肛囲膿瘍ドレナージ
『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は肛囲膿瘍ドレナージについて説明します。
岩﨑喜実
筑波記念病院消化器外科診療科長
窪田敬一
獨協医科大学医学部第二外科教授
須藤百合子
獨協医科大学病院看護部
福田敏子
獨協医科大学病院看護部
《肛囲膿瘍ドレナージの概要》
主な適応 |
肛囲膿瘍がある症例 |
目的 |
膿の排出を促進し、消炎と膿瘍増悪を防ぐ |
合併症 |
出血、肛門狭窄、肛門機能障害、肛囲膿瘍再発 |
抜去のめやす |
低位筋間膿瘍ドレナージはドレーン留置なし、深部・多発膿瘍では膿汁排液の消失にてドレーン抜去 |
観察ポイント |
切開時:気分不快や疼痛の有無を確認、声かけやバイタルサインチェックを行う。排膿液の性状(膿性・漿液性・出血)、出血量を観察する |
ケアのポイント |
感染予防:排液の付着したガーゼ類はスタンダードプリコーションに則り処理する 清潔保持:排便時は創部が汚染されるため、温水洗浄便器の使用やシャワー浴を勧め、保清に努めるよう指導する |
〈目次〉
肛囲膿瘍ドレナージの定義
肛囲膿瘍とは、肛門管と直腸周囲に細菌感染が起こり、膿瘍を皮下、粘膜下、筋間に形成する疾患である。
歯状線上の肛門洞下端部にある窪みを肛門陰窩(小窩)と呼び、細菌がこの肛門陰窩より侵入感染し、周囲に化膿性炎症が波及し、肛門直腸周囲に膿瘍を形成する(図)。
肛囲膿瘍は抗生物質による治癒は期待できず、自然に自潰するまでは時間を要し、膿瘍の早期切開排膿により膿の排出を促進し、消炎と膿瘍増悪を防ぐ処置が肛囲膿瘍ドレナージであり、日常肛門疾患診療での必須処置である。
肛囲膿瘍ドレナージ後は、難治性の瘻管が形成されることがあり、痔瘻に移行し、後日痔瘻根治術が必要となることが多い。
肛囲膿瘍ドレナージの適応と禁忌
肛囲膿瘍があれば、肛囲膿瘍ドレナージが適応となる。
一般的な肛囲膿瘍は、肛門陰窩からの細菌感染から痔瘻に移行することが多いが、感染性アテロームや膿皮症などのように皮膚から感染したものや、魚骨など直腸肛門内異物や浣腸操作による外傷性やクローン病などの特殊な病因による肛囲膿瘍もある。
肛門疾患には、血栓性外痔核や嵌頓痔核、肛門周囲炎、肛門瘙痒症など多彩であり、十分な鑑別診断が必要となる。不必要な肛囲膿瘍ドレナージは慎むべきであり、皮膚科医との連携も重要となる。
特殊な肛囲膿瘍として、糖尿病や免疫不全など基礎疾患を有する患者で発症する「フルニエ症候群」(フルニエ壊疽)がある。これは、嫌気性菌による壊死性筋膜炎が、肛門周囲だけでなく、短時間で会陰、殿部から大腿にまで達する進行性の疾患である。通常の肛囲ドレナージのみでは不十分であり、広範囲な皮膚切開と壊死組織の除去を必要とし、致命的になることも多いため、注意を要する。
肛囲膿瘍ドレナージの挿入経路と留置部位
1低位筋間膿瘍、皮下膿瘍
最も頻度の多い低位筋間膿瘍や皮下膿瘍では、外来での局所麻酔下切開排膿術で問題はない。前投薬や前処置の必要はなく、体位はシムス位が多いが、砕石位やジャックナイフ位でも行う(図1)。
用意する物品を図2に示す。
膿瘍直上の皮内と周囲皮下に、局所麻酔にて浸潤麻酔する。
膿瘍の頂点で、波動の中心部を皮膚切開する。皮膚切開は、肛門に対して放射状に切開する「①放射状切開法」や、早期の切開創癒着によるドレナージ不良を回避するには「②十字切開法」が選択される(図3)。
皮膚切開創より、膿瘍腔内にペアン鉗子を挿入し、皮膚切開創を拡張させると膿汁が噴出し、ドレナージが効果的となる(図3)。ドレーン留置は通常必要とせず、排膿後は当てガーゼのみで、込めガーゼも必要としない。
2深部・多発膿瘍、疼痛が著しい症例
骨盤直腸窩膿瘍や高位筋間膿瘍などの深部膿瘍や多発膿瘍、疼痛が著しい症例では、腰椎麻酔、仙骨硬膜外麻酔あるいは静脈麻酔下での肛囲膿瘍ドレナージが必要であり、入院管理とする。
高位筋間膿瘍の場合、肛門周囲の皮膚側では膿瘍を触知しないため、肛門管内指診にて膿瘍を触知し、切開する。切開経路として、肛門管粘膜側から切開排膿する「①粘膜側切開法」と、肛門縁の皮膚側からアプローチし、切開排膿する「②肛門縁側切開法」がある(図4)。
肛門管粘膜側から切開する際は、血管損傷を回避するため縦方向の粘膜切開を行う。この方法は、粘膜切開部と膿瘍腔まで最短距離であり、ドレーンの留置を必要としないが、皮膚側からのアプローチでは、膿瘍腔までの距離が長くなるため、ペンローズドレーンを留置する(図4)。
坐骨直腸窩膿瘍や骨盤直腸窩膿瘍でも排膿経路が長くなり、ペンローズドレーンやチューブ型ドレーンの留置にて肛囲ドレナージする。
肛囲膿瘍ドレナージの合併症
- ①出血:粘膜切開例や抗凝固薬内服例、出血傾向のある患者では注意が必要
- ②肛門狭窄:まれではあるが、切開創の治癒後に肛門管の変形や狭窄
- ③肛門機能障害:肛門括約筋損傷により合併
- ④肛囲膿瘍再発:切開創早期癒着やドレナージ不良にて膿瘍再燃
肛囲膿瘍ドレナージの利点と欠点
利点:排膿ドレナージにより、効率的に排膿され、肛囲膿瘍の悪化を防ぐ。膿瘍腔内圧上昇による肛門周囲痛のすみやかな改善や、発熱の遷延を防いですみやかな解熱効果が得られる。
欠点:外来での局所麻酔時の疼痛は著明である。意識下でのシムス位や砕石位は羞恥心を伴う。
肛囲膿瘍ドレナージのケアのポイント
1挿入前の看護
病態を把握し、ドレナージの目的・処置方法・経過などの医師からの説明が理解できているか確認する。不明時は補足し、患者の精神的不安の軽減を図る。
必要物品(図2)を準備する。
検査着に着替え、掛け物や空調による室温調節を行い、患者プライバシーの保護に努める。
局所麻酔の必要性を説明する。
バイタルサインチェックを行う。
創部の状態に対して経過を追って継続的に観察する必要があるため、場合によっては写真を撮影し画像で評価することを患者に説明し、了承を得る。
2挿入時の看護
処置時の体位はシムス位を基本とする。
処置用シーツを敷き、汚染の予防に努める。
スタンダードプリコーションに沿って必要物品を滅菌シーツの上に準備する。
患者に局所麻酔を行うことを伝え、緊張を緩和するよう声をかけ、同時に副作用の確認を行う。
切開時は排膿液の性状(膿性・漿液性・出血)を観察し、標本としての提出の有無を確認する。
気分不快や疼痛の有無を確認して声をかけ、バイタルサインチェックを行い、異常の早期発見に努める。
出血があるときは、出血量の把握と止血の有無を確認する。
洗浄を行う際は、生理食塩液を準備する。
ペンローズドレーンのサイズを確認し、必要なドレーンを準備する。絹糸またはナイロン針で縫合することを伝える。
ガーゼを貼付し、終了となったことを説明する。
排液の付着したガーゼ類は、スタンダードプリコーションに則って処理し、感染予防に努める。
3挿入後の看護
排便時は創部が汚染されるため、温水洗浄便器の使用やシャワー浴をすすめ、保清に努めるよう指導する。
帰宅後の創部保護として、ガーゼ以外に生理用ナプキンなども排液の吸収に役立つことを説明する。
持続する疼痛や多量の出血、滲出液の性状の変化やドレーンが抜去された場合は、病院に連絡し対応を確認するよう説明する。
看護の経過を記録し、再診時の評価にも結びつける。
4再診時の看護
再診時は切開周囲組織の感染徴候を観察し、症状が軽減しているか確認する。
ドレーンの逸脱・屈曲・閉塞がなく、ドレナージが効果的に行えているか、排液状況の確認を行う。
発熱の有無や熱型の確認を行う。
創部疼痛の程度をフェイススケール(図5)やvisual analogue scale(VAS)スコアを用いて評価し、経過表に残す。
患者に患部の写真撮影の許可を得て、前回の創部状態と比較し、記録に残す。
日常生活における問題を把握し、アドバイスを行うなど支援する。
[引用・参考文献]
- (1)佐原力三郎,岩垂純一:直腸,肛門周囲膿瘍.岩垂純一編,実地医家のための肛門疾患診療プラクティス改訂第2版,永井書店,大阪,2007:99-102.
- (2)髙木和俊,窪田敬一:事故を起こさないための各種病態におけるドレーン管理肛囲膿瘍ドレナージ.臨床看護2003;29(6):889-892.
- (3)三浦まき:肛囲膿瘍ドレナージ.佐藤憲明編,ドレーン・チューブ管理&ケアガイド,中山書店,東京,2014:123-125.
- (4)富松昌彦,川野良子編:消化器疾患ベストナーシング.学研メディカル秀潤社,東京,2009:128-130.
- (5)井廻道夫,菅原スミ編:新体系看護学全書成人看護学⑤消化器第2版.メヂカルフレンド社,東京,2012:240-241.
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[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社