保温
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は保温について解説します。
香取洋子
北里大学看護学部教授
新生児の体温
新生児は、環境温の変化によって容易に低体温や高体温になる。とくに、出生時には体温が不安定なため、体内での酸素消費量が増加し、無呼吸や代謝性アシドーシスなどを引き起こし、呼吸確立の妨げとなる。
その後も新生児が体温調節のためにエネルギーを消耗し続けることにより、低血糖、体重増加不良になりやすい。そのため、保温は、栄養・感染予防とともに新生児の看護のなかで最も基本的なものであり、新生児が子宮外生活に適応するうえで重要なケアである。
新生児が成人とは異なる熱産生メカニズムをもっていることや、熱喪失ルートを理解して観察し、よい環境を提供することが重要である。
新生児の熱産生の特徴
新生児は乳児や成人とは異なり、肩の周囲に多く分布する褐色(かっしょく)脂肪細胞によって熱産生を行う(ふるえによらない熱産生)(図1)。寒冷刺激が加わるとノルアドレナリンが分泌され、褐色脂肪細胞への血流を増やし、脂肪を燃焼することにより熱を産生する。
新生児の熱喪失ルート(図2)
①輻射(ふくしゃ):温度の高い児から周囲の環境へ熱が失われること(例:窓際に寝かせる)
②対流:空気の流れを介して体表から熱が失われること(例:風があたっている)
③伝導:皮膚と接している部分から熱が失われること(例:体重計に裸で寝かせる)
④蒸散:皮膚・頭髪・呼気からの不感蒸泄によって熱が失われること(例:髪を濡れたままにしておく)
図2 新生児の熱喪失ルート
至適温度環境
至適温度環境とは、通常、中性温度環境と同じ意味で用いられているが、厳密には出生体重、在胎週数、日齢、児の疾患、湿度などさまざまな条件を考慮し、新生児に最もふさわしい温度環境のことをいう。
中性温度環境とは、酸素消費量が最も少ない温度環境のことをいう。新生児が余分なエネルギーを使用しなくても体温を保つことのできる温度環境のことである。温度環境の目安は、腹壁温を36.0~36.5℃に保つ。
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保温
目的・意義
新生児に至適温度環境を提供し、酸素消費量を最小限に抑える。
実施する対象への観察項目
①体温
36.5~37.5℃が正常範囲。
出生直後は直腸温、体温が安定したら腋窩(えきか)か頸部で測定する。
②低体温の症状
直腸温(深部温)の低下、哺乳力不良、嗜眠(しみん)傾向、皮膚の紅潮、四肢冷感、多呼吸。
③新生児の低体温と高体温の原因のアセスメント
新生児の体温は、児の異常による内因性の原因と、温度環境の異常による外因性の原因によって、低体温(表1)や高体温(表2)になる。
必要物品
衣類(長着、短着、おむつ)、タオルケット、おくるみ、閉鎖型保育器または開放型保育器。
手順:閉鎖型保育器の場合(図3)
1体温を測定する。
2保育器の電源コードを差し込み、側面の電源スイッチをONにする。
3マニュアルボタンを押して表示を点灯させ、設定の↑↓のスイッチを押して設定温度を合わせる(表3)。
4加湿槽、湿度測定用センサー部のケースに滅菌蒸留水を入れる。
5背部のフィルターが装着していることを確認する。
6器内温度と設定温度が一致したのを確認してから、前面を開窓して児を収容する。
7児の体温に合わせて器内温度を変更するときは、急激な体温の変動により無呼吸発作を誘発することもあるため、0.5℃ずつ変動させる。器内温度変更後は30分~1時間後に体温を再度測定する。
手順:ベビーコットの場合
1体温を測定する。
2出生後は、衣類(長着、短着)、おくるみ、掛け物で保温する。
3低出生体重児の場合、頭部からの熱喪失を防ぐため、帽子をかぶせると体温が安定しやすい。
4衣類で調節できないときは、一時的に開放型保育器(図4)または保温台で保温する。
注意事項
・保育器内の温度は空気が循環することで器内温度が一定に保たれているため、寝台部上下の空気孔をおむつ、シーツなどでふさがない。
・落下防止のため、児を収容した後は、前窓をロックし、離れるときには手窓を必ず閉める。
・加湿槽の水は毎日交換する。
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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版