骨の機能|動く(2)

解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、骨・筋肉についてのお話の2回目です。

 

[前回の内容]

意思で動かせられる骨格筋|動く(1)

 

解剖生理学の面白さを知るため、自分の意思で動かせる唯一の筋肉である骨格筋について知りました。

 

今回は骨の機能の世界を探検することに……。

 

増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授

 

骨の機能

成人の骨格は、およそ200個の骨で構成されています。骨の形や大きさはさまざまで、エンドウ豆くらいのものもあれば、長さ60cmという大きさの骨もあります。

 

骨の最も基本的な役割は、重い身体を支えることにあります(図1)。コンクリートの建物が鉄筋の骨組みで支えられているように、私たちの身体も、骨格という骨組みで支えられています。

 

図1骨の働き

 

骨の働き

 

支持作用:頭や内臓を支え、身体の支柱となる

 

保護作用:骨格を形成し、頭蓋腔や胸腔、脊柱管、骨盤腔などをつくり、や内臓などの重要な器官を納め、保護する

 

運動作用:(受動的)付着する筋の収縮により、可動性のある関節を支点として、運動が行われる

 

造血作用:骨髄(赤色骨髄)で、赤血球白血球血小板が新生される

 

貯蔵作用カルシウムをはじめ、リン、ナトリウムカリウムなどの電解質が骨中に貯蔵される。必要に応じて、血液中に放出される

 

丈夫で頑丈な骨は、脳や内臓などやわらかな器官を保護する役目も負っています。また、骨髄では日々、新しい血液細胞がつくられています。造血は、骨の重要な機能の1つです。

 

骨はさらに、カルシウムを貯蔵する便利な倉庫にもなります。カルシウムは、神経系の情報伝達や筋肉の収縮、血液の凝固などに欠かせない物質であり、血液中のカルシウム濃度が低下すると、骨に蓄えられたカルシウムが血液中に放出されます。

 

骨ってただ、身体を支えているだけかと思っていました。実はいろいろな機能があるんですね

 

そうよ。カルシウム濃度の調節に骨が関係しているなんて意外でしょ?

 

それにしても、骨があるのと、ないのとでは、運動のしかたにどういう違いが出てくるんだろう?

 

詳しくは脊椎動物の進化を勉強してもらうしかないけれど、ここではほんのさわりだけ、簡単に説明しておくわね

 

二足歩行を可能にした脊椎の形成

脊椎、つまり背骨の原形は脊索とよばれる、弾力のある棒のような組織だったといわれています。脊索はヒトの胎児にも現れますが、やがて骨に置き換わり、脊椎ができていきます。

 

脊椎を構成するのは、椎骨とよばれる円柱の形をした骨で、弾力性のある椎間板を挟んで縦につながっています(図2)。脊椎は、支柱として胴体を支えるだけではなく、頭や腕、脚などがつく幹のような役目も果たします。

 

図2脊椎

 

脊椎

 

脊椎ができたおかげで、動物たちはそれまでの生物になかった、さまざまな運動をこなせるようにもなりました。鳥の翼や、動物の四つ足は、そうした運動装置の一例です。

 

人間の場合、成長とともに脊椎は弯曲(わんきょく)し始め、頚椎が前弯、胸椎が後弯、腰椎が前弯してS字状のカーブを描くようになります。私たちは、こうしてカーブした脊椎と、それに付随した頭や腕、脚などをフルに使って、バランスをとりながら、二足歩行しています。

 

そうか、脊椎があるから長い腕や脚も支えられるし、手足を使った細かな動きもできるようになったんだ

 

そうなの。そういう意味で、脊椎はたくさんの枝を支える幹のような存在ね

 

それにしても、やわらかい筋肉が、どうやってあんなにかたい骨を動かすことができるんでしょうか?

 

それはね、腱と関節のおかげなの

 

筋肉と骨をつなぐ腱

腱とは、筋肉の両端にあって、骨格筋と骨とをつないでいる部分です。太い線維でできた組織で、もともとは筋肉が硬くなったものだと考えられます。

 

骨格筋は、この腱があることで、骨をテコのようにして大きなパワーを生み出すことができます。

 

腱の働きを知るために、指をしっかり曲げて、握りこぶしをつくってみてください。前腕の筋肉が太くなるのがわかりましたか?

 

実は、手の指を動かす筋肉は、1つは手のひら、もう1つは前腕にあり、指そのものにはありません。前腕から指先へと伸びる腱は、前腕の筋肉の動きと指の骨をつなぐ役目をしています。また、腱があるおかげで、指そのものに太い筋肉をつけなくても、細やかな動きが可能になります。

 

骨と骨をつなぐ関節

関節は、強い帯状の線維の束でできていて、骨と骨とをつないでいます。骨と骨があたる部分にはやわらかな軟骨があり、そのまわりは丈夫な袋(関節包)で包まれています。

 

袋の内面は滑らかな膜(滑膜〈かつまく〉)でおおわれ、その膜からは潤滑油のように滑らかな液が分泌されて、関節の滑りをよくしています。

 

関節にはそれぞれ可動範囲があり、動く方向は決まっています。たとえば、膝や肘の関節はちょうつがいのようになっていて、一方向にしか動きませんが、腕の関節はほぼ360度、自由に回転させることができます(図3)。

 

図3関節と関節の種類(関節頭と関節窩の形による分類)

 

関節と関節の種類(関節頭と関節窩の形による分類)

 

関節の分類は、上記のほかに結合する骨の数による分類として、単関節〔2つの骨がつくる関節:肩関節(上腕骨と肩甲骨)、股関節(大腿骨と寛骨)〕、複関節〔3つ以上の骨がつくる関節:肘関節(上腕骨、撓骨、尺骨)など)〕がある。また、運動軸による分類として、1軸性関節(屈伸のように1軸のみを中心に動く)、2軸性関節(前後と側方への屈伸のように2軸を中心に動く)、多軸性関節(前後屈と側屈に回旋も行うように、3軸以上を中心に動く)がある

 

骨の形だけではなく、関節を支える靭帯(じんたい)も、その動く方向を制限しています。靭帯は丈夫なすじですが、伸びたり縮んだりはしません。靭帯を損傷すると、関節の動きが不安定になり、運動に支障が出てきます。

 

関節には動かない関節もあって、それは不動関節とよばれています

 

動かないのに、関節なんですか?

 

不動関節はもともと、骨と骨が線維性の組織で結合したもので、動くための関節とはちょっと違うの。典型的なのは頭蓋骨ね。頭蓋骨はもともと別々の骨が結合して、成長とともに1枚の骨のようになっていくのよ

 

骨格筋の動きを操る大脳皮質からの指令

骨格筋を自由自在に操れるのは、身体の運動をつかさどる運動神経が骨格筋を支配しているからです(図4)。逆にいうと、神経を通じて送られる大脳皮質からの指令がなければ、骨格筋はうんともすんとも動きません。

 

図4運動野における身体各部の運動領域局在

 

運動野における身体各部の運動領域局在

 

カナダの神経外科医ワイルダー・G・ペンフィールドが描いた大脳における運動野の地図。感覚野と同様に、身体の各部位から入力された情報の大脳皮質での投射部位が示されている(図5

 

図5感覚野の大脳皮質での担当領域

 

感覚野の大脳皮質での担当領域

 

カナダの神経外科医ワイルダー・G・ペンフィールドが描いた大脳における感覚野の地図。身体の各部位から入力された情報の大脳皮質での投射部位を示した。描かれている各部位の大きさは、投射部位の面積比を表現している。唇や顔、手などから面積は大きい。ペンフィールドのホムンクルス(人工生命体)とよばれる人体像は、大脳皮質での面積比をもとに作り上げられたものである

 

骨格筋が収縮するメカニズムを、順を追って簡単に説明しましょう。

 

「動こう」という意思はまず、大脳皮質の前頭葉にある運動連合野で形成されます。それが小脳と大脳基底へ伝えられ、ここで運動のプログラムが立てられます。「えっ、わざわざプログラムを立てるの?」と思うかもしれません。しかし、このプログラムが大事なのです。簡単な動きでも、実際には多くの筋肉の協調を必要とします。ですから、一つひとつの筋肉の動きをあらかじめ計画して、どの筋肉をどれだけ動かせばよいか決めておかないと、身体の動きがバラバラで、運動してもその目的を達成することはできません。

 

小脳と大脳基底核でプログラムされた動きは、視床を通って運動野に戻され、運動野はそのプログラムをもとに、運動神経を介して、動かしたい筋肉だけに収縮の指令を出します。

 

立つ、座る、モノを投げるといった運動はすべて、こうして可能になります。ただし、小脳に病変があるとプログラムにミスが生じて、思うように動けないの

 

思うように動けないって、どうなるんですか?

 

モノを取ろうとしても、手が目標物に届かなかったり、行過ぎたりするのよ

 

運動神経が通る2つの経路

大脳から骨格筋へ信号が流れる経路(下行路)には、錐体(すいたい)錐体外路の2つがあります。錐体路(皮質脊髄路)は、内包とよばれる、大脳基底核〔尾状核、レンズ核(被殻〈ひかく〉、淡蒼〈たんそう〉球)〕と視床の間の狭い場所を通ります。脳幹に入ると、経路の大部分が延髄の錐体で交叉して反対側に入り、脊髄のそれぞれのレベルで運動神経と接続し、筋肉に向かいます(図6)。

 

図6錐体路の経路

 

錐体路の経路

 

運動指令が比較的ストレートに骨格筋に届く錐体路に対し、錐体外路は、視床、大脳基底核、中脳、小脳、延髄などを中継し、骨格筋に届きます。錐体路以外の経路という意味で、解剖学的に錐体外路と名づけられ、視蓋脊髄路や前庭脊髄路、網様体脊髄路、赤核脊髄路などがあります。

 

一般に、錐体路は随意運動、錐体外路は不随意運動に関与しているといわれています。しかし、両者は常に一緒に働き、意思による運動指令が錐体路を流れると、錐体外路が運動の速度や組み合わせ、いろいろな筋の力の入れ具合などを微妙に調整します。歩行時には意識的に足を前に出しますが、このとき、同時に錐体外路から流れる指令で無意識に腕を振ったり、身体をひねってバランスを取ったりしています。

 

神経が筋肉を動かすといいますが、それはどんなふうにして可能になるんでしょうか?

 

運動神経の末端(神経終末)と筋細胞との接続部(終板)は神経筋接合部とよばれ、運動神経を伝った電気信号はまず、ここで化学信号に置き換えられます

 

化学信号で使われる神経伝達物質はなんですか?

 

アセチルコリンよ。ちなみに、骨格筋も内臓筋も、筋肉への指令に使われる神経伝達物質は同じ、アセチルコリンなの

 

アセチルコリンが放出されると、筋肉はどうなるんですか?

 

アセチルコリンは筋細胞にある受容体と結合して、筋線維に活動電位を発生させるの。これが、筋肉を収縮させるきっかけになります

 

 

コラム脊髄損傷や内包の出血と運動麻痺

運動は、脳から運動神経を通り骨格筋まで刺激が伝わってこそ可能になります。したがって、伝導路のどこかが遮断されてしまうと、運動することはできません。

 

交通事故や病気で脊髄を損傷すると、運動麻痺が起こります。どのような運動ができなくなるかは、損傷した場所によります。

 

麻痺は、損傷した部位より下の脊髄が支配していた範囲で起こり、損傷部位が上のほうであればあるほど、麻痺の範囲は広くなります。脊髄を損傷すると、感覚器からの情報が脳の感覚野に向かう経路も遮断されてしまうので、感覚も同時に麻痺します。

 

血管が複雑に屈曲している内包は、動脈硬化や高血圧などにより出血が起こりやすいです。内包の出血は、運動機能の障害(脳卒中の発作)を起こします。神経の経路は延髄で交叉しているため、運動麻痺は通常、脳の障害部の反対側に生じます。

 

用語解説神経伝達物質

骨格筋への指令は、中枢神経(脊髄)から軸索が直接到達して、アセチルコリンをシナプス間隙に放出するが、内臓への指令は様式が異なる。自律神経系(交感神経、副交感神経)では、中枢神経から出た指令は、効果器(や腸、血管、心臓、汗腺、立毛筋、骨格筋の血管拡張線維、一般臓器、腺組織、など)までの間に1回シナプス(神経節)をつくる。そのシナプスではアセチルコリンが放出されるが、最終的に効果器に作用するのは、交感神経ではノルアドレナリン、副交感神経ではアセチルコリンである。

 

[次回]

骨格筋の構造|動く(3)

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版

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