子癇発作への対応とケア

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は子癇発作への対応とケアについて解説します。

 

立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授

 

 

子癇発作への対応とケア

子癇とは、妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし、てんかんや二次痙攣が否定されるものであり、痙攣発作の起こった時期により、妊娠子癇・分娩子癇・産褥子癇にわけられる。

 

子癇発作の発症頻度は、0.04%程度1)であり、妊娠中が19%、分娩時39%、産褥期42%との報告がある2)

 

妊娠中にHDPを認めなくても陣痛発来後に高血圧を発症する場合もあることを認識しておくこと、そして妊産褥婦が子癇発作を発症した場合には、適切な対応が行えるようにすること、とくに子癇発作前には急激な血圧上昇を示すことがあるため、定期的血圧測定を行うことが重要である。

 

 

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妊娠中、分娩時、産褥期の血圧推移

妊娠中にHDP を認めない症例でも陣痛発来後に初めて高血圧を発症する産婦の特徴として、分娩終了とともに比較的速やかに血圧が低下し、産褥3~4日にかけて再度血圧を上昇することもある(図1)。

 

図1 妊娠中正常血圧であった妊婦1,349人における妊娠中、分娩時、産褥期の血圧推移2)

normotensive群(n=1,023)、mild LOH群(n=241)、severe LOH群(n=66)、emergent LOH(n=19)群のSBP(収縮期血圧)値の推移。LOH群も分娩終了により比較的速やかに降圧するが、産褥3~4日にかけて、再度、血圧上昇傾向を認めた。

 

入院前、入院時の尿蛋白検査で、妊娠中の定期健診で蛋白尿が認められなくても、陣発入院の数日前から蛋白尿を認めたり、入院時の尿検査で認められる場合には、注意が必要である。また、下肢の浮腫も重要な観察項目である。

 

 

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子癇前駆症状の早期発見

子癇発作の1~2時間前頭痛、頭重、嘔気、視力低下、腱反射亢進、心窩部痛、血圧の急激な上昇。
子癇発作直前:眼華閃発、多弁、視力減退。

 

 

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子癇前駆症状への対応

血管の確保と薬物投与
医師に報告して血管の確保(18G)をして、硫酸マグネシウムの持続投与の準備をする。硫酸マグネシウムの投与に関して、呼吸抑制が出現しやすいので注意を要する。酸素投与の準備も行う。

 

硫酸マグネシウムの有効血中濃度と高マグネシウム血症の症状

Column 医師イラスト

硫酸マグネシウムの有効血中濃度は4~7mEq/Lであり、8~10mEq/L で腱反射が消失し、15mEq/Lで呼吸抑制、20mEq/Lで不整脈の発生が生じるため、全身管理は厳重に観察していくこと、正しい適切な投与量を心がけるようにする。

 

高マグネシウム血症の症状としては、悪心、嘔吐、低血圧、徐脈、皮膚潮紅、筋力低下、傾眠、倦怠感、嚥下障害、昏睡、呼吸筋麻痺、心停止症状が出現したら、早急に医師に報告しグルコン酸カルシウムを準備する。

 

環境整備図2
・暗室への移動
・照明をオフ
・室温(24℃前後で寒すぎず、暑すぎず)
・音の遮断

 

図2 暗室の環境をつくる

 

母体の一般状態観察
バイタルサイン
・意識状態
尿量の測定(留置カテーテル)

 

子癇発作に備えた物品等の準備
・救急薬品と物品の準備
・外傷予防
・ガーゼを巻いた舌圧子(図3)、タオル、ベッド柵をつけて転落防止に備える。

 

図3 ガーゼを巻いた舌圧子

 

 

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子癇発作時の対応と観察項目

妊産褥婦が子癇発作を発症した場合には、母体救命処置を優先しながら抗痙攣治療と降圧治療を最優先し、看護師としての対応を適切に行っていく。

 

子癇発作は短時間で消失し、発作後の母体のバイタルサインは安定することが多い。

 

血圧の推移

自動計測計の装着(できれば生体情報モニター)とEKG装着

 

頭痛、嘔吐、眼華閃発の出現の察知と早期対応

医師により、降圧剤(アプレゾリン®、ペルジピン®)の投与や硫酸マグネシウムの投与が行われる。それと同時に看護師は肩枕による気道確保、暗室の環境整備(暗幕やアイマスクの装着)、刺激を避ける環境(機械音を出さない)、冷感刺激の回避(触れる医療機器は人肌程度に温める)に努めていく。

 

痙攣発作に備えた準備(図4図5

抗痙攣薬(ジアゼパム)を準備し、痙攣発作に備えるべく、バッグ・バルブ・マスクや経エアウェイの使用ができるように準備しておく。また、嘔吐や発作時に備えて気道の障害になる口腔内の分泌物、吐物の除去のために吸引(最大吸引圧力-80KPa)の準備をする。

 

図4 咽頭鏡

 

図5 ガーゼを巻いた舌鉗子

 

痙攣発作時

痙攣抑制
・薬剤投与(ジアゼパム、硫酸マグネシウム)
・舌を噛まないようにバイトブロックを口腔内に装着し、開口する。

 

呼吸管理
・気道の確保(顔を横に向ける。必要時口腔内吸引)
・酸素投与

 

外傷予防
・舌咬傷予防のため、バスタオルやガーゼを巻いた舌圧子(図5)を咬ませる。

 

胎児状態の把握
CTGの装着

 

痙攣を起こした場合

Column 医師イラスト

「産婦人科診療ガイドライン2017版」では“痙攣を起こした場合は子癇として治療を開始する”と記載されているが、「ガイドライン2020版」では“痙攣が消失したら子癇や他疾患(脳卒中など)を念頭に鑑別診断と治療を開始する”と表現が変更される。これは、痙攣=子癇という短絡的な考えではなく、“痙攣に予後不良は脳卒中の可能性があると認識するように”との警鐘となっている。

 

帝王切開術の準備

妊娠中や分娩期に子癇発作前駆症状や子癇発作が生じた場合には、妊娠を終結させることが第1選択であるため、緊急帝王切開術の準備を早急に行う。

 

 

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引用・参考文献

1)Knight, M.: Eclamlpsia in the United Kingdam 2005, BJOG, 114(4), 1072-8, 2007
2)大野泰正:分娩中に痙攣を起こしたらどうする?(分娩時子癇への対応)、39(1):82~87、ペリネイタルケア、2020

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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