児心音下降への対応
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は児心音下降への対応について解説します。
立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授
児心音下降への対応
分娩時は、児頭圧迫や臍帯圧迫、子宮収縮による胎盤循環の変化により、陣痛発来前と比べてはるかに胎児機能不全を起こしやすい状態にある。胎児の状態を評価しながら、分娩を管理することが大切である。
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児心音の聴取
・児心音の聴取は、超音波ドップラー法による間欠的聴取と、分娩監視装置を用いた連続モニタリングにより行われる。
・超音波ドップラー法による児心音の下降がみられた場合、即時に分娩監視装置を装着する。
・入院時に分娩監視装置を用いたモニタリングでreassuring fetal statusと判断された後は、超音波ドップラー法により15~30分ごとに児心音の聴取を行う。
・モニタリングは、波形のみをみて評価するのではなく、産婦や胎児の情報をアセスメントしながら評価する。
・陣痛発来時や破水時、陣痛増強時、異常出血時、羊水混濁出現時、急激な分娩進行、母体の全身状態に異常が出現した場合などには、必ず連続的に波形を監視する。また、子宮収縮剤を投与している場合や無痛分娩の場合にも連続モニタリングを行う。
・徐脈の出現で、産婦は医療者の動きやその場の雰囲気で少なからず動揺する。処置をするときには必ず声をかけ、産婦や家族に丁寧な説明を行うことが大切である。
家族への連絡
分娩時に、産婦に家族が付き添っていない場合は、緊急時に備えてすぐに家族と連絡を取れるようにしておくことは大切である。
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児心音下降への対応
徐脈が出現したときは、徐脈の波形を読み、その波形が出現する要因を分析し、瞬時の対応をすることが大切である。
体位変換
徐脈出現時は、左側臥位、右側臥位など徐脈が改善される体位を確保するように試みる。
最適な体位とは
一般的に母体の仰臥位低血圧症候群による子宮胎盤血流量の減少の改善をはかるためには、左側臥位がよいとされている。しかし、胎盤の子宮付着部位や臍帯の位置によっては、そのほかの体位のほうがよい場合もある。
酸素投与
医師の指示のもと、酸素(10L/分以上)をフェイスマスクで投与し、胎児血酸素飽和度の上昇をはかる。
子宮収縮薬の中止
子宮収縮薬を投与している場合は、医師の指示のもと、すぐに投与を中止する。
輸液
母体の循環動態の改善をはかり、子宮胎盤血流量を増加させるために点滴流量を増やす。
子宮収縮抑制薬(通常、リトドリン塩酸塩)の投与
子宮収縮の抑制により子宮胎盤血流量の確保と、臍帯圧迫の軽減をはかり、胎児への酸素供給量を増加させるために、医師より子宮収縮抑制薬の投与が指示される場合がある。これはあくまでも緊急帝王切開術を行うまでの一時的な投与である。
この処置を行ってから帝王切開術をした場合は、術後に子宮収縮不全による出血が増えることがあるため、術後は留意して観察を行う必要がある。
急速遂娩の準備
胎児低酸素状態への進展が懸念される場合は、急速遂娩の準備を行う。分娩進行と連続モニタリングによる徐脈の波形・程度により、分娩第2期であれば吸引分娩や鉗子分娩による経腟分娩を選択する場合もあるが、経腟分娩困難と判断した場合にはなるべく早く緊急の帝王切開術を行う。いずれにしても、新生児の蘇生処置を考慮した準備をすることが必要である。
胎児の状態の推測のポイント!
❶胎児機能不全は、低酸素から始まる。
❷低酸素を示す胎児心拍数パターンは、
・遅発一過性徐脈
・危険は変動一過性徐脈
・80bpmの遅延性徐脈
❸アシドーシスを示す心拍数パターンは、
・一過性頻脈の消失
・基線細変動の減少
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引用・参考文献
1)日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会編:産婦人科診療ガイドライン産科編2017.2017
2)周産期医学編集委員会編:周産期診療指針2010.p.333-335、2010
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版