表示カードに記入したり、アイバンクへの登録を行います。

 

※編集部注※

当記事は、2017年2月12日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版

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