後腹膜膿瘍ドレナージ
『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は後腹膜膿瘍ドレナージについて説明します。
照屋正則
公立昭和病院消化器外科/副院長
雀地洋平
KKR札幌医療センター循環器センター看護師長
《後腹膜膿瘍ドレナージの概要》
主な適応 |
抗菌薬で感染コントロールが不良な膿瘍(そのほか、慎重適応などは表1参照) |
目的 |
後腹膜腔や腸腰筋に発症した膿瘍を、体外または膿瘍腔外に誘導する |
合併症 |
ドレナージ時の腹腔内臓器損傷、出血、経胸膜穿刺による膿胸(上腹部背側での経皮的穿刺ドレナージの場合) |
抜去のめやす |
膿瘍造影で膿瘍腔の消失を確認後に抜去する |
観察ポイント |
閉塞や留置部のずれ、感染を早期発見するために、排液量やバイタルサインを継続的に観察する |
ケアのポイント |
閉塞予防:粘稠性の高い排液や背・側腹部から挿入時は閉塞リスクが高まるため、固定位置の工夫や定期的なミルキング、除圧が重要 排液減少時:ドレーン全体に屈曲やねじれがないことを確認し、これらがない場合はただちに医師に報告する |
〈目次〉
- 後腹膜膿瘍ドレナージの定義
- 後腹膜膿瘍ドレナージの適応と禁忌
- 後腹膜膿瘍ドレナージの挿入経路と留置部位
- 後腹膜膿瘍ドレナージの合併症
- 後腹膜膿瘍ドレナージの利点と欠点
- 後腹膜膿瘍ドレナージのケアのポイント
後腹膜膿瘍ドレナージの定義
後腹膜膿瘍ドレナージとは、体幹の背側に位置する「後腹膜腔」や「腸腰筋」(図-a、図-b、c)に発症した膿瘍を、体外または膿瘍腔外に誘導する手技である。
後腹膜膿瘍ドレナージの適応と禁忌
後腹膜膿瘍ドレナージの挿入経路と留置部位
後腹膜膿瘍ドレナージでは、解剖学的部位により存在臓器が異なるため、ドレナージの手技も異なる。
主な手技としては以下が挙げられる。
- ①経皮的:体表から画像(CTもしくは超音波)をガイドに直接膿瘍を穿刺し、カテーテルを留置
- ②経消化管的:超音波内視鏡を用いて胃壁や十二指腸壁を介して膿瘍を穿刺し、カテーテルを留置(→『急性膵炎に対するドレナージ』参照)
- ③経十二指腸乳頭的:内視鏡を用いて十二指腸乳頭より膵管にカテーテルを留置(→『急性膵炎に対するドレナージ』参照)
- ④手術的:手術的(開腹もしくは腹腔鏡下)に膿瘍を解放し、ドレーンを留置
適切なドレナージには後腹膜腔および腸腰筋の解剖を理解し、膿瘍の局在や広がりを把握することが重要である。
まず解剖について解説し、次に代表的な膿瘍のドレナージ手技について説明する。
1後腹膜腔
後腹膜腔とは、腹腔の背側の腹膜(後腹膜、図-a★、図-c★)と腹横筋膜(図-a★、腹壁の「いわゆる三枚肉」の一番内背側のスジ部分)の間隙を指す。頭方は横隔膜、尾側は小骨盤腔の直腸周囲・仙骨前部に至る。
「前腎傍腔」「腎周囲腔」「後腎傍腔」の3つの腔よりなり、「前腎筋膜:いわゆるGerotaの筋膜」、「後腎筋膜:いわゆるZuckerkandlの筋膜」で境されている。これら腎筋膜は単なる隔壁ではなく、3つの腔をつなぐ伝導路であり、炎症時には滲出液などを貯留する貯留腔の役割を担う2。
前腎傍腔(図-a、■部分)
前腎傍腔には多くの臓器が存在する。膵臓、十二指腸、盲腸〜上行結腸背側部、下行結腸背側部(図-c▲)、直腸、肝臓背側部(図-c●)、脾臓背側部(図-c■)、腹部大動脈および下大静脈である。小腸・大腸への血管とリンパ管が走行する上・下腸間膜とも連続する。左右は交通し、炎症はしばしば両側に伸展する2。
前腎傍腔膿瘍としては、重症膵炎後の感染性膵仮性囊胞や感染性被包化膵壊死が典型である3(→『急性膵炎に対するドレナージ』参照)。
膵切除後の膵液瘻による膿瘍もしばしば経験する。孤立性の膿瘍に対しては経皮的CTガイド下穿刺ドレナージ(図1)が有効であるが、手術的ドレナージが必要とされることも多い。
上行結腸や下行結腸の背側の憩室が穿通すると、炎症はこの前腎傍腔で拡大し膿瘍を形成する(図-c▲)。抗菌薬投与による保存的治療が第一選択である。特に3cm以下の小膿瘍では抗菌薬のみで症状の改善が期待し得る4。抗菌薬でコントロール不良な場合は、経皮的穿刺ドレナージを行う。ドレナージ後24〜48時間で改善が得られない場合は、膿瘍部を含めた大腸切除を検討する。
肝臓背側部も前腎傍腔に付着するため(図-c●)、急性虫垂炎がこの腔に波及・上行し、肝背側で右横隔下膿瘍を形成する機序も理解しやすい。
腎周囲腔(図-a、■部分)
腎盂腎炎などの泌尿器科疾患に由来する腎膿瘍が典型で、超音波ガイド下穿刺ドレナージが有効である5。しかしながら、最近は、強力な抗菌薬の出現によりドレナージが必要な症例は少なくなっている6。
後腎傍腔(図-a、■部分)
後腎傍腔には臓器は存在せず、左右の交通もない。骨盤リンパ節郭清術後の感染性リンパ囊腫などがあり、CTガイド下穿刺ドレナージが有効である(図2)。
2腸腰筋(図-a、■部分)
腸腰筋は「大腰筋」と「腸骨筋」よりなり、「後腎傍腔」の背側を走行する。大腰筋は第1〜4腰椎、腸骨筋は腸骨窩に始まり大腿骨小転子に至る(図-b)。機能としては股関節の屈曲を担っている。
腸腰筋膿瘍は一次性と二次性に分類され、CTガイド下穿刺ドレナージが有効である。
一次性腸腰筋膿瘍
糖尿病、慢性腎不全や担がん患者などの免疫抑制状態で、遠隔臓器に感染した菌が血行性やリンパ行性に腸腰筋に達し発症する。
二次性腸腰筋膿瘍
近接臓器の感染が、直接腸腰筋に波及して発症する。約3分の1は腰椎・椎間板炎が原発とされるが6、原因特定できないことも多い(図3)。
後腹膜膿瘍ドレナージの合併症
いずれの手技においても、ドレナージ時の腹腔内臓器損傷と出血に注意する。
上腹部背側での経皮的穿刺ドレナージでは、経胸膜穿刺による膿胸に注意する(→『腹腔内膿瘍ドレナージ』参照)。
後腹膜膿瘍ドレナージの利点と欠点
1経皮的穿刺ドレナージ
超音波ガイド下
利点:超音波画像を見ながら穿刺を行うため、放射線被曝が少ない。穿刺に要する時間が短い。
欠点:腸管ガスや骨などで膿瘍を同定できないことがある。
CTガイド下
利点:膿瘍と周辺臓器との位置関係など、全体像の把握が超音波画像より容易である。また、超音波では判断の難しい、内部にガスを有する膿瘍などの同定も容易で、骨、腸管ガスなどにも影響されない。
欠点:穿刺方向を確認するため、CT撮影を複数回行う必要があり、放射線被曝が多めとなる1。
2経消化管的ドレナージ
詳細は他コラム(→『急性膵炎に対するドレナージ』)を参照されたい。
3経十二指腸乳頭的ドレナージ
詳細は他コラム(→『急性膵炎に対するドレナージ』)を参照されたい。
4手術的ドレナージ
利点:多房性・多発性、粘稠性、壊死性膿瘍でもドレナージ可能である。
欠点:全身麻酔下の手術となり、侵襲が大きい。
ケアのポイント
1排液性状の観察
後腹膜膿瘍ドレナージでは、ドレナージ部位や目的によって排液の性状や量が変わってくる。基本的には膿瘍に対するドレナージであるため、排液は膿性であり排出初期の性状を基本に考える。そのため、穿刺時に医師と排液の性状を観察し、性状の確認を行う。
2排液量の観察と閉塞予防
排液量の観察は、膿瘍の大きさなどによって異なる。基本的には排液量の減少により抜去を検討するが、急激な減少はドレーンの閉塞やドレナージ部位のずれが原因となる場合もある。排液の粘稠性が高い場合など、ドレーンの屈曲が継続することで閉塞の原因となるため、固定位置の工夫やミルキングが重要となる。
排液量の減少が認められた場合は、刺入部からドレーンバックまでのドレーンに屈曲やねじれがないことを確認する。これらがない場合には、ただちに医師に報告し、挿入部位のX線写真やCTなどによる画像診断を行い、膿瘍の状態を確認する。
3効果的なドレナージにつなげるケア
ドレナージが効果的に行われていない場合には、体温の上昇や倦怠感の増強など感染時の症状が悪化する。症状が進行することで循環動態が悪化することがあるため、バイタルサインを継続的に観察する。
後腹膜ドレナージは、背部や側腹部から挿入されることが多い。そのため、臥床時にはドレーンが長時間圧迫されることがあり閉塞の可能性が高まる。定期的なミルキングや除圧が重要である。
[引用・参考文献]
- (1)萩原真淸,太田豊裕,石口恒男:診断のための検査法CTガイド下穿刺吸引・ドレナージ.感染症道場2014;3(1):10-14.
- (2)丹野啓介,角田秀和,大河内知久,他:後腹膜・躯幹部組織の解剖と画像.臨床画像2011;27(6):711-718.
- (3)佐田尚宏:急性膵炎の診断と治療:新しい動向感染を合併したWON(walled-offnecrosis)の治療:外科的アプローチ.膵臓2014;29(2):223-228.
- (4)Young-FadokTM,PembertonJH:Managementofacutecomplicateddiverticulitis.http://www.uptodate.com/contents/management-of-acutecomplicated-diverticulitis(2015年6月1日アクセス)
- (5)髙橋聡,舛森直哉:泌尿器科領域におけるトラブルシューティングドレナージに関するトラブル回避.泌尿器外科2014;27(7):1119-1121.
- (6)蘆田浩:膿瘍ドレナージ.栗林幸夫監,IVRマニュアル第二版,医学書院,東京,2011:281-284.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林
[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社