異常出血への対応とケア

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は異常出血への対応とケアについて解説します。

 

立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授

 

 

異常出血への対応とケア

分娩後の異常出血は、経腟分娩の場合分娩第3期中またはその後の500mLを超える失血である。異常出血が生じた際にはその原因を助産診断し、失血を最小限にするように医師の指示のもとに適切に迅速に対応する。急変時の対応では、自らの五感を用いてABCの状態(A:airway 気道、B:breathing 呼吸・換気、C:circulation 循環)を評価する。そしてスタッフを集めることで人手を確保する。

 

 

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原因

最も一般的な原因は子宮弛緩である。

子宮弛緩の危険因子は

①子宮の過度の伸展(多胎、羊水過多、巨大児)

②遷延分娩

③頻産婦

④急速遂勉

⑤絨毛膜羊膜炎

⑥胎盤遺残

がある。

 

 

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観察項目と対処

子宮収縮

輪状マッサージ、冷罨法を行い、希釈オキシトシン点滴(静注液1000mLに10~20単位、125~200mL/時で1~2時間)を投与する。

 

娩出した胎盤と卵膜を精査し、胎盤が不完全であれば子宮内から遺残した胎盤の断片を除去する。まれに掻爬が必要となる。

 

子宮双手圧迫法の実施

子宮を強く前屈させて、胎盤剥離面からの出血を止血する(図1図2)。弛緩出血の場合には、子宮筋が疲労しているためオキシトシン製剤投与をしながらでも子宮を圧迫することが必要である。

 

図1 助産師が行える双手圧迫法(Fritschi法)

助産師が行える双手圧迫法(Fritschi法)

子宮底と外陰部を双手で圧迫する方法である

 

図2 産科医が行う双手圧迫法(クニンガム法)

産科医が行う双手圧迫法(クニングハム法)

 

バイタルサインのモニタリング

意識状態
問いかけに反応するか、反応があればの活動状況は確認されたことになり、生命維持は保たれていると判断される。

 

意識がない場合には、痛み刺激を与えて判断していく。胸骨を拳で押さえたり、の根元をペンで圧迫して開眼するかどうかで判断する。

 

体温、血圧脈拍、呼吸、SpO2
SI(Shock Index)、心拍数収縮期血圧:SI が1.5を超えている、もしくは持続出血が続いている状態で1を超えたら収縮期血圧の低下が認められていなくても、ショック状態であると判断していく。

 

脈拍:正確な脈拍数の測定よりも脈が速いか遅いかと脈の強弱を評価する。
頻脈(100回/分以上):1秒に2回以上脈を感じれば異常であり、循環血液量の減少、脱水、交感神経亢進を判断する。
徐脈(60回/分未満):1秒に1回を明らかに下回っていれば異常であり、副交感神経亢進や仰臥位低血圧を判断する。

 

自発呼吸の有無
目で見て胸郭に触れて、呼吸数や呼吸様式を観察する。

頻呼吸(20回/分以上):低酸素、ショックの可能性あり。
徐呼吸(10回/分未満):呼吸停止状態であり換気補助が必要。
無呼吸:気道確保しても呼吸のない状態であり呼吸停止と判断し心停止と判断する。
努力呼吸1回換気量が増えている状態であり、低酸素やショックが疑われる。

 

SpO2:95%未満は要注意である。気道確保を行っても95%に達しない場合は、バッグ・バルブ・マスクを用いて100%酸素による換気を行い、バッグにはリザーバーを装置し、10L/分以上の酸素を流す。

 

体温:中心温で34℃未満は異常低体温である。低体温は外傷死の三徴(アシドーシス、凝固異常)の徴候でもあり、出血性ショックの予後不良因子でもある。低体温では、凝固機能が低下し出血が増悪する悪循環となる。そのため、低体温を予防することは、非常に大切なケアである。電気毛布を準備しておく。

 

顔色、寒気、皮膚の湿潤:産後、出血による急変ではないかと感じたら、「顔色はどうか」「発汗しているか」「皮膚に触れて冷感はあるか」「皮膚の湿潤はあるか」を直接「触れて」把握していく。

皮膚蒼白:ショックの可能性あり
皮膚冷感:ショックの可能性あり
発汗・皮膚湿潤:ショックの可能性あり

 

 

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急変のための準備と対応

正常分娩であっても、異常出血時に何時でも対応できるように、準備しておくことが必要である。

 

血液型カードの取得と所持

 

分娩時の静脈路の確保
18~20Gの静脈留置針で静脈路を細胞外液補充液で確保しておく。SIが1を超えたら、たとえ収縮期血圧が低下していなくても、ショックと判断して急速輸液を行う。まずは全開で開始しSI≦1となったら速度を調節する。輸液を3L入れてもSIが改善しなければ、輸血を開始する。

 

酸素投与
100%酸素10L/分をリザーバー付マスクで投与する。急変時はともかくまず酸素投与を行う。

 

気道確保(頭部後屈あご先拳上法)
高濃度酸素を投与してもSpO2が95%に達しない場合には、気道確保を行う。

 

頭を下げる体位をとる・弾性ストッキングの装着
ショックになると血液が下半身に蓄積するため、下半身の圧迫をする対応が必要である。

 

 

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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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