意思で動かすことができる骨格筋|動く(1)
解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、骨・筋肉についてのお話の1回目です。
[前回の内容]
解剖生理学の面白さを知るため、味覚(味蕾)のメカニズムと触覚(皮膚)のメカニズムについて知りました。
今回は自分の意思で動かせる唯一の筋肉である骨格筋の世界を探検することに……。
増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授
動物だけがもつ「動く」という特徴
動物は、植物のように光合成によって必要な栄養素を自ら作り出すことはできません。その代わり、自ら動いてエサを確保する機能を発達させてきました。
ライオンは、エサとなる動物のにおいで、その動物が通った跡を嗅ぎつけます。相手の存在を見つけると、風下から気づかれないようにそっと近づき、至近距離まで近づくと、一気にダッシュして獲物を捕獲します。
動物はこのように、鼻や眼といった感覚器、脳や神経、そして筋肉をフル稼働して獲物をキャッチします。人間はさらに、手にした獲物を調理することで、おいしく食べる技術も身につけました。
ところで、私たちが身体を使ってする運動には、眼に「見える運動」と「見えない運動」があるの、気づいてた?
見える運動と見えない運動? それって、なんのことですか?
ナスカさんなら、もうすでにわかっているはずよ
眼に「見える運動」と「見えない運動」
日常の動作やスポーツなど、私たちがふだん「運動」とよんでいるのは、骨格についている筋肉の収縮能力によるものです。しかし、運動はこのように外部から見えるところだけでなく、胃や腸、心臓、血管など、外からは見えない場所でも行われています。こうした「見えない」運動を可能にするのは、内臓筋の働きです。
内臓筋の役割はおもに、管(血管、消化管)の中の物質を移動させることです。それは、手で触れたり、眼で確かめたりすることはできません。しかし、脈拍や血圧を測定したり、腸の蠕動(ぜんどう)運動を聴取したりすることで、間接的にその働きが正常であるかどうかを確かめることはできます。
看護師が日常業務のなかで、患者さんのバイタルサインを測ったり、お腹の音を聴き取ったりする意味も、まさにそこにあります。
そうか、私たちはもう、見えない運動については十分勉強してきたわけですね
そうなの。だから、ここではおもに、見える運動を中心に勉強していきましょう。その前に、内臓筋を含む筋肉の種類について、ちょっと整理しておくわね
意思で動くのは、骨格筋だけ
身体を構成する筋肉を、解剖学では3種類に分類しています。内臓筋(内臓を動かす筋肉)と骨格筋(手足などを動かす筋肉)、そして心臓を動かす心筋です(図1)。
図1筋肉の種類
骨格筋の細胞はアクチンフィラメントという細い筋原線維とミオシンフィラメントという太い筋原線維が規則正しく並んでいます。横に縞模様があるように見えるため、横紋筋ともよばれます。これに対し、内臓筋は2つの筋原線維の並び方が不規則です。表面的にはつるんとして見えるので、平滑筋とよばれています。
同じ内臓を動かす筋肉でも、心筋はやや特殊で、すばやい動きも担当するため、骨格筋のような縞模様がある横紋筋でできています。
これら3つの筋肉のうち、私たちが自由にコントロールできるのは骨格筋だけです。骨格筋のように、「意思で動かすことのできる筋肉」を随意筋とよんでいます。反対に、意思で動かすことのできない筋肉は、不随意筋とよびます。
骨格筋が可能にするさまざまな動き
骨格筋は全身に大小400種類以上あり、筋肉全体の40~50%を占めています。「歩く」「泳ぐ」「走る」「滑る」など、日常のあらゆる運動にかかわっています(図2)。飛んでくるボールを追いかけキャッチするのも、顔面の筋肉の動きで喜怒哀楽の情を表現するのも、骨格筋の働きです。
また、通常は意識されることがない動き、たとえば、体重の負荷に対抗して「立つ」「座る」といった動作や姿勢の維持にも、絶えず骨格筋が働いています。
図2身体のおもな動作
身体を動かすには、骨も動かさないといけないわけですよね?
もちろんよ。動くためには関節を曲げたり伸ばしたり、という運動も必要です。ただし、骨格は筋肉と違って、脳や神経が直接支配しているわけではありません
えっ、じゃあ、どうやって動かすんですか?
骨は、筋肉の動きにつられて動くだけ。つまり、筋肉が骨を動かしているの
そうだったんだ
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版