出生直後の新生児のバイタルサイン

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は出生直後の新生児バイタルサインについて解説します。

 

齊藤麻子
順天堂大学保健看護学部准教授

立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授

 

 

出生直後の新生児のバイタルサイン

子宮内の胎児は、温度が一定に保たれた羊水により体温が保持され、臍帯を通じて酸素が供給される環境下にあるが、出生を機に、外気に触れ、胎盤循環の断絶という大きな環境の変化を経験する。これにより、自らの力による体温の保持と、新たな呼吸循環動態への切り替えをしていくこととなる。

 

このため、出生直後の新生児のバイタルサインは、子宮外環境への適応過程にある児の状態を客観的に判断する指標(アプガースコア)となり、異常があった場合の対応の判断の基準ともなるため、速やかに正確に測定することが重要である。

 

また、バイタルサインは計測値のみでなく、呼吸音と心音の雑音、リズムや強弱などの質、児の活気、皮膚の色や冷感の有無など、全身状態をともに観察し、総合的に評価する。

 

目的・意義

①呼吸状態の異常の有無の観察
②循環状態の異常の有無の観察
③体温の異常の有無の観察
④全身観察の機会とし、異常を早期に発見し対応する

 

実施する対象の観察項目

出生時の状況
在胎週数、出生体重、羊水の胎便混濁の有無、啼泣、筋緊張、皮膚の色。

 

環境調整
・室温24~26℃、湿度50~60%。
・室内の空気の対流がなるべく少ない環境をつくる(ドアなどを閉める)。
・皮膚が羊水で濡れていると、蒸散により体温喪失しやすいため、温かいタオルでしっかりと羊水をふき取り、身体をおおっておく。

 

必要物品(図1図2図3

体温計〔(直腸用、腋窩用)破損の危険性と扱いやすさからガラス製の水銀体温計より電子体温計を使用する場合が多い〕

聴診器(新生児用)

・ストップウォッチ(または秒針つきの時計)

・消毒用アルコール綿

・潤滑剤(オリーブオイル、または、ワセリンなど)

体温計と聴診器は、使用前後にアルコール綿で消毒する。

 

図1 必要物品

新生児のバイタルサインチェックに必要な物品

新生児用聴診器、電子体温計(上:直腸用、下: 腋窩用)、ストップウォッチ、消毒用アルコール綿

 

図2 聴診器 新生児用(左)と成人用

聴診器 新生児用(左)と成人用

チェストピースの膜型面は、高調性の音(肺音・腸動音・正常な心音)を聴くのに適している。反対側はベル型で、低調性の音(心雑音)を聴くのに適している。

 

図3 電子体温計(直腸用)

電子体温計(直腸用)

 

 

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手順

バイタルサインの値は、啼泣などにより値が変化するので、呼吸数→心拍数→体温と、児への接触刺激が少ない順に測定すると、啼泣や体動による測定値の変動が最小限となり、安静時の正確な値を得ることができる。

 

また、急激な環境温度の変化により啼泣を誘発したり、体温を低下させたりする可能性があるため、バイタルサインの測定中は、皮膚の露出を最小限にし、保温に努める。聴診器は、清潔な手で温めてから児にあてる。

 

呼吸数の測定・呼吸音の聴診

1新生児は腹式呼吸であるため、胸腹部が観察できるよう、胸腹部の上下運動を測定する(図4)。児の腹部に手を軽くあてると動きがよりわかりやすい(図5)。

 

図4 胸腹部の観察による呼吸数の測定

胸腹部の観察による呼吸数の測定

 

図5 呼吸数の測定

呼吸数の測定

腹部に軽く手をあて、腹部の上下運動による呼吸数の測定。視診による呼吸数の測定より、小さな動きもわかりやすい。

 

2新生児の呼吸パターンは不規則で、生理的に短い呼吸休止をすることがある。そのため、必ず1分間計測する。

 

3聴診器で呼吸音の聴診をする。チェストピースは膜型面を用い、児の肺尖部(鎖骨上部)から肺底部(横隔膜部)にかけて、肺左右差の有無や呼吸の深さ、肺雑音の有無や程度などを聴診する(図6)。

 

図6 聴診器による呼吸音の聴診

聴診器による呼吸音の聴診

児の肺尖部(右上)から肺底部(左下)にかけて、左右や上下の肺音に異常がないか聴診する。

 

同時に、鼻翼呼吸・陥没呼吸、呻吟などの異常呼吸の有無、チアノーゼの有無を観察する。なお、生後しばらくは、正常児でも湿性ラ音が聴取される場合がある。

 

胎児循環から成人型循環への移行の過程

体内での胎児の肺胞は肺液で満たされ拡張しているが、出生直後の第一呼吸の開始とともに、空気が肺胞内に流入し、肺胞内の肺液は肺組織にある血管・リンパ管へ吸収され、肺胞は空気で満たされる。

 

血中酸素濃度の上昇により肺血管は拡張し、肺血流が増加することで、右心室から大動脈へ血液のバイパスをしていた動脈管が収縮し始める。さらに、肺からの血液の還流により左心房圧が上昇し、卵円孔の閉鎖へとつながる。

 

なお、卵円孔の機能的閉鎖までは、生後数分、動脈管の機能的閉鎖は12~24時間といわれている。出生後このような過程を経て、胎児循環(図7)から成人型循環への移行が完了する1)

 

図7 胎児循環の概要

胎児循環の概要

 

心拍数の測定・心音の聴診

1新生児では、脈拍数は測定しにくいため、心拍数を測定する(図8)。児の着衣を開け、心尖部(左乳頭下部よりやや中央寄り、第4肋間部)に、聴診器をあて計測する2)。呼吸によるリズムの変化がある場合があるため、必ず1分間測定する。

 

図8 心拍数の測定、心音の聴診

心拍数の測定、心音の聴診

 

2心拍数とともに、リズム不整、心雑音の有無や程度を観察する。出生直後は多くの健康な新生児に心雑音が聴取される場合があり、逆に心室中隔欠損などの先天性心疾患がある児では、2~3日経ってから心雑音が顕在化する場合がある。

 

体温の測定

1出生直後の新生児の皮膚温は外気の影響を受けやすいので、深部温である直腸温を測定する。直腸温を測定する際に、肛門や陰部の異常の有無の観察も行う。

 

2児の膝部を軽く屈曲したまま両足首を片手で把持する(図9)。先端に潤滑油を塗布した体温計は、先端から2.5~3cm 程度の部分を持ち2cm程度ゆっくりと挿入する(図10)。挿入後、体温計を持つ手指の一部を児の殿部に接しておくと、児の体動時も危険が少なく対応しやすい。

 

図9 直腸温計測時の下肢の固定

直腸温計測時の下肢の固定
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図10 直腸温の測定

直腸温の測定
画像を見る

体温計挿入の刺激により、排便を誘発する場合があるため、おむつは下に敷いたままにする。

 

3体温計の規定の時間挿入を保ち、測定する。測定終了後は、児のおむつと着衣を整える。使用後の体温計は、便をふき取り、既定の消毒薬で消毒する。

 

正常な新生児のバイタルサインの値

呼吸数:30~60回/分
心拍数:110~160回/分
体温:36.5~37.5℃(直腸温

 

 

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引用・参考文献

1)田村正徳監:日本版救急蘇生ガイドラインに基づく新生児蘇生法テキスト、メジカルビュー社、2007
2)小野田千枝子監、土井まつ子、椙山委都子、仲井美由紀編:こどものフィジカル・アセスメント、金原出版、2001

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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