泌尿器科の一般手術後ドレナージ|腎瘻・膀胱瘻・尿管ステント尿道カテーテル
『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は泌尿器科の一般手術後ドレナージについて説明します。
米瀬淳二
がん研有明病院泌尿器科部長
山尾文子
がん研有明病院看護部副看護師長
佐野美穂
がん研有明病院看護部(10階東病棟)副看護師長
《泌尿器科の一般手術後ドレナージの概要》
主な適応 |
術式によって異なる(各項目参照) |
目的 |
①術後のリンパ液・血液の貯留防止 ②重大な合併症の早期発見および液体貯留による合併症の重症化の防止 ③尿管ステント・尿道カテーテル:尿の排出を促し、尿のうっ滞や尿路外への漏出を防ぐ ④腎瘻・尿管ステント・尿道カテーテル:尿の通過障害(腎後性腎不全)を解除する |
合併症 |
挿入時:臓器損傷など各ドレナージによる 留置中:膀胱炎、腎盂腎炎、尿路感染症など各ドレナージによる |
抜去のめやす |
腎瘻・膀胱瘻・尿管ステント:長期留置(1〜3か月ごとに交換)の場合もある 尿道カテーテル:術式によって異なるが、術後1~14日程度 |
観察ポイント |
尿の状態(量・色・性状・臭気)、全身状態(バイタルサイン・検査値)、挿入部・カテーテル全体(固定部・皮膚・カテーテル接続部など)を観察する |
ケアのポイント |
感染予防:容易に感染を起こしやすく、重症化しやすい点を念頭にケアにあたる 長期留置時:退院後の管理方法や定期受診などを患者の状況に合わせて指導する |
〈目次〉
はじめに
泌尿器科の一般手術後ドレナージの目的は、以下の2点である。
上記2点は、泌尿器科手術にかかわらず、一般的な外科手術と同様である。
それ以外に泌尿器科独特のものとして以下が挙げられる。
- ③尿路再建時に尿路の内腔に留置して尿のスムーズな排出を促し、尿のうっ滞や尿路外への漏出を防ぐ目的で留置される「尿管ステント」「尿道カテーテル」
- ④尿の通過障害(腎後性腎不全)を解除する目的で留置される、「腎瘻」「尿管ステント」「尿道カテーテル」
本稿では尿路独特のドレナージである腎瘻、膀胱瘻、尿管ステント、尿道カテーテルについてそれぞれ概説する(表1)。
腎瘻
1腎瘻の定義
腎瘻は、腎盂腎杯内の尿を直接皮膚から体外にドレナージする。内視鏡的な経皮的腎砕石術後には、内視鏡の挿入経路に腎瘻が留置されるが、開放手術の場合は術後に造設されることはほとんどない。
2腎瘻の適応
一般手術後に限れば、尿管を腎盂近傍で切断する必要のある悪性腫瘍手術後に尿路を確保するなど、特殊なケースに限られる。
3腎瘻の挿入経路と留置部位
挿入経路は、皮膚→皮下→筋層→腎周囲脂肪→腎実質→腎杯→腎盂である(図1)。
4腎瘻の合併症
留置時:自然抜去、腎盂炎がある。
5腎瘻の利点と欠点
利点:尿のドレナージ効果が確実に行える。
欠点:背面に作成されることが多く、採尿バッグが必要で管理が煩わしい。自然抜去の可能性や、定期的な交換が必要となる(腎盂バルーンで4週、シリコン製ピッグテール型カテーテルで3か月に1回程度)。
膀胱瘻
1膀胱瘻の定義
膀胱に直接恥骨上からカテーテルを留置する。
2膀胱瘻の適応
回腸利用新膀胱造設術後、新膀胱内の腸粘液の洗浄のため一時的に新膀胱内に留置されることもある(筆者らは最近尿道カテーテルのみとしている)。
まれではあるが、外陰部腫瘍や尿道腫瘍で膀胱以下の尿路を切除したとき。
3膀胱瘻の挿入経路と留置部位
回腸利用新膀胱の場合には、新膀胱と腹壁の接する部位(恥骨上だが正中とは限らない)に造設される(図2-❶)。
機能する膀胱があり、それより下部尿路が使えない場合には、恥骨上の皮膚から腹直筋と膀胱前腔の脂肪を経由して膀胱内に留置される(図3)。
4膀胱瘻の合併症
新膀胱の場合:腹腔内への尿漏れ、閉塞を契機とした尿路感染症、新膀胱破裂がある。
膀胱の場合:自然抜去、慢性の膀胱炎がある。
5膀胱瘻の利点と欠点
新膀胱の場合
利点:尿道留置のみの場合と比べ2系統あるため、確実なドレナージが期待できる。
欠点:術後一時的な膀胱瘻のため、膀胱瘻抜去時に新膀胱の穴から一時的に尿が腹腔内に漏れる可能性がある。
尿道腫瘍などの術後の場合
利点:回腸導管などの尿路変向より簡便で、手術の負担が少ない。
欠点:カテーテル留置が必要であり、定期的な交換が必要である。また、膀胱の収縮により脇から尿が漏れたり、カテーテルによる違和感がある。
尿管ステント
1尿管ステントの定義
腎盂から膀胱まで尿管内に留置する「ダブルJステント(カテーテル)」(図4-①)と、回腸導管や新膀胱造設術術後腎盂から尿管を経由して体外に出す「シングルJステント(カテーテル)」(図4-②)がある。
2尿管ステントの適応
尿管尿管吻合、尿管膀胱新吻合、尿管(回腸)導管吻合など尿路再建術後に留置する。
吻合部が安定するまで一時的に(1~4週間)留置し、吻合部での尿路通過障害や尿瘻などを防ぐことを目的とする。
永久的な尿管皮膚瘻では、尿管皮膚瘻の狭窄が必発であるため、この部位での通過障害を解消する目的で永久的にシングルJないしダブルJステントが留置され、定期的に交換される。
3尿管ステントの挿入経路と留置部位
尿管再建後ダブルJステント:尿管孔→尿管→腎盂(図5)
尿路変向後、回腸導管の場合:回腸導管のストーマ→導管内→尿管導管吻合部→尿管→腎盂(図6)。
尿路変向後、回腸利用新膀胱の場合:皮膚→新膀胱→尿管新膀胱吻合部→尿管→腎盂(図2)
尿路変向後尿管皮膚瘻の場合:尿管皮膚瘻→尿管→腎盂(図7)
4尿管ステントの合併症
カテーテルの閉塞による腎盂腎炎、自然抜去による尿瘻や通過障害がある。
5尿管ステントの利点と欠点
利点:術後確実な尿のドレナージが可能で、尿量のモニタリングが正確にできる。また、吻合部が安定するまで、吻合部での尿路通過障害や尿瘻などを防ぐことができる。
欠点:逆行性尿路感染の原因となりうる。
尿道カテーテル
1尿道カテーテルの定義
一般手術後の尿道カテーテルは、術後自排尿が困難な時期に留置するものがほとんどであるが、腎部分切除術や腎尿管全摘術、膀胱部分切除術、前立腺全摘術の術後では、血尿の状況により手術部位からの出血などの情報が得られる。
膀胱全摘術後の新膀胱造設では、腸粘液による閉塞に注意が必要である。
2尿道カテーテルの適応
ほぼすべての手術、極度の尿道狭窄などがなければ、通常留置可能である。
3尿道カテーテルの挿入経路と留置部位
前立腺全摘術後、腎摘術後など:外尿道口→尿道→膀胱(図8)
新膀胱造設術後:外尿道口→尿道→新膀胱(図2)
4尿道カテーテルの合併症
挿入時:粗暴な留置操作による尿道損傷や、仮性尿道経由による膀胱への留置(尿道を突き破ってから膀胱に留置)、尿道内でバルーンを膨らませることによる尿道損傷がある。
留置中:自己抜去による尿道損傷がある。
5尿道カテーテルの利点と欠点
利点:術後、正確な尿量や尿性状のモニタリングが可能である。
欠点:違和感がある。
泌尿器科のドレナージのケアのポイント
泌尿器科のドレナージは、尿路にカテーテルが直接挿入されており、容易に感染を起こしやすく、重症化しやすい点をよく理解しておく。
1カテーテルの観察と注意点
カテーテルの観察と注意点を表2に示す。
2各項目のケアのポイント
腎瘻・膀胱瘻
挿入時は、腎機能や炎症反応が悪化している場合がある。そのため、こまめに全身状態を観察しながら、異常の早期発見に努め、全身状態が安定したあとカテーテル管理を指導する。
腎瘻挿入部は縫合しているだけで抜けやすいため、引っ張らずにゆとりをもって固定する(図9)。
退院後もカテーテル管理が必要となる場合が多いため、患者の精神的な負担は大きく、退院後の生活に不安を感じている。患者の受容の状況や理解力、取り巻く環境に合わせた指導が重要である。
尿管ステント
尿管ステントには、体内に留置されているもの(ダブルJステント)と、体外的に固定されているもの(シングルJステント)がある。
体内に留置されている場合は、定期的な交換の必要性を説明し、定期受診するように指導を行う。
体外的に固定されている場合は、皮膚で固定されている。誤って抜去しないよう注意する必要がある。また、尿管や腸管の蠕動運動により脱落があるため、適宜留置位置をX線画像で確認する。
尿道カテーテル
尿道カテーテルは、術後の患者には必ず挿入される。挿入時はテネスムス*1が非常に強いため、薬剤による苦痛の緩和に努める。しかし、血尿によるテネスムスの可能性もあるため、必ず下腹部を触知し、緊満の有無や尿の状態を確認する必要がある。
抜去のめやすを表3に示す。
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社
[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社