P波がみつからない心電図|不整脈の心電図(4)
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、P波がみつからない心電図について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
[前回の内容]
〈目次〉
はじめに
不整脈の解読手順は、全体を見渡した後、P波を探しますね。
このP波が見当たらない場合はどうしましょう。あわてずに、以下の3つのケースを考えます。
①小さくて見えない
誘導を変える、感度を上げて波形を大きくする、標準12誘導心電図で確認する。これでP波が確認できれば不整脈は解読できます。とくに標準12誘導心電図でV1、V2誘導は心房の近くの誘導なので、小さくて見えなかったP波がはっきりする場合が多いのでお勧めです。
②QRS波、T波のなかに埋もれていて見えない
この場合、P波が隠れている場所はQRS波~T波のなかしかありません。なぜなら、心電図には心房由来の波か、心室由来の波(QRS波~T波)しかないからです。
③本当にない
心房の興奮様式が違う場合(心房細動、心房粗動)と完全に基線で心房が興奮していない場合があります。完全に基線の場合は洞結節からもその他の部位からも脱分極が起こらず、心房が興奮しない、つまりはP波が出ない場合で洞機能不全、洞不全症候群があります。
ただし、これは永久には続きません。補充調律が出たり洞性P波が出たりして、いつかは心房が興奮します。心房筋が障害されて心房筋の電位が心電図に現れないことがあり心房停止といいますがほとんど見られないので、ここでは触れません。
接合部調律
まず、図1の心電図の全体を見渡しましょう。
規則正しく幅の狭いQRS波ですね。たまには、先に心拍数を計測してみましょう。ディバイダーでRR間隔を測ります。25コマですね。心室の興奮周期は0.04×25=1秒で、1秒の周期で規則正しく心室が興奮しています。心拍数は1500÷25(または60÷1)=60回/分です。
ではP波を。
ムムム、見当たりませんね。普通はQRS波の前にあるはずなのですが……。
でも、よく見てみると、QRS波の直後に下向きの小さい波がありますね。
これがP波なのです(埋もれてしまっているP波です)。
洞性P波と区別してP′波としましょう。これは接合部からの調律で、心房は普段とは逆に上から下に興奮するためⅡ誘導、Ⅲ誘導、aVFの上から下方向をプラスに描出する誘導では、マイナスの下向きのP波になります。
この心房興奮は洞結節をリセットするので、洞結節の自動能は発揮されません。
もしも接合部よりも洞結節の心拍のほうが速くなれば、立場は逆転して洞調律になります。いずれにしても、洞結節以外の調律ですから異所性調律に分類され、そのなかでも接合部でのリズムですから接合部調律です。
図2のように、心房到達までに房室結節を通過すれば、興奮の伝導は遅れて心室興奮の後に心房興奮が見られます。もっと心房からの自動能であれば、心室に興奮が入るほうが心房よりも遅くなって、P′波はQRS波の前にあります。
ただしその場合でも心房は下から上に興奮が伝導しますので、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVFは陰性P′波となりますね。
看護部に例えると、接合部コンビのリーダーシップ(自動能)が洞結節総師長を上まわっています。
接合部コンビの命令ですから、心房管理室はいつもと逆の流れで命令が伝達されていきます。心室病棟では命令は同じですから、いつもどおりの業務の流れです。洞結節総師長は心房管理室からリセットされていますから、命令は出しません。ヒス束病棟師長からの命令なら、房室結節副総師長を逆行して管理室に伝達されますから、心室病棟のほうが心房管理室よりも早く命令が届くため、病棟業務の後に管理室業務がきます。
房室結節副総師長からの命令であれば、心房管理室のほうに早く命令が届きますので、P′波はQRS波の前にきます。同時に命令が届けばP′波はQRS波と同時になります。対応は異所性調律と同じです。
まとめ
- 接合部調律では、陰性P波(P′波)がQRS波に埋没して、はっきりしないことがある
- 信号発生部位によっては、P′波がQRS波の前にも後にも見られる
心房細動
まず全体を見てみましょう。QRS波の出現間隔が不定ですね。
P波はあるでしょうか。はっきりしませんね。PP間隔も計測不能です。
では、基線は電位のない状態でフラットかというとそうでもなく、波打ってユラユラしていますね。QRS幅は3コマ以内で同じ形ですから正常です。
RR間隔をディバイダーで次々に合わせてみてください。各心拍に1つとして同じ間隔がありません。これが心房細動(atrial fibrillation:Af、エーエフ、エーフィブ)という不整脈です。
心房が痙攣して細かく震えている、まさに細動している状態です。活動している心房筋細胞からは電位が発生しますので、心房のあらゆる場所から無秩序に電気信号が発生します(図5)。
心房から休みなく電気信号が出るわけですから、基線が直線になることはなく、ユラユラと波のようになり、このユラユラ波のことをf波(fibrillation波)と称します。f波は心房細動の発症直後は揺れが大きく、経過が長いと波が小さくなる、V1誘導が心房に近いためはっきり見えるという特徴があります。
心房全体で1分間に600~800回の信号が出ています。洞結節にはこの心房の電位が休みなく入り続け、リセットを繰り返して沈黙しています。
また、600~800回の信号は、とりあえずすべて房室結節に入り心室に抜けようとしますが、房室結節は不応期が長いので、すべての信号を伝導せずに適当にブロックしながら心室に伝えます。ヒス束に伝導された信号は、両脚・プルキンエ線維を正常に伝導して心室を興奮させますからQRS波は幅が狭くいつも同じ形になります。
ただし、心房の信号は無秩序に発生して、さまざまなタイミングで心室に伝導されますので、RR間隔は不定です。RR間隔が1心拍として同じではないため、心房細動のことを絶対性不整脈ともいいます。RR間隔が不規則なので、心拍数も各心拍で変化しますが、数拍のRR間隔を平均して心拍数を算出するとよいでしょう。
たとえば、RR間隔が5拍で14、10、15、20、16コマならば平均15コマ、心拍数は1500÷15=100回/分ですね。
このように心房から高頻度に信号が発生した場合、心拍数は何によって決まるのでしょう。これは、房室結節の伝導能力で決まります。
房室結節が一度信号を伝導した後に、しばらく伝導できない時間を不応期といいますが、この不応期が短ければ、短時間に多くの信号を心室に伝導しますから、心拍数は上がり、逆に不応期が長ければ、伝導間隔が長くなって心拍数は下がります。
交感神経の亢進やアドレナリン、アドレナリン製剤(ドパミンなど)、アトロピン(迷走神経を抑える薬)は、房室結節の不応期を短縮し、心房細動の場合、心拍数を上昇させます。一方、迷走神経の亢進やある種の薬剤(ジギタリス、カルシウム拮抗薬、β遮断薬など)は、房室結節の不応期を延ばし、心拍数は低下します。
ではアクティブ心臓病院の看護部でイメージしてみましょう。
心房看護管理室のスタッフはコントロールを失い、各人が勝手に命令を出し、無秩序な指令が高頻度で飛び交っています。洞結節総師長は沈黙せざるをえません。
このすごい頻度の命令は、すべて房室結節副総師長に入りますが、もともと多すぎる命令は伝えない(不応期が長い)という性質をもつため、能力の範囲内で適当にブロックしながら、ヒス束病棟師長に伝達します。ヒス束病棟師長以下は、与えられた命令は忠実にこなし、病棟業務の流れは正常ですが、管理室の命令周期が無秩序なため、病棟業務のサイクルも一定ではありません。
この病棟業務の間隔は何で決まるかといえば、房室結節副総師長の命令処理能力です。ハイな体調なら多くの命令を伝え、病棟心拍数は上昇し、ヤル気のないときはブロックすることが多くなり、心拍数も低下します。
しかし、あまり多くの命令を伝えずに適正な頻度の命令を伝えることは、心室筋スタッフにとってはよいことです。怠けすぎず、働きすぎず適度な間隔で仕事をするということです。
発作性心房細動と慢性心房細動
普段は洞調律で、ときどき心房細動をきたす場合を“発作性”心房細動といい、心房細動が固定してしまって洞調律に戻らない場合を“慢性”心房細動といいます。
心房細動は病気のない健康な人にも見られる不整脈ですが、心疾患(とくに心房に負荷がかかる疾患)や脱水、全身状態不良時、電解質異常、甲状腺機能亢進などがある場合は、起こりやすくなります。その対応は、心房細動によるデメリットを考えて行う必要があります。
①心房細動は頻脈になりやすい
心房からの電位が600~800回/分で、房室結節に入るわけですから、心拍数が上昇しやすくなります。
とくに発作性心房細動の場合は、正常な脈が突然乱れて頻脈となるので、動悸や胸部不快感といった症状が出て、苦しいために交感神経の亢進やアドレナリンの分泌が起こって、さらに頻拍が悪化するという悪循環をきたします。120~200回/分の心拍数も珍しくありません。
心拍数を低下させるためには、房室結節の不応期を延ばして房室間を通りにくくします。ジギタリス製剤やカルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)、β遮断薬は、この房室結節の伝導抑制作用があり、心房細動の心拍コントロールに投与します。
②ポンプ機能が低下する
ポンプ機能のうち、心房はその20%程度を担っているといわれています。補助ポンプとはいえ、その機能が失われるわけですから循環機能が弱まります。
正常の心臓であれば、予備能力があるのですぐに心不全になることは普通ありませんが、心室筋の収縮能力の低下や、弁膜症などによる循環機能低下がある場合は、頻脈+補助ポンプ機能低下によって心不全をきたすことがあります。
③心房内に血栓ができやすくなる
心房が痙攣していますから、血液がよどんで血栓ができやすい状態です。血栓を予防する薬剤を投与することがあります。
***
以上のデメリットを考えると、洞調律のほうがよいと思うでしょう。
発作性心房細動は自然に停止する場合も多いのですが、抗不整脈薬による治療を行うこともあります。より確実に洞調律に復帰させる方法は、電気的除細動です。
ただし48時間経過した心房細動に除細動を行う場合は、血栓ができている場合もあるので、ワルファリンカリウム(ワーファリン)という抗凝固薬で血栓を予防してから除細動することが勧められています。慢性の場合は、心拍コントロールと、血栓予防の治療を行います。
病棟、外来などで心房細動が見られた場合は、それが慢性か発作性かを病歴などで確認し、心拍コントロール、洞調律へ復帰させる治療、あるいはその両方を行うか、さらに抗血栓治療はどうするかという点を医師は判断します。
まとめ
- P波がなく、基線が揺れているようなf波がある
- RR間隔は不定で、頻脈傾向が強い(f波がはっきりしなくても、P波がなくRR間隔が不定ならば心房細動と判断してよい)
- 頻脈傾向、ポンプ機能の低下、血栓形成傾向のデメリットがある
- 発作性、慢性があり、発作性なら洞調律に復帰させる治療を選択することもある。慢性であれば心拍コントロールとともに血栓予防を行う
心房粗動
図6の心電図を見てください。
変な波形ですね。QRS波は幅も狭く同じ形ですが、RR間隔は一定なところも不定なところもあります。普段見るP波ではなさそうで、ノコギリの歯のように規則正しくギザギザしていて、直線の部分はありません。
これは心房粗動(atrial flutter:AF、フラッター)という不整脈です。このギザギザ波を大文字のFでF波(flutter波)といいます。
心房粗動を解説する前にリエントリーの説明をします。
10人くらいの人が輪になっている状況を想像してください。
1人がボールを持っていて、それを隣の人に渡します。もらった人は反対の隣の人に渡し、次の人も……。ボールは人の輪を一方向にグルグル回っていますね。このボールの回転が続くためには、条件が必要です。
まず、人の輪が必要です。それから、あまりに速い回転だと受け取る準備ができていないままボールが回ってきますから、そこでボールが止まってしまいます。どこかでゆっくり渡して、受け取る準備が整うのを待つ必要があります。
心筋でいうとボールは電気信号(脱分極)です。人の輪は旋回路で、興奮が伝導するルートです。
一度興奮すると不応期に入りますから、どこかでゆっくり興奮が伝導して、不応期が終わったころに興奮が戻ってくればこの興奮の輪は連続します。この興奮の旋回をリエントリーといいます(図7)。
心房粗動は、心房のなかを興奮が旋回する不整脈です。
具体的には右心房内で三尖弁の周囲でリエントリー回路をつくり、興奮が旋回します。この興奮の輪を導火線のようにして周囲の心房筋を興奮させるので、常に心房のどこかが興奮していて、フラットな部分はありません。ノコギリの刃の1つが心房の興奮1周を表しています。
右心房の外側を興奮は下に速い速度で伝導して、下大静脈と三尖弁の間を通過して中隔側からゆっくり上に向かって進みます。つまり下方向に速く、上方向に遅い伝導で旋回しています。
したがって、下方向のⅡ誘導、Ⅲ誘導、aVFでは心電図上、プラス側に立ち上がりが鋭く、逆にゆっくり進む下から上に向かう興奮は、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVFではマイナスつまり下向きに、しかもゆっくり進むので、緩やかな下り坂として見られます(図8)。V1では速い伝導が強調されて、まるでP波のように見えますので注意しましょう。
ディバイダーで図6の心電図のノコギリの刃の1つ、すなわち心房の1周の時間を計測してみましょう。
5コマですね。0.04秒×5=0.2秒ですね。0.2秒で興奮が右心房を1周するわけです。
人間の心臓では心房1周0.2秒は、どの人もほぼ同じです。これを1分間に換算すると、1500÷5(60÷0.2)=300回/分です。
つまり1分間に300周することになり、1周を心房収縮1回と考えれば、心房心拍数は300回になります。心房筋は心室筋よりも不応期が短く、短時間に出される命令にもよく反応するので、300回/分の心拍数もありえます。
心房内の興奮1周ごとに房室結節に1回信号が入ります。つまり、0.2秒に1回、1分間では300回の信号が入るわけです。これをすべて心室に伝導してしまうと心室の心拍数は300回/分になってしまいます。心室はたまったものではありませんね。
そもそもそんな頻度で伝導できるほど房室結節は働き者ではありません。
房室結節に入る信号の何回に1回を心室に伝えるかを伝導比といいます。
心房粗動の場合、1:1の伝導比なら心室興奮は0.2秒間隔、心拍数300回/分ですが、これは通常ありません。
2:1の伝導比では、1回はブロックされますから0.4秒に1回の心室興奮で、心拍数は150回/分、3:1で100回/分、4:1で75回/分になります。つまり、心拍数は伝導比によって300の約数になります。これを心房粗動の300の法則といいます。一般には2:1、4:1の伝導比が多く、心拍数は150、75回/分になります。
看護部に例えると、どうなっているのでしょう。
心房看護管理室のスタッフの一部が輪になって命令回路をつくります。この輪のなかで順番に命令を出して、管理室内の指揮をとります。洞結節総師長は、この命令にリセットされ続けて自分は命令を出せずに沈黙しています。0.2日に1回転の命令の輪ですから、かなりの頻度です。
この命令をすべて伝達する能力は、房室結節副総師長にはありません。2回に1回伝えるのがやっとです。それでもヒス束病棟師長以下心室病棟は0.4日に1回の命令ですから、大変ですね。心室の仕事の流れはいつもと同じなので、頻度以外は同じように業務が行われます。
***
心房粗動にも発作性と慢性があり、対応も心房細動とほぼ同じ扱いです。
しかし、心房細動に比較して粗動のまま慢性化することは多くありません。洞調律復帰には、抗不整脈薬、除細動を行いますが、心房細動よりも少ないエネルギーで治ります。カテーテルで伝導路を焼いて治療するアブレーションを行うこともあります。心房粗動の場合は、心房収縮はあるので血栓は心房細動ほどできやすくありません。
まとめ
- 心房内を興奮がリエントリーする不整脈で、1周0.2秒なので5コマごとに規則的にヤマをつくるF波が見られる。
- F波はⅡ誘導、Ⅲ誘導、aVFではっきりし、V1ではP波のように見えることもある
- 心房何周に1回心室に伝導するかを伝導比といい、伝導比が固定していれば心室のリズムは規則正しくなる
- 伝導比は房室結節の不応期によって決まり、2:1(心拍数150回/分)、4:1(心拍数75回/分)が多い
- 発作性、慢性心房粗動があり、発作性は、薬剤、除細動、アブレーションで洞調律に回復させる治療を行うこともある
発作性上室性頻拍
では、図9の心電図。
全体像はどうでしょう。幅の狭い正常QRS波が規則正しく出ているようです。
P波は、少なくともQRS波の前には見えません。PP間隔も不明ですね。ディバイダーでRR間隔をチェックしてみましょう。一定で約10コマですね。0.04×10=0.4秒周期で規則正しく心室は興奮しています。心拍数は1500÷10=150回/分で100回/分以上ですから頻拍ですね。
これは、発作性上室性頻拍(paroxysmal supraventricular tachycardia:PSVT)です(以下PSVTと記述)。
発作性とは、心房細動や心房粗動でも説明しましたが、洞調律の状態から突然、発作的に発症するという意味です。上室性頻拍とはヒス束より上つまり上室が原因の頻拍という意味で、ヒス束以下は順序正しく伝導して心室が興奮しますので、洞調律と同じ形の幅の狭いQRS波の頻拍です。
このままの定義だと、幅の狭いQRS波の頻拍で、発作性に出現するもの、たとえば心房頻拍、発作性心房細動、粗動も含まれていますが、現場ではリエントリーの関与する上室性頻拍、本コラムでは、とくに房室結節をリエントリー回路に含む上室性頻拍をPSVTとします。
ではリエントリーの復習です。
簡単にいうと興奮の旋回ですが、その輪のなかには、一度興奮した心筋が不応期から脱するための時間的余裕をつくるためにゆっくり伝導してタメをつくる部分が必要です。ゆっくり伝導してタメをつくる……まさに房室結節ですね。房室結節を含むリエントリー回路を興奮がグルグル回っている不整脈がPSVTです。
この回路は2種類あります。1つは、房室結節周囲で興奮はゆっくり時間をかけて房室結節内に入って、比較的速い速度で房室結節から心房側へ抜けるルートです。ゆっくり伝導する経路をslow pathway(スローパスウェイ)、素早く伝導する経路をfast pathway(ファストパスウェイ)といいます。
図9の心電図をよく見てもらうと、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVFのQRS波の直後に陰性のP波が見られます。
このP波は、洞性ではなく房室結節から素早い伝導(ファストパスウェイ)で心房に入って、心房を下から上に興奮させますので、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVFでは陰性のP波(非洞性なのでP′波とします)が見られます。この心房興奮は時間をかけて房室結節内をヒス束に伝導(スローパスウェイ)して心室を興奮させますから、P′波から次のQRS波は間隔が空いています。
房室結節を含めて、その周囲を旋回しているリエントリー回路によるPSVTで、房室結節回帰性頻拍:AVNRTといいます(図10)。心房興奮(P′波)からヒス束までの伝導時間によっては、P′波がQRS波内に埋もれて判別できないことがあります。
もう1つの回路は、心房心室間にヒス束以外の伝導路がある場合です。
これは副伝導路といい、人口1000人に数人いるといわれています。
房室結節をゆっくりヒス束に順行伝導して心室が興奮し(ヒス束~脚~プルキンエ線維と伝導しますから正常のQRS波です)、この興奮が副伝導路を心房側へ逆行伝導して心房を下部から上部へ興奮(下から上ですから陰性のP′波になります)させます。房室結節と副伝導路を含む興奮の輪がグルグル回転しているPSVTで房室回帰性頻拍:AVRTといいます(図11)。
この2つがPSVTのほとんどすべてを占めます。まれに洞結節周囲のリエントリーによる頻拍がありますが、この場合はP波(洞調律に似た形のP波)が見られます。
AVNRTもAVRTもP波がQRS波に埋もれてよくわからないことが多く、たとえ判別できても、PSVT発作中の心電図でこの両者を鑑別するのは困難です。しかも、接合部調律もQRS波に陰性P波が埋没していますから、頻拍傾向の接合部調律との鑑別も問題になります。以下の点で区別しましょう。
・接合部調律:頻拍になることはほとんどない。突然心拍数が変化することはない。
・発作性上室性頻拍:150~200回/分程度の頻拍になることが多い。洞調律が基本で突然頻拍発作が起こる。
ちなみに、PSVTの心拍数は、リエントリー回路の興奮旋回速度で決まります。0.4秒で1回転すれば、1回転に1回心室と心房が興奮しますから、心拍数は60÷0.4=150回/分になりますね。
ではアクティブ心臓病院看護部に例えるとどうなるでしょう。
キーマンは房室結節副総師長です。副総師長と周囲の心房看護管理室スタッフが命令の輪をつくって命令を順番に出しています。ヒス束病棟師長に伝わった命令は、脚主任・プルキンエリーダーから心室病棟スタッフに通常どおりの流れで伝達されて、正常業務が行われます。
また、ヒス束病棟師長とほぼ同時に素早く心房管理室スタッフに命令が伝わり、下部から上部に業務が進行し、通常とは逆順に管理室の仕事が行われます。洞結節総師長は当然沈黙しています。タイミングとしては、心室業務と心房業務がほぼ同時に行われることになります。この命令の輪のスピードは、房室結節副総師長のところで遅くなります。
したがって、管理室の逆行性業務の後、病棟に命令が伝わるまでは、少し間が空きます。この繰り返しがPSVTになり、業務間隔は命令の輪の回転速度に依存します。
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発作性上室性頻拍の対応です。洞調律から突然150回/分以上の頻拍になるわけですから、動悸、胸部不快感、場合によっては循環不全による血圧低下、冷汗、失神などが起こる場合があります。房室結節を含むリエントリー回路の旋回ですから、房室結節の伝導を抑えて不応期を延長すると、旋回できなくなって頻拍が停止し、洞調律に復帰します。
房室結節の伝導を抑える方法としては、頸動脈マッサージや息こらえによって迷走神経を亢進させる方法、ATP(アセチルコリン製剤)、ベラパミル(カルシウム拮抗薬)などの薬剤を用いる方法があります。
根治的には、カテーテルを用いて回路の一部を焼いて伝導できなくするアブレーションという治療法もあります。
[次回]
PQ間隔が長い、P波の後にQRS波がない|不整脈の心電図(5)
- 不整脈の読み方|不整脈の心電図(1)
- 洞性P波から読み解く不整脈|不整脈の心電図(2)
- 異所性P波から読み解く心電図|不整脈の心電図(3)
- PQ間隔が短い心電図|不整脈の心電図(6)
- P波とQRS波が別々のリズムの心電図|不整脈の心電図(7)
- 幅広QRS波の心電図|不整脈の心電図(8)
- 上室起源の幅広QRS波|不整脈の心電図(9)
- 心室性期外収縮|心室起源の幅広QRS波<1>|不整脈の心電図(10)
- 心室頻拍|心室起源の幅広QRS波<2>|不整脈の心電図(11)
- 特殊な幅広QRS波の頻拍|不整脈の心電図(12)
- 心室細動~心室頻拍よりもっと危ない不整脈|不整脈の心電図(13)
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版