肺炎【ケア編】|気をつけておきたい季節の疾患【21】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
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荒瀬典子
社会福祉法人恩賜財団大阪府済生会千里病院外科病棟副看護師長・救急看護認定看護師
〈目次〉
肺炎は、慢性疾患や呼吸器疾患のある方、抵抗力の弱い乳幼児や高齢者などが、風邪やインフルエンザなどの罹患をきっかけに引き起こす場合があります。
患者さんの症状としては、発熱、激しい咳、痰の増加、呼吸困難感、胸の痛み、倦怠感、食欲低下、頭痛などが出現します。肺胞が炎症を起こす肺炎の場合は湿性咳嗽が特徴ですが、肺の間質に血漿成分が染み出し、急激に呼吸状態が悪化する間質性肺炎の場合では、初期に乾性咳嗽が見られます。
肺炎を疑う患者さんの診療では、医師や看護師による聴診や視診による呼吸状態の観察のほか、胸部X線写真撮影やCT撮影などで着衣を脱いでいただく必要があります。肺炎で来院される患者さんは、発熱や倦怠感、悪寒などの症状を訴えることが多いため、不必要な皮膚の露出を避けて悪寒が増強しないよう配慮する必要があります。
また、倦怠感がある場合は検査中の体位保持や検査台への移動など、普段はADLが自立されている患者さんでも介助が必要になることがあります。そのため、検査時の介助などは患者さんの状態を考えて提供する必要があります。
気管支内視鏡による痰の除去は、鎮静剤や鎮痛剤を使用します。しかし、この検査は苦痛を伴い、呼吸状態が急激に悪化するリスクの高い検査となります。患者さんは事前に医師から説明を受けていても、痛みや呼吸困難感の出現、検査に対する不安が出現するため、看護師は患者さんの身体的および精神的ストレスが最小限に抑えられるようなかかわりが必要となります。
ナースの視点
1来院時のポイント
肺炎患者さんが来院されれば、まずバイタルサインを測定し症状を確認します。この時に呼吸が早く呼吸困難感があり、SpO2が94%以下であれば酸素投与を考慮する必要があります。
また、問診ではいつから症状が出現したかなど、来院までの経過を確認し、特に呼吸器症状が急激に悪化している場合は、間質性肺炎やARDS(急性呼吸窮迫症候群)などの可能性を考慮し、速やかに診察をしてもらうよう調整をしなければなりません。
肺炎患者さんは発熱や繰り返す咳嗽により、通常よりもエネルギー消費量や酸素消費量が増加しています。また、倦怠感や食欲低下により食事や水分摂取が不十分となっていることもあります。来院時は特に脱水徴候(活気や意識レベルの低下、口唇や舌など口腔粘膜の乾燥、口渇感、頭痛、尿量の減少や濃縮尿、ツルゴールの亢進)がないかの観察、および問診が必要になります。
また、インフルエンザを契機として肺炎を発症している場合があり、ほかの患者さんや医療関係者への二次感染を予防するため、発熱や咳といった症状があれば患者さんや付き添いのご家族にマスクを装着していただくよう指導することも必要になります。
呼吸器疾患のある患者さんの場合
気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの呼吸器疾患の既往がある患者さんは、肺炎に罹患する前の呼吸機能が低いため、肺炎を罹患すると呼吸状態が悪化しやすい傾向にあります。呼吸様式、呼吸回数、SpO2を経時的に観察し、呼吸困難感や会話の状況など、特に呼吸状態の変化に注意が必要です。
高齢者の場合
高齢者の肺炎患者さんの場合、発熱や脱水により意識レベルが低下することがあります。そのため、特に脱水徴候に注意する必要があります。問診時に、食事摂取・飲水状況、排尿状況を確認し、頻脈、血圧の低下、鎖骨や手背でのツルゴール亢進、口腔粘膜乾燥などがないか注意して観察することが必要です。
乳幼児・小児の場合
乳幼児や小児では、自覚症状を医療者に正確に伝えることが難しいため、母親などの付き添われているご家族に協力していただきましょう。普段と比べて活気はどうか、食事摂取・飲水状況、排尿回数や濃縮尿の有無を問診するようにしてください。
特に乳幼児の場合は、気道が細く、分泌物で気道が狭窄・閉塞されやすいので、分泌物が多い場合は上気道狭窄音の有無、鼻翼呼吸や陥没呼吸の有無、チアノーゼの有無、SpO2値を経時的に観察する必要があります。また、脱水や発熱により意識障害や痙攣を起こすことがあるため、注意が必要です。
2看護のポイント
発熱
発熱に伴い全身倦怠感、頭痛、関節痛、悪寒などが出現します。このような発熱随伴症状が出現している場合は、患者さんの安静を優先し、症状が軽減してから食事摂取やケアなどを行うように調整します。悪寒が強い場合は、不必要な肌の露出を避け、掛け物の追加や室温を上げて保温に努めます。
発熱に対し、解熱剤が使用されることがあるので、それによるバイタルサインの変化を観察しながら、効果を評価します。解熱剤の使用後は多量に発汗することが多いので、患者さんの発熱随伴症状が軽減すれば、部分清拭や全身清拭などを行い、皮膚を清潔に保ちます。
咳嗽や胸の痛み
繰り返す咳嗽や、気管・気管支の炎症により胸の痛みを訴える患者さんには、医師と相談し、鎮咳剤や気管支拡張薬の使用を考慮します。また、室内が乾燥していると咳嗽を誘発したり、気管や気管支の炎症が増強したりする原因になるので、加湿を目的としたネブライザーの使用を考慮しましょう。また、前胸部をホットタオルなどで温めることで、患者さんをリラックスさせ気管支を拡張させる効果が期待できます。
呼吸困難感
呼吸困難感の原因としては、SpO2の低下、気管・気管支の炎症、痰の貯留などさまざまな要因があります。SpO2が低下している場合は、医師の指示の下、速やかに酸素投与を行う必要があります。SpO2値の推移を見て、経鼻カニューレ、酸素マスク、リザーバーマスクなどで酸素投与を行います。
痰の貯留により呼吸困難感が出現している場合は、医師の指示の下、去痰剤や気管支拡張薬の使用、加湿により痰の粘稠度を下げることで痰を出しやすくすることが必要になります。また、痰が出しやすいようにするための体位ドレナージも有効ですが、患者さんにとって安楽でない体位はストレスとなるため、体位ドレナージを行う際は患者さんに目的と方法を説明し、体位を調整した後は苦痛な体位になっていないかを確認しましょう。
脱水
食事に制限のない患者さんであれば、食事・水分の摂取状況、排尿状況を観察するだけではなく、こまめに水分を摂取していただくよう患者さんに声をかけたり、患者さんが食べやすいゼリーやジュース、アイスクリームなどを摂取していただくことを提案し、病院食以外で水分が補給できるよう工夫します。
倦怠感や食欲低下、発熱などによる重度の脱水に対しては、治療として輸液療法が開始されます。
不安
呼吸困難感がひどい場合、患者さんは死を想起することがあると言われています。症状に対する不安や今後の治療や予後に対する不安が見られる場合、患者さんの訴えを傾聴・共感し、必要時には医師から病状説明をしてもらうよう調整が必要になります。また、患者さんにとって信頼のおけるご家族や友人の協力を得られるように面会時間を有効に使うことも必要になります。
精神的なサポートが必要な場合は、精神科医師、心療内科医師、臨床心理士などの支援、金銭的・社会的なサポートが必要な場合は、社会福祉士などの支援が受けられるよう看護師が調整します。
[引用・参考文献]
- (1)日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会.成人肺炎診療ガイドライン2017.
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長
[Design]
高瀬羽衣子