徒手筋力テスト(Manual Muscle Test;MMT)|知っておきたい臨床で使う指標[6]
臨床現場で使用することの多い指標は、ナースなら知っておきたい知識の一つ。毎回一つの指標を取り上げ、その指標が使われる場面や使うことで分かること、またその使い方について解説します。
根本 学
埼玉医科大学国際医療センター 救命救急科診療部長
徒手筋力
テスト(Manual Muscle Test;MMT)
MMTは筋力評価方法の一つで、個々の筋肉で筋力が低下しているかどうかを徒手的に評価する検査法です。
〈目次〉
徒手筋力テスト(Manual Muscle Test;MMT)
MMTを主に使う場所と使用する診療科
MMTは整形外科外来や救急初療室、集中治療室で筋力や神経障害の有無、治療やリハビリテーションの効果判定などを知る目的で医師、看護師、理学療法士、作業療法士によって使用されています。
MMTで何がわかる?
MMTでは、個々の筋力の低下について評価するほか、日常生活動作を介助なしに行えるかどうかの評価や、神経障害の部位を知るためなどにも行われます。
ちなみに、神経障害によっても筋力は低下することを覚えておきましょう。
健康的な日常生活を営むには最低でもMMTで3以上の評価が必要とされています。
そのため、日常生活動作を介助なしに行えるかの判断は、MMTで3以上の評価が必要となります。
MMTの問題点としては、検査者の主観によって判定することから、検査者によって評価が分かれる可能性があることです。従って、検査者は十分な知識と技能を修得しておく必要があります。
また、被検査者に意識障害がある場合は評価することができません。
MMTの評価の記載は、評価する筋肉(筋群)と支配神経が一目でわかる記載表(表1)にそれぞれの結果を記載します。
MMTをどう使う?
MMTの評価基準は6段階あります。
MMTの検査は個々の筋または協働して動く筋群に対して順次実施していきます。
最初に被検査者に対して対象となる筋(筋群)を収縮させ、その状態を維持するように指示します。
次に検査者は検査を行っている筋(筋群)に伸張方向の抵抗を徒手によって加え、その筋(筋群)の収縮保持能力を評価します。
例えば、上腕二頭筋の場合、関係する動作には肘関節の屈曲と前腕の回外があります。
被験者に肘関節を曲げてもらい、その状態を維持してもらった後、検査者は利き手で被験者が曲げている側の手首を持ち、反対側の手で上腕二頭筋に触れます。
そして被験者に力を入れてもらい、検査者は肘関節を伸ばす方向に力をかけます。
この時の上腕二頭筋の動きを評価します(図1)。
各段階の中間的な筋力と判断した場合は、5-や4+とすることもあります。
例えば、「抵抗を加えなければ重力に抗して、運動域全体にわたって動かせる」という3の場合、軽い抵抗なら被験者が耐えられる場合は、3+と評価します。
徒手筋力テストは単に筋力を評価するのではなく、検査を行っている筋肉の支配神経により、神経障害の解剖学的部位や程度を知ることもできます。
そのため、評価した筋(筋群)の神経支配を知っておくことが大切です。
さらにプラスαMMTを行うときに気をつけておくこと
検査の前にはきちんと説明を
MMTに限ったことではありませんが、検査を行う前には検査方法をきちんと説明しましょう。MMTは特に、運動域などを確認するため、被験者の理解と協力が不可欠な検査です。
抵抗は同じ力で!
検査者は、抵抗を加えるときは、いつも同じ手(利き手)で行うようにしましょう。
そのときの力は同じようになるよう心がけます。このとき、抵抗をかける手に体重は乗せないようにしましょう。
検査の体位変換は最小限に
MMTを行う際、特に被験者が高齢者の場合は、疲労させないようにしましょう。
できるだけ同一体位でできる検査は一緒に行いましょう。
被験者のプライバシーに注意
MMTを行う際、検査する箇所はできるだけ露出させ、筋収縮を見やすくします。そのため、被験者が女性の場合などは特に、周囲のプライバシーに気をつけましょう。
MMTを実際に使ってみよう
症例1
38歳の男性。工事現場で作業中に3mの高さから墜落して受傷し救急搬送された。
意識は清明。頸部の圧痛があり、呼吸は腹式呼吸で両上肢の強いしびれ感を訴えている。
MMTを行ったところ、両上肢は肘関節屈曲で3、伸展は1。手関節は屈曲・伸展とも1。両下肢はすべての試験で0と評価された。
この患者の診断名と損傷部位は?
答え:診断名 頸髄損傷、損傷部位 C6
MMTで両上肢は肘関節の屈曲運動3、伸展運動1、手関節屈曲・伸展とも1、両下肢はすべて0で腹式呼吸が見られることから、診断は頸髄損傷、損傷部位はC6がもっとも疑わしいと判断できる。
症例2
86歳の女性。右大腿骨頸部骨折の診断で入院。4日後に観血的整復固定術を実施し、リハビリテーションが開始された。
ベッド上で腸腰筋および大腿四頭筋に対してMMTを実施したところ、いずれも3と評価した。
この患者が車いすに移乗する際に介助は必要か?
答え:必要
座位から立位に移行する際に必要な筋群のMMTがいずれも3であるが、ベッド上に寝た状態での評価のため、車いすに移乗する際には自身の「体重」が「負荷」、すなわち「抵抗」になるので介助は必要だと判断する。
症例3
78歳の女性。左視床出血により右片麻痺がある。
右肘関節は座位で屈曲させることはできないが、上肢をテーブルの上に置いた状態では運動域全体にわたって動かすことができる。
MMTは何点と評価するか?
答え:2 Poor
座位では屈曲できないが、腕をテーブルの上に置けば屈曲することができる。すなわち、重力を除けば動かせることからMMTは2 Poorと評価する。