SIRSの診断基準|知っておきたい臨床で使う指標[7]

臨床現場で使用することの多い指標は、ナースなら知っておきたい知識の一つ。毎回一つの指標を取り上げ、その指標が使われる場面や使うことで分かること、またその使い方について解説します。

 

根本 学
埼玉医科大学国際医療センター 救命救急科診療部長

 

SIRSの

診断基準

 

SIRSの診断基準は、侵襲によって生体がどの程度反応しているかを知るためのものです。
SIRSとは、侵襲に対する生体の防御反応であり、免疫細胞から大量に放出された炎症性サイトカインによる全身性の急性炎症反応です。

 

1991年に米国胸部疾患学会(American College of Chest Physicians)およびCritical Care Medicine学会(Society of Critical Care Medicine)が敗血症多臓器不全の定義に関する合同カンファレンスを開催し、さまざまな侵襲によって引き起こされる全身的な炎症反応がこれらの要因になっていると考え、新しくSIRSという概念を1992年に提唱しました。

 

〈目次〉

 


 

SIRSの診断基準(成人)

 

SIRSの診断基準、全身性炎症反応症候群、systemic inflammatory response syndrome

 

文献1より引用一部改変

 

SIRSの診断基準(小児)

 

SIRSの診断基準、全身性炎症反応症候群、systemic inflammatory response syndrome

 

文献2より引用一部改変

 

 

SIRSの診断基準を主に使う場所と使用する診療科

救急外来や集中治療室だけでなく、一般病棟や診療所在宅医療の現場など広く使用することができるため、多くの診療科医師によって使われています。

 

 

SIRSの診断基準で何がわかる?

SIRSの診断基準を使うことにより、侵襲によって生体がどの程度反応しているかを知ることができます。
SIRSは前述したとおり、炎症性サイトカインによる全身性の急性炎症反応のことであり、つまりSIRSの症状を示しているということは、「高サイトカイン血症の状態にある」と言い換えることができます。

 

SIRSを引き起こす侵襲(first attack)は、感染や外傷、熱傷、膵炎、手術、大量出血などさまざまです。
そういった侵襲により、生体内では急性相反応蛋白や抗体産生、血球の分化、創傷修復などの生体防御系が作動し、同時に好中球が次の刺激(侵襲;second attack)にすぐに対応できるように準備(priming)されます。

 

このような状況下で再び侵襲(second attack)によってサイトカインが誘導されると、肺や腎臓肝臓など主要臓器に集積して準備状態に入っている好中球がそれらの臓器を攻撃してしまい、その結果として主要臓器の機能不全(多臓器不全)が引き起こされます(図1)。

 

図1SIRSから多臓器不全に至るまで

SIRS 急性炎症反応

 

つまり、SIRSとは最初の侵襲(first attack)の結果起こるものであり、SIRSから早期に離脱を図ることは臓器不全の発生を未然に押さえる上で極めて重要とされています。
従って、SIRSは臓器不全の発症を避けるための概念と位置付けることができます。

 

 

SIRSの診断基準をどう使う?

SIRSの診断基準の4項目中、2項目以上が該当する場合はSIRSと診断することができます。

 

もともと、多臓器不全の治療成績が悪い原因は、治療が後手に回ってしまうためです。
多臓器不全に陥る前にしっかりとした治療を行うには、早期に全身状態を把握する必要があるという考えからSIRSの概念は提唱されたため、SIRSの診断基準は診療所レベルでも検査が可能であり、迅速に結果が出る4項目から構成されています。

 

SIRSの診断基準は簡便で、「いつでも、どこでも、誰でも」使用できるので、臨床現場で重症化する可能性がある患者を幅広く拾い上げるには向いています。
しかし、病態そのものを正確に反映することはできないため、「感度は高いが特異度は低い」という欠点があります。従って、「SIRSじゃないから大丈夫」、と安易に考えるのは危険です。
SIRSの診断基準は満たしていなくても、バイタルサインや患者の様子などをしっかりと見ることが必要です。

 

 

SIRSの診断基準を実際に使ってみよう

症例1

 

38歳の男性。2、3日前から全身の倦怠感と咽頭痛を自覚していたが様子を見ていた。
本日、体温を測定したところ37.8℃であったため、救急外来を受診した。昨夜から喉の痛みが強くなり、飲物もほとんど飲めていないらしい。
検査の結果は、体温38.6℃、脈拍数96回/分・整、呼吸数22回/分、白血球数11,200/μ。
この患者はSIRSだろうか?

 

答え:SIRSと判断できる

SIRSの診断基準では体温、脈拍数および呼吸数が診断基準を満たしていることから、SIRSと判断できる。
しかし、脱水の可能性もあるため補液治療を行った上で再評価しても良いだろう。

 

→SIRS診断基準を確認

 

症例2

 

54歳の女性。右季肋部の自発痛と全身倦怠感を主訴に救急搬送された。
右季肋部に圧痛があり、腹部超音波検査では胆嚢内に結石があり胆嚢壁は肥厚している。眼球結膜には黄染が見られた。
検査の結果は、体温38.6℃、脈拍数102回/分・整、呼吸数24回/分、白血球数17,600/μ。
この患者はSIRSだろうか?

 

答え:SIRSと判断できる

SIRSの診断基準すべてを満たしており、身体所見や検査結果から急性化膿性胆嚢炎が疑われるため、感染によるSIRSと判断できる。

 

→SIRS診断基準を確認

 

症例3

 

87歳の女性。3年前に脳梗塞にかかり、施設に入所中であった。食事は全介助でむせることがたびたびあるという。
今朝、ベッドでぐったりしているのを職員が発見し救急搬送となった。
意識レベルはJCS 100。呼吸音は両側で湿性ラ音が聴取された。SpO2は88%(室内気)で、体温37.8℃、血圧82/58mmHg、脈拍数78回/分・不整、呼吸数10回/分・努力様、白血球数4,200/μ。
この患者はSIRS だろうか?

 

答え:SIRSの診断基準には当てはまらないが、重症感染症疑いがある

SIRSの診断基準では該当する項目は一つもない。しかし、全身状態は極めて悪く、既往歴現病歴、身体所見等より誤嚥性肺炎による重症感染症が強く疑われる。

 

→SIRS診断基準を確認

 


 


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