乾癬|炎症性角化症①
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は乾癬について解説します。
吉池高志
順天堂大学医学部附属静岡病院皮膚科
Minimum Essentials
1免疫炎症を伴う角化亢進疾患である。
2厚い固着性鱗屑を伴う紅色角化局面が、頭皮・肘頭・膝蓋(しつがい)・臀部・前脛骨部などに好発する(尋常性乾癬)。膿疱を多発したり(膿疱性乾癬)、紅皮症(乾癬性紅皮症)や乾癬性関節炎(関節症性乾癬)を合併する病型もある。
3活性型ビタミンD₃外用、ステロイド薬外用、PUVA療法が中心。重症例ではシクロスポリン、エトレチナート(チガソン®)、PDE-4阻害薬内服、モノクローナル抗体などの生物学的製剤を投与する。
4軽症例では寛解・略治することもあるが、多くは軽快増悪を繰り返し慢性経過をたどる。生命的予後は良好。
乾癬とは
定義・概念
日本人の0.02〜0.1%に発症し、男女比2:1で男性に多く、20歳代と40歳代に好発する代表的な炎症性角化症である。
原因・病態
多因子遺伝と考えられる素因を背景に生じる皮膚の炎症と、表皮ターンオーバーが亢進して角質が堆積していく角化異常の両面がある。炎症としては Th17細胞の活性化が重要視されている。
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診断へのアプローチ
定型疹と好発部位によっておおよその診断はできるが、時に皮膚生検による確認を要する。
臨床症状・臨床所見
尋常性乾癬
紅色丘疹が生じ、次第に拡大・融合、そこに銀白色の厚い鱗屑を付着する境界明瞭な局面を形成する(図1、図2)。
図2 尋常性乾癬(鱗屑が剝離すると点状に出血:アウスピッツ現象)
表面を爪でこすると蝋を剝がしたような白色鱗屑がみられるのが特徴で(蝋片現象)、それをさらに剝がし続けるとその下に点状出血がみられる〔血露現象、アウスピッツ(Auspitz)現象〕。また、無疹部に外傷などの刺激が加わると、その部位に皮疹を生じる〔ケブネル(Koebner)現象〕。爪変形を伴うこともある。
好発部位は肘頭、膝蓋、頭、臀部など刺激を受けやすい部分や衣服で覆われた(光の当たらない)部分で、左右対称性にできる。しばしば全身の広範囲に皮疹がみられることがある。
滴状乾癬
比較的急性の経過をとる。角化性紅色丘疹あるいはごく小さな角化性紅斑が、体幹・四肢近位側に多発、散布する。上気道の連鎖球菌感染後や薬剤により誘発されることもある。小児に多い。
膿疱性乾癬
多数の浅い膿疱が角化性紅斑に併発したり、膿疱を伴った紅斑だけがみられる場合もある(図3)。
汎発型では発熱とともに急性経過で膿疱を汎発し、体重減少など全身症状をきたし死亡することすらある。特殊型として、妊娠中にみられることもある(疱疹状膿痂疹)。しばしば乾癬性紅皮症に移行する。
一方局所型では、手足の先から膿疱を伴った紅斑を慢性に生ずる(稽留性肢端皮膚炎)。爪甲下膿疱や爪甲の破壊をきたす。生じる膿疱は非細菌性で、無菌性膿疱とよばれる。したがって膿からの感染はない。厚生労働省の特定疾患に指定されており、医療費の公費負担制度があることを伝える。
乾癬性紅皮症
全身のびまん性潮紅と落屑を主徴とし、時に全身症状をみる。爪甲はしばしば破壊・脱落する。
乾癬性関節炎(関節症性乾癬)
関節炎を伴うもので、乾癬のどの病型でも生じうる。乾癬皮疹がなく、関節症状から始まることもある。関節炎は、末梢とくにDIP関節や脊椎・胸鎖関節あるいは仙腸関節にみられる。時に爪甲破壊や腱付着部炎・筋膜炎をみることもある。
検査
通常はとくに異常がないが、血清尿酸値やIgA、免疫複合体の上昇を認めることもある。重症型では、血沈亢進をはじめ白血球増多や低蛋白血症をきたすこともある。生検による病理学的検査は、膿疱性乾癬においてはとくに診断的価値が高い。
乾癬性関節炎では関節リウマチと異なり、通常リウマトイド因子は陰性である。X線上、時に骨破壊像を認める。
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治療ならびに看護の役割
治療
おもな治療法
外用療法
ステロイド薬、あるいは表皮細胞の角化亢進を抑制する働きを有する活性型ビタミンD₃を単独もしくは併せて外用するのが、副作用も比較的少なく、第一選択となる。
光線療法
第一選択となる外用に抵抗性である場合には、第二選択として中波長紫外線(UVBとくにナローバンド)やソラレン内服・外用と長波長紫外線を組み合わせた光化学療法(PUVA)が用いられる。
照射量によっては、紅斑・色素沈着といったいわゆる「日焼け」を生じる。照射回数も、累積されると発癌リスクを生じるので注意を要する。
内服療法
広範囲かつ高度な尋常性乾癬や膿疱性乾癬、乾癬性関節炎といった重症難治例に対しては大きな効果が期待できる。
ビタミンA誘導体であるエトレチナート[チガソン®](副作用:催奇性など)、免疫抑制薬であるシクロスポリン(副作用:腎障害など)、葉酸拮抗薬のメトトレキサート(副作用:肝障害など)が代表的である。最近ではPDE-4阻害薬の内服(副作用:下痢など)なども第二、第三選択として処方される。
生物学的製剤
乾癬の重症難治例に対しては、乾癬の病態に関わるTNFα・IL12・IL23・IL17などのサイトカインに対するモノクローナル抗体が注射される。重篤な感染症の併発などの可能性があるため、原則として認定施設で行う。
合併症とその治療法
ステロイド薬外用による皮膚萎縮や紅皮症化、活性型ビタミンD₃投与に伴う高カルシウム血症、光線療法に伴う紅斑・色素沈着・前癌状態などは、慎重に経過を観察していれば予防しうるものである。しかし起きてしまった場合には、それぞれの治療を一時休止のうえ、第三選択の治療に切り替えざるをえない場合もある。
治療経過・期間の見通しと予後
滴状乾癬は寛解に至ることが少なくない。しかし、ほかの病型では慢性かつ再発性の経過をたどることが多い。
看護の役割
治療における看護
・光線療法については、外来での維持照射が必要になる。日焼け反応を防ぐため、過剰照射せぬよう細心の注意を払う。治療後の光防護や眼保護についても指導する。
・生物学的製剤を導入する場合、血圧低下など急性副反応の発生に留意する。
・外観上の問題や疾患の難治性から、精神的苦痛も大きい。精神的サポートが求められる。感染性ではないこと、肥満・糖尿病・脂質異常症との関連はあるものの内臓疾患ではないこと、遺伝性はあるが患者の子供に発症することは多くないことなどを伝え、無用の誤解や不安を取り除く。
フォローアップ
医療費が高額となりがちのため、特定疾患医療費助成制度(膿疱性乾癬)や高額療養費制度の情報を伝える。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂