生殖機能の発育と生殖器の構造|子孫をつくる(2)

解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、生殖についてのお話の2回目です。

 

[前回の内容]

遺伝と染色体|子孫をつくる(1)

 

解剖生理学の面白さを知るため、遺伝と染色体について知りました。

 

今回は生殖の機能と生殖器の構造の世界を探検することに……。

 

増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授

 

思春期に始まる生殖器の発育

ヒトにおける性分化の過程は胎生期に完了しますが、生殖能力が発達するには、思春期まで待たなければなりません。に代表される神経系は、20歳頃までにはほぼ完成します。体重運動能力などは、成人期までゆっくり発達します。ところが、生殖器は思春期までほとんど発達せず、思春期を迎えると急速に発達し、成人期に完成します。

 

一般的に、女性の生殖能力(卵子を放出できる能力)がピークに達するのは20代後半。その後、女性の生殖能力は徐々に低下し、50歳前後で閉経を迎えると、排卵と月経が停止し、妊娠する能力を失います。

 

これに対し、男性の生殖能力には限界がありません。思春期以降死ぬまで、男性生殖器は毎日、何百万個という精子を作り続けることができます。

 

思春期になると、生殖器の発育だけでなく、第二次性徴(せいちょう)と呼ばれるさまざまな身体変化も現れてきます。女性は月経が始まるほか、乳房が膨らみ、陰毛が生え、皮下脂肪が沈着して女性らしい体つきになっていきます。

 

男性は、筋骨が発達してたくましくなり、ひげや陰毛の発生、声変わりなどが見られます。男性の場合、こうした変化と同時に精子形成と射精能力が完成しますが、女性の初潮に比べると、時期は必ずしも明確ではありません。

 

精子はいつまでも作り続けることができるけど、女性が生殖できる年齢はかぎられている。なんだかすごく不公平な気がします

 

卵子のモトになる卵母細胞は、胎児の場合、700万個くらいあるといわれています。ところが、出生するころまでには200万個くらいまで減って、思春期にはさらにその半分になってしまうの

 

えっーっ、卵子のもとって成長とともに減っていくんですか?

 

そうなの。それに、どんどんと古くなっていくし

 

卵子はいったんつくられたら古くなるし、減っていくだけ。それじゃ、いいことないじゃないですか

 

まあまあ、落ち着いて。卵子はそれだけ、貴重だってことなんだから

 

生殖機能は、いつ、どのようにして目覚めるか?

生殖機能が完成するのは思春期以降といいましたが、それが働きだすきっかけって、あるんでしょうか?

 

いい質問ね。実はまだ、十分には解明されていませんが、ある種の性ホルモンが関係している、といわれています

 

性ホルモン?

 

ホルモンについては『標的細胞を刺激するホルモン|調節する(3)』で説明しましたね。性ホルモンはその一種。精子や卵子の生成から受精卵の育成まで、生殖にかかわる体内の環境作りはすべて、性ホルモンが指示しています

 

生殖機能の発育に関係している性ホルモンは、視床下部や下垂体、生殖器から分泌されます。さまざまな性ホルモンがどのようにして精子・卵子の成熟を促しているか、それぞれ順を追って見て行きましょう(図1)。

 

図1性ホルモンの働き

 

性ホルモンの働き

 

視床下部と下垂体から分泌されるホルモン

思春期を迎え、視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gn-RH)が分泌されると、男女ともに下垂体前葉から卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が分泌されます。この時期に多量のFSHが分泌されると、男性の精巣は精子細胞を作り始めます。また、LHは精巣の間質細胞を刺激して、テストステロンを分泌させ、これが精子の成熟や第二次性徴の発現を促します。

 

一方、女性の卵巣ではFSHの分泌により、卵子のもととなる卵母細胞が成熟を始めます。同時に、卵胞ホルモンであるエストロゲンが分泌され第二次性徴が発現し、子宮の粘膜が増殖して、受精卵を受け止める準備がスタートします。

 

ここでの上位ホルモンは、視床下部の性腺刺激ホルモン放出ホルモンですね

 

そのとおりよ

 

精子をつくれと命令するのも、卵子をつくれと命令するのも、同じ卵胞刺激ホルモンだ

 

精子や卵子をつくる性腺を刺激するホルモンと、第二次性徴を促すホルモンが別だということも、ポイントね

 

排卵から着床、または月経へ

下垂体前葉から分泌されたLHは排卵を促し、排卵の後に卵巣で形成される黄体からは、プロゲステロンが分泌されます。

 

プロゲステロンは子宮内膜の増殖をさらに促進し、血流を増やすホルモンです。さらに、子宮腔内に栄養素を分泌して、発育している受精卵(胚子)が着床するのを助けます。

 

受精後しばらく、黄体はプロゲステロンを分泌し続けますが、受精しない場合、黄体は白体に変わり、ホルモンを分泌しなくなります。すると、それがサインとなって、増殖した内膜も剥がれ落ちます。これがすなわち月経です。

 

受精卵が無事に着床し胎盤が形成されると、分泌機能の弱くなった黄体に代わって、胎盤からプロゲステロンが分泌されるようになります。

 

月経といえば、おもしろい指摘もあって、ここ100年くらい、女性の初潮は早まる傾向にあるんだけど、初潮を迎えた女性の体重は、まったく変わっていないの

 

ということはつまり、性ホルモンが働き出す時期と体重に、なんらかの関連性がある、ということでしょうか?

 

その可能性が高いわね

 

コラム器官が違えば、発達のピークも違う

アメリカの解剖学者であるスキャモン(Richard Scammon)は、各器官が年齢によってどのような成長過程をたどるか、を詳しく調べています。彼は同じような成長過程をたどる器官を集め、その特徴を4つの型(一般型、神経系型、生殖器型、リンパ系型)に分類しました。それぞれの成人期を100とした場合の成長度合いを示したグラフは、「スキャモンの発育発達曲線(1930)」と呼ばれています(図2)。

 

図2スキャモンの発育発達曲線

 

スキャモンの発育発達曲線

 

スキャモンの曲線における「一般型」は、身長、体重や肝臓腎臓などの胸腹部臓器の発育を示しています。乳幼児期までは急速に発達し、その後はいったん成長が緩やかになり、第二次性徴が出現し始める思春期になると、再び急激に発達します。

 

脳の重量や頭囲で計った神経系の発達は、出生直後から急激に発育し、4~5歳までには成人の80%程度(6歳で90%)にまで達します。リンパ系型は生後から12~13歳頃まで急激に成長し、一時は成人のレベルを超えますが、思春期を過ぎると落ち着いて、成人と同じレベルになります。

 

発育が最もゆっくりなのは生殖器系です。小学校前半まではほとんど成長せず、14歳あたりから急激に発達していきます。

 

生殖器系が発達すると、性腺(卵巣、精巣)から性ホルモンが分泌され、第二次性徴が発現します。性ホルモンは同時に、骨を急激に成熟させる作用もあります。したがって、第二次性徴が早いと身長が伸びるのも早くなりますが、最終身長に達する時期も早くなるため、その後はあまり身長が伸びません。

 

一方、第二次性徴が遅い子どもは背もなかなか伸びませんが、骨の成長が長く続くために、最終的には身長が高くなったりします。

 

男性生殖器の構造

男性の生殖器は、ちょうどからだの真ん中あたり、両足の付け根近くにぶら下がっています。どうしてこんな不思議な形をしているのか、と思うかも知れませんが、実はこれ、精子にとって都合のよい構造なんです(図3)。

 

図3男性生殖器の構造

 

男性生殖器の構造

 

男性の外性器は大きく、陰嚢(いんのう)と陰茎(いんけい)に分けられます。陰茎は、女性の生殖器に精子を送り込むための器官で、内部は海綿体(かいめんたい)と呼ばれるスポンジ状の物質でできています。男性が性的に興奮すると、海綿体に血液が充満して勃起し、射精が可能になります。

 

陰嚢は内部が2つに分かれた袋のような形をしていて、中には、精子をつくる精巣(睾丸)が入っています。ぶら下がっているのは、温度を下げるため。精子をつくるのにちょうどよい温度は、だいたい32℃くらいなので、このほうが涼しくて最適な温度になります。

 

また、陰嚢の表面にあるシワは、寒過ぎると収縮して精巣をからだに近づけ温めます。反対に、暑くなると伸びて表面積を大きくして、熱を逃します。

 

へえ。男性の生殖器って、精子のために、いろいろと工夫してあるんですね

 

精子にとっていちばんの敵は熱よ。成人してから風疹にかかると不妊症になるといわれるのも、発熱が原因で精子の製造ができなくなってしまうからなの。それに、放射線抗生物質、タバコ、アルコールなども精子にはよくない、といわれています

 

精子と精液

精巣でつくられた精子は、その後どうなるんですか?

 

約20日間かけて、精巣から精巣上体を経て精管へと上っていきます

 

20日間もかけて、ですか?

 

卵子に出合う旅はそう簡単じゃないの。だから、ここで十分に運動能力を鍛えておかないといけないの

 

精子の形はよく、おたまじゃくしにたとえられます。頭部、中部、尾部に分かれたその構造は、たしかに、おたまじゃくしそっくりです(図4)。

 

図4精子の構造

 

精子の構造

 

遺伝情報を含んだは、丸く膨らんだその頭部にあります。中部にはミトコンドリアが詰まっていて、精子の運動に必要なATPを作り出しています。

 

女性の腟内に射精された精子は、尾部にあるしっぽを振りながら、巧みに前へと進んで行きます。このとき、精嚢から分泌された精液は酸性に傾いている腟内環境を中和し、精子の運動を助けます。精子は、この精液から運動に必要な栄養素も補給しています。精子の栄養源は果糖(フルクトース)です。

 

1回の射精で射出される精子の数は約3億個。精子が卵子に近づくと、頭部に蓄えた酵素を放出してその膜を破り、中へと侵入しようとします。

 

精子が受精できる確率は3億分の1かあ。すごい競争ですね

 

理由はよくわからないんだけど、競争が緩やかだと、精子自体も、あんまり元気がないのよね。通常、精液1mLに含まれる精子は約1億個といわれていますが、これが1mLあたり4,000万個以下になると不妊の可能性が高まり、2,000万個以下のケースでは妊娠が難しいという研究結果もあります

 

女性生殖器の構造

女性の生殖器は大きく、外陰部と腟、その奥の子宮、そして子宮から左右に伸びた卵管と卵巣でできています(図5)。

 

図5女性生殖器の構造

 

女性生殖器の構造

 

腟は、長さ8~10cmの薄い筋の壁でできた空洞です。分娩時には胎児の通り道にもなります。腟を奥へと進むと、子宮の入り口が見えてきます。

 

子宮は、大きさも形も洋梨に似た空間です。その壁は厚く、3層になっていて、内側にある子宮内膜は、受精卵を受け止めるベッドの役目をします。そのベッドは毎月新しいものに作り替えられ、古い膜は脱落して体外に排出されます(月経)。

 

子宮の両側にはそれぞれ、約10cmの卵管があります。末端は膨らみ、卵管采(らんかんさい)と呼ばれる突起がちょうど手の指を広げたような形をしています。

 

卵巣から排卵があると、この卵管采が波打つように卵子を吸い込みます。卵子は卵管の蠕動(ぜんどう)運動と線毛のリズミカルな動きによって子宮へと向かい、精子の到着を待ちます。

 

ということは、精子と卵子が出合うのは卵管の中?

 

そうよ。これにはちゃんと理由もあって、卵子の寿命は排卵後わずか24時間。でも、卵子が卵管を通って子宮にたどり着くまでには3~4日もかかるの。だから、無事に受精するためには、精子がいち早く卵管を通って、早いうちに卵子と出合わなくちゃいけないのよ

 

そうか、精子はそのために運動能力を鍛えてるんだ

 

受精のメカニズム

細く暗い腟から子宮、そして卵管へ。精子は、卵子が発する化学物質に誘われて卵子へと向かっていきます。精子が進むスピードは毎分約3mmといわれ、30分から1時間かけて卵管に達し、卵子を探し出します(図6)。

 

図6受精と着床

 

受精と着床

 

このとき、卵管の中にはおよそ数百の精子が存在しています。群れをなした精子の大群が卵子を見つけると、その頭部が次々と破裂し、酵素を放出します。そして、その酵素が卵子の膜を破壊して通り道ができると、1個の幸運な精子が、その道を通って卵子の中へと入ります。

 

この際、卵子の細胞内に引き込まれるのは遺伝情報を含む核だけで、それ以外は無情にも切り離されてしまいます。

 

こうして無事、受精が完了すると、膜はずっと頑丈なものに変化して、ほかの精子はもう、中へ入ることはできなくなります。

 

精子と卵子の出合いって、もっとロマンチックなものを想像してましたが、けっこうシビアですね

 

そうね。卵子は卵子ですごく厳しい選別を受けているし、精子は精子で3億分の1の競争を勝ち抜かないといけない。どんな受精卵も、荒波にもまれ、厳しい条件をクリアしたうえでできたものなのよ

 

卵割から発生へ

受精卵はその後、卵割(らんかつ)とよばれる分裂を繰り返し、さまざまな器官を発達させ、胎児となります。この過程を、生物学では発生といいます。

 

卵割を始めた受精卵は卵管の蠕動(ぜんどう)運動などによって子宮へと運ばれます。子宮にたどり着いた受精卵は子宮内膜のベッドにもぐり、着床します。この着床をもって妊娠の成立とみなされます。そして、胚葉(はいよう)(内胚葉、中胚葉、外胚葉)と呼ばれる、臓器や器官のもととなる基礎を形づくっていきます。

 

この胚葉がそれぞれの組織へと分化していく細胞群を原基といい、赤ちゃんにとっても、とても大切な時期にあたります。原基はだいたい、妊娠3か月くらいまで。その頃ちょうど、母体と胎児をつなぐ胎盤も完成します。

 

胎児はこの胎盤を通じて、母体から酸素や栄養素をもらい、ゴミを捨てています

 

胎盤は、酸素と栄養素しか通さないんですか?

 

ある程度の毒物を通さない仕組みはあるけれど、完璧ではないわね。妊娠中に母親が摂取した薬などはほとんど通してしまうし、風疹のウイルスが胎盤を通過して、先天性風疹症候群が大流行したこともあります

 

妊娠中は食べ物、飲み物、そして健康にも十分な注意が必要なんですね

 

ナスカさんのお母さんもきっと、そうやって大事に赤ちゃんを守っていたはずよ

 

[次回]

出生は人生最大の危機|子孫をつくる(3)

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版

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