スキー・スノボ外傷【ケア編】|気をつけておきたい季節の疾患【22】

来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。

 

→スキー・スノボ外傷【疾患解説編】はこちら

スキー・スノボ外傷

 

スキー・スノボ外傷の主訴_スキー・スノボ外傷の症状

 

濱 武
公立豊岡病院但馬救命救急センター・救急看護認定看護師

 

 

 

〈目次〉

 

 

スキー・スノボ外傷も、基本的にはほかの外傷治療と対応は同じです。

 

1救急車で搬送されてくる場合

外傷の患者さんが搬送されてくることが決まったら、救急隊からの情報を医師と共有し、その情報から緊急度や重症度などを予測して受け入れ準備をします。
図1に、外傷患者さんで念頭に置いておかなければならない損傷と病態について示します。

 

図1外傷で念頭に置いておかなければならない損傷と病態

TAF3X&MAP&切迫するD_外傷の鑑別疾患

 

図1は、いわゆる致死的外傷です。「TAF3X&MAP&切迫するD」と覚えておきましょう。
これらの損傷、病態があれば生命が危機的な状況となるため、こういった外傷が疑われる場合は、すぐに処置ができるよう、準備をしておかなければなりません。

 

搬送されてきた患者さんに接触すると同時に視診、聴診、触診で“ABCD”の確認と全体の印象を把握します。これをPrimary Survey(PS)といいます。

 

A(airway)気道

気道の開通状況を評価します。会話ができる、質問したことに「はい」や「いいえ」と返事ができる等の場合は、気道は開通していると大まかには判断できます。

 

B(breathing)呼吸

呼吸状態を評価します。呼吸の有無、速さ、深さを素早く見ます。第一印象では患者さんが呼吸をしているかどうかを観察することが重要となります。

 

C(circulation)循環

循環状態を評価します。皮膚の状態(冷感、冷汗、チアノーゼの有無)、脈拍の強さ・速さ、外出血の有無を観察します。

 

ショック状態と判断されると、静脈路確保と初期輸液療法が行われます。また初期輸液療法と並行してショックの原因検索が行われます。PSで行われる出血源検索のための検査はFAST(Focused assessment with sonography for trauma)、胸部・骨盤X線撮影です。すぐに超音波検査ができる準備や、X線撮影のための連絡もしておきましょう。

 

D(dysfunction of CNS)意識

意識レベルを評価します。GCS8点以下、またはJCS30以上や脳ヘルニア徴候があれば「切迫するD」と判断します。「切迫するD」がある場合はSecondary survey(SS)の最初に頭部CT撮影が必要となります。

 

また、意識レベルの低下は、自体の受傷や、ショック等により低酸素状態や低血圧状態となり、脳への酸素供給が低下している場合に起こります。まずABCを安定させながら、「切迫するD」がないか評価します。

 

E(exposure / environmental control)脱衣・体温管理

低体温は代謝性アシドーシスや出血傾向の助長、凝固異常と生命を脅かす危険因子となります。患者さんが低体温状態にあれば積極的に保温し、低体温でなくても、低体温に陥らないように対応する必要があります。

 

バイタルサインが安定し、重度の意識障害がない場合にはSecondary survey(SS)に移り、解剖学的な身体所見・診断と併せて、CT撮影や血管造影など画像診断が行われます。

 

ただし、検査などによる患者さんの搬送は常に危険が伴います。そのため、患者さんの変化がすぐに判断できるように、生体モニターを装着したままで観察しながら搬送します。また、CT検査は「死のトンネル」とも例えられるように、検査中は患者さんの状態変化が分かりにくくなります。緊急事態をすぐに察知できるよう、観察窓(又はカメラモニター)で患者さんの様子を観察するとともに、生体モニターにも注目しておきましょう。

 

2Walk inの場合

各施設のJTASなどのトリアージの判断基準に準じて患者の緊急度を判断します。
患者さんの全身状態をざっと見て、ABCDなどの生理学的徴候に異常がないかどうかを評価します。

 

問診では創傷そのものの評価だけではなく、受傷機転や加わった外力の大きさを確認し、重篤な疾患が隠れていないか考えながら十分な情報収集と適切なトリアージが必要です。

 

外傷患者で重要なことは、“ABCD”の異常を早期に認知して対応することです。バイタルサインを測定して得られた情報も大事ですが、まずは身体所見から生理学的徴候に異常がないかを判断し、生命を脅かしている原因に対して迅速な対応を行い生理学的に安定させることが重要となります。

 

ナースの視点

1“ABCD”の異常を身体所見から早期に認知する

救急車で搬送されて来た場合は、患者さんを救急車搬入口まで迎えに行き接触と同時に患者さんの第一印象を確認します。
そこで異常があれば、医師をはじめほかのスタッフに緊急度の高いことを伝え、情報共有します。

 

患者さんがWalk inで来られた場合でABCDに異常があれば、医師の到着・指示を待ってはいられません。すぐに初療室へ搬入し、医師への報告とほかのスタッフへ応援要請をしましょう。

 

ABCDに異常がある場合

気道に異常がある場合は、気道を開通させるため、用手的気道確保を行います。必要時には吸引も行います。

 

呼吸や循環に異常が見られた場合は、医師の指示のもと、酸素投与を行います酸素投与時は、リザーバー付き酸素マスク10L/min以上を投与します。

 

また、心電図モニターやパルスオキシメータの装着、血圧や体温の測定をします。必要時にすぐに使えるよう、日常的にメンテナンスなどに気をつけておきましょう。 なお、バイタルサインが落ち着けば心疾患を否定するため、12誘導心電図検査を行うため、早めに検査できるように準備しておきます。

 

循環に異常が見られた場合は、医師の指示のもとに輸液投与を行います。その際準備する輸液は加温された糖を含まない細胞外液で、静脈留置針はできるだけ太い針(できれば18Gより太い針)で上肢にルートを確保する準備をしましょう。

 

2低体温に注意

外傷患者さんが搬送されてきた場合、衣服を取り全身を観察します。スキー・スノボ外傷ではゲレンデのような寒冷環境下で観察が行われます。そのため、外気にさらされることや、出血することにより体温がどんどん低下していきます。低体温はアシドーシス、凝固異常とともに、「外傷死の三徴」と言われる要素の一つであり、低体温を回避させることは不可欠です。外傷看護の重要なポイントとして、体温評価と低体温予防に努める必要があります。

 

3患者さんの私物管理

外傷患者さんは搬送時に身内の付き添いがなかったり、診察時に衣服を脱いでもらう場合が多くあります。患者さんから預かった衣服などの私物については全て記録し、責任を持って管理しましょう。私物を本人や家族に返却する際には預かった私物についての確認と返却したサインをいただくことで私物絡みのトラブル防止となります。

 

4家族対応

家族への支援は私たち看護師の重要な役割です。外傷患者さんの家族は、突然の出来事により精神的に不安定な状況に陥ることを十分に理解して対応しましょう。

 

スキー・スノボ外傷の患者さんの場合は、遠方から来られて受傷される方も多く、家族が一緒にいないことがあります。その場合はまず電話での対応となります。電話では、お互いが見えないだけに家族の動揺に注意しながら、まずは安全に来院してもらうよう、分かりやすくゆっくり話すようにします
動揺が強い場合は、ほかに協力してもらえる方と一緒に来院するように提案することもあります。

 

家族が来院されたら、できるだけ早い段階で家族と面会し、家族の精神状態など確認しながら、可能な範囲での情報提供を行います。話をする時は、できるだけ専門用語を使わず、分かりやすい言葉で説明しましょう。その際、家族と同じ目線で反応を確認しながらゆっくり落ち着いて話すことが重要なポイントとなります。
さらに、タイミングを見ながら医師とのインフォームド・コンセントや患者さんとの面会の調整をしていきます。

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)日本外傷学会外傷初期診療ガイドライン改訂第5版編集委員会編.日本外傷学会ほか監.外傷初期診療ガイドラインJATEC.改訂第5版.東京,へるす出版,2016,1-23.

 


[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長

 

芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長

 


[Design]
高瀬羽衣子

 

SNSシェア

看護ケアトップへ