新生児の蘇生

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は新生児の蘇生について解説します。

 

能町しのぶ
兵庫県立大学看護学部看護学科准教授

 

 

新生児の呼吸循環動態への移行

胎児の気管や気管支、肺胞は肺水(羊水、肺胞液)で満たされている。出産時に産道通過に伴う胸郭の圧迫で、肺水は肺胞や気道から押し出されたり、自然に血液やリンパに吸収される。

 

産道通過後、胸郭の圧迫がなくなったことや、寒冷刺激で呼吸中枢が刺激され、肺に空気が流入する(第1吸気)。それに続いて第1呼気(産声)が起こり、肺胞は膨らみ肺呼吸が始まる(図1)。

 

図1 呼吸開始のメカニズム

呼吸開始のメカニズムa

産道通過に伴う胸郭圧迫で肺水が肺胞や気道から押し出される

呼吸開始のメカニズムb

産道通過後、胸郭圧迫がとれることや寒冷刺激で呼吸中枢が刺激され、空気が流入する(第1吸気)

呼吸開始のメカニズムc

声門を閉じ、呼気末期に陽圧を加えることで肺胞が広がる

 

呼吸が開始されたことで肺血流量が増加し、左心房の内圧が高まり、弁状になっていた卵円孔は閉鎖する。また、動脈管臍静脈、臍動脈も閉鎖する(図2)。

 

図2 胎内循環と胎外循環

胎内循環と胎外循環

 

出生後、新生児の呼吸循環動態が移行するうえで、医療者の医療的ケアを必要とする症例は約10%である。したがって、このような胎外環境への適応がうまくいかないハイリスク児をケアするうえで、産科医療に携わる医療者は、新生児蘇生法(Neonatal Cardio Pulmonary Resuscitation:NCPR)の知識、技術を習得することが必要である。

 

新生児蘇生法普及事業

日本周産期・新生児医学会は「すべての分娩に新生児蘇生法を習得した医療スタッフが新生児の担当者として立ち会うことができる体制」の確立を目指し、日本版新生児蘇生法講習会を2007年7月から実施している。

 

 

目次に戻る

蘇生法習得の目的

出生直後の新生児の状態を迅速かつ適切に評価し、蘇生が必要な児にエビデンスに基づいた適切な蘇生処置を実施することで、重篤な後遺症を防ぎ、児の命を救う。

 

出生後に蘇生が必要な新生児の状態

・早産児。
・自発呼吸がない。
・弱い啼泣、呻吟や多呼吸などの努力呼吸や、チアノーゼがある。
・手足の筋緊張が低下し、だらんとしている。
心拍数が100回/分未満。

 

 

目次に戻る

方法

必要物品

・開放型保育器(図3
聴診器(新生児用)、ストップウオッチ、未滅菌手袋、消毒用アルコール綿
・ハンドタオル1枚(肩枕用)、バスタオル2枚
・パルスオキシメータ、新生児用プローベ
・ゴム球式吸引器、吸引カテーテル、吸引管、吸引器
・ 新生児用救急カート:人工呼吸に必要な物品を用意する(図4)。いつでも使用することができるように保管・点検をする。

心電図モニタ、3誘導電極

 

図3 開放型保育器

開放型保育器

 

体温管理の重要性

新生児は、体積に比して体表面積が大きく、容易に体温は変動する。低体温(<36.0℃)、高体温(>38.0℃)は新生児死亡率や有病率の上昇をまねくため、体温の維持が重要である。

 

図4 人工呼吸に必要な物品

人工呼吸に必要な物品

 

人工呼吸に必要な物品(図4

気管チューブ:気管内に挿入し、気道を確保する。児の体重により使用するサイズが異なる。内径2.0mm、2.5mm、3.0mm、3.5mm を用意する。
呼気二酸化炭素検知器:気管挿管後、気管チューブに接続し、呼気中の二酸化炭素を検出すると表示部の色が変化する。気道確保の確認に使用する。
スタイレット:気管チューブに挿入することで、気管チューブの形が安定し挿入しやすくなる。
④⑤新生児用喉頭鏡と直型ブレード:気管挿管時に喉頭鏡に児の体重に合ったブレードを装着し、ライトで喉の奥を照らしながら喉頭や声帯を見ながら気管チューブを挿入する。ブレードは新生児用(No.0)と低出生体重用(No.00)がある。事前にライトが点くか確認する。
気管チューブ固定用テープ図5

 

図5 気管チューブ固定用テープ

気管チューブ固定用テープ

幅1~1.5cmくらいの絆創膏を長さ4~5cmで切り、スリットを入れたものを複数枚準備する

 

蘇生用フェイスマスク:自己膨張式バッグや流量膨張式バッグに装着し、児の口元に当てて使用する。児の鼻と口を覆うが目にはかからないサイズのものを使用する。
自己膨張式バッグ(閉鎖状酸素リザーバー付き):バックが自然に膨張するため、酸素の供給がなくてもどこでも使用が可能である。
⑨:酸素などのガスが回路に入り、マスクが児の顔に密着されるとバッグが膨らむ。事前にバッグが適切に膨張す流量膨張式バッグ(圧力計/圧マノメーター付き)るか、圧があがるかを確認する。
新生児用聴診器
吸引カテーテル:児の体重により使用するサイズが異なる。正期産児では10Fr、低出生体重児では6~8Frを使用する。

蘇生に必要な薬剤

アドレナリン
・生理食塩液
・炭酸水素ナトリウム

 

薬剤投与のための物品

・ 針、シリンジ、蒸留水、臍帯静脈カテーテル、末梢静脈カテーテル、輸液セットなど

 

 

目次に戻る

新生児の蘇生法アルゴリズム

新生児蘇生法を行ううえで、観察ポイントとその評価、評価に基づいた処置の一連を示したものである。30秒ごとに各段階を評価し、それぞれの段階が終了してから次の段階に移る(図6)。また、NCPRアルゴリズム全体をとおして、中心体温が36.5~37.5℃を保つように体温を維持する。

 

図6 NCPRアルゴリズム

NCPRアルゴリズム

(日本蘇生協議会:JRC蘇生ガイドライン2015、p.247、医学書院、2016より改変)

 

 

目次に戻る

手順

1蘇生の準備

1児の出生前に必要物品を用意する。開放型保育器(図3)にバスタオルを敷き、電源スイッチをONにし、上部ヒーターの出力を調整してタオルを温めておく。分娩室の室温は26℃以上とする。

2気管吸引・人工呼吸に必要な吸引器や酸素が使用可能か確認する(図7)。

 

図7 吸引器とブレンダー

吸引器とブレンダー

 

吸引を行ううえでの留意点

児の吸引は100mmHg(13kPa)を超えない陰圧で行なう。
後咽頭を過度に刺激すると、咽頭の損傷や迷走神経反応による徐脈や無呼吸を引き起こす可能性があるため、吸引は5秒以内とし、深く吸引しない。

 

2出生直後の評価とルーチンケア

1処置前に手洗いをし、未滅菌手袋を装着する。

2児の出生後、時間での評価のために開放型保育器のタイマーもしくはストップウオッチを押す。児の状態について図3の出生直後のチェックポイントを確認する。観察項目に該当しなければ、ルーチンケアを実施する。

 

ルーチンケア

児に付着した羊水や、や口からの分泌物をタオルで拭き取りながら、背中などの皮膚をやさしく刺激し、呼吸を促す(図8)。濡れたタオルは適宜新しいタオルに交換し、保温に努める。母子関係を促進させるため、これらの処置は母親のそばで行うように心がける。

 

図8 ルーチンケア

ルーチンケア

 

3蘇生の初期処置

適応

図3の出生直後のチェックポイントのいずれかが当てはまる場合に蘇生の初期処置を行う。

 

実施方法

1保温し、児に付着した羊水や、鼻や口からの分泌物をタオルで拭き取りながら、背中や体幹、四肢の皮膚をやさしく刺激する。

2肩枕(児の肩の下に巻いたハンドタオルを敷く)などで、気道を確保する(図9)。

 

図9 肩枕

肩枕

 

3分泌物などで気道の閉塞が疑われる場合、ゴム球式吸引器または吸引カテーテルを用いて、口腔内の分泌物を吸引し、次いで鼻腔内を吸引する(図10)。

 

図10 ゴム球式吸引器による吸引

ゴム球式吸引器による吸引

 

4自発呼吸がないときは、背中をこすったり、やさしく足底を叩く(図11)。

 

図11 足底への刺激

足底への刺激

 

5ここまでの処置を行ったあと、その効果を判定するために「呼吸と心拍を確認」を行う。

 

 

目次に戻る

4蘇生の初期処置の評価

1自発呼吸の有無を確認し、パルスオキシメータのプローブを右手に装着し、心拍数100回/分以上か、努力呼吸の有無、SpO2値を確認する。

 

パルスオキシメータ装着は、なぜ右手なのか?

出生直後の動脈管開存による影響を受けないようにするため。

 

2自発呼吸がない、心拍数100回/分未満のいずれかを認める場合、すぐに「人工呼吸」に移行する。

3自発呼吸があり、心拍数100回/分以上あるが、陥没呼吸、呻吟(しんぎん)、多呼吸などの努力呼吸や中心性チアノーゼがある場合は、「持続的気道陽圧(continuous positive airway pressure:CPAP)または酸素投与」に移行する。

4自発呼吸があり、努力呼吸やチアノーゼがなく、心拍数100回/分以上ある場合は、蘇生後のケアを行う。

 

5持続的気道陽圧、酸素投与

適応

自発呼吸があり、心拍数100回/分以上あるが、陥没呼吸、努力呼吸や中心性チアノーゼがある場合に行う。

 

実施方法

1正期産児では空気を用いて持続的気道陽圧(CPAP)を行う。気道にかかる内圧をマノメータ(図12)で観察しながら行う。呼気終末陽圧は5~6cmH2Oを目標とする。

 

図12 マノメーター

マノメーター

圧力計。気道にかかる圧を計測する

 

2CPAPができない場合、酸素投与を行う。ブレンダー(図13)を用いて酸素濃度を30~60% とし、手のカップ状のくぼみ(図14)や酸素マスク(図15)などを用いて投与する。

 

図13 ブレンダー

ブレンダー

酸素と空気を混合させて任意の酸素濃度に設定し、人工呼吸器に供給する

 

図14 手のカップ状のくぼみによるフリーフロー酸素投与

手のカップ状のくぼみによるフリーフロー酸素投与

 

図15 酸素マスクによるフリーフロー酸素投与

手のカップ状のくぼみによるフリーフロー酸素投与

 

3SpO2値を確認し、図3の目標SpO2値と照らし合わせながら、必要最小限の酸素を使用するようにする。SpO2値が95%を超えた場合、酸素濃度の減量や中止を考慮する。

4「努力呼吸、チアノーゼの確認」を行い、努力呼吸や中心性チアノーゼが改善されない場合、「人工呼吸」を開始する。

 

6人工呼吸

適応

自発呼吸がない、あるいは心拍数100回/分未満の場合、遅くとも出生後60秒以内に行う。また、CPAP や酸素投与でも努力呼吸とチアノーゼがある場合に行う。

 

実施方法

1人工呼吸は、正期産児では空気、早産児では酸素と空気をブレンダー(図13)を用いて混合し、30%程度の酸素濃度で開始する。片手で児の下顎とマスクとを固定し(図16)、他方の手でバッグを加圧する。呼吸数は40~60回/分、換気圧は20~30cmH2Oとし、加圧したときの児の胸郭の拳上で、効果的に換気ができているか確認する。

 

図16 ICクランプ法

ICクランプ法

酸素マスクは、児の鼻と口をおおうが、目にはかからないものを使用する。親指と人差し指でCをつくり、酸素マスクを顔に密着させ、中指で児の下顎を軽く持ち上げて装着する

 

2SpO2値を確認し、図3の目標SpO2値と照らし合わせながら、必要最小限の酸素を使用するようにする。SpO2値が95%を超えた場合、酸素濃度の減量や中止を考慮する。

3加えて、心拍数による評価も有益であるため、3誘導電極(図17)を装着し、心電図モニタによる心拍の評価を考慮する。

 

図17 3誘導電極の装着

3誘導電極の装着

右鎖骨下に「赤」、左鎖骨下に「黄」、左肋骨下に「緑」を装着する

 

430秒後に「心拍数を確認」し、心拍数が60回/分未満の場合、「人工呼吸と胸骨圧迫」に移行する。心拍数が100回/分以上の場合、「呼吸・心拍を確認」に移行する。

 

 

目次に戻る

7人工呼吸と胸骨圧迫

適応

人工呼吸によっても心拍数60回/分未満の場合。

 

圧迫部位と強さ

両乳頭を結ぶ線の直下、胸骨の下1/3を、胸郭の厚さの1/3がへこむ程度の強さで圧迫する。圧迫する回数は90回/分で行う。

 

実施方法

1胸部圧迫法には、胸郭包み込み両母指圧迫法(両母指法)(図18)と、2本指圧迫法(図19)がある。両母指圧迫法は疲労度が少なく、かつ、高い血圧を発生させることができる。一方、2本指圧迫法は人工呼吸をしながら、1人で蘇生ができる。

 

図18 胸郭包み込み両母指圧迫法(両母指法)

胸郭包み込み両母指圧迫法(両母指法)

胸骨圧迫をする者が児の足側に立ち、両手で胸郭をつつみこみ、両母指を用いて胸骨を圧迫する。

 

図19 2本指圧迫法(2本指法)

2本指圧迫法(2本指法)

片方の手の中指と人差し指の指先で、胸骨を圧迫する。

 

2人工呼吸と胸骨圧迫の比率は1対3とする。人工呼吸での換気1回に対して胸骨圧迫3回を1サイクルとし、約2秒で行う。「1、2、3、バッグ」の掛け声で、タイミングよく人工呼吸と胸骨圧迫を続ける(図20)。

 

図20 人工呼吸と胸骨圧迫

人工呼吸と胸骨圧迫

 

330秒後に「心拍数を確認」し、60回/分以上を保持できるまで胸骨圧迫を続ける。60回/分以上に回復したら、「人工呼吸」に戻る。60回/分未満の場合、人工呼吸と胸骨圧迫に加えて、薬物投与による心肺蘇生を行う。

 

8薬物の与薬

適用

人工呼吸と胸骨圧迫によっても心拍数60回/分未満の場合。

 

主な薬物と予薬方法

アドレナリン(ボスミン®)は心臓の収縮力を高め、心拍数を増大させる。また、末梢血管を収縮させ、血圧を上昇させる。通常、1アンプル(1mL)を生理食塩液で10倍に稀釈したものを臍帯静脈(図21)、末梢静脈などの静脈から、稀釈液で0.1~0.3mL/kgを予薬する。

 

図21 臍帯静脈

臍帯静脈

 

予薬後30秒ごとに「心拍数を確認」し、60回/分未満であれば、3~5分ごとに上記範囲内の10倍稀釈ボスミン®の予薬を行うなど、医師の指示に従う。

 

9気管挿管

適応

・羊水混濁があり、胎便により気道閉塞が疑われる場合
・人工呼吸を行なっても心拍数が100回/分未満の場合
・人工呼吸と胸骨圧迫が長時間必要な場合
・挿管し、気管チューブから薬物の予薬が必要な場合

 

使用物品

・吸引カテーテル
・自己膨張式バッグまたは流量膨張式バッグ
・新生児用喉頭鏡と直型ブレード
・気管チューブ(表1)と固定用テープ
・パルスオキシメータ、心電図モニタ、呼気二酸化炭素検出器
・新生児用聴診器

 

表1 気管チューブのサイズ

気管チューブのサイズ

体重により使用サイズが異なる

 

実施方法

1バッグ・マスクによる換気を十分行う(羊水混濁時で挿管による吸引が必要な場合は、換気をせずに挿管する)。

2児は下顎を軽く拳上させたsniffing position(匂いを嗅ぐ姿勢)をとる。

3左手で喉頭鏡を持ち、児の口を開け、咽頭蓋を押さえるところまでブレードを進め、舌と下顎を持ち上げるように進める。喉頭が開いている部分を確認し、右手に気管チューブを持ち、チューブのカーブに沿わせながら、児の右口角から挿入する(図22)。

 

図22 気管挿管

気管挿管

 

4気管チューブを右手で保持し、喉頭鏡を抜き、気管チューブをテープで固定する。気管チューブを挿入する長さは、体重(kg)+6cmが目安である。

5気管チューブの先が正しい位置にあるかどうかを確認する。

 

観察項目

・呼気二酸化炭素検出器による呼気時のCO2濃度呼気時のCO2
・児の胸郭の同時拳上
・気管チューブ内の呼気による水蒸気
・呼吸音に左右差がないこと
・SpO2

 

 

目次に戻る

引用・参考文献

1)細野茂春監修:日本版救急蘇生ガイドライン2015に基づく新生児蘇生法テキスト、第3版、メジカルビュー社、2016
2)田村正徳監修:日本版救急蘇生ガイドライン2010に基づく新生児蘇生法テキスト、第2版、メジカルビュー社、2010
3)日本蘇生協議会:JRC蘇生ガイドライン2015、医学書院、2016

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

> Amazonで見る   > 楽天で見る

 

 

[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

SNSシェア

看護ケアトップへ