会陰切開・会陰裂傷

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は会陰(えいん)切開と会陰裂傷について解説します。

 

山下 恵
中部大学生命健康科学部保健看護学科講師

 

 

会陰切開とは

会陰切開とは、児娩出時に剪刀(せんとう)で会陰や腟壁を切開することである。会陰の伸展性が乏しく、大きな裂傷が予測されるときや、なんらかの理由で胎児を急速に娩出させる必要がある場合に行われる。

 

会陰切開の主な適応

①会陰が硬く、伸展不良で、児頭娩出の遷延が予測されるとき
②前回会陰切開部の瘢痕により、会陰の伸展が不十分なとき
③巨大児など高度の裂傷が予測されるとき
④急速遂娩の必要があるとき
⑤児頭にかかる圧迫を回避する必要があるとき
⑥骨盤位分娩で児頭娩出時に会陰の抵抗が強いと予測されるとき

 

会陰切開の種類

会陰切開には多種類の方法がある。主に正中切開法、正中側切開法、側切開法が行われている。

 

①正中切開法
会陰中心部を肛門に向かって垂直に切開する。出血が少なく治癒過程が良好で、疼痛や腫脹が最も少ないが、切開創の延長により、肛門括約筋・肛門挙筋を損傷する危険がある。
②正中J字切開法
正中切開の切開線をさらに肛門に沿って半月上に切開する。肛門にいたる裂傷の予防に効果的な切開方法であるが、創部が大きい。
③正中側切開法
会陰中心から肛門括約筋の辺縁に沿って、下側方向に切開する。
側切開法に比べ、会陰部の拡張効果が高く、肛門括約筋などの損傷も少ないため、最も広く行われている。
④側切開法
会陰中心から1~2cm側方を坐骨結節に向かって斜めに切開する。会陰部の拡張効果は低い。
⑤側横切開法
会陰の側方を水平に切開する。産後の疼痛が強く、あまり行われていない。
⑥シュハルト(Schuchardt)深部切開法
側切開の方法。尿生殖隔膜脚から肛門挙筋脚まで切開する。最近ではほとんど行われていない。

 

 

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会陰切開の実際

必要物品

剪刀、麻酔用注射器、針、局所麻酔薬( 1%プロカイン・2%キシロカイン®など)、消毒薬。

 

手順

1産婦に会陰切開の必要性を説明し、了承を得る。

2切開部位を消毒し、局所麻酔を行う。

3示指と中指を先進部と腟壁の間に挿入する。

4両指間に剪刀を挿入する(図1)。剪刀の一葉を腟粘膜上に、他葉を会陰皮膚上に置く。

5肛門括約筋などに損傷を与えないように留意しながら切開する。

 

図1 会陰切開

会陰切開

 

POINT

会陰切開を行うことに会陰裂傷の頻度を減少させる効果や長期間後の骨盤底障害の予防効果についての根拠はない。ただし、会陰切開を行わない場合、会陰保護により陰唇裂傷などの前方損傷を増加させる可能性があるため慎重な会陰保護手技が必要である。習慣的な会陰切開は避けるべきであるが、状況を見きわめ、会陰切開が必要な産婦に対して適切に行う事が大切である。

POINT

会陰切開は、発露時など会陰が十分に伸展してから行う。会陰裂傷に比べて縫合が容易であるが、分娩後に創部痛や違和感を訴える女性も多い。

 

 

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会陰裂傷とは

児頭や躯幹が会陰部を通過する際に生じる裂傷のこと。会陰部に十分な伸展が得られない場合に生じる。多くは会陰の正中線に生じ、腟壁裂傷を伴うことが多い。

 

会陰裂傷の診断

① 胎盤娩出後(または児娩出後)に視診を行い、裂傷の部位と深さを確認する→胎盤娩出後に縫合・止血する。
② 直腸診を行い、肛門括約筋が正常に機能しているか確認する(図2)。

 

図2 会陰裂傷の診断

会陰裂傷の診断

 

裂傷の程度により第1度~第4度に分類される(表1)。

 

表1 会陰裂傷の分類

会陰裂傷の分類

 

高度会陰裂傷(第3度以上)のリスク因子

初産,吸引・鉗子分娩,会陰正中切開,児体重などとの関連が報告されている。

 

会陰裂傷の予後

適切に診断し治療を行えば、長期間後の後遺症はほとんどない。しかし、適切に治療が行われない場合、肛門括約筋不全、尿・便失禁子宮下垂・子宮脱などの原因となることもある。また、縫合不全や感染を起こすと瘻孔(直腸腟瘻、直腸会陰瘻)を形成することもある。

 

会陰裂傷のケア

第3度以上の高度会陰裂傷に対しては、感染・排泄(とくに排便)・疼痛に関する十分な観察と看護が必要である。

 

感染管理(感染予防):感染徴候の観察(発赤、腫脹、創部離開)、創部の清潔保持(排便後洗浄または消毒)。

 

創部の清潔保持

褥婦のセルフケアを原則とするが、清潔保持が困難な場合は看護者が洗浄または消毒を行う。

 

排泄管理:排泄状況の確認(排泄回数、便の性状、尿意・自尿・残尿感の有無)、必要時緩下剤の投与。

 

便の性状

とくに高度会陰裂傷がある場合、創部の安静を保つために便が硬くならないように配慮する必要がある。水分摂取を促すことも効果的である。

 

疼痛管理授乳姿勢の工夫(添え乳)、体位の工夫(側臥位、円座使用、長時間の座位を避ける)、必要時鎮痛剤の投与。

 

 

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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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