急変対応って、結局、どうすればいいの?

 

『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は急変対応の総論です。

 

 

道又元裕
Critical Care Research Institute(CCRI)

 

 

そもそも「急変」って何?

急変という言葉は、これまで、一般にはあまり使われていない言葉でした。しかし、現在では、辞書にも「状態・様子が急に変わること」「にわかに起こった事変」「病状が急変する」などと記されるようになっています。

 

医療の現場で急変という言葉は、患者の健康状態が急激に悪化し、患者が生命にかかわる危機的状態に陥っていることを示します。

 

1 急変=代償機転の破綻

生体は、常に恒常性(ホメオスタシス)を保とうとしています。通常は、身体にとって不都合な変化(侵襲)が生じても、生体に備わっている予備能がすみやかにはたらくこと(代償機転)により、恒常性が維持されているのです。

 

しかし、生体に備わっている予備能は、無限ではありません。侵襲の程度が大きくなって予備能の限界を超えると、代償機転が破綻します。その結果、生体は、恒常性を維持できなくなり、急激に状況が悪化していきます。これが、急変です(図1)。

 

図1 急変の構造

急変の構造

 

つまり急変は、疾病や病態の生理学的重症度にかかわらず緊急性が高い状態であり、現在の状態から可能な限りすみやかに回復させることが必要で、それをしないと短時間内に命が絶たれる緊急事態だ、といえるでしょう。

 

2 急変と呼ばれる病態

臨床で遭遇する急変の代表的疾病・病態は、心肺停止、ショック、呼吸困難、致死的不整脈意識障害、急激な胸痛、けいれん、吐血・下血など、緊急性の高いものばかりです。

 

このなかで、最も全身への侵襲度が高いのは、いうまでもなく心肺停止です。

 

急変対応の基本として広く知られているBLS(一次救命処置、図2)やALS(二次救命処置、図3)は、心肺停止に対する対応です。

 

図2 BLS(医療者用)

BLS(医療者用)

日本蘇生協議会 監修:JRC蘇生ガイドライン2020.医学書院,東京,2020:51.より転載

 

図3 心停止アルゴリズム(BLS→ALSの流れ)

心停止アルゴリズム(BLS→ALSの流れ)

日本蘇生協議会 監修:JRC蘇生ガイドライン2020.医学書院,東京,2020:50.より転載

 

心肺停止の次に全身への侵襲度が高いのが、ショックです。

 

生体機能を維持するためには、血液循環によって供給される十分な酸素と栄養が必要です。この血液循環が急に得られなくなると、種々の異常が、きわめて短時間のうちに引き起こされます。これが、ショック(急性の全身性循環障害)です。

 

ショックは、急激に発生するクリティカルな病態であり、適切な対応がなされなければ、患者は不幸な転帰をとることになります。

 

3 急変を疑うサイン

急変患者の多くは、誰が見ても「異常だ!」と判断できるサインや症状を呈します。しかし、その状態に至る前にも、患者が何かしらのサインや症状(前ぶれサイン)を発していることも、少なくありません。

 

急変の前ぶれサインは、注意深く観察してもよくわからないものから、意図的に観察すればわかるものまで、さまざまです。

 

これらのサインや症状に気づき、「もしかしたら、これは急変の前ぶれかもしれない」と適切に判断するには、そのためのアセスメントフィジカルアセスメント)能力と、それを根拠に「いつもと違う、何かおかしい」と思えるセンスや経験が必要となるのです。

 

そうはいっても急変は、多くの場合、きわめて短時間のうちに急激に起こります。また、前ぶれサインがまったくない場合も、理論的な説明がつかないこともあります。

 

したがって「急変が起こりそう」と明確に予測することは、現実的にはそう簡単ではありません。

 

 

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「急変対応」ってどんなこと?

急変対応とは、患者の様子の異常に気づくことからはじまります。気づきがあるから原因を探ろうとするわけです。きわめて短時間のうちに、その気づきを、患者の健康状態にかかわる看護問題として取り上げ、解決の糸口を探り、対応を実践してゆく一連の流れのことを急変対応といいます。

 

急変は、いつでも、どこでも、起こります。時、場所、人的・物的環境などを選ぶことはできないのです。そのことをふまえて、以下に、急変対応の流れを概説していきます。

 

1 まずは異常と「意図的に」出合う

患者と会話をする観察などの場面で、「いつもと表情が違う」「視線が違うほうにいっている」「声の調子が昨日と違う」「体の動き・動作が普段と違う」などと感じることはありませんか?

 

 

これら1つひとつは、単なるデータにすぎません。しかし、これらを「異常だ」と判断したとき、これらのデータは情報に変わり、はじめて意味をもつのです。

 

つまり、急変に出合うためには、常に「患者の状態が正常ではないかもしれない」と疑う思考と観察行動が必要となるのです。

 

2 その異常が「緊急かどうか」を判断する

急変患者に対応するときは、まずは即時評価を優先させることを頭に叩き込みましょう。

 

即時評価は、患者の状態がよいのか悪いのか、その程度はどうなのかを知るために、短時間(数秒〜十数秒)にすばやく俯瞰的に観察する技術の1つです。これを支えるのが、患者の既往歴、原疾患の把握、バイタルサインの変化への気づきと、意味ある観察です。

 

そこでは「経験」と「知」に裏づけられたフィジカルアセスメントが重要になります。バイタルサインを測定し、的確にフィジカルアセスメントすることは、正常と異常を見きわめるだけでなく、病態の把握と重症度・緊急度の判断、対処方法の決定まで左右します。

 

つまり、急変に適切に対応するには、異常と正常(基準)を見きわめるためのフィジカルイグザミネーションの技術、アセスメントを行うために必要となる知識が不可欠なのです。

 

 

3 緊急であれば、即刻、対応を開始する

即時評価で「患者の命に影響する重大な事象がある」と判断した場合、即刻、対応へと進めていくことになります。

 

その対応は、究極的にはBLSALSに尽きますが、そこに至るまでのプロセスとして、チームメンバーの応援要請の方法と各関係者の役割発揮、与えられた環境のなかでの最大限の対応方法(特殊環境下含む)、限界性を考慮した対応内容、重要他者への連絡、他患者への対応など、さまざまなduty(デューティ/責務)があります。これは、個人の研鑽(けんさん)で解決するのではなくチームで研鑽すべきことです。

 

4 対応の方法は、患者の状態によって異なる

病棟や外来で急変が起こった場合、患者の搬送が必要になります。しかし、この搬送が、患者の状態をさらに悪化させてしまう可能性があることを、忘れてはいけません。

 

例えば、ショックに陥っている患者を、無理やり「車椅子で運ぼう」とは思いませんよね。循環不全に拍車がかかってしまい、患者が失神したり、心肺停止に至ったりすることが十分に予測できるためです(図4)。ストレッチャーで搬送したとしても、どのような体位を選択するかによって、病態への影響も異なります。

 

図4 体位調整がもたらす生体への影響

体位調整がもたらす生体への影響

 

つまり、急変時に搬送ばかりを優先させる、あるいはその方法を考慮しないということは、患者の重症度・緊急度に関する即時評価ができていないことになってしまうのです。先ほど「即時評価が重要」と述べた理由は、ここにあります。

 

 

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急変の「前ぶれサイン」は、どう見抜く?

急変の前ぶれを察知するのは、なかなか難しいのも事実です。しかし「何か変だな、おかしいな」と認識できるよう、出現する症状と急変に至る健康障害との関連を知っておくことは、看護師にとって、とても大切なことです。

 

それでは、急変の可能性が高い患者の前ぶれサインを見抜くフィジカルアセスメントは、どのようにすべきでしょうか。そのコア(核)として位置づけられるべきものが、バイタルサインです。

 

バイタルサインは、それぞれが、相互に密接に関連し合っています。その意味を理解し、侵襲に対する生体反応の特性とレベルを判断して対応することが、きわめて重要となります。

 

患者の状態がクリティカルになればなるほど、その関連性がダイナミックかつ複雑に出現すると考えて間違いないでしょう。

 

バイタルサインのチェックポイントを表1に示しますので、参考にしてください。

 

表1 バイタルサインのチェックポイント

バイタルサインのチェックポイント

 

1 呼吸・循環・代謝の関連を理解する

呼吸・循環・代謝は、常に関連し合っています。例えば「発熱時には、呼吸数心拍数が増加する」ことなどが、よい例です(図5)。

 

図5 発熱における呼吸・循環・代謝の関係

発熱における呼吸・循環・代謝の関係

 

この一連の変化をいち早く察知し、症状がどのような原因によって起こっているのかをアセスメントすることこそが「急変の前ぶれを見抜く」ことなのです。

 

生体への侵襲が軽度であれば、代償機転によって現れるサインや症状は、医療者も、患者自身も気づかないほど静的です。

 

しかし、生体の健康が損なわれるほど大きな侵襲が加わった場合、代償機転の変化も動的となり、「血圧の低下→心拍数だけでなく呼吸数も増加する」といった大きな変化が起こるわけです。このような侵襲が遷延したり重度となったりすると、その代償機転が破綻し、生命の危機的状況(ショック)に陥るのです。

 

つまり、ショックのように急性に全身性の循環障害をきたす場合でも、生体は何かしらの「前ぶれ」としてのサインを発していることがとても多いのです。

 

2 急変の前ぶれ

出血性ショックは「顔色」から見抜く!

出血が起きたからといって、すべての患者がすぐさま著しい血圧低下をきたし、ショックに陥るわけではありません。

 

生体は、約1,000mL以内の出血循環血液量減少)であれば、末梢血管を収縮(末梢血管抵抗の上昇)させて血圧を維持しようとします。また、心拍数を増加させて組織への酸素運搬を正常化させるしくみもはたらきます*1

*1 吐血の場合は、嘔吐反射(迷走神経反射)によって、血圧が低下しても徐脈になる。

 

つまり、定量的計測で得られたバイタルサインからは、一見、普段と何ら変わりないように見えるのです。

 

そこで、見逃してはならないのが眼瞼結膜や顔色の変化です。末梢血管の収縮とは、すなわち血管が細くなることですから、顔色が白っぽくなります。それとともに、会話でチェックできる精神的不安や軽いめまい、軽度の冷汗などが重要なサインであることを、私たち看護師は知っておかなければなりません。

 

ワンポイント

●顔色は「一目でわかる」非常に重要なサインです。
以下の3つは、顔色からわかる「代表的な異常のサイン」です。参考にしてみてください。
①赤ら顔:発熱、血圧上昇など
②青白い顔(蒼白):ショック、高度の貧血など
③口唇が紫色:低酸素状態(チアノーゼ)

 

心不全によるショックは「呼吸状態」と「CRT」から見抜く!

心不全の場合、左室の機能不全に伴って左房圧が上昇し、肺うっ血が生じます。その結果、呼吸困難感、咳嗽、血痰が認められ、短い時間に血圧が低下してしまいます。

 

 

肺うっ血の前ぶれとして一般的にみられるのが起座呼吸(起座位で行う呼吸活動)です。心不全の患者が起座呼吸を呈する場合や、妙に咳き込むことが増えたときは、ただちに呼吸状態(呼吸音)を確認しましょう。

 

そして、意外と重要なのが、部圧迫によるCRT(毛細血管再充満時間)です。もし、爪の圧迫を解除してから2〜3秒経っても爪の赤みが戻らないときは、末梢循環に何らかの障害が起こっていると判断すべきです。

 

また、末梢循環不全の症状として、冷汗がみられる場合もあります。

 

その他、循環不全によって生じたうっ血が消化管にも及んだ場合、消化管浮腫が起こり、嘔気などの消化器症状を伴うこともあります。

 

ワンポイント

●CRT(毛細血管再充満時間)は、時間もかからず簡単にチェックできるため、臨床では非常に役立ちます。

●ただ、1つ覚えておいてほしいのは「CRTは、あくまで検査で得られるサインの1つ」ということです。
●つまり「CRTが早いから絶対大丈夫」とはいえないため、必ず問診や視診を行ったうえで確認しましょう。

 

敗血症性ショックは「末梢の温感」から見抜く!

敗血症性ショックの初期に「末梢の皮膚がポカポカと温かい」のは、感染炎症によって過剰に産生された一酸化窒素*2によって、末梢血管(細動脈)が過剰に弛緩・拡張するためです。

*2 一酸化窒素:強い血管拡張性作用をもつケミカルメディエーターの一種である。

 

本来ならば、血圧を維持するために末梢血管を収縮させたいのに、末梢血管が拡張してしまうのです。その結果、末梢組織が多くの酸素を要求するため、心拍出量が代償的に増加(高循環動態)します。この状態をwarm shock(ウォームショック/温かいショック)と呼びます。

 

つまり、ショックは最終的には血圧が低下して末梢冷感を生じるものの、初期からそうならないこともあるのです。

 

ワンポイント

●warm shockは「一般病棟だからこそ」見抜けるサインです。なぜなら、ICUに入ってくるときには、たいていの場合、患者はすでにcold shock(コールドショック)に陥っているからです。

●つまり、warm shockのうちに気づいて早期に対応できていれば、患者がcold shockに至らずに済む可能性も高いのです。

●敗血症は、集中治療の場だけで問題になる病態ではありません。病棟看護師の「アセスメントの腕の見せどころ」ともいえるでしょう。

 

また、敗血症特有ではないものの、感染が存在する場合には、発熱(弛張熱、ひどいシバリングを伴う)、消化器症状(腹痛腹部膨満など)も急変を示唆する重要なサインとしてとらえられます。

 

***

 

急変対応について、種々の知見と技術を研鑽するうえで、前提としておさえておくべきことは「患者が抱える健康障害の多くは、基礎疾患の病状が進展・悪化するだけではなく、むしろ、それに物理的な刺激要素(合併症など)が加わったりして起こる」ということです。

 

急変対応とは、患者のかすかなサインを見逃さない経験根拠の知によって急変を回避する可能性を探ること、また、急変に陥った際、患者に最も効果的かつ侵襲性の少ないケアを提供すること、その結果、救える患者を救うことだといえるでしょう。

 

 

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引用・参考文献

1)石松伸一 監修:実践につよくなる 看護の臨床推論.学研メディカル秀潤社,東京,2014.

 


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社

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