人工呼吸器離脱
『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「人工呼吸器離脱」について解説します。
栗原良晃
市立青梅総合医療センター 看護師
峠坂龍範
市立青梅総合医療センター 臨床工学技士
- 人工呼吸管理の必要性がなくなった時点で早期に離脱をめざす。
- 毎日の評価を欠かさない。
人工呼吸早期離脱の条件
人工呼吸器となった原疾患やガス交換能の改善、自発呼吸が可能となり、血行動態が安定している。
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SATとSBT
離脱条件をクリアした場合、自発覚醒トライアル(SAT)と自発呼吸トライアル(SBT)へ移行する(図1)。
図1人工呼吸器離脱プロトコル
自発覚醒トライアル(SAT)
- SAT(spontaneous awakening trial) とは鎮静薬を中止または減量し、自発的に覚醒がえられるか評価する試験である。
- 気管チューブの苦痛は最小限にするため麻薬などの鎮痛は継続する。
- 観察は30分~ 4 時間程度を目標とする。
- 鎮静スケールを用い、評価する。
自発呼吸トライアル(SBT)
- SBT(spontaneous breathing trial)とは人工呼吸による補助がない状態に患者が耐えられるかどうかを確認するための試験である。
- 患者が開始基準を満たせば、人工呼吸器設定を CPAP または T ピースに変更し、30分~ 2 時間観察する。成功基準を満たせば抜管を考慮する。
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SATの流れ
SAT開始基準
SAT 開始にあたり下記の項目を確認する。
1不穏により鎮静薬の投与量が増加している。
2筋弛緩薬を使用している。
324時間以内に心筋虚血がある。
4痙攣、アルコール離脱症状のための鎮静薬を継続投与中
5頭蓋内圧亢進
6医師の SAT 禁止指示
■該当なし
SAT 開始。 鎮静薬中断・鎮痛薬は鎮静に影響の出ない範囲で継続する。
■該当あり
SAT を見送り、翌日再評価する。
SAT成功基準
SAT 成功の基準は、30分~最大 4 時間観察し、次の内容について評価する。
1口頭指示で開眼や動作が容易に可能である(RASS- 1 ~ 0 程度)。
2鎮静中断30分経過しても以下の状態がない。
・持続的な興奮・不安状態や、鎮痛薬により痛みがコントロールできない場合、呼吸回数≧35/ 分が 5 分間以上。SpO2 <90% が持続したり、急性の不整脈が出現する。
■SAT 成功
①、②ともにクリアした場合、SBT へ移行する。
■SAT 失敗
原因の分析と対応、翌日再評価する。
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SBTの流れ
SBT開始基準
SAT 成功後に以下の項目に該当することを確認し、SBT を開始する(該当しない場合は原因を分析し、翌日再評価する)。
1人工呼吸開始となった原因が改善する。
2酸素化が十分である。FiO2 ≦0.5かつ PEEP≦ 8 cmH2 O のもと SpO2 >90% もしくは P/F ratio >200
3血行動態が安定している。急性の心筋虚血、重篤な不整脈がなく、心拍数<140/ 分。ドパミン ≦ 5 μg/kg/ 分、 ドブタミン ≦ 5 μg/kg/ 分、ノルアドナレリン≦0.05μg/kg/ 分
4十分な吸気努力がある。
・Tv > 5 mL/kg、 分時換気量 <15L/ 分、RSBI(Rapid shallow breathing index: 呼吸回数 / 1 回換気量 /L)<105回 / 分 /L
5異常呼吸パターンを認めない。呼吸補助筋の過剰な使用がなく、奇異性の呼吸がない。
6全身状態が安定している。発熱がなく、重篤な電解質異常や貧血、体液過剰がない。
SBTの実際と成功基準
上記の項目に該当する場合、SBT により患者が呼吸器離脱に耐えられるかどうかを 1日1回評価する。
SBT の手順
1吸入酸素濃度50% 以下に設定
2CPAP ≦ 5 cmH2O(PS ≦ 5 cmH2O) または T ピース吹き流し
3上記設定で30分間継続し観察する(120分以上は継続しない)。
SBT の成功基準
- 呼吸数<30/ 分
- 開始前と比較し SpO2 と PaO2 の著しい低下がない。
- PaCO2 の貯留がない。
- 心拍数<140bpm
- 開始前と比較し呼吸促迫兆候がない(過度な呼吸補助筋の使用、奇異性呼吸、冷汗、重度の呼吸困難、不穏、不安感) 。
■SBT 成功
30分継続し上記基準を達成。気管チューブ抜去へ。
■SBT 失敗
上記基準を達成できなければSBT 前の設定へ戻し、原因の分析と対策。24時間後に再評価する。
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1 )日本クリティカルケア看護学会:人工呼吸器離脱プロトコル2015、https://www.jaccn.jp/guide/pdf/proto2.pdf、2022年 2 月21日閲覧
2 )日本クリティカルケア看護学会:人工呼吸器離脱に関する 3学会 合同プロトコル、https://www.jaccn.jp/guide/pdf/proto1.pdf、2022年 2 月21日閲覧
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版