術前の抗血栓薬、止める期間は今でも1週間?
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「術前の抗血栓薬」に関するQ&Aです。
石川彰
大阪市立総合医療センター消化器外科(現医誠会病院消化器外科医長)
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
術前の抗血栓薬、止める期間は今でも一週間?
休薬による血栓塞栓症の発症リスクや受ける手術の出血リスクにもよります。また、術前にとめる期間は抗血栓薬の種類によって異なります。
〈目次〉
抗血栓薬ってどんな薬?
抗血栓薬とは、通常、“血液をさらさらにする薬”と患者に説明している薬剤のことです。動脈硬化を基礎疾患とする生活習慣病の治療あるいは予防目的で投与されています。
抗血栓薬には、さまざまな種類がありますが、大きく抗血小板薬と抗凝固薬に分類されます。
狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など動脈で起こる血栓症では「抗血小板薬」が、人工弁置換術後、心房細動、深部静脈血栓症、肺梗塞など主に血流の乱れやうっ滞による血栓症では「抗凝固薬」が使われています。
抗血小板薬にはアスピリン(バイアスピリンⓇ 、バファリン)やチクロピジン塩酸塩(パナルジンⓇ)、クロピドグレル硫酸塩(プラビックスⓇ)等、抗凝固薬にはワルファリンカリウム(ワーファリン)やダビガトランエテキリラートメタンスルホン酸塩(プラザキサⓇ)、へパリンナトリウム等があります(表1)(文献1,3)。
表1主な抗血栓薬の種類と術前休薬期間のめやす(文献1,2,3)
術前に抗血栓薬を休薬する必要がある?
抗血栓薬を服用していると(へパリンナトリウムには経口薬はありませんが)、当然ながら外科手術において出血のリスクが高くなります。安全に手術を受けるためには、術前にこれらの薬剤の服用を止める、すなわち“休薬”が必要です。
しかし、特に虚血性心疾患の患者においては、これらの抗血栓薬を休薬することによって、心血管合併症が発症する危険性もあり、休薬すべきかどうかの判断や、休薬した場合の再開時期を適切に判断することが重要となります。
休薬による血栓塞栓症の高発症群に関しては表2に示します(文献2)。
抗血小板薬関連 | |
抗凝固薬関連* |
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どれくらいの期間、抗血栓薬を休薬するの?
抗血栓薬の休薬時期は、これらの薬剤の血小板の寿命期間や血中半減期に関係しています。
例えば、ワルファリンカリウムの血中半減期は通常約40時間、抗凝固作用は投与後12~24時間に発現し、48~72時間持続します。したがって、少なくとも術前3日前には休薬する必要があります。
また、アスピリンの抗血小板作用は不可逆的で、血小板の寿命が尽きて、新しい血小板に入れ替わるまで続きます。血小板の寿命は約10日間ですが、血小板は絶えず骨髄で産生されて新しいものに入れ替わっていくので、抗血小板作用の持続期間は通常7日間です。よって、少なくとも術前1週間前の休薬が必要となります(表1)。
患者がこれらの抗血栓薬を普段から服用しているかどうか、服用していればどのような疾患に対して処方されているのか、術前休薬の必要はあるのか、その場合の休薬期間は十分か等のチェックは重要です。
抗血栓薬を止めずに手術を行う場合もあると聞きました。
白内障手術や内視鏡の生検などの出血リスクが低い手術に関しては、止めずに行うこともあります。抗血栓薬を止めることの弊害(血栓塞栓症)を考慮してのことです。その場合は、出血のリスクについて患者に説明することが必要です。
[文献]
- (1)佐々木洋:外科手術時に抗血栓薬の休薬は必要か?.大阪薬誌2009;60(2):7-9.
- (2)藤本一眞,藤城光弘,加藤元嗣,他:抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン.日本消化器内視鏡学会雑誌2012;54:2073-2102.
- (3)循環器病の診断と治療に関するガイドライン.循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)2014年4月10日、日本循環器学会HP閲覧
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社