心筋梗塞(MI)
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『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は心筋梗塞(MI)について解説します。
〈目次〉
心筋梗塞(MI)はどんな疾患?
心筋梗塞(myocardial infarction;MI)とは、心臓の栄養血管である冠動脈が閉塞し、閉塞部位から先の血流が途絶えてしまうことによって心筋が壊死した状態をいいます。
冠動脈の内膜に形成されたアテローム性プラーク(粥種[じゅくしゅ])が破綻すると、血小板が活性化されて血栓ができ、血管内は閉塞されます。
血流途絶から20分以内であれば心筋の変化は可逆性であり、それ以上の虚血が続くと心筋の壊死がはじまり、心筋梗塞となります。
狭心症と心筋梗塞の違い
心筋の虚血が一過性であり、可逆的な場合を狭心症といいます。心筋虚血が長時間続き、心筋が壊死し、不可逆的な場合を心筋梗塞といいます。
狭心症発作の場合は15分以内で治まり、ニトログリセリンの舌下錠投与後、数分で症状が改善します。しかし、心筋梗塞の場合は狭心痛が30分以上続き、ニトログリセリンは無効です。
どうやって分類するの?
発症時期による分類
発症時期によって表1の3つに分類します。
壊死部位による分類
20分以上の虚血が続くと心筋壊死が起こり、心筋梗塞となります。心筋障害は心内膜からはじまって心外膜側へと広がっていきます。この間、血流再開が起こると心筋壊死が心内膜側で止まり、心電図ではST低下がみられます(非貫壁性梗塞)。
心内膜側から心外膜側まで心筋壊死が進むと貫壁性梗塞となり、心電図ではST上昇がみられます(図1)。
患者さんはどんな状態?
心筋梗塞では症状の聴取(聞き取り、問診)が重要になります。
「胸痛」といっても、人によっては、放散痛や胸部周囲の圧迫感や違和感、例えようのない気持ち悪さなどと表現することもあります。そのため、「胸痛」という言葉ではなくても、心筋梗塞になるであろうというリスクを加味したうえで、症状を聞きましょう。
胸痛
心筋の虚血性壊死は、神経を刺激して心窩部の絞扼感(こうやくかん)や痛みとして出現します。突然の激しい胸痛が起こり、安静では消失せず、20分以上から、ときには数時間持続します。
胸痛ではなく放散痛が症状として出ることもあります。
ニトログリセリンは効かず、狭心症によるものより著しく症状が強く、それにより強い不安感や恐怖を伴います。
呼吸困難、チアノーゼ
急性心筋梗塞では、急激な心筋の壊死によって左室機能不全が起こり、心拍出量が高度に低下すると左心不全となります。それによって呼吸困難が出現します。
心拍出量低下により、末梢まで十分に血液が供給されず、チアノーゼが出現します。
悪心・嘔吐
胸痛や心筋の虚血によって交感神経の緊張を起こし、悪心・嘔吐などの消化器症状を誘発します。心臓の下壁と消化器の神経は隣接しており、下壁梗塞の場合は、消化器症状が現れやすくなります。
どんな検査をして診断する?
心筋梗塞で心筋が壊死した場合、血流が改善されても、壊死した心筋は戻ることがありません。そのため、早期治療が大切になります。特に、12誘導心電図でのSTの変化、心エコーでの壁運動低下、血液検査での心筋マーカーが診断するうえで重要になります※1。
心電図検査
心筋梗塞の特徴的な心電図変化は、T波増高、ST上昇または低下、異常Q波、冠性T波です。貫壁性梗塞では、梗塞直後にT波が増高しST上昇がみられます(図2)。
血液検査
心筋が壊死することにより、心筋細胞から特有の酵素やタンパクが血液中に流出するため、血液検査によって心筋壊死の発生や程度を知ることができます※2(表2)。
心筋マーカーの値が大きいと梗塞巣が大きいことを表します(図3)。
心エコー検査
心エコー検査では、左心室の大きさ・形状・動き、左室内血栓・心室中隔穿孔の有無、乳頭筋不全や断裂による僧房弁の逆流、エコーフリースペース(心膜液貯留)の有無を観察します。梗塞部位の左室壁の運動異常(asynergy)や運動減弱を確認し、壁運動異常部位の範囲から虚血範囲や責任冠動脈を推測することができます。
左室駆出率(EF)で心臓の収縮力を把握します。
[memo]
- ※1 心筋梗塞のその他の検査(上へ戻る↑)
・造影CT:静脈に造影剤を注入し造影をすることで、狭窄している部分を把握する。しかし、急性心筋梗塞では実施しない。
・心臓カテーテル検査:狭窄や病変の程度を調べる。血管内エコーなど特別なカテーテルを使用することで、今後の治療方針を決める指標になる。
- ※2 心筋梗塞のその他の血液検査の特徴(上へ戻る↑)
・CPK:発作後5時間で上昇しはじめ24時間で最高値に達し、3日目ごろから正常値に戻る。
・GOT:発作後6時間で上昇しはじめ2日目で最高値に達し、4日目ごろから正常値に戻る。
・LDH:発作後12時間で上昇しはじめ2~4日目の間に最高値となり、1週間ごろから正常値に戻る。
文献
- 1)藤野彰子:ナーシングレクチャー 心疾患をもつ人への看護.中央法規出版,東京,1997.
- 2)安倍紀一郎,森田敏子:病態生理,疾患,症状,検査のつながりが見てわかる 関連図で理解する 循環機能学と循環器疾患のしくみ 第3版.日総研出版,愛知,2010.
- 3)医療情報科学研究所編:病気がみえる vol.2 循環器 第4版.メディックメディア,東京,2017.
- 4)榊原記念病院看護部,鈴木紳編著:AMIケアマニュアル.ハートナーシング1992夏季増刊,メディカ出版,大阪,1992.
- 5)日本循環器学会:ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版).(2019.09.01アクセス)
- 6)黒澤博身総監修:全部見える 循環器疾患.成美堂出版,東京,2012.
- 7)浦部晶夫,島田和幸,川合眞一編:今日の治療薬2018.南江堂,東京,2018.
- 8)三浦稚郁子:「なぜ?」の理解で総復習&ステップアップ! 循環器ケアの成長ふりカエルチェッククイズ65.ハートナーシング 2013;26:5-65.
- 9)酒井毅:読解プロセスですいすいわかる! 完全攻略炎の心電図ドリル50.ハートナーシング 2016;29(6):11-86.
- 10)赤石誠監修:くすりのはたらきと使用ポイントがよくわかる! ナース必携!循環器の薬剤ガイド150.ハートナーシング2015年春期増刊,メディカ出版,大阪,2015.
- 11)日本循環器学会:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版).(2019.09.01アクセス)
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社