味覚と触覚のメカニズム――味蕾と皮膚|感じる・考える(5)

解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、神経系についてのお話の5回目です。

 

[前回の内容]

聴覚と嗅覚のメカニズム――耳と鼻|感じる・考える(4)

 

解剖生理学の面白さを知るため、聴覚()と嗅覚()のメカニズムについて知りました。

 

今回は味覚(味蕾)のメカニズムと触覚(皮膚)のメカニズムの世界を探検することに……。

 

増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授

 

味覚のメカニズムを知る──味蕾

次は味覚のメカニズムをみて行きましょう。味覚は、嗅覚ともけっこう、関係が深いのよ

 

たしかに、おいしそうなにおいってありますよね。サーモンにレモンやハーブで香りづけをすると、味がぐっと引き立つし

 

そうそう。反対に、風邪をひいたときに食事をしても、美味しく感じられないことってあるでしょう? これはね、熱で味覚そのものが鈍ってしまうことにもよるけれど、鼻がつまると、香りを感じることができなくなるからでもあるのよ

 

においは鼻、味は舌で感じるものですが、両方とも、化学物質の存在や種類を見分けるという点では共通しています。嗅覚は空気中にある揮発性(きはつせい)の物質、味覚は水溶性の化学物質の識別をしている、と考えればよいのです。

 

味を感知するのは、舌の粘膜にある味蕾(みらい)とよばれる受容器の中にある味細胞です(図1)。

 

図1味蕾

 

味蕾

 

味蕾は粘膜のくぼみの部分に多く分布していますが、そのほか、軟口蓋や頬の内側にもあります。味蕾が食べ物や飲み物に含まれる化学物質を感知すると、それが電気信号となってへ伝わり、酸味や甘味、塩味、苦みなどの味を感じさせます。

 

偉大なセンサー──皮膚

特殊感覚についてひととおり説明したところで、そのほかの感覚についても簡単に説明しておくわね

 

そのほかの感覚って?

 

圧迫や痛み、熱い、冷たいなどを感じる仕組みよ。これには皮膚が関係しているの

 

皮膚は、痛覚はもちろん、触覚、圧覚、温覚、冷覚、かゆみ、痛覚など、外部環境から入ってくるあらゆる刺激を受け止めています(図2)。

 

図2皮膚の感覚受容器

 

皮膚の感覚受容器

 

圧覚は、皮膚にかかる圧力、つまり「押された」という感覚のことです。押された圧力が弱いと、人は「触れた」と表現しますし、圧力がさらに弱くなると「くすぐったい」と感じます。つまり、触覚と圧覚は、程度の差に過ぎません。

 

皮膚に加えられた機械的刺激―皮膚のゆがみや圧縮―を感知する受容器は、表皮と真皮の境目や毛根などに分布しています。受容器が多い部分ほど感覚は敏感になり、その数がとくに多いのは、鼻先や唇の皮膚、指先などです。反対に受容器が少なく、鈍感なのが腕や脚です。

 

皮膚上の2か所を同時に刺激して、2点を離れているものとして識別できる最小距離を測定してみると、舌先部や指先は1~3mmの間隔で識別できますが、背、上腕、大腿部では50~70mmの間隔でしか識別できません(図3

 

図3同時性空間閾

 

同時性空間閾

 

身体の各部位において、同時に与えられた2点刺激を離れた点として感受できる最小距離を示す。閾値の低い部位では、受容器の密度が高く、その感覚は鋭敏であることがわかる

 

危険信号としての痛覚

けがをした場合、私たちは痛みを感じます。痛みはとても嫌なものですが、生命にとっては重要です。より大きな危険を未然に防いでくれるからです。

 

先天的に痛みを感じない、先天性無痛無汗症という病気があります。この病気をもつ子どもたちは、熱々のストーブやヤカンに触れても熱さを感じないため、重篤な熱傷を負いやすくなります。

 

また、彼らは骨折や脱臼(だっきゅう)をしても「痛み」を感じません。したがって、その状態に気づかないまま動きまわり、症状をさらに悪化させてしまいます。さらに、彼らは内臓の痛みも感じないため、虫垂炎(ちゅうすいえん)、腹膜炎などが起きていても、気づくことができません。

 

痛みは、身体が発する一種の警告です。痛みのもとを放置しておけば、さらに深刻な状況に陥るぞ、ということを私たちに教えてくれます。痛みがあるからこそ、人間は学習し、注意し、自らの行動を制御できるようになります。私たちはもっと、痛みに感謝すべきなのかも知れません。

 

投射の法則と関連痛

ある受容器が刺激されて生じる感覚は、その感覚神経のインパルスが大脳のどこに到達したか、つまり、その最終的に達した感覚野の部位によって決まります。ところが、私たちはその感覚を、脳ではなく、受容器のある場所で起こっていると感じます。これを投射の法則といいます。

 

事故などで失われたはずの手足が痛むと感じる(幻肢痛)のも、この法則によります。切断部に対する圧迫が大脳に伝わり、以前受容器のあった場所に投射されるのです。受容器から大脳皮質に至る感覚経路のどこが刺激されても、意識される感覚は常に、受容器のある場所から生じていると認識されます。

 

内臓に炎症が起きているのに、その内臓とは離れた場所の皮膚が痛いと感じることがありますが、これは、内臓感覚を伝える神経線維と皮膚感覚を伝える神経線維が、脊髄の同じニューロンと接続して大脳皮質に送られるため。大脳が内臓の痛みを皮膚の痛みと勘違いして認識することによって起きる、と考えられています(図4)。

 

図4関連痛の発生機序

 

関連痛の発生機序

 

狭心症では左の腋窩(えきか)あたり、胆石では右肩、尿路結石では下腹部から下肢にかけて痛みを感じるようです。このような脳の勘違いによる「痛み」を関連痛といい、臨床上、とても重要な情報を与えてくれる痛みです(図5)。

 

図5関連痛の部位

 

関連痛の部位

 

[次回]

意思で動かせられる骨格筋|動く(1)

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版

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