PEGの造設術|PEGの造設方法・造設部位の選び方とPEG造設前後の管理ポイント
『病院から在宅までPEG(胃瘻)ケアの最新技術』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回はPEGの造設術について説明します。
倉 敏郎
町立長沼病院院長
佐々木宏嘉
町立長沼病院内科・消化器科部長
Point
〈目次〉
- はじめに
- PEGの造設方法
- 造設部位の決定
- 胃壁固定の必要性
- 造設方法の選び方(特殊症例)
- 知っておきたいPEG術前・術後の管理
- 【事例】造設後、早期にPEGカテーテルの事故抜去が起きた!
- 【コラム】在宅医療の現場から
はじめに
PEG(percutaneousendoscopic gastrostomy:経皮内視鏡的胃瘻造設術)造設法には、プル(Pull)/プッシュ(Push)法と、イントロデュー サー(Introducer)法という2種類の方法があります(文献1)。さらに現在は、イントロデューサー法の改良型であるイントロデューサー変法も実施されるようになってきました(表1)。
PEG造設時には、それぞれの特徴を知ったうえで、造設方法を選択することが要求されます。
病棟スタッフは、「造設後の周術期(特に術後1週間)は、よい瘻孔が形成されるための大切な時期であるため、注意深い観察が必要である」ことを知っておくことが重要です。
PEGの造設方法
1プル/プッシュ法(図1)
プル/プッシュ法の造設の手順
プル/プッシュ法は、最も歴史のある手技です。手順を図1に示します。
- ①内視鏡を挿入し、穿刺部位を決定したあと、局所麻酔針による試験穿刺を行う。その後、本穿刺を行い、穿刺針の外筒よりガイドワイヤーを挿入する。
- ②内視鏡下で、スネアを用いてガイドワイヤーを把持し、内視鏡とともに経口的に体外に出す。
- ③プッシュ法ではガイドワイヤーに沿わせて、プル法ではガイドワイヤーに結びつけて、PEGカテーテルを経口的に挿入していき、胃壁から体外へ出す。
- ④内視鏡を再度挿入し、カテーテルが適切な位置に留置されたこと、胃内に出血がないことを確認して終了となる。
プル/プッシュ法の特徴
プル/プッシュ法は、一期的に20~24Frの太いカテーテルを留置できます。バンパー型カテーテルを用いるため、耐久性もあり、次回交換までの期間が長い(4か月以降)というメリットがあります。
しかし、カテーテルが口腔内を通過するため、口腔内常在菌との接触が避けられません。清潔手技が困難であり、創部感染の原因となります。
2イントロデューサー法(図2)
イントロデューサー法の造設の手順
イントロデューサー法は、内視鏡下でトロカール針を経皮的に胃内へ直接穿刺し、内筒を抜去したあと、バルーン型カテーテルを胃内に挿入する方法です。
留置される内部ストッパーがバルーンであるため、バルーンの破損や事故抜去に備え、胃壁固定の併用が必須です。
イントロデューサー法の特徴
イントロデューサー法は、内視鏡挿入が1回で済み、カテーテルは清潔野である腹壁から直接挿入されるため、清潔手技が可能です。
ただし、造設時には、キットの構成上14Frの細いカテーテルしか挿入できません。細いカテーテルのままだと詰まりやすいため、徐々に太いカテーテルに交換していく必要があり、手技に煩雑さが伴います。
3イントロデューサー変法
新しい造設方法(造設キット)の開発
イントロデューサー法のデメリットを改良した新しい方法がイントロデューサー変法です。
現在のところ、造設キットとして「カンガルーセルジンガーPEGキット(日本シャーウッド)」と「ダイレクトイディアルPEGキット(オリンパスメディカルシステム)」が販売されています。
いずれも、①清潔操作で造設可能、②安全な瘻孔の拡張とカテーテルの挿入、③一時的に太いカテーテル留置が可能、④留置するのはバンパー型ボタンというのが特徴です。
「カンガルーセルジンガーPEGキット」の造設方法を図3に示します。
図3イントロデューサー変法(カンガルーセルジンガーPEGキット)の手順
イントロデューサー変法が推奨されるケース
①頭頸部癌や食道癌
プル/プッシュ法では、カテーテルが腫瘍部を通過するため、胃瘻部への腫瘍のimplantation(転移)が起こります(図4)。
イントロデューサー変法の場合、経皮的に胃内へ直接穿刺するため、腫瘍の転移は起こりません。
②開口障害
従来のプル/プッシュ法では、「鎮静や開口器を使って、ようやく口から内視鏡を挿入する」ことがしばしばあり、これが患者側にも、医療者側にもストレスとなっていました。
イントロデューサー法やイントロデューサー変法では、内視鏡は観察のみに使われるため、経鼻内視鏡で対応できます。
③創部感染対策が必要な場合
イントロデューサー変法は、創部感染対策として有用です。
MRSA(methicillin resistant staphylococcus aureus:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染などがあると、難治性瘻孔周囲炎が起こるといわれています(文献2)。そのため、清潔操作可能な手技が望ましいとされています。
造設部位の決定
安全なPEG造設の最重要事項は、「適切な穿刺部位の選択」に尽きるといえます。
穿刺部位決定時には、内視鏡で送気し、胃壁と腹壁を密着させたうえで、以下の確認を行うのが基本です(図5)。
- ①指サイン:腹壁側から指で押すと、胃壁が盛り上がって見えることを確認する。
- ②イルミネーションテスト:部屋を暗くし、内視鏡のライトが腹壁側から透過されることを確認する。
上記①②を行ったうえで局所麻酔針による試験穿刺を行い、針が確実に胃内に貫通することを確認します。
術前のX線撮影や腹部CTで、肝臓や結腸に胃が隠れる場合(実際のPEG造設時は内視鏡からの送気によって胃が膨らむので、あくまでも参考所見)、穿刺部位の決定が困難なことが予想されるため、X線透視下での穿刺も考慮します。
穿刺部位は、このように慎重に決定されますが、時には肝臓や横行結腸の誤穿刺が起こりうるため(図6)、造設後は、常にこのような状況に陥っていないかを十分に観察する必要があります。
胃壁固定の必要性
「胃壁固定」とは、本穿刺に先立ち、胃壁と腹壁を数か所縫合固定することです(図7)。わが国では「鮒田式(ふなだしき)胃壁固定具」が市販されており、それを用いて行います。
胃壁固定は、イントロデューサー法・イントロデューサー変法では必須の手技です。また、事故抜去の危険性が高い患者や、腹水がある場合には有用と考えられています。
胃壁固定のメリットを以下に示します。
- ①本穿刺を容易に安全に実施できる。
- ②瘻孔形成前に胃壁と腹壁が解離するのを防ぐ(早期にカテーテルが事故抜去された際も、安全に再挿入できる)。
- ③胃壁と腹壁との癒着面積が増すことで、堅固な瘻孔形成を促し、交換時の瘻孔損傷のリスクを軽減する、など。
一方、デメリットとしては、コスト高になる、手術時間の延長、穿刺回数の増加による出血リスクの増加、固定糸の締めすぎによる局所の痛みや虚血、などが挙げられます。
上記のように、胃壁固定にはさまざまなメリットが考えられますが、世界的に見ると、いまだ明確なエビデンスがない状況です。
筆者は、胃壁固定をルーチン化していない時期に、事故抜去により重篤化した症例を経験しました(→事例)。それ以来、全例に胃壁固定を行っています。
造設方法の選び方(特殊症例)
それぞれの特徴をふまえた造設方法の選択について以下にまとめます(表2)。
1残胃
残胃の症例では、穿刺する場所が小さく限定されています(時に穿刺困難な症例もある)。
そのため、太い穿刺針を挿入するイントロデューサー法や、胃壁固定が必須なイントロデューサー変法は、やや困難であると思われます(もちろん残胃でも可能な症例はある)。
2腹水
腹水が少量であれば、胃壁固定を用いれば、どの方法でも比較的安全に行うことができます。
しかし、癌性腹水の場合は注意が必要です。ボタン型カテーテルを選択すると、その後の腹水の増加によってカテーテルがきつくなって血流障害が起き、「バンパー埋没症候群(MEMO)」のような状況に陥ることがあるためです。
そのため、造設時には、余裕のあるシャフト長のボタンを選択するか、チューブ型カテーテルを使って造設します。
MEMOバンパー埋没症候群
バンパーの圧迫により、胃壁に血流障害が生じて壊死を起こし、バンパーが胃壁・腹腔内に埋没する合併症。
3癌による頭頸部・食道の狭窄
頭頸部や食道の悪性腫瘍による狭窄症例では、できるだけプル/プッシュ法を避けます。
ただし、減圧胃瘻の場合には、ある程度のカテーテルの太さが必要であるため、イントロデューサー法では困難です。
咽頭からMRSAが検出される場合は、清潔操作が可能なイントロデューサー法やイントロデューサー変法を選択すべきです。
知っておきたいPEG術前・術後の管理
1術前の管理
術前に必要な検査を以下に示します。
- 血液生化学一般検査
- 胸腹部単純X線検査
- 腹部エコー(腹水の存在が疑われた場合)
- 腹部CT(肝臓や大腸が胃の前面に存在する可能性がある場合など。町立長沼病院では、ほぼ全例に実施)
- 咽頭の細菌培養
- 凝固止血能検査(特に抗凝固薬を服用している患者の場合は、投与中止を忘れないこと、PEG施行前には必ず凝固止血機能検査を確認することが重要)
また、PEG造設に伴う誤嚥性肺炎の予防として、口腔ケアの徹底も重要です(摂食・嚥下障害がある患者の場合は、PEG施行の有無にかかわらず口腔ケアが重要)。
便秘気味で大腸ガスが多い場合は、浣腸を行ってガスを減らすことにより、横行結腸誤穿刺のリスクが軽減されます。
2術後の管理
PEG造設の当日~翌日は、出血の有無に注意が必要です。カテーテルは開放ドレナージとし出血の有無をモニタリングします。
術後3日間(2日間という施設もあります)は抗生物質を投与し、創部感染と誤嚥性肺炎の予防につとめます。
術後、創部には炎症性の浮腫が起こります。そのため、カテーテルがきつくならないように、ゆるめる必要があります。チューブ型カテーテルでは外部ストッパーを0.5~1cmゆるめます。翌日もきついと感じた場合は、適切にゆるめることが必要です。担当医に施行してもらってください。
創部の管理には、以前は「毎日イソジン®液による消毒が必要」といわれてきました。しかし、褥瘡管理をはじめとする創傷治癒に関する考え方の進歩により、現在は「消毒は不要/洗浄あるいは清拭による局所の清潔管理で十分」とされています。1週間経過し、スキントラブルがなければ、シャワー浴・入浴も可能です。
カテーテルは、毎日の栄養投与の際にスムーズに回転すること、ゆるめに固定し、カテーテルが上下できることを必ず確認してください(図8)。これは、バンパー埋没症候群の早期発見のために重要です。スムーズに回転しなかったり、きつく感じたりした場合には、担当医への報告が必要です。
【事例】造設後、早期にPEGカテーテルの事故抜去が起きた!
PEG造設直後のトラブルのなかでも、「PEGカテーテルの事故抜去」は、腹壁と胃壁の解離から腹膜炎へとつながる重篤な合併症です。
ここでは、町立長沼病院で経験したPEGカテーテルの事故抜去(不完全抜去)により、腹部皮下気腫を生じた例を紹介します。
患者の情報
90歳女性。認知症によって経口摂取が困難となり、PEG造設を行った。術中にはトラブルを認めなかったが、造設5日後、腹部に皮下気腫が出現した。当初、皮下気腫の原因は、よくわからなかった。
1皮下気腫の原因の検索
翌日(造設6日後)、腹部CT検査を行ったところ、カテーテルの内部ストッパーが腹壁と胃壁の間に位置しており(図9)、カテーテルの不完全事故抜去によって皮下気腫が生じたものと考えられました。
腹部を詳細に観察すると、図10に示すように、カテーテルの外部ストッパーの位置が通常より浮き上がっており、瘻孔部の皮膚が内部から押し上げられたように軽く盛り上がっていました(前日は気付きませんでした)。
胃内視鏡を施行したところ、内部ストッパーが、バンパー埋没症候群のように粘膜下に埋もれていることがわかりました。
2胃壁固定後にカテーテル抜去
この状態のままカテーテルを抜去すると、胃壁と腹壁が解離し、胃液が瘻孔から腹腔内に漏れて腹膜炎を起こしてしまうため、鮒田式胃壁固定具を用いて胃壁固定を行ったあと、カテーテルを抜去しました(図11)。
その後、状態が安定したあとに、改めてPEG造設を行いました。
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町立長沼病院では、この症例を経験するまで造設時に胃壁固定を行っていませんでしたが、この後は必ず胃壁固定を併用してPEG造設を行っています。
【コラム】在宅医療の現場から
PEG造設の適応─好きなもの、おいしいものは口から?
在宅医療を行っていると、パーキンソン病や脳梗塞後遺症の患者では、徐々に摂食能力が落ちてきたり、嚥下障害が起きてきたりするケースを見かけます。このような患者では、「食事は摂れるけれど、十分量を摂取できていない」ということがあります。
食事摂取量が十分でない場合には、PEG造設の適応判断をかねて入院してもらい、摂食・嚥下機能検査を行います。必要があれば、摂食訓練も行います。こうすることで、できるだけ長く口から食べてもらうことができるはずです。ただし、摂食訓練を行っても十分に食事が摂れない場合は、不足分をPEGから注入することで問題なく生活できるようになります。
摂食・嚥下障害を起こす危険性のある患者の場合には、家族によく観察してもらったり、簡単な喫食調査などを行ったりして、十分に栄養が摂れているか見ていくことが大切です。
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PEG造設後、在宅に移行した患者で「経口摂取の可能性がある」と感じた場合、嚥下機能の再評価をお願いすることも、とても大切です。 先日来院した90歳のおじいさんは「毎日食事を十分に摂るのはつらい。たくさんは食べられないが、おいしいものは食べたいので、それ以外を胃瘻から入れればいいと思うのです。PEGをつくってください」としっかりした口調で言いました。「なるほど、そういう適応もあるのかな」と思いました。
私は甘党ですので、シュークリームやチョコレートだけを経口で摂りながら、PEGからエンシュア・リキッド®などを入れてもらえればいいかもしれません。それよりも、バナナ味やコーヒー味の、甘いエンシュア・リキッド®を飲んだほうがいいのでしょうか?
(岡田晋吾)
新しいPEGカテーテル?
先日、ケアマネジャーから「新しくPEGをつけた認知症の患者が在宅に戻ったので診てほしい」と連絡がありました。病院主治医からの紹介状には「以前、大腸の手術をしており、癒着もあるため、開腹して胃瘻を造設しました」と書いてありました。
実際に訪問して見てみると、PEGカテーテルに詳しい当院の看護師も見たことがないカテーテルがおなかから出ています。老眼の私が眼鏡を外して近づいて見ると、バルーン水の注入口がついています。「新しいタイプのバルーン型PEGカテーテルだろうか?」とも思いましたが、外部ストッパーもなく、カテーテルを糸で直接、皮膚に縫いつけてあります。
頭の中から“胃瘻”という考えを吹っ切ってよく見ると「これは尿道バルーンだ」と理解できました。紹介状には、メーカー名も管理法も何も書いてありませんでした。
***
案の定、1週間後に固定用の糸が外れました。患者がカテーテルを抜かないよう、訪問看護師や家族と相談して事故抜去防止用ベストを取り寄せたり、テープでカテーテルを固定したり、大変でした。
しかも、病院の若い主治医から届いた紹介状のあて先は「ご担当医先生」で、私の名前も書いてありません。とても失礼なやつ!と思いましたが、何も知らない患者や家族に罪はありません。
人格者の私は、家族が在宅でPEGをうまく管理するための一番いい方法をスタッフとともに考えてきました。瘻孔が完成したら“本物の”PEGカテーテルに変えようと思っています。
(岡田晋吾)
[引用・参考文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2010照林社
[出典] 『PEG(胃瘻)ケアの最新技術』 (監修)岡田晋吾/2010年2月刊行/ 照林社