直腸癌手術後ドレナージ
『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は直腸癌手術後ドレナージについて説明します。
髙木和俊
獨協医科大学医学部第二外科准教授
櫻岡佑樹
獨協医科大学医学部第二外科助教
窪田敬一
獨協医科大学医学部第二外科教授
大島由喜
獨協医科大学病院看護部
小山喜代美
獨協医科大学病院看護部看護師長
《直腸癌手術後ドレナージの概要》
主な適応 |
直腸癌手術症例のすべて |
目的 |
①情報ドレナージ:出血、滲出液の貯留、縫合不全など、術後の体腔内情報の獲得 ②予防的ドレナージ:体腔内の炎症や感染の限局化と予防 ③治療的ドレナージ:体腔内に貯留する血液・滲出液・膿などの排出 |
合併症 |
挿入部周囲の皮膚障害・感染、逆行性感染、ドレーンによる血管・腹腔内臓器の損傷 |
抜去のめやす |
術後第5~7病日 排ガス・排便があったこと 排液に汚染のないこと |
観察ポイント |
排液 :性状(出血、混濁、便汁様など)や量を確認する 固定部 :固定糸・テープを観察し、テープの汚染があれば交換する。挿入部・固定部の皮膚も観察する |
ケアのポイント |
術直後 :体動時や体位変換時に誤抜去やドレーンの屈曲を起こしやすいため、体動時は介助を依頼するよう患者に促す 座位の苦痛緩和 :経会陰・経肛門経路ドレナージは、座位時に苦痛を伴う。やわらかいマットの使用や、殿部の圧迫を抑える動作方法を指導する |
〈目次〉
- 直腸癌手術後ドレナージの定義
- 直腸癌手術後ドレナージの適応と禁忌
- 直腸癌手術後ドレナージの挿入経路と留置部位
- 直腸癌手術後ドレナージの合併症
- 直腸癌手術後ドレナージの利点と欠点
- 直腸癌手術後ドレナージのケアのポイント
直腸癌手術後ドレナージの定義
直腸癌手術におけるドレナージとは、術後に腹腔内・骨盤腔内に貯留する血液・膿・滲出液・消化液などの内容物を体外へ誘導・排出することである。
その目的によって、①情報ドレナージ、②予防的ドレナージ、③治療的ドレナージの3つに分類される(表1)。
直腸癌手術後ドレナージの適応と禁忌
当科では、術式(開腹手術か腹腔鏡下手術か)を問うことなく、直腸癌手術症例全例でドレナージを施行している。禁忌は設けていない。
直腸癌手術は、解剖学的に深部での操作である。骨盤内操作は感染のハイリスク因子で、縫合不全などの合併症の発生率は結腸癌手術に比べて高く、ひとたび感染が生じれば遷延しやすい1。術後の体腔内情報をモニタリングし、感染や縫合不全をはじめとする合併症を予防する目的で、多くの施設でもドレナージが行われている。
近年、ドレナージが感染や縫合不全の予防・防止となっていないことが多くの専門家から報告され2-6、ドレナージに対する考え方は変化しつつあり、ドレナージ不要論もある7。
しかし、情報ドレナージもしくは予防的ドレナージとして挿入・留置されたドレーンが、縫合不全などの合併症発症時には治療的ドレナージを担い、再手術とならずにすむことはしばしば経験する。ドレナージを行わず縫合不全を合併し死亡した事例では、医師側が不利となった判例もある8。ドレナージで得られる利益は大きい。
直腸癌手術後ドレナージの挿入経路と留置部位
開腹手術では、ドレーンは手術創とは別の部位から目的部位まで最短ルートで直線的に挿入する。
腹腔鏡下手術でも同様であるが、ポート挿入部からドレーンを挿入する。
ドレーンは挿入部周囲の皮膚と縫合糸で固定される。ドレーンが体腔外に逸脱したり、体腔内に迷入しないように固定する。
ドレナージは、ドレーンの挿入経路、ドレーンの接続回路、ドレナージの方法の3項目で分類できる(表2)。
1ドレーンの挿入経路
直腸癌術後の主なドレーンの挿入経路は、経腹壁経路、経会陰経路、経肛門経路の3つである。
経腹壁経路(図-a)
皮膚、皮下組織、腹壁を構成する筋を貫き、腹膜外を沿わせて腹腔内または骨盤腔内へ至る経路である。吻合部前面、吻合部後面、直腸肛門側断端、骨盤死腔などへ向けて挿入される。
ほとんどの直腸癌手術で用いられる挿入経路である。
経会陰経路(図-b)
ドレーンは座骨結節内側の会陰部より小骨盤腔に向けて挿入される。
腹会陰式直腸切断術で用いられる。
経肛門経路(図-c)
肛門から再建された腸管内に至る経路である。吻合部の減圧を図り、縫合不全を予防する目的で挿入される。
2ドレーンの接続回路
一般的に直腸癌手術時に挿入されるドレーンは、閉鎖式の受動的ドレナージであることが多い。情報ドレナージや予防的ドレナージを目的に挿入される。
感染や縫合不全が疑われる場合には、閉鎖式ドレーンをカットして開放式ドレーンとする。排液バックを接続することで生じる死腔を減らし、より直接的にドレナージが効くようにしている。ドレーン内の洗浄や吸引といった処置も容易になる。能動的ドレナージを行うことが難しくなるが、当科ではオープンタイプのパウチを用いて、半閉鎖式ドレーンとて工夫している(図1)。
直腸癌手術後ドレナージの合併症
いかなるドレーンも生体にとっては異物である。ドレナージを行うことで、程度の差こそあれ、違和感や痛み、体動の制限、QOLの低下は必ず発生することを意識すべきである。
長期にわたるドレーン留置は弊害になる。挿入部周囲の皮膚障害や挿入部感染のみならず、逆行性感染も認められる。ドレーンが逆行性感染の原因となることは古くから知られている。逆行性感染が少ないとされる閉鎖式ドレーンでも、術後24時間以上でcolonization(生着)率の増加、術後5日目からの排液細菌培養陽性率の増加が報告されている1。
ドレーンによる血管や腹腔内臓器の接触圧迫による損傷、不十分な固定によるドレーンの逸脱や迷入も経験するところである。
直腸癌手術後ドレナージの利点と欠点
挿入経路、接続回路、ドレナージ方法のそれぞれで、その利点と欠点を述べる。
1ドレーン挿入経路(表2-1)
経腹壁経路で挿入されたドレーンは、経会陰経路や経肛門経路で挿入されたドレーンに比較して、患者の体動制限は少ない。経会陰経路や経肛門経路で挿入されたドレーンでは、挿入部の違和感や痛みの訴えは多く、座位になれないとの訴えが聞かれることもある。
一般に経腹壁経路でドレーンを挿入された患者で術後生活の質は高い。その一方で、腹会陰式直腸切断術の際には、骨盤死腔までの距離は経腹壁経路で長く、経会陰経路で最短である。経会陰経路でより直接的で良好なドレナージが期待できる。
2ドレーン接続回路(表2-2)
開放式とした場合、排液バックが不要であるため、患者の体動制限は少ないが、ガーゼ交換の回数は多くなる。排液が直接皮膚に触れやすく不快感や皮膚障害は起こりやすい。排液の臭気が問題となることもある。
開放式ドレナージはドレーン内を吸引・洗浄して、ドレーン閉塞を確認・予防することができるが、逆行性感染のリスクは高くなる。感染を生じた場合には直接洗浄することが可能である。
閉鎖式とした場合には、排液の性状の観察と定量が容易で、感染率や細菌培養陽性率が低くなり、頻回のガーゼ交換は不要となる。管理費用の削減につながることも報告されている9。欠点としては、体動が制限されやすいこと、排液の臭気の変化に気づきにくいこと、ドレーン内腔の閉塞に気づきにくいことが挙げられる。
3ドレナージ方法(表2-3)
能動的ドレナージは、受動的ドレナージよりも良好なドレナージ効果が期待できる。しかし、常に陰圧がかかっている必要のある閉鎖式ドレナージのため、陰圧をかける装置が必要となり、回路は一般に受動的ドレナージより複雑である。患者の体動は制限されやすく、ドレーン内腔の閉塞に気づきにくい。体腔内臓器をドレーン内に巻き込み損傷する恐れもある。その管理には受動的ドレナージよりも注意を要する。
直腸癌手術後ドレナージのケアのポイント
ドレナージは、痛みや違和感、体動制限など、患者に何かしらの不利益をもたらす。
手術直後は、創部痛により体動や可動域が制限されやすい。体動時や体位変換時に誤抜去やドレーンの屈曲を起こしやすい。そのため、体動時は看護師に介助を依頼するよう患者に促す。
経会陰経路や経肛門経路で挿入されたドレーンは、座位時に苦痛を伴う。やわらかいマットの使用や、殿部の圧迫を最小限に抑える起き上がり動作の方法を指導する。
ドレナージの重要性を患者に啓蒙する。
以下に挙げる3項目に留意し、異常を察知した場合は、すみやかに医師・スタッフへ報告・連絡・相談することが重要である。
1ドレーンの固定
固定糸に異常がないか、牽引による皮膚障害が生じていないかなど、ドレーン挿入部を観察する。
ドレーンの屈曲・閉塞はないか、ルートを観察する。
ドレーン固定用テープも観察し、固定不備による自然抜去(脱落)や迷入がないよう注意する。固定用テープが排液で汚染されると、粘着力が低下して誤抜去や牽引による皮膚障害につながるため、固定用テープを交換する。
固定用テープは確実に固定できるテープを選択する。皮膚へのダメージを最小限に抑えるため、低刺激性テープの選択やΩ型留めをするなどの工夫を行う。
ドレーンは皮膚に確実に固定する。固定部位は関節や鼠径部などの折れ曲がる部位は避け、寝衣や下着の着脱、体位変換、起き上がり時、歩行時に支障がない場所を選択する。
ドレーンの固定部位は、経会陰経路や経肛門経路で挿入された場合、大腿部で固定することが多い。固定不備がないか特に注意する。
腹圧がかかったときに誤抜去しやすい。
観察時には、羞恥心が強い部位を露出することを理解し配慮する。
2排液・滲出液の性状・量
ドレーン挿入部からの滲出液の有無、性状、量を観察する。
滲出液が増加し、排液バックへの排液量が減少している場合は、有効にドレナージされていない。ドレーンの閉塞やドレーンの留置位置が不適切となった可能性がある。
ドレーン内の排液の性状・量は定期的に観察する。
ドレーン排液が血性となり、排液量が増える場合は「出血」を疑う。
排液の性状が混濁した場合や便汁様に変化した場合は「縫合不全」を疑う。
腹部症状の有無やバイタルサインの変動を確認する。
腹痛やバイタルサインの変動がみられる場合、ドレーンの排液の変化がみられなくても、出血や縫合不全を引き起こしていることがある。
3感染予防
ドレーン挿入部の汚染に注意し、フィルムドレッシング材を活用する。
挿入部痛や皮膚の発赤・熱感・腫脹が観察された場合は、炎症や創部感染の可能性を考える。
ドレーン挿入部位よりドレーンの排液バックを高く上げると「逆行性感染」の可能性が高くなる。排液バックはドレーン挿入部より低位に保つ。
[引用・参考文献]
- (1)問山祐二,井上靖浩,小林美奈子,他:予防的ドレーン挿入のpros and cons.日本大腸肛門病学会誌 2009;62(10):834-838.
- (2)Sagar PM, Hartley MN, Macfie J,et al. Randomized trial of pelvic drainage after rectal resection.Dis Colon Rectum 1995; 38(3):254-258.
- (3)Brown SR, Seow-Choen F, Eu KW,et al. A prospective randomized study of drains in infra-peritoneal rectal anastomoses. Tech Coloproctol 2001;5(2):89-92.
- (4)Puleo FJ, Mishra N, Hall JF. Use of Intra-abdominal drains. Clin Colon Rectal Surg 2013;26(3):174-177.
- (5)Dougherty SH, Simmons RL. The biology and practice of surgical drains. part II.Curr Probl Surg 1992;29(9):633-730.
- (6)Scott H, Brown AC.Is routine drainage of pelvic anastomosis necessary ?. Am Surg 1996;62(6):452-457.
- (7)Merad F, Hay JM, Fingerhut A, et al.Is prophylactic pelvic drainage useful after elective rectal or anal anastomosis? A multicenter controlled randomized trial.Surgery 1999;125(5): 529-535.
- (8)古川俊治:縫合不全・穿孔.メディカル クオリティ・アシュアランス 判例にみる医療水準,医学書院,東京,2000:207-209.
- (9)篠原徹雄:閉鎖式および開放式ドレーン管理費用の無作為比較試験. 日外感染症会誌 2006;3(1):77-81.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社
[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社