肺炎【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【21】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
→肺炎【ケア編】はこちら
山田裕樹
日本赤十字社和歌山医療センター集中治療部
〈目次〉
- 肺炎ってどんな疾患?
- 肺炎の診断
- 問診
- 身体診察
- 胸部X線検査
- 血液検査
- 原因微生物の同定
- 肺炎の処置・治療法
- 肺炎の治療方針
- 肺炎の重症度診断
- 抗菌薬の選択
- 理学療法
- ナースに気をつけておいてほしいポイント
肺炎ってどんな疾患?
肺炎とは、「種々の原因による肺実質内の炎症」の総称ですが、ウイルスや細菌といった病原性微生物による感染性炎症を指すことが一般的です。
2016年の厚生労働省の人口動態統計によれば、肺炎は悪性新生物、心疾患に続いて、死因の第3位に位置しており、毎年11.9万人が肺炎により死亡しています1)。1日当たりの患者数は、人口10万人に対して入院が34.6人、外来が8.2人と推計されており2)、日常診療においてよく見かける疾患です。
肺炎の診断
肺炎の診断は、問診、身体診察所見、胸部X線所見、血液検査所見などから総合的に判断します。
表1に肺炎と鑑別すべき疾患を表示します。
問診
問診では、咳嗽、喀痰、呼吸苦、胸痛などの呼吸器症状や、発熱、全身倦怠感、食欲不振、意識障害などの全身症状について聴取します。
高齢者や免疫不全患者では、呼吸器症状の訴えが少なく、全身症状や精神症状を中心に訴えることがあるため注意しましょう。
身体診察
身体診察では、胸部聴診でのcrackle(ラ音)の有無や、呼吸様式を観察することが重要です。頻脈、頻呼吸、血圧低下、SpO2低下、高体温あるいは低体温がないか、全ての症例でバイタルサインをチェックしましょう。
胸部X線検査
単純胸部X線検査や胸部CT検査で肺野浸潤影を認める場合は肺炎が積極的に疑われますが、胸部X線写真の所見だけで細菌性肺炎と診断することは困難な場合があります。
間質性肺疾患や悪性腫瘍、うっ血性心不全、ARDS、肺胞出血、無気肺など、治療方針のまったく異なる疾患も肺炎と同様の胸部X線所見を呈することがあります。そのため、胸部X線の異常所見を患者の症状や身体所見と合わせて評価しなくてはなりません。
血液検査
血液検査では、好中球優位の白血球増多やその他の炎症性マーカー(CRP、赤沈、プロカルシトニン)が役に立つことがあります。しかし、血液検査の異常高値が必ずしも重症度と相関しないことに注意してください。
原因微生物の同定
肺炎の診療において、原因菌の同定は極めて重要です。喀痰を認める場合には、基本的にグラム染色・培養を行います。尿中抗原検査(肺炎球菌、肺炎マイコプラズマ)、喀痰抗原検査(肺炎球菌)、咽頭ぬぐい液検査(肺炎マイコプラズマ)などの迅速検査も有用で、血流感染を疑う重症例では血液培養も合わせて行うことがあります。
また、感染管理上注意しなくてはいけない原因微生物があります。マスク、手袋、ガウン、ゴーグルなど感染経路に応じた予防策をとる必要があるため、外来診察の時点から注意が必要です。
肺炎の処置・治療法
肺炎の治療方針
肺炎は、発症の場所や病態の観点から以下のように市中肺炎、院内肺炎、医療・介護関連肺炎に大別されます(図1)。
市中肺炎(CAP)とは、基礎疾患を有しておらず、耐性菌が原因菌となる頻度が少ない肺炎です。市中肺炎では、重症度を判定し、治療場所(外来or一般病棟or集中治療室)を決定し、抗菌薬を選択する、という流れです。
院内肺炎(HAP)は、入院48時間以降に発症する肺炎です。AIDS発症時や免疫抑制薬使用時の極端な細胞性免疫低下の状態、コントロール不良の糖尿病、コントロール不良のCOPDなどの基礎疾患を有し、人工呼吸管理が行われていたり、抗菌薬による治療歴がある場合は、耐性菌感染を考慮する肺炎です。
また、医療・介護関連肺炎(NHCAP)とは、医療ケアや介護を受ける高齢者に発症する肺炎です。耐性菌リスクや予後の点で市中肺炎と院内肺炎の中間的な位置付けとされ、繰り返す誤嚥性肺炎に代表される予後不良の終末期像を呈する例も多いのが特徴です。
院内肺炎や医療・介護関連肺炎の治療においては、誤嚥性肺炎のリスクを有するかどうか、疾患末期や老衰状態ではないかどうかを判断することから始まります。誤嚥性肺炎を反復するリスクがある場合や、疾患末期や老衰状態である場合には、患者本人や家族とよく相談した上で個人の意思やQOLを尊重した患者中心の治療・ケアを行います。疾患末期や老衰状態でない場合、あるいは終末期であっても本人が通常の治療を希望する場合は耐性菌リスク評価および重症度判定した上で抗菌薬を決定します。
肺炎の重症度診断
市中肺炎の重症度は、A-DROPシステムで判定します(図2)。このA-DROPシステムで 3つ以上当てはまる場合は、入院が必要になります。
重症肺炎では人工呼吸が必要な場合があります。気道分泌物が多く自力での喀痰排出が不十分な場合や、酸素化の低下を認める場合、呼吸促拍し呼吸努力が著しい場合には、病状が改善するまで気管挿管(あるいは非侵襲的陽圧換気)による人工呼吸を行うことがあります。ショックや、意識障害を認める場合も同様に人工呼吸が必要になることがあります。頻呼吸、頻脈、チアノーゼ、意識障害などの身体所見を読み取って重症例を正しく把握しましょう。
抗菌薬の選択
抗菌薬療法においては、外来や一般病棟、集中治療室などの領域別で、高い頻度で見られる原因菌、抗菌薬療法を行った場合の予後、患者背景などの一般的情報を元に、表2、3の通り、エンピリック治療薬が推奨されています。
さらに、グラム染色や各種迅速検査結果、先行投薬への反応性、自施設のアンチバイオグラム、その患者の過去の分離菌動向や地域(あるいは院内)の感染症流行状況などの情報を加味して、個々の症例に応じた適切な初期投与抗菌薬を選択する努力が重要です。
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エンピリック治療
原因微生物が特定される前に行う治療のことです。原因菌が不明な場合、使用される抗菌薬は、感染巣から想定される病原菌を広くカバーした抗菌薬が選択されます。
アンチバイオグラム
細菌の抗菌薬感受性試験のデータを集計し、さまざまな菌種の抗菌薬感受性について図や表にしたもの。病棟や病院ごとにデータを取り、国や地域全体のデータと比較して、感染制御の評価を行うのに使ったりします。
理学療法
肺炎の診療において看護ケアおよび理学療法はとても重要です。肺炎は咳などによる生理的ドレナージの期待できる感染症ですが、吸痰や、体位ドレナージによる排痰の補助が多くの症例で有効です。
また、早期から呼吸リハビリテーションによる介入を行うことで、人工呼吸の離脱や離床、退院、社会復帰につながることが期待されています。
肺炎の重症度判定はさまざまな項目から構成されていますが、理学所見から判断できることも多く、バイタルサインが悪くないか評価し続けることが大切です。酸素投与や吸痰、理学療法など、抗菌薬投与以外の治療も重要です。
[参考文献]
- (1)厚生労働省.平成28年(2016)人口動態統計の概況.(2017年10月閲覧)
- (2)厚生労働省.平成26年(2014)患者調査の概況.(2017年10月閲覧)
- (3)日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会編.成人肺炎診療ガイドライン2017.日本呼吸器学会.2017.
- (4)矢﨑義雄.内科学.第10版.朝倉書店,2013,p2548.
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長
[Design]
高瀬羽衣子