PT、APTTの読み方|「凝固・線溶系異常」を 読む検査
『エキスパートナース』2015年10月号より転載。
PT、APTTの読み方について解説します。
宮﨑あかり
信州大学医学部附属病院臨床検査部
PT:prothrombin time、プロトロンビン時間
APTT:activated partial thromboplastin time、活性化部分トロンボプラスチン時間
PT、APTTの基準範囲
- PT:10-12秒(参考値)
- APTT:22.5-37.5秒(参考値)
延長↑に注意
PT、APTTはどんなときに見る?
- 以下の疾患が疑われるとき
DIC、肝疾患、胆道系疾患など
- 手術前のスクリーニング
- 薬剤のモニタリング
〈目次〉
PT・APTTとは、PT・APTTの読み方
血液の凝固にかかわる機序としては、血管内皮細胞などにある組織因子(tissue factor、TF)依存性の凝固(外因系凝固活性化機序)と、TF非依存性の凝固(内因系凝固活性化機序)があります。
プロトロンビン時間(PT)は外因系凝固活性化機序を、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は内因系凝固活性化機序を反映した検査です。PTもAPTTも、クエン酸ナトリウム入りの凝固専用採血管から得られた血漿を用いて検査を行います。
PT・APTTはそれぞれ短縮を認めることもありますが、主に延長時に病的意義があります。PTは凝固第Ⅶ・X・V・Ⅱ・I因子の活性が低下すると延長し(図1-①)(1)、APTTは凝固第Ⅻ・Ⅺ・Ⅸ・Ⅷ・X・V・Ⅱ・I因子の活性が低下すると延長します(図1-②)(1)。
例えば手術前のスクリーニング検査では、PT・APTTの延長により凝固系の異常が見つかると、場合によっては手術の延期も必要になります。また、PT・APTTは抗凝固療法で用いられる薬剤のモニタリングにも利用されています。
(手順1)PT、APTTが延長する3つの原因を検討する
手順2とあわせて解説します。
(手順2)他の検査値とあわせて、原因となる疾患を推測する
1胆道疾患等による「ビタミンK欠乏」がないか検討する
凝固第Ⅶ・Ⅸ・X・Ⅱ因子はビタミンK依存性凝固因子で、ビタミンKが欠乏すると活性は低下し、PTが延長します。さらにビタミンK欠乏状態が悪化すると、APTTも延長することがあります。
ビタミンKが欠乏する原因はさまざまです。例えば食事摂取量が低下すると、ビタミンKの摂取量も低下するためPTが延長します。
また、ビタミンKは脂溶性で、その吸収には胆汁が必要です。胆道疾患などにより腸管内に胆汁が排出されないと、ビタミンKが吸収されず、PTが延長します。この場合、ビリルビンの値が上昇します。
2肝不全による「凝固因子の合成低下」がないか検討する
凝固因子は肝臓で合成されるため、肝不全や肝硬変によって肝臓の合成能が低下すると、PTやAPTTは延長します。特に、凝固第Ⅶ因子は半減期が短く、第Ⅶ因子を反映したPTの延長が目立ちます。
肝不全による凝固因子の産生低下を考えた場合、肝合成能のマーカーであるアルブミンやコリンエステラーゼの値が参考になります。
3DICによる「凝固因子の消費」がないか検討する
DIC(播種性血管内凝固症候群)は基礎疾患が存在する状態で、全身性かつ持続性に激しい凝固活性化が生じ、微小血栓が多発する病態です。凝固因子は微小血栓の材料として使用され、その消費された結果としてPTやAPTTの延長が見られることがあります。
DICの診断基準はいくつかありますが、基礎疾患の存在に加えて、血小板数の低下、FDP(fibrin/fibrinogen degradation products)の上昇、フィブリノゲンの低下、PTの延長、出血症状・臓器症状の存在などがスコアリングの項目にあります。DICが疑われる場合は、これらの項目も一緒に見るとよいでしょう。
なお、DIC症例数の多い基礎疾患としては、敗血症、急性白血病、固形がんなどが挙げられます。
コラム先天性疾患によるPT、APTTの延長
先天的に凝固因子が欠乏している場合あるいは活性異常を示す場合、PTやAPTTの延長が見られます。
例えば、PTのみが延長し、APTTは正常である場合、凝固第Ⅶ因子活性の低下が考えられます。これは先天性第Ⅶ因子欠乏症あるいは異常症を表します。
また、血友病Aは、凝固第Ⅷ因子の活性低下により、血友病Bは凝固第Ⅸ因子の活性低下によりAPTTのみが延長します。
後天性血友病Aでは、凝固第Ⅷ因子に対する自己抗体が出現するため、APTTのみが延長します。
また抗リン脂質抗体症候群の診断に用いられるループスアンチコアグラント(循環抗凝血素)が陽性の場合、APTTが延長することがあります。
(手順3)原因となる薬剤がないか確認する
ワルファリン、抗菌薬、NOAC、ヘパリンの投与がないか見る
薬剤の投与の影響で、PT、APTTが延長することがあります。ワルファリンやヘパリンは抗凝固療法として用いられる薬剤です。延長が適切な範囲を超えていた場合は注意が必要です。
ワルファリン
抗凝固療法として用いられるワルファリンは、深部静脈血栓症、肺塞栓症などの発症予防や心房細動による脳梗塞の発症予防に使用される薬です。ワルファリンはビタミンK拮抗薬であり、肝臓でのビタミンKの働きを拮抗的に阻害します。そのため、ワルファリンを内服すると、ビタミンK依存性凝固因子の活性は低下し、PTは延長します。
このワルファリンのモニタリングにPTが利用されていますが、実際には、PTは試薬によって検査値に差が出るという問題があり、施設間で比較できるよう、補正されたPT-INR(international normalized ratio、国際標準比)が使用されています。ワルファリン内服の目的により、PT-INRの目標値を設定し、内服量を調整します。ワルファリン内服時は、PT-INRは2-3程度でコントロールされることが多いようです。
抗菌薬
抗菌薬の投与によっても、PTが延長することがあります。抗菌薬の投与によって腸内細菌が減少すると、もともと供給源となっていた腸内細菌が産生するビタミンKの量が低下するためです。
新規経口抗凝固薬(NOAC)
新規経口抗凝固薬(novel oral anticoagulants/new oral anticoagulants、NOAC)はワルファリンに代わる経口可能な抗凝固薬です。このNOACの内服でもPTやAPTTの延長が見られることがあります。
ヘパリン
ヘパリンは抗凝固療法に用いられる薬剤です。モニタリングにはAPTTが用いられ、約1.5~2倍程度の延長をめやすに管理されることが多いようです。透析回路やヘパリンロック部位、動脈留置カテーテルからの採血などでヘパリンが混入しても、アーチファクトとしてAPTTが延長します。
[引用文献]
- (1)山田俊幸:3血液検査M.活性化トロンボプラスチン時間(APTT)とプロトロンビン時間(PT).河合忠,屋形稔,伊藤喜久,山田俊幸編:異常値の出るメカニズム第6版.医学書院,東京,2013:113-114.
[参考文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有©2015照林社
P.54~「PT、APTT」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年10月号/ 照林社