分娩の介助

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は分娩の介助について解説します。

 

立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授

 

 

分娩室の環境

分娩室(図1)はいつでも分娩ができるように、また緊急時の対応ができるよう設備や医薬品を含めた準備をしておくことが大切である(表1表2)。

 

図1 分娩室

分娩室

 

表1 母体用分娩室備品

母体用分娩室備品

* リザーバつきが望ましい
** 腟・子宮腔充填用ガーゼ:滅菌ガーゼ(単ガーゼ、長ガーゼ、つなぎガーゼ)など
*** AED:病棟内(または院内)にあれば可
****子宮 腔内 バルーン (図2):Bakri バルーン 、オバタメトロ、フジメトロなど
(日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン- 産科編2020、p.194、2020より改変)

 

図2 子宮腔内バルーン

子宮腔内バルーン

 

表2 新生児用分娩室備品

新生児用分娩室備品

*インファントウォーマー(図3
(日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:産婦人科診療ガイドライン- 産科編2020、p.194、2020より改変)

 

図3 インファントウォーマー

インファントウォーマー

電源を入れ、ウォーマー上でタオルを温めておく。

 

分娩室に適した温度と湿度

室温:24~26℃、湿度:50~60%


 

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分娩介助に必要な物品の準備

清潔野で使用する物品を清潔操作にてカートの上に準備する(表3図4
分娩直後の新生児の保温やバイタルサインの測定、早期母児接触に必要な物品を準備する(表3図5

 

表3 分娩介助に必要な物品

分娩介助に必要な物品

 

図4 腟・子宮腔充填用ガーゼ

腟・子宮腔充填用ガーゼ

 

図5 分娩介助に必要な物品

分娩介助に必要な物品

 

 

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分娩清潔野の準備(図6

産婦の殿部の下に滅菌シーツを敷き、分娩台の下半分をおおう。
足袋で両下肢をおおう。
産婦の腹部にも滅菌シーツをかける。
吸引チューブは、産婦の足袋に布鉗子でシーツに触れないようにしてとめる。

 

図6 分娩清潔野の準備

分娩清潔野の準備

 

 

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分娩介助

児頭の回旋と骨盤誘導線を理解し、児の屈位を保ちスムーズな回旋を行うよう骨盤誘導線に沿ってゆっくりと介助を行うように心がける。

 

1肛門保護

目的

脱肛の予防と、肛門痛の緩和、努責の誘導、便の排泄による分娩清潔野の汚染防止のために行う。

 

開始時期

哆開(しかい)した時期。

 

方法

厚めの綿花を右手の手指で肛門部にあてる(図7)。

 

図7 肛門保護

肛門保護

 

POINT

脱肛が生じた場合には、粘膜の亀裂を防ぐために、消毒液で濡らしたガーゼか綿花をあてるようにすると、痛みが和らぐ。

 

 

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2会陰保護(仰臥位会陰保護法)

会陰保護する手と肛門部の間にできる窪みを埋めて、保護する手の圧迫が会陰から肛門部にかけて均等にかかるようにするものである。

 

目的

児頭や児の肩甲が陰門を通過する際に、会陰や軟産道の裂傷を予防する。
急速に胎児が娩出するのを防ぐ。

 

会陰保護綿の作成方法(図8

・4つ折りガーゼを開き、綿花を中に入れ、ガーゼの端は中に折り込む。
・自分の手掌に納まるくらいの大きさにし、会陰保護をする手が汚染されないよう、また肛門部の抵抗感がわかるように厚さ1cmくらいがよい。
・会陰保護綿と肛門の間にはもう1枚綿花を当て、便の汚染がある場合はその綿花を取り替える。

 

図8 会陰保護綿の作成(ガーゼを半分に折る場合)

陰保護綿の作成(ガーゼを半分に折る場合)

 

開始時期

経産婦:排臨
陣痛発作時に胎児先進部が下降して陰裂の間に見え、陣痛間欠時には後退して見えなくなる状態(図9)。

 

図9 排臨

排臨
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初産婦:発露
胎児先進部が陰裂間に絶えず見え、陣痛間欠時にも後退しない状態(図10)。

 

図10 発露

発露
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位置

後陰唇連合前縁から下に1~2cmの肛門側に保護綿をあて、母指を軽く中央に寄せるように置き、児頭が急激に下降し、会陰に大きな力が加わるのを避け、児の屈位を保つように、児頭を軽く包むように両手を置く。

 

方法

①後頭結節が恥骨弓下に現れるまで図11

・左手は、陰唇から見えている児頭に手指をそろえて軽くあてる。
・自然の回旋を助け、示指と中指で外側頭隆起を触知するまで、屈位を保つように軽く児頭を押し下げる。

 

図11 正面介助会陰保護法①

正面介助会陰保護法①
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②後頭結節が恥骨弓下に現れてから図12

・外側頭隆起から後頭結節をつかんだら努責を中止し、腹圧をかけないゆっくりとした呼気を誘導する。左手で後頭部を包み右手で会陰を保護する。
・その後、左手でゆっくりとした第3回旋を誘導し、根まで娩出したら左手で軽く第4回旋に誘導していく。
・左手で、児頭の急激な下降を防ぎ、母指と小指、薬指で児の側頭骨を上方に引き上げながら滑脱させる(第3回旋)。
・会陰保護の右手は、後方に向かって軽く力を前上方に押し上げるようにして、児頭の娩出を助ける。

 

図12 正面介助会陰保護法②

正面介助会陰保護法②
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後頭結節がなかなか滑脱できないとき

児頭の最小周囲径での通過を心がけるために、左右の側頭部を交互に通過させるようにすることもある。

 

最小周囲径とは

Column 医師イラスト

 

AB=BD=DC=9.8(最小周囲径、図13
E(後頭結節)をはずしたら、Aを支点にしてB(大泉門)が出るまで第3回旋をする。ついでBを支点にして、屈位のまま頸の付け根まで出し、Dを支点にして再び第3回旋をする。
E:後頭結節
A:後頭結節が恥骨結合をはずれ、A が恥骨結合下にくる
B:大泉門の中央
C:前額部
D:項窩

 

図13 最小周囲径

最小周囲径

 

第3回旋での急激な児頭の反屈を起こさないためには

●産婦の腹圧を防ぐことが大切である。
●後頭結節が滑脱したら、短息呼吸に切り替える。

 

 

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3児頭娩出後の顔面清拭

目的

顔面、鼻口の羊水、血液、粘液を除去することで、児の第1呼吸を助ける。

 

手順

児頭娩出後、左手で児の顔面を額から頤(おとがい)部に向かって、ガーゼで拭く(図14)。

 

図14 顔面清拭

顔面清拭

 

鼻腔から排泄された羊水、血液、粘液を、上から下に向かって拭き取る。
このとき、右手の会陰保護は肩甲娩出に備えてはずさないようにし、第4回旋の開始による会陰の抵抗を確認する。

 

羊水混濁(図15)が著明なとき

羊水混濁時に児頭娩出後、気道の胎便吸引(分娩時吸引)は、胎児胎便吸引症候群防止の効果はないとの見解より、出生直後の口咽頭あるいは鼻咽頭をルーチンに吸引せず、鼻や口の分泌物はガーゼ等で拭うことでよい。

 

図15 羊水の混濁

羊水の混濁

 

羊水の混濁

胎児が子宮内で胎便を排出して起こる。子宮内で低酸素状態になった場合に生じる。約14%の分娩で認められ2)、妊娠42週を超えると23~30%に増加する3)

 

 

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4児の部臍帯巻絡の確認

目的

児の体幹娩出時に臍帯が引っ張られることによる、頸動脈の血流の停滞を未然に防ぐ。

 

手順(図16

会陰保護の右手は離さない。
左手の示指で巻絡の回数、ゆるみを確認する。
臍帯巻絡があった場合、挿入していた左手の示指で臍帯を引き上げ、児頭をくぐらせる。ゆるまない巻絡の場合には、臍帯の2か所を鉗子でとめて、その中間を臍帯剪刀で切断する。

 

図16 臍帯巻絡の場合

①~②:臍帯巻絡の確認のため、頸部に挿入していた示指で臍帯を引き上げる。

臍帯巻絡の場合

臍帯巻絡の場合

③~⑤:児頭をくぐらせて、臍帯をはずす。

臍帯巻絡の場合

臍帯巻絡の場合

臍帯巻絡の場合

 

 

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5第4回旋の介助

手順(図17

会陰保護の右手は離さない。
左手の手掌を児の前在側頭部から頸部あたりにあて、児の頸部・肩甲に大きな負担をかけないように自然の娩出力を活かし、児の屈位を保ちながら児の前面内側を母体の後下方に軽く押し下げ、恥骨弓下から前在肩甲を前上腕1/2まで娩出させる。
右手の会陰の保護位置を確認し、左手の手掌を児の後在側頭部から頸部にあて、骨盤誘導線方向(母体の前方向)に上げ、後在肩甲をゆっくりと娩出させる。

 

図17 第4回施の介助

第4回施の介助
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6体幹の娩出

手順(図18

左手で児の体幹を固定する。
右手の会陰保護綿を捨てる。
右手の示指と母指とで上腕を把持(はじ)する。
左手も同様に上腕を把持する。
ほかの3指を児の背中にあてて、体幹を支えながら骨盤誘導線に沿ってゆっくりと娩出させる。
出生時間を確認する。
児を左側臥位になるように寝かせる。

 

図18 体幹の娩出

体幹の娩出
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7出生直後の新生児ケア

手順

児の顔を横向きにして、顔面をガーゼで拭く。
臍帯の母児中間部(陰裂から10cmのところ)をコッヘルではさみ、血流を止める。
児の呼吸が安定したら、児の全身をガーゼで拭きながら、性別・奇形の有無をチェックする。
出生後1分、5分のアプガースコアの採点をする。

 

臍帯血の採取方法

臍帯血採取部位は②と③の間で行い、臍帯動脈から採取する(図19)。出生後すみやかに1分以内の採取が推奨されている。また、臍帯クリップは、①の児側で臍輪から2~3cmの位置にとの採取が推奨されている。また、臍帯クリップは、①の児側で臍輪から2~3cmの位置にとめる。

 

図19 臍帯血の採取方法

臍帯血の採取方法

 

 

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8母児標識

目的

新生児の取り違え防止のために、第1母児標識は、母児が分離する前に付けるのが原則である。

 

装着

ネームバンド式(図20)が一般的である。

 

図20 母児標識

母児標識

 

 

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9臍帯結紮(けっさつ)と臍帯切断

目的

胎盤から児への血液の移行を止めることで、新生児黄疸の増強を防ぐ。

 

どれくらいの胎盤内血液が移行するのか

約30~60mLの血液が移行し、新生児の多血症をきたしてしまう。

 

時期

臍帯動脈の拍動の停止前の結紮が望ましい。約20秒の時間であれば、胎盤血の移行を最小限にとどめることができる。

 

切断時の注意事項

児への創傷を防ぐために、介助者の手掌のなかに臍帯を固定して、臍帯剪刀の刃先を保護して行うようにする。

 

必要物品

臍帯クリップ、コッヘル鉗子、臍帯剪刀。

 

手順(図21

臍帯の母児中間部(陰裂から10cmのところ)をコッヘルではさみ、血流を止める。
臍輪部を押さえ臍帯の6~7cmのところを母体側にしごく。
臍輪部から2cmと3cmの部分をペアンで軽く圧挫し、そのペアンを臍輪から5cm上方で止める。
コッヘルで圧挫した部分を臍帯クリップで固定する。
臍帯剪刀で児を損傷することがないように、切断予定部をガーゼに載せ、左手掌の中におさめて児の動きから保護する。クリップで止めた部分より1cm母体よりに臍帯剪刀を当て圧挫するように(数回にわけて)切断する。
切断後、止血の有無と3本の血管数を確認する。

 

図21 臍帯結紮と臍帯切断

臍帯結紮と臍帯切断

 

 

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10胎盤娩出の介助

剥離(はくり)機序

児の娩出終了とともに子宮収縮が生じ、胎盤の母体面と子宮の筋層との間にずれが生じる。そのため、後血腫が形成されて剥離が起こる。この胎盤の剥離により、さらに子宮収縮が起こり、血管断裂部が止血されていく。これを生物学的結紮という。

 

胎盤剥離娩出様式

胎盤の剥離娩出様式には、胎盤の中央部でまず剥離が起こり、胎児面(臍帯付着側)のほぼ中央部を先頭にして、母体面(剥離面側)に血腫が包まれて娩出するSchultze様式と、胎盤の母体面を先頭にして娩出する様式で、胎盤辺縁から剥離が起こるものと考えられているDuncan様式がある。多くはSchultze様式である。

 

剥離徴候

①子宮底が右側に上昇する(Schroder-Cohn徴候)。
②臍帯が自然に下降する(Ahlfeld徴候)。
③恥骨結合上縁を圧迫すると、臍帯はさらに下降する(Kustner徴候)。

 

ブラント・アンドリュース法

胎盤の自然娩出では、後血腫による母体血の出血が増えるため、後血腫ができる前に、胎盤を剥離させるブラント・アンドリュース法を行う(図22)。

 

図22 ブラント・アンドリュース法

ブラントアンドリュース法
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手順

右手で軽く臍帯を牽引(けんいん)し、左手を恥骨結合の上部に垂直にあてる。
恥骨結合にあてた指先を腹壁に向かって押し上げる。同時に、臍帯を持つ手で臍帯を引くようにする(図23)。両手の力加減は、子宮を押し上げる力が7分、臍帯を引くのが3分の感覚で行うとよい。

 

 

図23 臍帯を引く

臍帯を引く
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胎盤の実質が8割ほど出てきたら、恥骨結合にあてていた手を離し、胎盤の実質を受け取る(図24)。

 

図24 胎盤の娩出

胎盤の娩出
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胎盤実質が出始めたら、ガーゼでくるんで出す

 

子宮底を軽く圧して、卵膜まで一気に押し出す。
卵膜が出にくいときには、長ペアン鉗子でつまみ出すようにする。

 

自然剥離の場合

胎盤剥離徴候を2つ以上確認してから、行う。

 

手順

バッドにガーゼ2枚をセットする
左手で恥骨上縁を垂直に押し、右手で上下しながら臍帯をゆっくり引き出す(図25)。

 

 

図25 胎盤の娩出①

胎盤の娩出①
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右手示指と中指でコッヘル部位を挟み、上下に動かしながらゆっくり胎盤を胎児面で腟外へ娩出させる(図26)。

 

図26 胎盤の娩出②

胎盤の娩出②
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胎盤が2/3娩出したら、左手でガーゼを広げ、ガーゼの上から胎盤をつかみ、時計周りに回旋させながら卵膜の剥離と娩出を助ける。
卵膜が排出困難な場合には、コッヘルで陰裂近くの卵膜を挟み、一定方向(軽く上下運動)に、何度か捻転させ無理な牽引はしないで、娩出をはかる(図27図28)。

 

図27 胎盤の娩出③

胎盤の娩出③
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図28 胎盤の娩出④

胎盤の娩出④
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胎盤の娩出時間を確認する。

 

 

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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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