HIV感染症

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回はHIV感染症について解説します。

 

 

志智大介
聖隷三方原病院感染症・リウマチ内科

 

 

Minimum Essentials

1ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による感染症で、感染初期(急性期)、無症候期、そして後天性免疫不全症候群発症期(AIDS)へと至る。

2HIV感染にみられる皮膚疾患は、感染症、新生物、炎症状態、その他に分類される。

3治療は抗HIV薬および日和見感染症に対する抗菌薬投与である。

4抗HIV薬の服薬遵守により、免疫力を落とすことなく通常の生活を送ることが可能である。

 

HIV感染症とは

定義・概念

ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)による感染症である。

 

原因・病態

HIV感染者の自然経過は、感染初期(急性期)、無症候期、そして後天性免疫不全症候群(acquired immune deficiency syndrome:AIDS)発症期の3期に分けられる。未治療感染者では、経時的に免疫システムの破壊が進行し免疫不全状態へと至り、重篤な日和見感染症や悪性腫瘍を引き起こす。

 

 

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診断へのアプローチ

臨床症状・臨床所見

HIV感染者において皮膚疾患はよくみられ、HIV感染者の約90%が何らかのタイプの皮膚疾患を発症している。一般的なものとして、乾皮症、真菌感染、脂漏性皮膚炎湿疹などがある。

 

HIV感染者にみられる皮膚疾患は、感染症、新生物、炎症状態、その他に分類される(表1)。

 

表1 HIV感染における皮膚疾患

HIV感染における皮膚疾患

 

無症候期ではまだHIV感染症に特徴的な症状はほとんどないが、ほかの性感染症や肝炎、繰り返す帯状疱疹、ヘルペス、結核口腔カンジダ 、赤痢アメーバながきっかけとなってHIV感染が判明することも少なくない(表2)。

 

表2 HIVを考慮すべき臨床状況(皮膚科領域疾患)

HIVを考慮すべき臨床状況(皮膚科領域疾患)

 

AIDS期のHIV患者では、重篤な乾癬(通常は体の50%以上に影響を与える)、重篤な光線皮膚炎、結節性痒疹、伝染性軟属腫、および再発性薬物反応などが一般的となってくる。また比較的まれではあるが、とくにAIDS期段階でみられる好酸球性毛包炎、細菌性血管症、口腔毛状白斑(舌側縁の白いプラーク)などは、HIV感染に特有の皮膚疾患である。

 

カポジ(Kaposi)肉腫 1)

HIV関連のカポジ肉腫は、おもに男性同性愛者の疾患である。典型的には無症状の赤紫〜褐色の丘疹、斑または腫瘍を示し、頭頸部(とくにの先端、口蓋、頸部)、上半身、生殖器、下肢、足裏に好発する。

 

細菌性血管腫症

血管増殖性疾患であり、バルトネラ菌感染によって引き起こされる。感染リスクにはネコによる引っ搔き傷や噛み傷が含まれる。皮膚病変は褐色〜赤色の丘疹および小結節であり、触れると容易に出血する。

 

好酸球性毛包炎

とくにAIDS後期段階において、HIV感染者に関連する皮膚疾患である。おもに顔面、頸部、上腕に出現する瘙痒性の発疹で、毛孔一致性の丘疹や小膿疱が特徴的である。血清IgE値、好酸球数の増加を示す。

 

検査

HIV抗体検査、HIV-RNA定量検査などでHIV感染状態を、リンパ球数やCD4+T細胞数などで免疫力を評価する。また、AIDS指標疾患のリストを参考に、何らかの日和見感染症や疾患をきたしていないか全身検索を行う。

 

HIV未検査、未診断の人に口腔毛状白斑症、帯状疱疹、口腔カンジダ症、好酸球性毛包炎などの疾患を見たときは、根底にHIV疾患が存在する可能性を考慮する必要がある。

 

 

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治療ならびに看護の役割

治療

おもな治療法

抗HIV薬の多剤併用によるART(antiretrovial therapy)療法が行われる。国内外で治療に関するガイドラインが出ているが、代表的なものとして『抗HIV治療ガイドライン』が毎年更新されており、ウェブで閲覧することができる 2)

 

なお、各皮膚科疾患の治療についてはそれぞれの項を参照されたい。

 

合併症とその治療法

抗HIV薬(例:抗レトロウイルス薬ネビラピンなど)、また日和見感染症の予防や治療に用いる抗菌薬(例:ST合剤スルファメトキサゾール / トリメトプリムなど)にて薬物反応を起こすことがある。時にスティーヴンス・ジョンソン(Stevens-Johnson)症候群のような重篤反応も引き起こす。

 

抗HIV薬による治療開始後に免疫再構築症候群を引き起こすことがあり、皮膚疾患ではざ瘡、ブドウ球菌感染および結節性紅斑がより頻繁にみられている。

 

免疫再構築症候群

免疫再構築症候群とは、AIDSなどの免疫不全患者への抗HIV治療後、免疫機能が回復した際に、すでに体内に潜伏していた病原体に対する免疫応答が一時的に増強し、感染症の症状が顕在化した状態のことである。

 

治療経過・期間の見通しと予後

抗HIV薬の開発や治療方法の進歩により、服薬遵守すれば免疫力を落とすことなく、通常の生活を送ることが可能となってきている。

 

看護の役割

治療における看護とフォローアップ

HIV治療薬の服用遵守が大切であり、服用時間や食事なども指示どおりにする。飲み忘れがないようにアラームを使ったり、服用記録を残す。免疫能が回復しても定期的な通院とチェックを受ける。性感染症への注意、安全な性行為、感冒などの予防、の健康を維持するなど、日常生活の注意を指導する。

 

瘙痒症はHIV患者に比較的多い訴えであり、かゆみや皮膚乾燥へのケアと指導を行う。

 

 

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引用・参考文献

1)Antman K et al:Kaposi’s sarcoma.N Engl J Med 342:1027-1038,2000

2)H28年度厚生労働行政推進調査事業費補助金エイズ対策政策研究事業 HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班:抗HIV治療ガイドライン,2017


 

本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

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