Na(natrium、ナトリウム)の読み方|「電解質異常」を読む検査
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『エキスパートナース』2015年10月号より転載。
Na(natrium、ナトリウム)の読み方について解説します。
川崎健治
千葉大学医学部附属病院検査部副部長/臨床検査技師長
〈目次〉
Naとは、Naの読み方
体内のNaと水は、体液量の決定因子です。そのためNaに注目することによって体液量が不足しているのか、水が過剰状態なのかがわかります。
血清中のNa濃度が135mmol/L以下を低Na血症と呼びます。120-135mmol/Lは症状が出ないことが多く、Na濃度が120mmol/L以下では頭痛、嘔吐などの症状を伴います。臨床検査ではNa濃度が120mmol/L以下を極異常値としています(1)。
低Na血症は外来患者でも入院患者でも見られる検査所見ですが、健常者ではほとんど起こりません。生体はNaを狭い濃度域(138-145mmol/L)で調整しており、水バランス調節に異常が生じると低Na血症に至ります。
なお、高Na血症は入院患者で見られますが、体内のNaClの過剰や水分摂取の低下など、医原性のことが多いです。
Na、浸透圧、体液量の関係
Naをより理解するために、Naと浸透圧の関係、浸透圧と体液量の関係について説明します。
1Naを見ると、“細胞外液の浸透圧”がわかる
Naは細胞外液に多く存在する陽イオンで、Kは細胞内液に多く存在します。NaとKは細胞内外を自由に行き来できないため、細胞内外でこれらの物質間の濃度差が生じたときには濃度の高い方へ水が引っ張られます(専門用語で“張度”)。
NaとKは細胞内外の水分量の決定因子のため“有効浸透圧物質”と呼ばれています。Naは原子量が小さい割に細胞外液の存在量は多いため、モル濃度が他の体液成分よりも高くなり、水を引っ張る力が強くなります。これらのことから、細胞外液の浸透圧はNaによって形成されていると考えることができます(2)。
なお、血清Na濃度値が表しているのは、
血清中のNa濃度
=血漿中のNa濃度
=細胞外液のNa濃度
です。
また、Na濃度と浸透圧との関係は、
2×血清中のNa濃度
=血清浸透圧
=細胞外液の浸透圧
=細胞内液の浸透圧
となっています(3)。
2“細胞外液の浸透圧”は、変動するとキケン
細胞外液のNa濃度の低下は、細胞外液の浸透圧の低下を表しますので、細胞内との浸透圧差を生じ、細胞内に水が移動します。
細胞外液の浸透圧が低い状態が続くと、細胞外液量はさらに減少することになり、末梢循環不全(血圧低下、顔面蒼白、四肢冷感)に至る可能性があります。
3変動があると、“細胞外液の浸透圧”を体が調整する
生体では、細胞外液のNa濃度の低下によって細胞外液の浸透圧が低下すると、視床下部にある浸透圧受容体からのシグナルによって抗利尿ホルモン(ADH)の分泌を低下させ利尿が促進されます。
細胞外液の浸透圧が低い状態は浸透圧の低い尿が排泄されることによって元に戻ります。体液量の調整は、浸透圧の変化を生体が捉えることによって行われます。
体液量を維持しないと体のすみずみの細胞まで細胞外液を行き渡らせて細胞内液量の調整や栄養物質や老廃物のやり取りを行うことができません。生体が行っている体液量のコントロールの目的は、生体内の総体液量の維持ではなく循環している(=有効な)血漿量を一定に保つことです。
(手順1)低Na血症を「Naの増減」と「水の増減」のバランスで評価する
生体では上述のように循環を維持するために体内のNaと水の量を調整するので、その調節機構が追い付かないときや破たんしたときに低Na血症として表れます。低Na血症の多くは体液の浸透圧の異常であり、有効循環血漿量の減少を意味します。
低Na血症から病態をみるには、図1に示すように、Naと水の量が変動するメカニズムを理解し、Naと水の増減のバランスで考えていきます。低Na血症は、「①相対的な水の増加」もしくは「②絶対的な水の増加」を初めにチェックします。
1「相対的な水の増加」が起きる原因がないか見る
「①相対的な水の増加」が見られる疾患や状態は、何らかの原因によってNaと水が体内から喪失し、生体がそれを補正しようとした場合、または不適切な医療行為の結果として起こります。
Naの喪失に対して水だけを飲水した場合、塩類喪失性腎症などの腎からの喪失、サイアザイド系利尿薬、ループ利尿薬などのナトリウム排泄型利尿薬の使用、低張性輸液の連続投与などで見られます。
例えば、サイアザイド系利尿薬の使用は、利尿作用によってNaも喪失するため、細胞外液のNa濃度は低下します。細胞外液の一部である血漿量も減少し、血管内脱水、有効循環血漿量の低下に至ります。生体は、腎によるNaの再吸収、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系(RAAS メモ1)の作用によって有効循環血漿量を増やそうとします。さらにADHは細胞外液の減少によって非浸透圧性に働き、Naの減少量が水の減少量を上回るため低Na血症になります(4)。
2「絶対的な水の増加」が起きる原因がないか見る
「②絶対的な水の増加」が見られる疾患や状態は、何らかの原因によってNaと水が体内に貯留し、生体がそれを補正しようとした場合に起こります。うっ血性心不全、肝硬変、ネフローゼ、腎不全などによる低Na血症で見られます。
例えば、うっ血性心不全では、心拍出量が低下して腎臓の血流量も低下するためRAASが活性化されます。生体は体全体に血液を十分に行き渡らせるためにNaと水を溜め込んで有効循環血漿量を増やそうとします。さらにADHの作用が加わって水をより多く保持しようと働きます。そのためNaの増加量に比べて水の増加量が著しいため低Na血症に至ります。
(手順2)低Na血症の原因を、浸透圧、細胞外液量から絞り込む
1「低浸透圧性」の低Na血症かをみきわめる
図2に低Naの鑑別を示しました。
低Na血症の中で“真の低Na血症”と呼ばれるのは低浸透圧性で、臨床でよく見かける病態です。
例外として浸透圧が高い場合と正常な場合がありますが、これらは“見かけの低Na血症”のためNaを補正する必要はありません。これらを否定するために浸透圧の評価を行う必要があります。
浸透圧は測定することが一番ですが、リアルタイムに測定していないため、以下の予測式で求めることができます。
簡易的には、表1-①の式を使用します。グルコースや尿素窒素の測定が同時に行われていれば、より正確な表1-②の式を使用します。
予測値と実測値で乖離が見られた場合は、浸透圧が変動する物質が存在していることを表していますので低浸透圧性ではないことがあります。
2その他の所見・検査値から原因を絞り込む
低浸透圧性であることがわかった場合は、表2に示すように細胞外液量を評価して低Na血症の原因を推測する必要があります。
細胞外液量は、以下の評価を行うことによってわかります。
①身体所見:血圧、脈拍、体重、浮腫
②血液所見:UN/Cre、ヘマトクリット
③尿所見:尿Na濃度、Na部分排泄率(FENa)、尿塩素濃度
低浸透圧性の低Na血症では、有効循環血漿量を増やそうとしますのでNaは腎臓で再吸収されます。そのため、尿Na濃度は通常より低く、10-20mmol/L以下になることが多いです。
尿Na濃度が>20mmol/Lの場合は、腎性にNaが排泄されることによって低Na血症になっていると言えます。身体所見や症状から有効循環血漿量の減少が疑われる場合は、生理食塩液による補正を考えます。
3原因別に、低Na血症への対応を考える
細胞外液量が「増加している」場合
細胞外液量が増加している場合は、心不全、肝硬変、ネフローゼ、腎不全などが原因と考えます。
これらが原因の低Na血症の場合は、上述したようにNaの増加量に比べて水の増加量が著しいため、飲水制限や腎臓から水の排泄を促進させるため利尿薬を使用する必要があります。またRAASが活性化されているため、RAAS抑制薬が使用されることがあります(5)。
細胞外液量が「正常」の場合
細胞外液量が正常の場合は、ADH分泌不適症候群(SIADH)、多飲症、甲状腺機能低下、中枢性副腎不全等を考えます。
これらが原因の低Na血症の場合は、Naの補正を行うよりも原疾患の治療が優先されます。SIADHの場合は、原疾患の治療を進めること、原因薬の使用を中止すること、飲水制限を行ってNaの減少を生理食塩液によって補正し、水が過剰な分を利尿剤で調整することが必要です(6)。
細胞外液量が「減少している」場合
細胞外液量が減少している場合は、利尿薬、浸透圧利尿、原発性副腎不全などの腎性の原因、または嘔吐、下痢、高度な熱傷などの腎外性の原因が考えます。
これらが原因の低Na血症の場合は、有効循環血漿量を増やさなければならないので生理食塩液による補正が行われます(7)。急激なNaの補正は橋中心髄鞘崩壊(central pontine myelinolysis)に注意します(8)。
(手順3)高Na血症であれば、医原性の原因も含めて検討する
高Na血症の原因は、体内の「Naの量の増加」や「水の量の減少」です。
体内のNa量の増加する要因は、NaCl(食塩)や炭酸水素ナトリウムなどNa製剤の投与、ほかのNaを含む食品の摂取、腎臓によるNaの再吸収です。
体内の水の量が減少する要因は、Naと同じく主に摂取(飲水)不足、腎臓からの喪失、体内のサードスペースの体液の貯留による喪失です。
高Na血症は「手順1」と同様に「Naの増減」と「水の増減」のバランスで評価します
1適切な飲水ができるよう検討する
のどの渇きは浸透圧が295mOsm/kg以上で起こると言われており、臨床的な浸透圧計算式(2×血清Na)で計算すると、Naが147.5mmol/L以上で口渇を訴え、飲水によりNa濃度を下げる方向に進むと考えられます。
高Na血症になるということは、飲水行動を妨げる大きな要因が存在します。これらが病棟で起こるときは、高齢者が多く、水分の摂取困難や口渇中枢が障害されていることがあります。飲水可能であっても飲水によって浮腫が出現することがありますので、塩分を制限することも考える必要があります。
2医原性の可能性を検討する
医原性では、意識障害や発熱による不感蒸泄で体内の水分量が減少しているなかで、輸液中のNaが過剰である場合(9)や、バソプレシンV2受容体拮抗剤などの体内の水だけを排泄する利尿薬やマンニトールなどの浸透圧利尿剤を使用していることなどが考えられます(10)。
高血糖による浸透圧利尿の促進や尿崩症を否定できれば、医原性の可能性が高いです。原疾患の治療が優先されますが、経口または静脈注射で水分を補充できるかどうか評価することが必要です。
[引用・参考文献]
- (1)Ⅱ電解質・浸透圧測定.金井正光監修,奥村伸生,戸塚実,矢冨裕編:臨床検査法提要.金原出版,東京,2014:664.
- (2)川崎健治,吉澤明彦:19電解質異常.本田孝行編:ワンランク上の検査値の読み方・考え方─ルーチン検査から病態変化を見抜く─第2版.総合医学社,東京,2014:107-113.
- (3)黒川清:水・電解質と酸塩基平衡─stepbystepで考える─.南江堂,東京,2010:24-25.
- (4)小松康宏:利尿薬による低Na血症─サイアザイド系利尿薬に注意─.Fluid Management Renaissance 2013;3(1):34-39.
- (5)永井利幸,香坂俊:循環器内科からみる電解質異常とその対応.medicina2010;47(6):1019.
- (6)田川美穂:ナトリウム濃度異常.medicina2010;47(6):978.
- (7)須藤博:低Na血症患者の検討.診断と治療2001;89(7):1077-1080.
- (8)石川三衛:低Na血症と高Na血症の治療.診断と治療2001;93(6):937.
- (9)柴垣有吾:水・ナトリウム代謝異常.medicina2010;47(6):935.
- (10)日本循環器学会・日本心不全学会合同ステートメント:バソプレシンV2受容体拮抗薬の適正使用に関するステートメント.2013.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有©2015照林社
P.58~「Na(natrium、ナトリウム)」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年10月号/ 照林社