洞性P波から読み解く不整脈|不整脈の心電図(2)
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、洞性P波から読み解く不整脈について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
〈目次〉
はじめに
不整脈の復習をしましょう。
①心房リズム、②房室伝導、③心室リズム、以上の3点が判明すればすべての不整脈の解析はできます。番号①~③の順序には意味があります。正常では心房の興奮が心室に伝導して、心室が興奮するので、この順序で解析していきます。
アクティブ心臓病院でも心房看護管理室での命令が、房室結節副総師長~ヒス束病棟師長の接合部コンビを経由して、心室病棟に伝わって実際の業務(ポンプ機能)が行われます(図1)。
この繰り返しで病院が日々運営されていますが、この流れの乱れが不整脈です。ですから、心房管理室のリズム、接合部コンビの伝達具合、心室病棟のリズムの3つを見れば、その病院が整然と仕事をしているかどうかはすぐわかります。そんな目で心電図を見てみましょう。
ここでは、基本的に洞調律(リズム)の心電図について勉強していきます。もう一度、洞調律(リズム)について思い出してください。
洞結節は右心房の右上に位置していますから、洞結節から規則正しく発信された信号は、心房を右上から左下に伝導します。したがって、心房興奮をベクトルにしてみると右上から左下に向きますね。
標準12誘導心電図では、3時の方向のⅠ誘導、5時方向のⅡ誘導、6時方向のaVFは確実に陽性P波です。
ここで重要なことを理解しておいてください。
洞結節は、興奮、緊張、運動など心拍出量を増やす必要が生じると、信号の発生頻度を高くして、つまり洞周期を短くして心拍数を増加させます。これは、交感神経やアドレナリンなどのホルモンが洞結節に作用して、洞結節の自発的脱分極周期を短くすることで実現します。もちろん、交感神経やアドレナリンは心筋の収縮力も増強して、心拍数の上昇とともに心拍出量を増加させます。
しかし、心拍数の上昇には限界があり、どんなに激しい運動をしても、せいぜい200回/分が限界です。
皆さんがいくら限界まで運動しても心拍数200回/分を超えないということは、経験則として理解してもらえると思います。逆に考えれば、いくら陽性P波が規則正しい周期で見られていても、心房心拍数200回/分以上は洞リズムではないということです。
200回/分は、PP間隔でいえば7.5コマ(0.04×7.5=0.3秒)ですから、7.5コマより短いPP間隔は洞性P波ではないと考えてください。ただし、何事にも例外があり、新生児は200回/分を超えますし、成人でも甲状腺機能亢進症が重症な場合は、まれに200回/分を超える洞リズムもありえます。
洞不整脈
不整脈の読み方は、P波、PP間隔、PQ間隔、QRS波でしたね。さらにP波が上向き、PP間隔は一定で15~30コマ、PQ間隔は一定で3~5コマ、QRS波は3コマ以内が正常です。
図2の心電図をざっと見てみますと、なんとなく規則正しくないようです。では、ディバイダーを使って計測してみましょう。
P波は上向きで同じ形のようですね。同じ形ということは心房の興奮が同じ方向に伝導して繰り返されているということを意味しています。
PP間隔はどうでしょう。1~2拍目のPP間隔に比べて3~4拍目以降のPP間隔は短くなっていますね。6~7拍目のPP間隔はまた長くなっています。PP間隔は、一定ではありませんが15~30コマです。PQ間隔は4コマ程度で一定ですし、QRS波は同じ形で幅は2コマ程度で正常です。
この心電図は、PP間隔が変動する以外は正常の条件に合っています。これは洞性P波の出現する間隔が変動するために起こる不整脈で、洞不整脈(sinus arrhythmia:サイナス アリスミア)といいます。
洞結節の信号の発生周期が変動するために起こる不整脈で、洞結節への自律神経の影響が原因です(心臓とはなんだろう(3)参照)。
よく見られるのは呼吸による洞不整脈ですが、自分の身体で実感してみましょう。ではまず自分の手首の脈を触れてみてください。規則正しく脈打っていますね。そのまま大きく息を吸って、そのまま息んでみてください。
どうですか、脈が遅くなったでしょう。胸腔内圧が高まるとその刺激で副交感神経(迷走神経)の活動が亢進して、洞結節の信号発生周期が長くなって、PP間隔が延長する、つまり脈が遅くなるのです。
アクティブ心臓病院でいうと、洞結節総師長の朝礼が毎朝8時ちょうどのはずが、体調や都合で10分早まったり、10分遅れたりするのが洞不整脈です。それ以外は、心房管理室、接合部コンビ、心室病棟いずれも命令に従って正常業務を行っています。
この不整脈は、小児や若年者にとくに多く見られます。不整脈といえば不整脈ですが、生理的なもので病的な意味はありません。したがって、とくに処置や治療は必要ありません。
まとめ
- 洞性P波のPP間隔が変動するが、PQ間隔、QRS波は正常なのが洞不整脈
- 呼吸性の洞不整脈が多く、生理的なもので処置は不要
洞性頻脈
図3の心電図を見ましょう。忙しく波形が出現していますが、規則正しい繰り返しです。P波は陽性で同じ形で一定間隔で出ています。洞性P波でよいと思います。
図3洞性頻脈の心電図
それではディバイダーで計測しましょう。PP間隔は12コマで、正常下限の15コマよりも短くなっています。0.04×12=0.48秒間隔でP波が出現しています。
心房心拍数は1500÷12(または60÷0.48)=125回/分で、100回/分以上ですから頻脈です。PQ間隔は4コマ(0.16秒)で一定、QRS波は2コマで正常です。PQ間隔は一定なのでPP間隔=RR間隔であり、心房心拍数=心拍数となり、この心電図の心拍数は125回/分です。正常条件に照らすと、PP間隔が短縮している以外は正常です。
このように、洞性P波の出現周期が短くなって頻脈となっている心電図を洞性頻脈(sinus tachycardia:サイナス タキカルディア)といいます。
洞結節の信号発生が頻回になるために起こります。運動や緊張、興奮などの生理的な心身のストレスから、発熱や痛み、脱水、感染、薬剤、甲状腺機能亢進などの病的な心身のストレスまでさまざまな外的な要因によって、交感神経活動の亢進や副交感神経(迷走神経)活動の低下、副腎からのホルモンであるアドレナリンの分泌増加などの反応が生じ、これらの作用が洞結節の脱分極周期を短縮するため頻脈となります。
不安や緊張で、汗やほてり、そして脈が速くなるのは皆さんも体験として理解できると思いますが、身体のなかではストレスに対して自律神経やホルモンに変化が起こって、洞結節を刺激して頻脈になっているのです。
アクティブ心臓病院の看護部では外からの要求で業務が増えて、洞結節総師長にプレッシャーがかかって、命令を出す頻度が増えているのが洞性頻脈です。心房管理室や、接合部コンビ、心室病棟は命令に従って正常に業務を行っていますが、業務のサイクルが速くなっています。
一時的なストレスに対する洞性頻脈はもちろん問題ありません。
病的な状態(感染、発熱、甲状腺機能亢進など)に対する反応の結果である洞性頻脈でも、洞結節を抑制する薬剤を使用せず、洞性頻脈の原因に対する対策を優先します。感染であればその治療、薬剤の副作用であれば薬剤の減量、痛みが原因であれば痛みに対処します。
例外として、洞性頻脈の持続が循環機能に悪影響を及ぼしている場合や、生理的頻脈でも動悸が強い場合は、内服や点滴の薬剤を用いて洞結節の信号発生を抑える場合もあります。
たとえば、甲状腺機能亢進による洞性頻脈や、更年期障害で起こる洞性頻脈にβ遮断薬という薬を用いて治療する場合などがこれにあたります。しかし繰り返しますが、洞性頻脈は原因に対する対処が基本です。
まとめ
- 洞性P波のPP間隔が15コマ(0.6秒)以下に短縮、PQ間隔、QRS波は正常なのが洞性頻脈
- 基本的には背景にある原因に対処する
洞性徐脈
図4の心電図をざっとチェックしてみましょう。波形の数が少ないですね。P波は陽性で規則正しく、洞性のものですね。
PP間隔はどうですか。36コマで、30コマよりも長くなっています。これは異常です。
心房心拍数は、1500÷36=42回/分、50回/分未満ですから徐脈ですね。PQ間隔は5コマ以内、QRS波も3コマ以内ですね。PQ間隔が一定なので心房心拍数=心拍数で、42回/分の徐脈です。
この徐脈は、PP間隔の延長によるもので、規則正しく洞性P波の出現頻度が減っていることから、洞結節の信号発生頻度の減少が本質です。これを洞性徐脈(sinus bradycardia:サイナス ブラディカルディア)といいます。
洞性徐脈は、生理的なものと、病的なものの2つに分けましょう。
病的なものは次の項で説明しますが、この両者の境界は症状の有無です。徐脈に起因する症状があれば病的、なければ生理的と考えてよいでしょう。
生理的な洞性徐脈は、迷走神経が亢進している状態、アスリート心、個人差としての洞性徐脈があります。運動選手、とくに長距離選手は洞性徐脈を呈することも多く、また、とくに運動をしていなくても洞性徐脈の人もいます。もちろん徐脈による症状はありませんから、とくに処置は必要ありません。
迷走神経は副交感神経であり、交感神経と逆の働きをし、この両者がバランスをとりながら、身体の状態、とくに循環の調整をしています。迷走神経が優位になると、洞結節機能は抑制され、洞周期が延長して洞性徐脈となります。夜間睡眠中、リラックスしているときは迷走神経が優位です。もちろん生理的な状態で、なんの症状もないはずですから処置は不要です。
緊張や痛みといった心身のストレスに対しては、通常は交感神経活動が亢進して、脈が速くなりますが、同時に迷走神経も活発になります。このとき、迷走神経の活動のほうが強くなりすぎてしまうと、過度の洞性徐脈となり、また血圧が低下して、顔面蒼白、ときに意識消失してしまう場合があります。これを迷走神経反射または神経調節性失神(neurally mediatedsyncope:NMS)といいます。
注射のときなどに、気分が悪くなってしまうのはこういう状態ですね。ストレスに対する反応なので、生理的といえば生理的ですが、状況によっては薬剤(アトロピンなど)投与などの処置が必要です。
アクティブ心臓病院では、洞結節総師長の命令周期が長くなって、心室病棟の業務間隔が長くなっています。
まとめ
- 洞性P波のPP間隔が30コマ(1.2秒)以上に延長、PQ間隔、QRS波は正常なのが洞性徐脈
- 生理的で、無症状であれば処置は不要
洞不全症候群
“症候群”とは、ある病的異常に起因して発生する一連の症状をきたす疾患です。洞不全症候群〔sick sinus syndrome(SSS):シック サイナス シンドローム〕は、洞機能の低下による徐脈、一過性の心停止による症状を呈します。
では、徐脈、一過性の心停止による症状とはどんなものでしょうか。
1分間に心臓が送り出す血液量を心拍出量(cardiac output:CO)といい、心機能を表す指標ですね。心拍出量は、心臓が1回の収縮で送り出す血液量、1回拍出量(stroke volume:SV)と1分間に心臓が収縮する回数、心拍数(heart rate:HR)の積です。つまり、心拍出量=1回拍出量×心拍数(CO=SV×HR)ということです。
徐脈とは心拍数の低下ですから、もし1回拍出量が一定ならば、心拍数が半分になると心拍出量も半分になります(図5)。
生理的な状態で心拍出量が低下している場合、たとえば睡眠中であまり身体が血液を必要としない場合は、心拍数は合理的に低下しています。また、長距離選手は筋肉が酸素を効率的に使うようにトレーニングされていて、心拍出量は安静時は少なくてすむので、徐脈になっています。
しかし、身体の要求があるにもかかわらず、非生理的に徐脈をきたした場合は、必要な心拍出量が供給されないために、徐脈による症状が出現します。
心拍出量が減少している病態を循環不全または心不全といいます。循環血液が足りないため、労作時に酸素不足となり息切れを自覚したり、安静時でも倦怠感や疲れやすさを感じたりします。
さらに悪化すると、肺にうっ血を生じて安静時にも呼吸困難が出ますし(左心不全)、身体や内臓に浮腫を生じて(右心不全)、食欲低下をきたす場合もあります。これが徐脈による循環不全または心不全の症状です。
一時的な心停止の場合は、最も酸素不足に弱い脳の症状が出現します。フラッとするめまい、さらには一過性の意識消失(失神)が出現します。
まとめ
- 一過性心停止による症状:脳虚血症状(めまい、失神)
- 持続性徐脈による症状:循環不全、心不全(息切れ、浮腫)
このような徐脈症状が洞機能不全に起因する場合で、その原因が特定できない場合を洞不全症候群といいます。
洞機能が低下する原因は、
・虚血性心疾患や心筋炎、心サルコイドーシスなど心臓疾患
・甲状腺機能低下、電解質異常などの心臓以外の疾患
・β遮断薬、ジギタリスなどの薬剤
であり、このように原因があるものは、洞不全症候群とはいわず、続発性(二次性)または症候性洞機能不全といいます。
洞不全症候群は高齢者に多いので、洞結節の変性、細胞自体の機能低下が原因と考えられています。洞不全症候群も続発性洞機能低下も結局、現象としては洞結節からの信号が出にくい、出ないというのが本質です。
では、洞機能不全とはどんな心電図になるのでしょう。
持続性洞性徐脈
図6の心電図で説明しましょう。
P波は、上向きで洞性P波のようですが、PP間隔が著しく延長していますね。規則正しい間隔ですが、PP間隔は約40コマで、心拍数にすると1500÷40=38回/分と随分ゆっくりした心臓です。PQ間隔、QRS波は問題ないので、洞性徐脈ですが、この患者さんはめまい、倦怠感を訴えていて、夜間は20台の心拍数であり、1日中洞性徐脈が続くので持続性洞性徐脈といいます。持続性洞性徐脈による症状がありますので洞不全症候群と診断されます。
洞停止
皆さんも大分慣れたでしょうから、PP間隔だけ見てみましょう。
図7の心電図では、3拍目まではPP間隔が37コマで延長していますが、規則正しく洞性徐脈ですね。しかし、4拍目は108コマ(0.04×108=4.3秒)の間にP波は見られず、PP間隔は著明に延長していますね。P波が出ないということは洞結節から信号が出ていないことを意味し、このように3秒以上P波が見られない場合を洞停止(sinus arrest:サイナス アレスト)といいます。
洞房ブロック
図8の心電図をぱっと見て、4拍目までのリズムと5~6拍目のリズムが違うことがわかりますね。
PP間隔は4拍目まで27コマ(0.04×27≒1秒)ごとに一定に出現していますが、その後54コマ(0.04×54≒2秒)に延長しています。心拍数でいうと60回/分から30回/分に減少しています。
何か気付きましたか。そうですねPP間隔がちょうど2倍になっています。当然、心拍数は半分になっています。
これは、洞結節からは27コマ(1秒)間隔で信号が発信されているのに、心電図上の4拍目と5拍目の間の洞結節からの信号が心房に伝わらなかったのです。次の洞結節の信号は心房に伝わり5拍目のP波になっています。
ですから4~5の心拍間のPP間隔は、洞周期27コマのちょうど2倍になっているのです。これは洞結節自体ではなく、洞結節の出口で信号がブロックされて起こり、洞結節~心房間のブロックで洞房ブロック(SA block:エスエーブロック)といいます。
もしも、2回連続で洞結節からの信号が洞房ブロックを起こせば、PP間隔は基本洞周期の3倍、3連続で洞房ブロックが起こればその部分のPPは基本洞周期の4倍になります。
つまり、基本洞周期の整数倍(通常は2倍が多い)にPP間隔が延長していれば、洞房ブロックといえます。洞房ブロックは、洞結節自体は正常に機能していますが、心房への伝導が悪いために心房が興奮しないわけです。しかし、現象としてはP波が出ないので洞不全症候群として扱います。洞結節には少し気の毒ですね。
徐脈頻脈症候群
図9の心電図を見ましょう。
5拍目まではP波がはっきりせず、基線が揺れています。QRS波は3コマ以内で同じ形ですが、RR間隔は一定ではありません。これは後で勉強しますが、心房細動という不整脈で、心房が痙攣していて不規則に興奮して無秩序に信号を出している状態です。心室にも不規則な間隔で伝導しますので、心室のリズムも不規則になります。
このとき洞結節はどうなっているかというと、心房からの土砂降りのような電気信号が連続して洞結節に入力し、連続してリセット(心臓とはなんだろう(3))されています。
少し難しい話ですが、洞結節に連続して信号が入ると、洞結節細胞の膜電位はどんどん深く(マイナスに)なり、信号の入力が終了しても膜電位のプラス側への回復は遅延します。この現象をオーバードライブ・サプレッション(overdrive suppression)といいます。正常洞結節でも、1~2秒程度のオーバードライブ・サプレッションは、見られますが、洞結節に機能不全があると、この現象は著明になります。
心電図に戻ってみますと、5拍目以降、心電図は基線となって、心臓のどこも興奮していない状態が90コマ(0.04×90=3.6秒)続いています。この部分は洞停止といえますね。
さて3.6秒後にP波が出ないまま、同じ形の狭いQRS波が見られます。これは、心房からの興奮が心室に来ないため、房室接合部で自動能が働き、信号が発生して、心室を興奮させています。
なぜ房室接合部といえるかといえば、同じ形で狭いQRS波というのは、ヒス束~脚~プルキンエ線維は通常どおりの順序で伝導・興奮していることを表していますから、その上位の房室接合部で出現した信号と判断できます。
このように、長い洞停止が続けば、下位の自動能が働き補充調律が出現することがよくあります。心房が頻拍となって、洞結節が連続してリセットされた後に、頻拍が停止しオーバードライブ・サプレッションで洞停止をきたすものを徐脈頻脈症候群(brady tachy syndrome:ブラディタキシンドローム)といいます。
洞不全症候群として、4種類の分類を示しましたが、本質は洞機能の低下であり、これらの所見が混在していることもよくあります。
混乱してきたでしょうから、アクティブ心臓病院看護部で説明しましょう。
洞不全症候群は、簡単にいえば洞結節総師長の不調です。心室病棟は、需要も多いために命令がほしいにもかかわらず、洞結節総師長からの命令が出ないために、入退院という循環機能の低下が起こっています。症状が出ているわけですから生理的とはいえず、病的な状況です。洞結節総師長の出張とか研修の結果、命令が出せないものは洞不全症候群とはいわずに続発性あるいは症候性の洞機能不全といいます。洞結節総師長は在室しているのになぜか命令の出る間隔が長い、原因は総師長自身の不調です。総師長に原因があってもなくても、命令が出ないわけですから心房管理室のスタッフも仕事のしようがありません。命令さえあれば、管理室、房室結節副総師長、ヒス束病棟師長は自分たちの仕事をして、命令を病棟に伝達して、心室は脚主任、プルキンエリーダーをとおして心室筋スタッフが収縮業務を行います。さらに、あまりにも命令が来ないと、副総師長、病棟師長の房室接合部コンビが自動能を発揮して、補充命令を出すこともよくあります。
分類としては
・持続性洞性徐脈:洞結節総師長は規則正しく命令を出しているが、その間隔が長すぎる。必要な業務をこなせないので循環不全をきたす。
・洞停止:規則正しく命令を出していたのに、突然長時間沈黙してしまう。
・洞房ブロック:総師長は規則正しく命令を出しているが、ときどき心房管理室に伝わらず、結果的に管理室以下は仕事ができない。特徴は、延長した心房管理室の仕事の周期が、洞結節総師長の命令周期の整数倍になっている。この場合、総師長自身は悪くないが、心房管理室との連携が悪く総師長の責任として扱う。
・徐脈頻脈症候群:心房管理室が頻拍性不整脈で、頻回に命令を出し、洞結節総師長はカヤの外で連続してリセットされてすっかりやる気を失った状態から、心房管理室の頻脈が治ると、オーバードライブ・サプレッションという燃え尽き症候群のような状態で長時間命令が出せなくなる。
まとめ
- 洞不全症候群は、洞結節自体に原因があって信号が病的に出にくくなっているもの
- 心電図上は、洞性P波の出現間隔が長くなっている
- 持続性洞性徐脈:PP間隔が一定で心拍数50回/分未満の状態が続くもの
- 洞停止:洞性P波が3秒以上出現しないもの
- 洞房ブロック:PP間隔が基本洞周期の整数倍になっているもの
- 徐脈頻脈症候群:頻拍による洞結節のオーバードライブ・サプレッションによって頻拍停止後に洞停止をきたすもの
上室性期外収縮
まず、図10の心電図を眺めてみましょう。
3拍目だけがリズムが狂っていますね。そこに気がつけばもうわかったようなものです。では、型どおりP波を見ます。とりあえず洞性P波と考えましょう。
PP間隔はどうでしょう。1~2拍目、4拍目以降のPP間隔は規則正しく一定で、23コマですね。23コマは0.04×23=0.92秒ですから、洞周期は0.92秒、心拍数にして見ると1500÷23=65回/分です。PQ間隔、QRS波も正常ですから、3拍目以外は正常心電図といえます。
洞周期にディバイダーを合わせてみましょう。1~2拍目、4拍目以降の洞周期はいま合わせたディバイダーの間隔で一定ですが、3拍目のP波は洞周期よりも早いタイミングで出ていますね。さらに形も他のP波と違っています。これは、心房内の洞結節以外の場所から信号が発信されたものです。
心房、心室とも何かの拍子に自発的に脱分極してしまうことがあります。心房で、自発的な脱分極が起こると洞結節からの信号とは違うルートで心房に波及しますから、洞性とは違う形のP波になります、これを洞性P波と区別してP′波と記述することもあります。
本来の洞周期よりも早いタイミングで出現するので、周期から外れるという意味で“期外”収縮といい、心房内で発生する期外収縮を上室性期外収縮(premature atrial contraction:PAC)といいます。
“上室性”というのは、心房に房室接合部も含めているためで、supraventricular premature contraction:SVPCということもありますが、本質的には同じことです。
要するに、洞結節からの信号を待たずに心房あるいは上室(心房+房室接合部)で自発脱分極が起こって、通常とは別のルートで心房興奮が起こるため、早いタイミングで形の違うP波(P′波)が出現するということです。期外収縮による心房興奮は、心室に伝導すれば通常どおりヒス束~脚~プルキンエ線維を伝導して、心室を興奮させますからQRS波の形や幅は変わりません。
この期外発生した心房の脱分極は、発生場所から周辺に興奮が波及してP′波となり、心室に伝導するとともに、洞結節にも侵入します。洞結節は興奮が入った時点でリセットされて、その時点から洞周期を再開します。P′波の開始は心房のある場所で脱分極した時点、そこからいくらかの時間で洞結節に達してリセットして、洞周期が再開し、次の洞性P波が出ます。
つまり、P′波の開始から次の洞性P波の開始までの時間とは、期外収縮の興奮が洞結節まで達する時間+洞周期になるわけです(図11)。
これをリターンサイクルといいます。期外収縮による心房興奮が洞結節に到達して、リセットされ洞周期の後、心房に戻ってくるためリターンサイクルとよびます。アクティブ心臓病院看護部で例えてみましょう。
洞結節総師長は、毎朝24時間ごとに朝礼をします。これが洞周期です。
この毎朝の命令に従って、心房管理室が仕事(洞性P波)、房室結節副総師長が時間差をつくりヒス束病棟師長に伝達(PQ間隔)、脚主任・プルキンエリーダーが心室筋スタッフに素早く伝達して業務(QRS波)というサイクルを繰り返しています。
しかし、心房管理室が独自に命令を出すと、洞周期を待たずに夕方4時という早いタイミングで管理室が動き、またいつもと仕事の流れが違います(P′波)。しかし房室結節副総師長はいつもどおりの流れで伝達し、ヒス束~脚~プルキンエ線維と命令どおりいつもの仕事をするので、タイミングが早いだけで業務の流れは同じです(正常QRS波)。
心房管理部の期外仕事は、洞結節総師長にも伝わり、総師長は「命令が出たならいいわね」と、自分の命令周期をリセットしそれから24時間後に命令を出します(洞性P波)。
心房管理室が午後4時に命令発生、4時10分に洞結節総師長に伝わってリセットされるとすると、次の命令は翌日の午後4時10分になりますね。この24時間10分の間隔(P′波開始から次の洞性P波の開始まで)をリターンサイクルといいます。
では、図12の心電図でリターンサイクルを確認してみましょう。
この場合洞周期は23コマで、ディバイダーを洞周期の間隔に合わせてみます。次にそのままP′波の始まりに合わせてみましょう。次の洞性P波(4拍目のP波)の出現はその間隔より少し長いですね。26コマありますね。
では、その間隔でディバイダーの右端を4拍目のP波の開始に合わせてください。その左端のポイントが、期外収縮による心房興奮が洞結節に達してリセットがかかった時点です。3コマ(0.04×3=0.12秒)で、期外収縮の開始から0.12秒後に洞結節に達してリセットしたことがわかります。このテクニックは、期外収縮の解読に大きな武器になるのでよく理解しておきましょう。
まとめ
- 上室性期外収縮:心房(+房室接合部)で、自発的脱分極により洞周期より早期に興奮が起こるもの
- 心電図上は、早期に洞性P波とは形の違う心房波P′波の出現が本質
- 心室が通常どおりの伝導を行えば、QRS波は同じ形になる。
- P′波から次の洞性P波まではリターンサイクル(洞周期よりわずかに長い間隔)
ここでポイント!
洞周期よりも早いタイミングで同じ形のQRS波が見られれば、必ずPACといえます。
なぜなら、QRS波が同じ形ということは心室にはなんの落ち度もなく、早いタイミングで出現した原因はヒス束より上位つまり上室に原因があります。上室が原因の早期収縮、つまりは上室性期外収縮です。
上室性期外収縮の出現タイミングによる心電図変化
上室性期外収縮の出現タイミングについて勉強しましょう。
まず、不応期を思い出してください。不応期とは、活動開始から刺激に反応できない時間帯です。それはそうですよね、仕事をしているのに命令されても困ります。
不応期は心房筋がいちばん短くなっていて、早いタイミングの刺激に反応可能です(図13)。
心房筋、心室筋は不応期の終わり頃は受攻期といって、そこに刺激が入ると“細動”という筋肉の痙攣をきたします。房室結節には受攻期はありませんが、不応期の終了前後は、伝導が遅くなり、心室に伝導するのに時間がかかります。
では、脚はどうでしょうか。左脚よりも右脚のほうが不応期は長くなっています。つまり、左脚は通過できて、右脚が通過できない時間帯があります。
・心房筋は不応期が短い。不応期終了直後に受攻期がある。
・房室結節は不応期が長い。不応期終了直後は伝導速度が遅くなる。
・左脚に比べて右脚の不応期は長い。
以上の3点を考えながら上室性期外収縮の出現タイミングを考えてみましょう。
まず洞性心房興奮の直後に、心房のどこかが脱分極したらどうなるでしょう。
早すぎて心房の不応期にあたれば、心房に興奮が波及できず、期外収縮になりません。受攻期にあたれば、もしかして心房細動を起こすかもしれません。心房の不応期を過ぎたタイミングで発生すれば、心房興奮が起こりますし、P′波として現れますが、ただし前の心拍のQRS波、T波に隠れてしまう場合があります。
もっと困るのは、早いタイミングの上室性期外収縮は、房室結節の不応期にあたって、心室に伝導しません。つまり、P′波だけがあって追従するはずのQRS波がないという事態になり、しかもそのP′波ですら、前の心拍のQRS波やT波に隠れてしまいはっきりわからないという由々しき問題が起こります。
図14の心電図を見てみましょう。
1~2拍目のPP間隔が洞周期ですが、次のQRS波は出現が遅いですね。洞不整脈にしては、PP間隔が長すぎるし、洞機能不全でしょうか。こういうときこそ目を皿にしてP波を探してください。
2拍目のT波の終末部分の形がおかしいですね。
実はここにP′波が重なっています。もちろんT波は心室での活動で、P′波は心房の期外収縮ですから、違う地域での活動ですが、心電図は心房と心室の活動を同じ記録紙に表現しますからタイミングによってはこのように重なってしまい、わかりづらくなります。
これを“伝導されない上室性期外収縮”または“非伝導性上室性期外収縮”、英語ではPAC with block、blocked PACといいます。興奮が伝導されないことを“ブロック”といいます。PP間隔が洞周期よりも長い場合は、洞機能不全ばかりでなく、この非伝導性上室性期外収縮も考えてください。
もう少し遅いタイミングで上室性期外収縮が起これば、なんとか房室結節の不応期を脱して心室に到達しますが、房室結節の伝導速度が遅くなって、心室に伝わるまでに時間がかかり、P′Q間隔が延長します。
図15の心電図を見てみましょう
2拍目、4拍目、6拍目、8拍目のP波は上室性期外収縮であり、P′波です。2拍目、6拍目のP′波に追従するQRS波との間隔すなわちP′Q間隔が延長していますね。これは不応期直後の興奮の侵入のために房室結節の伝導速度が遅くなって心室到達に時間がかかっているためです。
さらに、房室結節を伝導して心室に入っても、右脚が不応期で、左脚が不応期から脱しているタイミングでは、左脚だけを通過して右脚は通れないということがあります。また、タイミングによっては4拍目、8拍目のP′波のように心室に伝導しないPACもあります。
図16の心電図を見てみましょう。
1拍目のP波が洞性P波ですが、そのP波に引き続くQRS波~T波の終末にP′波がみられます。長いP′Q間隔の後に出現するQRS波は幅が広いですね。
これは上室性期外収縮の興奮が、なんとか心室に伝わったものの、左脚は通れる、右脚は不応期というタイミングにあたり、右脚ブロック型の幅の広いQRS波になったものです。
このように、興奮の入るタイミングによって片方の脚が通れずに脚ブロック型の心室伝導を示す場合を変行伝導といいます。通常は右脚のほうが左脚よりも不応期が長く右脚ブロック型になる場合が多いのですが、心疾患などで左脚のほうが不応期が長い場合は左脚ブロック型になることもあります。
まとめ
- 上室性期外収縮はその出現タイミングによって、早すぎると房室結節の不応期にあたり、非伝導性の上室性期外収縮となる
- PP間隔が洞周期よりも長くなっている場合は、洞機能不全以外に、非伝導性上室性期外収縮も考え、QRS波、T波をよく見てP′波が隠れていないかどうかをよく観察する
- 上室性期外収縮が心室に伝導した場合、房室伝導の遅延(P′Q間隔の延長)、変行伝導(脚ブロック型QRS波)が見られる場合もある
上室性期外収縮の出現の仕方による分類
図17の心電図を見てみましょう。
1~2拍、洞性P波で、PP間隔は20コマ(0.04×20=0.8秒)です。つまり洞周期0.8秒ですね。PQ間隔、QRS幅も問題ありません。その後、3拍目のP波から形の違うP波が洞周期より早いタイミングで6個連続して見られます。
正体は上室性期外収縮の連続です。
心室には最初のP′波は伝導、2拍目のP′波は非伝導(ブロックともいいます)、3拍目は延長して伝導していてQRS波の出現前に心電図では次のP′波が見られます。
このQRS波直前の4拍目のP′波は非伝導、5拍目のP′波も非伝導、6拍目のP′波は伝導していますね。つまり、1、3、6拍目のP′波が心室に伝導していて、その他は房室結節の不応期で伝導されていません。
このように、上室性期外収縮が連続して出現する場合を“連発”といいます。2連続なら2連発、3連続は3連発です。3連発以上の連続出現をショートランということもあります。この場合は6連発で、上室性期外収縮のショートランともいいます。
図18の心電図はいかがでしょうか。
上向きのP波が洞性P波ですね。洞性P波が連続しているところがないので、洞周期はわかりませんが、2拍目、4拍目、6拍目のP波は形が違うので、上室性期外収縮ですね。
このように洞調律と上室性期外収縮が交互に見られ、繰り返す場合を“2段脈”といいます。洞調律が2拍続いた後、上室性期外収縮、その後同様に洞調律3連続後に上室性期外収縮というサイクルを繰り返す場合は3段脈です。では、洞調律3連続後に上室性期外収縮、というセットを繰り返す場合は、そう4段脈ですね。
まとめ
- 期外収縮が連続して出現する場合を連発といい、3連発以上をショートランということがある
- 洞調律と期外収縮が交互に出現する場合を2段脈、洞調律2連続の後に期外収縮というサイクルを繰り返す場合を3段脈、洞調律3連続後、4拍目に期外収縮が入るパターンを繰り返すものを4段脈という
では、上室性期外収縮にはどう対応したらよいでしょう。
まず理解していただきたいのは、健康な状態でも上室性期外収縮は見られるということです。健康体でも24時間心電図を記録すれば、いくらかの上室性期外収縮はありますし、連発や段脈が見られることもあります。
基本的には上室性期外収縮自体は治療の対象になりませんが、電解質異常や心疾患などの上室性期外収縮の背景があればその因子を治療します。ただし、症状が強い場合は薬剤を用いて上室性期外収縮を抑制する場合もあります。
次に、上室性の不整脈の究極は心房筋の痙攣(心房細動)であるということです。
心房は電位が出なくなる“停止”という状態には通常なりませんのが、心房細動はよく見られる不整脈です(詳細は後述します)。心房細動になると、血栓予防を含め対応が必要です。
心房細動の発症メカニズムはまだはっきりしていませんが、上室性期外収縮がその引き金であることは間違いありません。連発や頻度の増加があって、心房細動になるおそれがある場合は、背景疾患に対する治療とともに、抗不整脈薬を用いて上室性期外収縮を抑え込もうとすることもあります。
いずれにしても、いままでなかった上室性期外収縮が出現した、あるいは増加した場合や、連発を繰り返す場合は、心房細動に移行する前触れかもしれませんので報告が必要です(図19)。
[次回]
- 不整脈の読み方|不整脈の心電図(1)
- P波がみつからない心電図|不整脈の心電図(4)
- PQ間隔が長い、P波の後にQRS波がない心電図|不整脈の心電図(5)
- PQ間隔が短い心電図|不整脈の心電図(6)
- P波とQRS波が別々のリズムの心電図|不整脈の心電図(7)
- 幅広QRS波の心電図|不整脈の心電図(8)
- 上室起源の幅広QRS波|不整脈の心電図(9)
- 心室性期外収縮|心室起源の幅広QRS波<1>|不整脈の心電図(10)
- 心室頻拍|心室起源の幅広QRS波<2>|不整脈の心電図(11)
- 特殊な幅広QRS波の頻拍|不整脈の心電図(12)
- 心室細動~心室頻拍よりもっと危ない不整脈|不整脈の心電図(13)
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版