分娩の介助
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は分娩の介助について解説します。
立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授
分娩室の環境
分娩室(図1)はいつでも分娩ができるように、また緊急時の対応ができるよう設備や医薬品を含めた準備をしておくことが大切である(表1、表2)。
分娩室に適した温度と湿度
室温:24~26℃、湿度:50~60%
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分娩介助に必要な物品の準備
❶清潔野で使用する物品を清潔操作にてカートの上に準備する(表3、図4)
❷分娩直後の新生児の保温やバイタルサインの測定、早期母児接触に必要な物品を準備する(表3、図5)
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分娩清潔野の準備(図6)
❶産婦の殿部の下に滅菌シーツを敷き、分娩台の下半分をおおう。
❷足袋で両下肢をおおう。
❸産婦の腹部にも滅菌シーツをかける。
❹吸引チューブは、産婦の足袋に布鉗子でシーツに触れないようにしてとめる。
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分娩介助
児頭の回旋と骨盤誘導線を理解し、児の屈位を保ちスムーズな回旋を行うよう骨盤誘導線に沿ってゆっくりと介助を行うように心がける。
1肛門保護
目的
脱肛の予防と、肛門痛の緩和、努責の誘導、便の排泄による分娩清潔野の汚染防止のために行う。
開始時期
哆開(しかい)した時期。
方法
厚めの綿花を右手の手指で肛門部にあてる(図7)。
POINT
脱肛が生じた場合には、粘膜の亀裂を防ぐために、消毒液で濡らしたガーゼか綿花をあてるようにすると、痛みが和らぐ。
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2会陰保護(仰臥位会陰保護法)
会陰保護する手と肛門部の間にできる窪みを埋めて、保護する手の圧迫が会陰から肛門部にかけて均等にかかるようにするものである。
目的
児頭や児の肩甲が陰門を通過する際に、会陰や軟産道の裂傷を予防する。
急速に胎児が娩出するのを防ぐ。
会陰保護綿の作成方法(図8)
・4つ折りガーゼを開き、綿花を中に入れ、ガーゼの端は中に折り込む。
・自分の手掌に納まるくらいの大きさにし、会陰保護をする手が汚染されないよう、また肛門部の抵抗感がわかるように厚さ1cmくらいがよい。
・会陰保護綿と肛門の間にはもう1枚綿花を当て、便の汚染がある場合はその綿花を取り替える。
開始時期
経産婦:排臨
陣痛発作時に胎児先進部が下降して陰裂の間に見え、陣痛間欠時には後退して見えなくなる状態(図9)。
初産婦:発露
胎児先進部が陰裂間に絶えず見え、陣痛間欠時にも後退しない状態(図10)。
位置
後陰唇連合前縁から下に1~2cmの肛門側に保護綿をあて、母指を軽く中央に寄せるように置き、児頭が急激に下降し、会陰に大きな力が加わるのを避け、児の屈位を保つように、児頭を軽く包むように両手を置く。
方法
①後頭結節が恥骨弓下に現れるまで(図11)
・左手は、陰唇から見えている児頭に手指をそろえて軽くあてる。
・自然の回旋を助け、示指と中指で外側頭隆起を触知するまで、屈位を保つように軽く児頭を押し下げる。
②後頭結節が恥骨弓下に現れてから(図12)
・外側頭隆起から後頭結節をつかんだら努責を中止し、腹圧をかけないゆっくりとした呼気を誘導する。左手で後頭部を包み右手で会陰を保護する。
・その後、左手でゆっくりとした第3回旋を誘導し、鼻根まで娩出したら左手で軽く第4回旋に誘導していく。
・左手で、児頭の急激な下降を防ぎ、母指と小指、薬指で児の側頭骨を上方に引き上げながら滑脱させる(第3回旋)。
・会陰保護の右手は、後方に向かって軽く力を前上方に押し上げるようにして、児頭の娩出を助ける。
後頭結節がなかなか滑脱できないとき
児頭の最小周囲径での通過を心がけるために、左右の側頭部を交互に通過させるようにすることもある。
最小周囲径とは
Column
AB=BD=DC=9.8(最小周囲径、図13)
E(後頭結節)をはずしたら、Aを支点にしてB(大泉門)が出るまで第3回旋をする。ついでBを支点にして、屈位のまま頸の付け根まで出し、Dを支点にして再び第3回旋をする。
E:後頭結節
A:後頭結節が恥骨結合をはずれ、A が恥骨結合下にくる
B:大泉門の中央
C:前額部
D:項窩
第3回旋での急激な児頭の反屈を起こさないためには
●産婦の腹圧を防ぐことが大切である。
●後頭結節が滑脱したら、短息呼吸に切り替える。
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3児頭娩出後の顔面清拭
目的
顔面、鼻口の羊水、血液、粘液を除去することで、児の第1呼吸を助ける。
手順
❶児頭娩出後、左手で児の顔面を額から頤(おとがい)部に向かって、ガーゼで拭く(図14)。
❷鼻腔から排泄された羊水、血液、粘液を、上から下に向かって拭き取る。
❸このとき、右手の会陰保護は肩甲娩出に備えてはずさないようにし、第4回旋の開始による会陰の抵抗を確認する。
羊水混濁(図15)が著明なとき
羊水混濁時に児頭娩出後、気道の胎便吸引(分娩時吸引)は、胎児胎便吸引症候群防止の効果はないとの見解より、出生直後の口咽頭あるいは鼻咽頭をルーチンに吸引せず、鼻や口の分泌物はガーゼ等で拭うことでよい。
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4児の頸部臍帯巻絡の確認
目的
児の体幹娩出時に臍帯が引っ張られることによる、頸動脈の血流の停滞を未然に防ぐ。
手順(図16)
❶会陰保護の右手は離さない。
❷左手の示指で巻絡の回数、ゆるみを確認する。
❸臍帯巻絡があった場合、挿入していた左手の示指で臍帯を引き上げ、児頭をくぐらせる。ゆるまない巻絡の場合には、臍帯の2か所を鉗子でとめて、その中間を臍帯剪刀で切断する。
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5第4回旋の介助
手順(図17)
❶会陰保護の右手は離さない。
❷左手の手掌を児の前在側頭部から頸部あたりにあて、児の頸部・肩甲に大きな負担をかけないように自然の娩出力を活かし、児の屈位を保ちながら児の前面内側を母体の後下方に軽く押し下げ、恥骨弓下から前在肩甲を前上腕1/2まで娩出させる。
❸右手の会陰の保護位置を確認し、左手の手掌を児の後在側頭部から頸部にあて、骨盤誘導線方向(母体の前方向)に上げ、後在肩甲をゆっくりと娩出させる。
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6体幹の娩出
手順(図18)
❶左手で児の体幹を固定する。
❷右手の会陰保護綿を捨てる。
❸右手の示指と母指とで上腕を把持(はじ)する。
❹左手も同様に上腕を把持する。
❺ほかの3指を児の背中にあてて、体幹を支えながら骨盤誘導線に沿ってゆっくりと娩出させる。
❻出生時間を確認する。
❼児を左側臥位になるように寝かせる。
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7出生直後の新生児ケア
手順
❶児の顔を横向きにして、顔面をガーゼで拭く。
❷臍帯の母児中間部(陰裂から10cmのところ)をコッヘルではさみ、血流を止める。
❸児の呼吸が安定したら、児の全身をガーゼで拭きながら、性別・奇形の有無をチェックする。
❹出生後1分、5分のアプガースコアの採点をする。
臍帯血の採取方法
臍帯血採取部位は②と③の間で行い、臍帯動脈から採取する(図19)。出生後すみやかに1分以内の採取が推奨されている。また、臍帯クリップは、①の児側で臍輪から2~3cmの位置にとの採取が推奨されている。また、臍帯クリップは、①の児側で臍輪から2~3cmの位置にとめる。
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8母児標識
目的
新生児の取り違え防止のために、第1母児標識は、母児が分離する前に付けるのが原則である。
装着
ネームバンド式(図20)が一般的である。
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9臍帯結紮(けっさつ)と臍帯切断
目的
胎盤から児への血液の移行を止めることで、新生児黄疸の増強を防ぐ。
どれくらいの胎盤内血液が移行するのか
約30~60mLの血液が移行し、新生児の多血症をきたしてしまう。
時期
臍帯動脈の拍動の停止前の結紮が望ましい。約20秒の時間であれば、胎盤血の移行を最小限にとどめることができる。
切断時の注意事項
児への創傷を防ぐために、介助者の手掌のなかに臍帯を固定して、臍帯剪刀の刃先を保護して行うようにする。
必要物品
臍帯クリップ、コッヘル鉗子、臍帯剪刀。
手順(図21)
❶臍帯の母児中間部(陰裂から10cmのところ)をコッヘルではさみ、血流を止める。
❷臍輪部を押さえ臍帯の6~7cmのところを母体側にしごく。
❸臍輪部から2cmと3cmの部分をペアンで軽く圧挫し、そのペアンを臍輪から5cm上方で止める。
❹コッヘルで圧挫した部分を臍帯クリップで固定する。
❺臍帯剪刀で児を損傷することがないように、切断予定部をガーゼに載せ、左手掌の中におさめて児の動きから保護する。クリップで止めた部分より1cm母体よりに臍帯剪刀を当て圧挫するように(数回にわけて)切断する。
❻切断後、止血の有無と3本の血管数を確認する。
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10胎盤娩出の介助
剥離(はくり)機序
児の娩出終了とともに子宮収縮が生じ、胎盤の母体面と子宮の筋層との間にずれが生じる。そのため、後血腫が形成されて剥離が起こる。この胎盤の剥離により、さらに子宮収縮が起こり、血管断裂部が止血されていく。これを生物学的結紮という。
胎盤剥離娩出様式
胎盤の剥離娩出様式には、胎盤の中央部でまず剥離が起こり、胎児面(臍帯付着側)のほぼ中央部を先頭にして、母体面(剥離面側)に血腫が包まれて娩出するSchultze様式と、胎盤の母体面を先頭にして娩出する様式で、胎盤辺縁から剥離が起こるものと考えられているDuncan様式がある。多くはSchultze様式である。
剥離徴候
①子宮底が右側に上昇する(Schroder-Cohn徴候)。
②臍帯が自然に下降する(Ahlfeld徴候)。
③恥骨結合上縁を圧迫すると、臍帯はさらに下降する(Kustner徴候)。
ブラント・アンドリュース法
胎盤の自然娩出では、後血腫による母体血の出血が増えるため、後血腫ができる前に、胎盤を剥離させるブラント・アンドリュース法を行う(図22)。
手順
❶右手で軽く臍帯を牽引(けんいん)し、左手を恥骨結合の上部に垂直にあてる。
❷恥骨結合にあてた指先を腹壁に向かって押し上げる。同時に、臍帯を持つ手で臍帯を引くようにする(図23)。両手の力加減は、子宮を押し上げる力が7分、臍帯を引くのが3分の感覚で行うとよい。
❸胎盤の実質が8割ほど出てきたら、恥骨結合にあてていた手を離し、胎盤の実質を受け取る(図24)。
❹子宮底を軽く圧して、卵膜まで一気に押し出す。
❺卵膜が出にくいときには、長ペアン鉗子でつまみ出すようにする。
自然剥離の場合
胎盤剥離徴候を2つ以上確認してから、行う。
手順
❶バッドにガーゼ2枚をセットする
❷左手で恥骨上縁を垂直に押し、右手で上下しながら臍帯をゆっくり引き出す(図25)。
❸右手示指と中指でコッヘル部位を挟み、上下に動かしながらゆっくり胎盤を胎児面で腟外へ娩出させる(図26)。
❹胎盤が2/3娩出したら、左手でガーゼを広げ、ガーゼの上から胎盤をつかみ、時計周りに回旋させながら卵膜の剥離と娩出を助ける。
❺卵膜が排出困難な場合には、コッヘルで陰裂近くの卵膜を挟み、一定方向(軽く上下運動)に、何度か捻転させ無理な牽引はしないで、娩出をはかる(図27、図28)。
❻胎盤の娩出時間を確認する。
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引用・参考文献
1)日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会編集・監修:産婦人科診療ガイドライン2020、p.243、2017、2022年3月22日検索
2)Wiswell TE, et al.:Meconium staining and the meconium aspiration syndrome.Unresolved issues. Pediatr Clin North Am, 40:955-981, 1993, PMID: 8414717(Review)
3)Steer PJ, et al.:Interrelationships among abnormal cardiotocograms in labor,meconium staining of the amniotic fluid, arterial cord blood pH, and Apgar scores.Obstet Gynecol, 74:715-721, 1989, PMID:2812647
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版