どのように敗血症と気づく?疑ったらどうする?
『エキスパートナース』2015年8月号<「急変」になる前に病棟で見抜きたい!「敗血症」の気づき方>より抜粋。
今回は敗血症の気づき方、疑ったときの対応について説明します。
石﨑清華
東海大学医学部付属八王子病院救急センター
〈目次〉
敗血症の定義が変更。 臓器障害の有無が重要に
はじめに
敗血症は「感染に起因する全身性の炎症反応」であり、炎症性サイトカインにより血管透過性亢進や末梢血管拡張を起こし、血液分布異常性ショックに陥ります。
また、サードスペースへの体液の漏出・貯留、発熱などによる脱水のために、循環血液量減少性ショックも加わり、誘引なく循環動態が変動します。
早期には乏尿となり、脈拍が増えますが、ショックが遷延すると組織レベルで低循環から低酸素となり多臓器障害に至ります。
そのため、これらを未然に察知し、対応しておくことが、のちに重大な症状を引き起こさないために重要です。
看護師なら、一度は患者の急変を経験したことがあると思います。急変の前に患者の異常に気づき、上述のような状態に陥らないためにはどうしたらいいのでしょうか?
敗血症の病態から、早期に発見するための観察のポイントを考えてみましょう。
患者のちょっとした変化に対し、「敗血症かもしれない」と疑う
1いつもと違う患者の変化を“異常”と捉える
看護師にとって、“なんとなくいつもと違う”という気づきの視点は、急変につながる徴候を見抜くために重要です。脈拍や血圧などの循環動態が悪化してからでは遅すぎます。
急変に結びつく患者の細かな変化を図1に示します。
特に敗血症では、「意識」「呼吸」「脈拍」「体温」に異常を呈することが多いため、ふだんの意識レベルや脈拍がどの程度なのか把握しておくことも必要です。
体温が高い場合は感染症から敗血症を疑えるかもしれませんが、逆に体温が低い場合は気づきにくいこともあります。他の症状とあわせて考えることも重要です。
2敗血症のサインでないかを考える
しかし、このような症状がすぐに「敗血症」→「ショック」と移行するとは限りません。
例えば、不穏やせん妄にはさまざまな原因がありますが、敗血症の1つのサインでもあります。
患者の安全やバイタルサインの異常に注意したり、対応したりすることに加え「なぜ?」「何が原因?」などを考える習慣をつけましょう。
具体的に、患者の「どこで」「何が起こっているのか」を考える
「患者の細かな変化」に気づいたら、系統立てて考えます。ABCDEで評価し、“どこに異常があるのか”を確認し、バイタルサインやフィジカルアセスメントから、“何が起こっているのか”を考えます。
1どこで異常が生じているかを確認する:ABCDEの評価
まず、表1のABCDEにおける変化がないかを確認します。
急変(予期せぬ急な病態変化)時には、ABCDEの異常を伴うことが多いです。ABCDEの状態を確認することで、異常がどこで生じているのかを把握します。
2何が起こっているのかを考える:バイタルサインの確認
どこに異常があるのかが把握できたら、バイタルサインを評価します。このとき、その異常がどのように生じているのかを考えることで、この後の変化を予測し、急変を未然に防ぐことができます(図2)。
以下に、各バイタルサインの変化について述べます。
①体温の変化
sepsis(=敗血症)の定義は、「感染に由来するSIRS」のことであり、SIRSの診断基準にあるように、発熱は1つの指標になります。
特に敗血症性ショックの初期では、皮膚はピンク色で温かくなります(warm shock)。これは、全身性の炎症反応によって高心拍出量状態となり、末梢血管が拡張していることによるものです。しかし、高齢者や鎮静された状態の患者などは熱産生の低下や体血管抵抗の減弱により、初期でも体温が低下する場合があります。
②呼吸回数の増加
発熱と同様に、SIRSの診断基準に呼吸回数の増加(>20回/分)があります。この症状は、炎症性サイトカインの影響により組織での酸素消費量が増加し、これに見合った酸素を体内に取り入れるためです。
また、組織の酸素消費量の増加に見合った酸素を供給できないと、H+や乳酸の蓄積によって代謝性アシドーシスとなり、これを是正しようとした結果、過換気となるため、呼吸回数が増加します。
そのため呼吸回数は、酸素消費量も含めて判断するのが効果的であり、血液ガス分析の結果を合わせて考えましょう。
③頻脈の発生
交感神経の緊張によって頻脈が起こります。
また、炎症性サイトカインが産生されることによって、血管拡張や血管透過性が亢進するため、血管内の体液は血管外に移動し、非機能的細胞外液(浮腫)として存在することになります。これが相対的に循環血液量の低下となり、頻脈をもたらします。さらに、炎症性サイトカインによって心
房性頻脈や心房細動の発生を誘発することがあるため、脈拍数だけではなく、不整脈の出現にも注意が必要です。
しかし、β遮断薬を内服している患者では、頻脈になりにくいため注意が必要です。
④低酸素血症、高二酸化炭素血症
炎症性サイトカインが血管内皮細胞に作用し、肺血管透過性を亢進させます。これにより間質に水分が移動するため、肺の拡張を障害し換気量が低下します。
また、間質の水分の貯留は肺毛細血管と肺胞での酸素交換を阻害します(=拡散障害)。そのため、低酸素血症、高二酸化炭素血症になります。
⑤血圧低下(ショック)
感染による細菌作用(高サイトカイン血症)により、末梢血管抵抗が減弱(血管拡張)します。さらに、血管透過性の亢進による細胞間への体液の漏出・貯留、発熱などによる脱水により循環血液量は減少するため、血圧が低下します。
ショックが進行していくと、低心拍出量状態となり、末梢循環不全を呈するため、皮膚は冷たく(cold shock)なります。
3血液検査とスコアリング
敗血症に起因した臓器障害をいち早く知るために、一般血液検査は必須です。
それに基づき、SOFAスコア(sequential organ failure assessment score)も採点することができます。SOFAスコアとは、敗血症の治療対象となる重症敗血症患者の臓器障害を簡便にスクリーニングするのに有用です。
ただし、SOFAスコアにて診断された重症敗血症患者の8名に1名はSIRSの基準を満たさないという報告もあります1。
敗血症の場合の「今後の治療」を予測し、対応する
バイタルサインやフィジカルアセスメント、血液検査、血液ガス分析などを通して、「異常」と捉えたことを言語化すること、記録すること、医師に報告することが必要になります。
そして、医師に報告するだけではなく、自分で何が起こっているのか考え、今後どうなっていくのか、あるいはどのような検査や治療が行われるのか(表2)を予測することが重要です。
例えば、敗血症では「意識」「呼吸」「脈拍」「体温」の異常からショックに移行します。ABCDEの安定化を図るとともに、ショックにならないように、輸液や薬剤を投与します。またできるだけ早く抗菌薬を投与します。
敗血症から臓器障害を起こすと呼吸不全、血液検査では腎機能異常、肝機能異常、凝固異常、血糖異常を呈します。基礎疾患のある患者では発見が遅れないように、「もしかしたら感染症が悪化しているかもしれない……」という姿勢で観察しましょう。
今起こっていることを考えること、今後起こることを予測することで、患者を観察する視点が変わり、急変を起こす前に対応できます。
特に意識障害のある患者、鎮静管理中の患者、気管挿管により症状を訴えることのできない患者などは、敗血症の発見が遅れることがあります。
患者の「元気がない」という事象に対して、「昨日眠れなかったからかな?」とか、「熱があるからかな?」などと、自分の思い込みや勝手な推測を行うのではなく、患者の細かな変化に“気づき”、何が起こっているのかを“考え”、敗血症を予測した“対応”につなげていけるようにしましょう。
[引用・参考文献]
- (1)Kaukonen KM,Bailey M,Pilcher D,et al.:Systemic inflammatory response syndrome criteria in defining severe sepsis.N Engl J Med 2015;372(17):1629-1638.
- (2)sepsis 最新知見と治療戦略.救急医学 2015;39(2):140-147.
- (3)Sepsis.INTENSIVIST 2009;1(2):181-397.
- (4)児玉貴光・藤谷茂樹 監修:RRS院内救急対応システム-医療安全を変える新たなチーム医療-.メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,2012.
- (5)山田京志 監修:オールカラー はじめてでもよくわかる! 人工呼吸 管理&ケア.西東社,東京,2015
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P.26~「どのように敗血症と気づく?疑ったらどうする?」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年8月号/ 照林社