人工呼吸器装着患者の観察・管理、呼吸モニタリング

『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「人工呼吸器装着患者の観察・管理、呼吸モニタリング」について解説します。

 

栗原良晃
市立青梅総合医療センター 看護師

峠坂龍範
市立青梅総合医療センター 臨床工学技士

 

 

 

Key point
  • VILI と VALI、肺保護戦略を意識する。
  • 人工呼吸器装着の目的を明確にする。

 

 

人工呼吸器装着の目的

  • 酸素化の維持と改善
  • 換気の維持と改善
  • 呼吸仕事量の軽減

 

 

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人工呼吸器の適応

  • 急性呼吸不全、および慢性呼吸不全
  • 難治性低酸素症
  • 咳嗽反射消失などの下気道保護困難
  • 上気道狭窄・閉塞

 

 

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人工呼吸器の合併症とその予防

  • シャント、死腔の増大
  • 心拍出量低下、腎血流低下
  • 頭蓋内圧上昇
  • 人工呼吸器誘発性肺傷害(ventilator induced lung injury:VILI、表1)
  • 人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia:VAP)

 

表1人工呼吸器誘発性肺傷害

人工呼吸器誘発性肺傷害

(田中竜馬ほか訳:ヘスとカクマレックの人工呼吸ブック,第2版,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2015より改変)

 

 

肺保護戦略

肺の過膨張による傷害を避け、肺保護の目的で行われる(表2)。

 

表2肺保護戦略

肺保護戦略

 

もとは急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS) に用いられていた管理方法だが、VILI の抑制にも効果があり ARDS 以外でも実施される。

 

 

人工呼吸器関連肺炎予防バンドル(VAP予防バンドル)

人工呼吸器関連肺炎の予防に向けたケア戦略で、遵守することで予防効果を上げることができる(表3)。

 

表3VAP予防バンドル

VAP予防バンドル

 

 

 

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人工呼吸器の管理の実際

必要物品

 

 

機器の管理

1人工呼吸器の点検

  • 人工呼吸器の換気モードや設定の確認。
  • 電源ケーブルは緑色のコンセントに入っているか。
  • 人工呼吸器のストッパーはかかっているか。
  • アラームの設定は適切か。
  • 加温加湿器の口元センサーは上側にあるか。
  • バックアップはあるか(酸素流量計、バッグバルブマスク、ジャクソンリース回路など)。

 

 

2一般的なアラームの原因と注意点

高圧アラーム

バッキングや非同調、チューブの閉塞が原因。

注意点:圧上昇時には安全のために呼気弁が開放しているため換気が入らない。

 

 

低圧アラーム

回路リーク、患者の吸気努力が強いことが原因。

注意点: 1 回換気量の低下や呼吸仕事量の増加を示している。

 

呼吸数上限アラーム

呼吸窮迫、不穏、換気量増加が原因。

注意点:呼吸仕事量の増大、人工呼吸器サポートの必要性増大。

 

呼吸回数低下アラーム

呼吸応答低下、呼吸努力低下が原因。

注意点:換気不十分を示している。

 

1 回換気量低下アラーム

呼吸応答低下、呼吸努力低下、回路リーク、圧上限アラームによる 1 回換気量低下が原因。

注意点:換気不十分を示している。

 

 

人工呼吸器 Servoの場合の主な設定項目

  • 換気モード
  • 1 回換気量 PC above PEEP
  • 呼吸数(frequency:f) SIMV 回数
  • PEEP
  • PS above PEEP
  • トリガー(圧フロー)
  • 吸気時間(Ti)I:E 比 SIMV 呼吸時間
  • 立ち上がり時間
  • サイクル OFF

※非同調は患者の呼吸努力の増加や不快、不穏の原因となる。呼吸状態やグラフィックモニターを見ながら調整する。

 

加温・加湿

  • 人工・加温加湿器は患者の状態や環境により選択する。
  • 人工鼻は加温加湿器に比べ性能は劣る。
  • 体温、室温、気管チューブの種類や長さ、換気設定の影響で性能が変化するため、交換はメーカー推奨 1~2 日の交換となっている。
  • 加温加湿のみのタイプ(HME)と細菌・ウィルスフィルター機能を有する(HMEF)がある。
  • 加温加湿器(F & P MR850)は口元・チャンバー、ヒータープレートの温度をセンサーで感知し、電力を制御することで呼吸器回路内の温度と湿度を安定化させる。
  • 設定は気管挿管モードを使用し、運転モードはオートで使用する。
  • その際、センサープローブに水滴などが付着すると制御不能となるため結露などで濡れないよう管理する。
  • 人工鼻と加温加湿器の併用は、過加湿により流速抵抗やフィルターの閉塞をまねくため禁忌である

 

 

患者の管理

  • 挿管チューブの挿位置、固定の長さ、皮膚トラブルの有無を確認する。
  • カフ圧は25~30cmH2O を保ち、処置や体位変換などの際に適宜確認する。
  • 鎮痛鎮静深度を評価する。
  • 口腔内環境を評価する。
  •  1 日 1 回鎮静を中断し自発呼吸の評価をする( 詳細は ABCDEFGH バンドル)。
  • 長時間の同一体位は避け、患者の状態に合わせて、適宜体位呼吸療法や体位ドレナージを実施する。
  • VAP 発症メカニズム(図1) を考え、VAP 予防バンドルの履行する(表3参照)。

 

図1VAP 発症のメカニズム

VAP 発症のメカニズム

(三反田拓志,片岡惇:特集・気道,INTENSIVIST,11(4):718,2019より改変)

 

 

気管吸引

手順

  • 基本的に閉鎖回路を使用する。
  • 気管吸引は侵襲的な処置であり、時間おきにルーチンの吸引は実施しない。
  • 実施する場合は聴診や触診、グラフィックモニターから痰の存在を判断し、吸引可能な範囲にあることを確認してから実施する。
  • 吸引チューブの挿入は挿管チューブより 2~ 3 cm までとし、気管分岐部に当たらないよう注意する。
  • 吸引チューブの目盛りと挿管チューブの目盛りの長さを参考に挿入する。
  • 吸引圧は20kPa(150mmHg) とし、 1 回の吸引時間は 7 ~10秒以内に留める。
  • チューブ挿入は左手に挿管チューブと吸引チューブの陰圧スイッチを持ち、吸引圧をかけながら右手で挿入していく。
  • 痰が引けたところで挿入を止め吸引しながらゆっくり引いていく。
  • 実施中から実施後までバイタルサインに注意する。実施後に痰が除去できたか確認する。

 

評価と観察とその対応

表4各評価と観察とその対応

各評価と観察とその対応

 

1酸素化の評価

  • 呼吸状態の酸素化を評価する指標の 1 つである酸素化係数(P/F ratio:PaO2 /FiO2ratio)を確認する(健常者では450~500程度)。
  • ARDS ガイドラインでは、PEEP table(表5)の影響を受けるため PEEP or CPAP≧ 5 cmH2O 以上のもとで判定する。

 

表5PEEP table(FI O2 とPEEPの設定表)

PEEP table(FIO2とPEEPの設定表)

 

 

2換気の評価

  • 目標とする換気量は肺胞換気量、組織の二酸化炭素産生量によって異なる。
  • また設定している 1 回換気量がすべて呼吸領域に入るわけではない。

 

 

  • 換気量:不適切な 1 回換気量は容量障害のリスクになる。 1 回換気量の決定は予測体重を用いる。

 

・ 1 回換気量 6 ~ 8 mL/kg、分時換気量約100mL/kg/ 分

・ 予測体重(PBW)= 男性50kg or 女性45.5kg + 0.91 ×(身長 cm -152.4)

 

  • 死腔換気率:高二酸化炭素血症が是正されない場合二酸化炭素産生量の増加や死腔換気量の増加を考える。動脈血-呼気二酸化炭素分圧較差の増大は肺胞死腔の増大を示唆する。

 

3呼吸仕事量の評価

  • 呼吸仕事量を適切に評価・調節することはVALI や自発呼吸誘発性肺障害(P-SILI)、人工呼吸器誘発性横隔膜萎縮(VIDD)を予防する。
  • COVID-19患者で頻呼吸がある場合には、過度な吸気努力を回避させることが重要で、とくに P-SILI に気をつける。
  • 呼吸仕事量はフィジカルアセスメント、グラフィックモニター(同調性、数値)などから評価する。
  • 吸気努力を反映するモニター数値と非同調(表6 )として、次のものがある。

 

表6非同調の分類と原因、対応

非同調の分類と原因、対応

(岡崎智哉,則末泰博:INTENSIVIST,10(3),人工呼吸器,東京,2018:525-532より改変)

 

  • 以下の写真は代表的な非同調の一例で、調節換気によるものを取り上げた(調節換気と自発換気により波形は異なる)。

写真1非同調の波形

非同調の波形

 

 

写真2auto PEEP

auto PEEP

 

 

グラフィックモニタリング

  • グラフィックシステムは呼吸機能変化の情報を迅速に提供し、人工呼吸のアウトカム評価に有用である。
  • グラフィックモニターから患者の呼吸状態を読み取り設定を適正化することは同調性を改善し患者の呼吸負担の軽減につながる。
  • まずはグラフィックの仕組みを理解し、次に正常波形を覚え、異常波形を見つけられるようにトレーニングする。
  • グラフィックは主に圧 vs 時間、流量 vs 時間、容量 vs 時間からなる3つのグラフで構成される。
  • 縦軸が圧、流量、量の変化、横軸が時間経過である。P-V、F-V ループは吸気と呼気をつないだグラフで、コンプライアンス・気道抵抗の変化や呼吸仕事量の変化を反映する。グラフィックモニタリングは専門書を参考にする。

 

 

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引用・参考文献 閉じる

1 )田中竜馬ほか訳:ヘスとカクマレックの人工呼吸ブック,第 2版,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2015

2 )日本集中治療医学会,日本呼吸療法医学会,日本呼吸器学会:ARDS 診療ガイドライン,2016,https://www.jsicm.org/pdf/ARDSGL2016.pdf(2022年2月21日現在)

3 )日本集中治療医学会:VAP 予防バンドル,https://www.jsicm.org/pdf/2010VAP.pdf,2022年 2 月21日閲覧

4 )大野博司:ICU/CCU の薬の考え方、使い方,ver.2,p.241-242,中外医学社,2016

5 )三反田拓志,片岡惇:特集・気道,INTENSIVIST,11( 4 ):718,2019

6 )Acute Respiratory Distress Syndrome Network,Brower RG, Matthay MA, et al: Ventilation with lower tidal volumes as compared with traditional tidal volumes for acute lung injury and the acute respiratory distress syndrome, N Engl J Med, 342(18):1301-1308, 2000

7 )岡崎智哉,則末泰博:特集・人工呼吸器,INTENSIVIST,10( 3 ):525-532,2018

8 )竹内宗之監訳:え!?ここまでわかるの? 人工呼吸器グラフィックス,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2015

 

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版

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