スキー・スノボ外傷【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【22】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
→スキー・スノボ外傷【ケア編】はこちら
堀口真仁
京都第一赤十字病院救急科副部長
〈目次〉
- スキー・スノボ外傷ってどんな特徴があるの?
- 一般的特徴
- 受傷原因
- 受傷機転
- スキー・スノボ外傷で受傷しやすい部位
- スキー外傷で受傷しやすい部位の特徴
- スノボ外傷で受傷しやすい部位の特徴
- 注意を要する外傷
- スキー・スノボ外傷の処置・治療法
- バイタルサインや意識に異常がある場合
- バイタルサインが安定している場合
- 情報収集
- 予防教育
- ナースに気をつけておいてほしいポイント
- 正確な観察
- 連絡先の聴取
スキー・スノボ外傷ってどんな特徴があるの?
一般的特徴
スキー・スノボ外傷とは、文字通りスキーやスノーボード中に受傷した外傷すべてです。軽傷なものは捻挫や打撲、重傷だと死亡することもあります。さまざまな程度のけがが含まれますが、種目により、受傷部位に傾向があります(後述)。
統計
スキー場での外傷の統計として、全国スキー安全対策協議会が毎シーズンの受傷者を調査して公開しています。2015~16年シーズンの調査では、47のスキー場からの3,175件を分析しており1)、スキー外傷1,286件(40.6%)、スノボ外傷1,865件(59.0%)、ソリ13件(0.4%)、その他17件と大部分がスキーとスノーボードでの受傷です(図1)。
近年の傾向
スキーヤーとスノーボーダーだけで比較すると、スノボ外傷のほうが多く、スノーボードが普及し始めた20年ほど前に急増しましたが、近年は6割前後でほぼ一定です(図2)。
受傷率の違い
スノボ外傷が多いのは、競技人口が多いからだけではありません。スノーボードはスキーと比べて受傷率が高く、リフト・ゴンドラによる輸送人員あたりの受傷者割合を比較すると1.5~2倍の違いがあります(図3)。
傷病者の年齢
スキー場での外傷は若年者が多いことも特徴です。40歳未満の傷病者はスキー外傷で約5割、スノボ外傷では約9割にも上ります。スキーヤーでは50歳以上の受傷者が約3割を占めており、長くスキーを楽しまれている高齢の方も多いことが示唆されます。1)
死亡例
数は少ないですが死亡例もあります。2015~16年のシーズンではスキーヤー5名、スノーボーダー2名が衝突・転倒・滑落・雪崩などが原因で亡くなっています。1)
受傷原因
転倒
受傷の原因は、スキー外傷、スノボ外傷ともに転倒によるものが最も多く、約8割を占めています。転倒の原因はほとんどがバランスを崩して自分で転んだものです。ジャンプやトリックでの失敗や逆エッジでの転倒は、スキーよりもスノーボードに多いのが特徴的です。
衝突
転倒に次いで多いのは衝突で、2割近くを占めます。多くはほかのスキーヤーやスノーボーダーとの衝突ですが、立木などとの衝突で受傷する人もいます。
その他
近年、整備されたゲレンデではないところを滑走するバックカントリースキー・スノーボードも広がってきており、滑落したり雪崩に巻き込まれたりして受傷する例があります。
受傷機転
転倒や衝突から体に損傷を受けるメカニズムには、「直達外力」によるものと「介達外力」によるものとがあります。
直達外力
直達外力とは、打撃を受けたところにけがをすることです。例えば、打撲や切創、挫創などは直達外力によるものです。
受傷時に板やストック、あるいは立ち木などが当たって切挫創を来します。スキー・スノボ外傷の場合、直達外力によるけがは、頭部や顔面、手首などのウェアで覆われていない部分に多く見られます。内臓の損傷、骨折の一部も直達外力によるものです。
介達外力
スキーやスノーボードは、ブーツで足を板に固定されているため、外力が直接かかったところではなく少し離れたところで損傷を受けることがあります。これを介達外力による損傷と言います。
スキー・スノボ外傷でよく見られるものに、エッジが雪に取られて転倒した際、板がひねられて膝関節の捻挫を来すなどがあります。また、転倒した際に上肢が雪でひっぱられ、肩関節の脱臼を来すこともあります。
スキー・スノボ外傷で受傷しやすい部位
スキー外傷で受傷しやすい部位の特徴
スキーによる外傷の部位は膝が最も多く(35.4%)、下腿(13.0%)、肩(12.9%)、頭部(8.1%)、足首(6.7%)と続きます。1)
スキー外傷では、下肢の外傷の合計が59.2%に上ることが特徴的です。これは、スキーではストックをつくことができるので、上半身を直接打ち付けることが少ないこと、足がそれぞれ板に固定されているので回転による介達外力での損傷を受けやすいこと、硬いブーツを履いているため下腿の上部に強い力がかかりやすいこと、などが関係していると考えられます。
膝
スキー外傷による膝のけがの9割近くは捻挫です。特に、内側側副靱帯の損傷が多く見られます。
大腿骨と脛骨をつないでいる膝関節は可動性が大きく、力もかかるところなので靱帯がたくさんあります。スキーの内側のエッジが引っかかって膝を内側にひねるように転倒した場合、内側側副靱帯が引き伸ばされます。
下腿
スキー外傷による下腿のけがの4割程度が骨折です。転倒時、ブーツが脛に当たる部分が骨折する「ブーツトップ骨折」という骨折や、足関節の骨折が多く見られます。
肩
スキー外傷による肩のけがのおよそ半分が脱臼です。転倒時に上腕が引っ張られて受傷します。上腕骨が前方に脱臼していることが多く、整復とその後の安静が必要です。
スキーヤー拇指
上記のケガのほか、スキー外傷に特徴的なものとして、スキーヤー拇指と呼ばれるものがあります。スキーではストックについているストラップに手をくぐらせてストックを握りますが、転倒時にうまくストックを離すことができないと親指が引っ張られて靱帯が伸ばされ、親指の付け根が痛むようになります。
スノボ外傷で受傷しやすい部位の特徴
スノボ外傷は上半身に多いことが特徴です。手首が最も多く(18.4%)、肩(17.1%)、頭部(10.1%)、膝(8.4%)、腰(7.7%)と続きます1)。肩と上肢で合計52.5%に上り、スキー外傷では下肢が合計59.2%なのとは対照的です。
スノボ外傷に下肢の外傷が少ない理由としては、両足が1枚のボードに固定されているため、ひねられるような力がかかりにくいこと、ストックがないために転倒時に手をついたり上半身を打ち付けたりしやすいことが関連していると考えられます。
手首
スノボ外傷の手首のけがの7割は骨折、3割弱が捻挫です。橈骨遠位端の骨折、手根骨の骨折など、手をついたことによる受傷が多いです。
肩
スキーと同様に、スノボ外傷による肩のけがの約半数が脱臼です。転倒時にボードが外れず、体が斜面に流されやすいことも関係していると思われます。
頭部
スノボ外傷の頭部のけがの9割が打撲と切挫創です。スキーと違って転倒時にボードが外れないため、うつ伏せに転倒した際にかかと側のエッジで後頭部を打ち付けるケースも見られます。2)
注意を要する外傷
スキー、スノーボード共に、軽傷とされたものは3割弱でしたが、6割が中等傷、1割強が重傷と判断されています。1)
中でも、頭部を強打した患者は全体の12~14%見られ、この場合には脳挫傷、頭蓋内出血、頸椎損傷などの可能性が高くなります。
バイタルサインに異常が見られる症例、意識状態の変容があるもの、四肢の脱力や知覚異常などの神経学的異常所見が見られるものは要注意です。
脳挫傷
脳挫傷とは、頭部に強い衝撃が加わることで、脳実質に損傷を受ける外傷です。脳実質の挫滅、出血などを起こします。外傷性のくも膜下出血を伴うこともあります。受傷直後から意識が悪いことが多いです。
急性硬膜下血腫(図4)
頭部への衝撃で、脳の表面と硬膜との間にある血管が切れて硬膜と脳の間に出血します。血腫が脳を圧迫するために、反対側の麻痺や、同側の瞳孔の散大、対光反射の減弱や消失が見られます。
図4急性硬膜下血腫(右)と急性硬膜外血腫(左)
急性硬膜外血腫(図4)
頭蓋骨骨折を伴うような頭部打撲の時に、硬膜表面の血管が切れて硬膜と頭蓋骨の間に出血します。症例によっては受傷後一時的に意識が改善する時間(意識清明期)がありますが、その後再び意識レベルが低下してきますので、意識状態の経時的な観察が重要です。
脊髄損傷
頸部の過伸展や過屈曲、脊椎の骨折を伴うような背部の打撃によって生じます。損傷した脊髄レベル以下で脱力、知覚異常が見られるので、神経症状を観察することで損傷している脊髄部位を推定できます(図5)。
頸髄損傷の場合、胸郭の動きが麻痺するので腹式呼吸になります。上位頸髄を損傷すると、横隔神経も麻痺するために呼吸が弱くなったり停止したりします。
体幹部の重症外傷
胸部外傷では、肺挫傷、血気胸を来すと酸素化が悪化します。腹部の外傷では、肝損傷、脾損傷、腎損傷や骨盤骨折、それに伴う腹腔内出血を来すと出血性ショックに陥ります。
スキー・スノボ外傷の処置・治療法
バイタルサインや意識に異常がある場合
外傷初期診療ガイドライン(JATEC)に従って診療していきます(ABCDEアプローチ)。2)
気道(Airway)
発語ができるか、呼吸ができているかを観察します。気道確保が必要な場合はエアウェイ挿入や気管挿管を行います。
呼吸(Breathing)
頸部や胸部の診察を行い、頸静脈怒張や皮下気腫の有無、聴診での異常の有無を調べたりSpO2を測定したりします。必要に応じて酸素投与や胸腔ドレナージを行います。
循環(Circulation)
皮膚の性状を観察してショック徴候がないかどうか観察し、血圧や脈拍を測定します。超音波検査(FAST)、胸部と骨盤のX線撮影、外出血の止血、必要なら輸液路の確保を行います。
意識(Dysfunction of CNS)
意識レベルの評価、瞳孔の観察を行います。グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)で8点以下の場合や、急激に2点以上低下する場合は「切迫するDの異常」と判断して頭部CT検査を早く撮影できるようにします。
memo切迫するD
重症頭部外傷などで下記の状態にある場合を「切迫するD」といいます。
・GCSの合計が8点以下、JCS≧Ⅱ−30
・GCSの合計点が2点以上低下(経時的に何回も見る)
・脳ヘルニアが疑われる場合(瞳孔不同:左右差1mm以上、対光反射消失、散瞳4mm以上、四肢動きの左右差(片麻痺)、クッシング現象の有無)
切迫するDが見られた場合、
・確実な気道確保(気管挿管)
・脳外科へのコンサルト
・頭部CTの撮影施行
を行います。
脱衣と保温(Exposure and Environmental control)
外傷部位の観察のために脱衣します。ただし、ゲレンデで観察する場合は低体温になる可能性もあり、しっかり保温も行います。
バイタルサインが安定している場合
捻挫・打撲
痛みのある部位を診察し、骨折を伴っていないかどうかX線写真を撮影します。捻挫や打撲だけの場合、患部を安静にして冷却し、可能なら軽く挙上します。外用薬や鎮痛薬を処方します。
骨折
骨折の可能性がある部位を同定し、X線写真を撮影してどの骨がどのように折れているかを診断します。折れている部位より末梢の血流や感覚を確認し、血管や神経の損傷を伴っていないかどうか判断します。
転位が大きい場合は整復する必要があります。整復後にシーネで固定し、良肢位に保持します。必要に応じて手術の段取りを行います。
脱臼
X線写真を撮影してどのように脱臼しているか診断します。用手的に整復を試みますが、痛みや緊張で整復しにくいときには鎮静薬を用いたり、場合によっては全身麻酔をかけたりして整復します。
切挫創
活動性出血があるときは圧迫止血を試みます。圧迫で止まらない出血は血管を焼灼したり結紮したりして止血します。創部に異物が残っていないかどうか、X線写真やCTを撮影して確認し、よく洗浄してから縫合します。
情報収集
いつ、どこで、どのようにして受傷したかをしっかり聴取します。受傷の状況を詳しく知ることで、どのような損傷を受けているか見当を付けることができます。患者が話できないときには友人や目撃者、救急隊員などから聴取します。
予防教育
ケガをした人のヘルメット着用率はスキー外傷37.0%、スノボ外傷13.9%と、まだ高いとは言えない状態です1)。大きなケガをしないためには、ヘルメットやプロテクターの装着、レベルに応じた楽しみ方、適切な指導などが重要です。予防のために気をつけるべきことについても伝えてあげることができれば、なお良いと思います。
正確な観察
痛みのある部位の正確な観察が重要です。ゲレンデから搬送されてくる患者はスキーウェアなどを着込んでいるので、傷を見落とさないようにしっかり脱衣をします。やむなくウェアを切断するときには、患者にできるだけ説明してから切断します。
連絡先の聴取
スキー・スノボ外傷の患者は、若年者が多く、友人同士で遊びに来ていることも多いです。特に重症者では、キーパーソンとなるご家族の連絡先を聞いておくことも必要です。
[参考文献]
- (1)全国スキー安全対策協議会 .2015/2016シーズン スキー場傷害報告書.(2017年8月閲覧)
- (2) 塩谷英司ほか.スキー・スノーボード外傷の最近の傾向(第2報).昭和医会誌.65(5).2005,385-393.
- (3)日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン改訂第5版編集委員会.一般社団法人日本外傷学会ほか監.改訂第5版外傷初期診療ガイドラインJATEC.へるす出版.2016,p344.
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長
[Design]
高瀬羽衣子