気管挿管の準備と評価

『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「気管挿管の準備と評価」について解説します。

 

栗原良晃
市立青梅総合医療センター 看護師

峠坂龍範
市立青梅総合医療センター 臨床工学技士

 

 

 

Key point
  • 気管挿管は事前の評価と準備が重要。
  • 予期せぬ困難気道に対し迅速に対応できるトレーニングを!

 

 

気管挿管の準備と評価の目的

救急・集中治療領域では、気管挿管成功までに時間を要するほど低酸素に伴う合併症が増えるため、初回成功率を高めることが重要である。

 

“マスク換気ができず、かつ気管挿管もできない状態”(Canʼt ventilate canʼt intubate:CVCI)は、気道確保における致死的事象であり、困難気道(difficult airway : DA)を管理するなかで最も危険な状態である。

 

CVCI の状態は急速に低酸素血症が進み、心停止や障害を起こす危険がある。

 

予期せず起こり、発生時には迅速に外科的気道確保に移行する必要があるため、普段からのトレーニングと対策が重要である。

 

 

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気管挿管の適応

表1気管挿管の適応(MOVES)

 

一般的適応

 

 

臨床所見での適応

  • 呼吸補助筋使用による呼吸
  • 一文をすべて話しきることができないこと
  • 速く浅い呼吸
  • 十分な酸素投与にかかわらず低酸素血症が進行
  • 意識障害
  • 痰・血痰の排出困難

 

 

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気管挿管の準備

必要物品

  • 気管チューブ( 男性7.5~ 8 mm、 女性 7 ~7.5mm)
  • スタイレット
  • (ガムエラスティック)ブジー
  • 10cc シリンジ
  • バッグバルブマスク
  • マッキントッシュ型ブレード
  • ビデオ付喉頭鏡(ブレードは患者に合わせたサイズを選択、電気がつくことをチェック)
  • エアウェイスコープ
  • 固定テープ
  • バイトブロック
  • カフ用シリンジ
  • 潤滑ゼリー
  • リドカインゼリー
  • リドカインスプレー
  • 吸引器・ 吸引チューブ、
  • カプノメータ(EtCO 2モニター)
  • エアウェイ
  • 経口エアウェイ
  • マギール鉗子
  • 感染防護具
  • その他に救急カート・必要薬剤・モニターを準備する(写真1 )。

 

写真1気管挿管の必要物品

気管挿管の必要物品

 

使用する薬剤

  • 鎮静薬:ミダゾラム 5 ~10mg(またはプロポフォール50~100mg)
  • 筋弛緩薬:ロクロニウム 1 mg/kg(筋弛緩薬を挿管前に使用した場合,気道確保が確実にできないと CICV(cannot intubate,cannot ventilate)の状態となるため、十分な注意が必要)
  • 鎮痛薬:フェンタニル0.05~0.5mg(患者の状態が悪いほど、意識下での気管挿管を考慮する)

 

 

気管チューブの準備

空気を入れて、カフが正しく膨らむかどうかを確認する(確認後は必ず空気を抜く)。

スタイレットの先端が出ないようにネジを固定する。

 

写真2気管チューブの準備

気管チューブの準備

気管チューブの準備

 

患者の準備と評価

準備と評価には、以下の ABC-SOAPMD を参考にするとよい(表2)。

表2気管挿管の準備と評価(ABC-SOAPMD)

気管挿管の準備と評価(ABC-SOAPMD)

 

  • A(assesment):気管挿管前に換気困難予測(MOANS)、挿管困難予測(LEMON)、病態困難予測(HOP)の評価を行う(表3)。

 

表3気管挿管時のアセスメント

気管挿管時のアセスメント

 

  • B(buck up plan):気管挿管前リスク評価を行い、 デバイスや迅速導入気管挿管(rapid sequence intubation : RSI)の適応を決定するが気管挿管が失敗した場合の次の手段を計画しておく。
  • C(call for help/cooperate as a team):リーダーを中心としたチーム内での役割分担を明確にする(図1)。状況を的確に把握できるよう、チェックリストやアルゴリズムを用い、プロセスをメンバー間で共有する。

 

図1気管挿管時の役割分担の例

気管挿管時の役割分担の例

 

 

  • S(suction):声帯を視認するために、痰や異物をすぐに除去できるよう吸引器はすぐに使用できるように準備しておく。

  • O(oxygenation/oxygen device):気管挿管前に高濃度酸素で脱窒素化、前酸素化により動脈血酸素分圧をあげる。最も基本的なデバイスはバッグバルブマスクやジャクソンリース回路である。

  • A(airway equipment):使用する喉頭鏡や、気管支ファイバーの準備を行う。喉頭鏡は直接型、間接型ともに利点・欠点があるため状況にあったものを選択する。

  • P(position/pharmacy):換気・挿管に適した体位をとり、使用薬物を準備する。ベッドの高さは術者が脇を締め、肘を90度に曲げた位置で喉頭展開できるよう調整し、患者を術者側へ移動する。頭部はスニッフィングポジションとする(図2)。スニッフィングポジションの際は、枕や折りたたんだタオルを頭の下に入れて高さを調節する。高さの目安は、外孔と胸骨が同じ高さになる程度である。

 

図2頭頸部の姿勢と各軸との関係

頭頸部の姿勢と各軸との関係

 

 

  • M(monitor device): 状態の急変に備え、心電図、SpO2 、マンシェットを準備し装着しておく。その際、血圧を測定する上肢と SpO2 を測定する上肢は分けておく。

  • D(denture):脱落した義、動揺歯が気道や食道へ迷入しないよう、あらかじめ確認し取り外しておく。義歯を外すとバッグバルブマスクのフィッティングへ影響するためその場合は、喉頭展開直前まで装着しておく。

 

 

 

 

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気管挿管介助の実際

挿管の手順

気管挿管介助の手順を写真3に示す。

写真3気管挿管介助の手順

気管挿管介助の手順

気管挿管介助の手順

 

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気管挿管の確認

1用手的換気を行いながら、心窩部の聴取をする。

 

2胸部の聴取( 5 点聴取):①右前胸部、②左前胸部、③右側胸部、④左側胸部、⑤心窩部の順に聴取する(写真4)。

 

写真4気管挿管の確認と気管チューブの位置

気管挿管の確認と気管チューブの位置

 

3チューブの曇り具合を確認する。

 

4リザーバーの膨らみを確認する。

 

5EtCO2を確認する。

 

 

マッキントッシュ型喉頭鏡下で喉頭展開しても声門が見えない場合

・吐物や異物の場合、吸引ないしはマギール鉗子などで除去する。

 

・喉頭部が前にみえる場合、輪状軟骨・甲状軟骨を体外から押さえるか(輪状甲状軟骨圧迫:Sellick 手技や BURP 手技)、直型ブレードに変更する。

 

・スニッフィングポジションを確実にする。

 

・バッグバルブマスク換気をしながら救援を呼ぶ。

 

 

マッキントッシュ型喉頭鏡以外の他の挿管手技

  • 経鼻挿管
  • 気管支鏡下経口挿管
  • ビデオ付喉頭鏡(エアウェイスコープなど)
  • 気管挿管ブジー
  • ラリンジアルマスク(LMA)
  • 外科的気道確保など

 

 

 

 

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迅速導入気管挿管

迅速導入気管挿管(rapid sequence intubation : RSI)とはクラッシュ(迅速麻酔導入)により、気管挿管を容易にし、輪状甲状軟骨圧迫を行いフルストマック(の中の内容物があること。鎮静によって嚥下反射が抑制されて誤嚥のリスクが高くなる)による誤嚥リスクを最小限に抑えて気管挿管を行うことである。

 

 

RSIの禁忌

患者の自発呼吸を消失させるため、挿管および換気困難のリスクがある場合、CVCI をまねく危険があり相対的な禁忌となる。

 

そのため RSI の前に DA を評価することは重要である。挿管困難が示唆される場合 RSIは実施しない。

 

 

RSIの実際

事前準備(ABC-SOAPMD)

1困難気道の評価(A)、デバイスや RSI などプランの決定(B)

 

2メンバーの確保・情報共有、プロセス・役割担当の確認、CVCIを想定した外科的気道確保の準備(C)

 

3血管確保と昇圧剤の準備、モニタリングの準備、救急カートの準備

 

4吸引の準備(S)、脱窒素・前酸素化(O)、喉頭鏡のセット(A)

 

5枕を入れてスニッフィングポジションをとる。ベッドの高さを調整し患者をベッドの頭側へ移動する(P)。急変に備えモニタリングする(M)。

 

6義歯を確認しある場合は外してもらう。動揺歯がある場合は注意する(D)。

 

 

手順

1RSI 開始:鎮静薬(プロポフォールやミダゾラム)を投与、Sellick 法(図3)での輪状甲状軟骨圧迫を行う。

 

図3Sellick法(輪状甲状軟骨圧迫)

Sellick 法(輪状甲状軟骨圧迫)

 

2適宜、筋弛緩薬(スキサメトニウムやロクロニウム)を投与する。

 

3RSI 開始30~40秒:気管挿管開始。声門部が確認できない場合 BURP 法 * を実施する。

 

4RSI 気道確保後: 聴診は心窩部→ 5 点聴取を行う。胸郭の動きの観察、チューブのくもりの有無を確認する。

 

5挿管チューブを固定。EtCO2を確認し、人工呼吸器を装着する。

 

6胸部単純 X 線撮影、血液ガス分析を依頼する。

 

*BURP 法: B ( backward )、 U ( upward )、 R(rightward)、P(pressure)。甲状軟骨を後ろ→上→右に動かし圧迫する方法

 

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引用・参考文献 閉じる

1 )大野博司:ICU/CCU の薬の考え方、使い方,ver.2,中外医学社,東京,2016,p.198

2 )東秀律:気道,INTENSIVIST,東京,2019,11( 4 ):645~651

3 )大野博司:ICU/CCU の薬の考え方、使い方,ver.2,中外医学社,東京,2016,p.206-208

 

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版

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