異所性P波から読み解く心電図|不整脈の心電図(3)
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、異所性P波から読み解く心電図について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
[前回の内容]
〈目次〉
異所性調律
図1の心電図はいかがですか。
全体に規則正しいようですね。ではP波を探してください。
Ⅰ誘導は陽性P波ですが、Ⅱ誘導、aVFでは下向きのP波ですね。Ⅱ誘導は右上から左下、aVFは下向きのベクトルをプラスに描出しますので、この心房興奮はそれとは逆、つまり左下から右上、下から上に興奮が向かっていることになりますね。
洞結節は心房の右上にあって、そこから出た信号は左下方向に伝導しますので、この心房興奮は洞結節からの信号ではないといえます。
PP間隔は約20コマ(0.04×20=0.8秒)、心拍数に直すと1500÷20=75回/分で正常です。PQ間隔、QRS波とも問題なくP波以外は正常です。
このように洞結節以外の部位で調律される場合を異所性調律(ectopic rhythm)といいます。
洞結節以外の調律をすべてまとめて“異所性”とよびますが、多いものは、冠静脈洞調律(coronary sinus rhythm)です。これは右心房の内側下方にある心臓の静脈が右心房に流れ込む冠静脈洞付近の調律です(図2)。
心房は上から下、右から左に興奮が伝導するので、Ⅰ誘導で陽性、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVFでは陰性のP波となります(図3)。
発生学的に、もともとは洞結節になる可能性のあった心筋細胞が冠静脈洞付近にあるといわれていて、ときに洞結節の自動能を超えてペースメーカーの役割をするといわれています。ほかにも左心房調律や接合部調律などがあります。
看護部に例えると、洞結節総師長よりもリーダーシップの強い心房管理室のスタッフが、毎朝の命令を出しています。接合部コンビ、心室病棟は、リズムよく命令さえもらえば通常どおり働きます。
洞結節以外の部位からの調律でも、身体の生理的な要求に反応して心拍数が増減するならば、とくに処置は不要ですし、何かの拍子に洞調律に戻るかもしれません。
練習問題
異常なP波(P′波)はどれでしょうか。↓を記入してみてください
■解答■
心房頻拍
さて、図4の心電図はどうでしょう。
図4心房頻拍(AT)の心電図
異所性のP波がすごい勢いで出現していますね。洞機能のところで勉強したように、洞結節がいくら頑張っても200回/分以上の頻度で信号を出すのは不可能です。
つまり、これは心房の洞結節以外の部位から高頻度で信号が発生している状態です。頻拍とは心拍数が100回/分を超えた場合であり、洞調律以外の心房の調律による頻拍ですから心房頻拍(atrial tachycardia:AT)といいます。
心房が房室伝導の通過可能な限界を超えて、頻拍になれば、房室結節は心室に興奮を伝導しません。上室性期外収縮の項で勉強したように、あまりに早いタイミングで房室結節に入ってくる興奮は心室に伝導されないのです。
この場合は、PP間隔は約8コマ(0.04×8=0.32秒)、心房心拍数は1500÷8=188回/分です。このため房室間は興奮が遅れて通過したり、最後のほうの心房興奮はブロックされたりしています。
これは、房室間の伝導が不良なわけではなく、心房の興奮があまりにも高頻度なために房室間の伝導がブロックされているもので、機能性のブロックといってもよいでしょう。
看護部に例えるとどうなっているのでしょう。
洞結節総師長は沈黙しています。心房管理室のあるスタッフが暴走して、すごい勢いで命令を出し続けています。心房スタッフは不応期が短いため、なんとか仕事をしてP波を出し続けていますが、もともと高頻度の命令が苦手な房室結節副総師長は、ときに時間をかけ、ときに命令を無視して心室筋スタッフを守っています。副総師長を通過して下りてきた命令に対してはヒス束病棟師長以下病棟スタッフは通常の仕事をしますから、QRS波の形は正常です。
対応はどうしましょう。
どんな原因であれ、150回/分以上の頻脈は報告しましょう。
心房頻拍は、薬剤や除細動で治療する場合もありますし、房室結節の伝導を抑制する薬剤で心拍をコントロールすることもあります。
まとめ
- 洞調律以外の調律を異所性調律という
- 非生理的な高頻度で異所性興奮が出現し、頻拍となる場合を心房頻拍という
[次回]
- 不整脈の読み方|不整脈の心電図(1)
- 洞性P波から読み解く不整脈|不整脈の心電図(2)
- PQ間隔が長い、P波の後にQRS波がない心電図|不整脈の心電図(5)
- PQ間隔が短い心電図|不整脈の心電図(6)
- P波とQRS波が別々のリズムの心電図|不整脈の心電図(7)
- 幅広QRS波の心電図|不整脈の心電図(8)
- 上室起源の幅広QRS波|不整脈の心電図(9)
- 心室性期外収縮|心室起源の幅広QRS波<1>|不整脈の心電図(10)
- 心室頻拍|心室起源の幅広QRS波<2>|不整脈の心電図(11)
- 特殊な幅広QRS波の頻拍|不整脈の心電図(12)
- 心室細動~心室頻拍よりもっと危ない不整脈|不整脈の心電図(13)
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版